軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百一話 無限の可能性

アースが出会った子供時代のスレイヤ。

『……これは……?』

『ハンターなのに知らねえのか? 『カロリーフレンド』だ』

静かな夜の海の上で星空を眺めながら、他者を拒絶して関わろうとしないスレイヤに、アースは積極的に関りに行く。

それは、現代の道具屋でアースにウザ絡みしたスレイヤと同じことをアースの方からやりに行っているようなもの。

『いらない! だから……返す!』

『だから……返さなくていいって』

『……か……返すッ!』

『くはは、だからいらねえって』

『あっ……』

『くははは、残念でした♪』

そして、アースは関わるだけでなく、スレイヤを挑発して自分を意識するように仕向けたりと、意地悪な笑みを浮かべている。

『なぁ、スレイヤ……悔しければ……俺を捕まえて、そいつを俺に返してみたらどうだ? おや? ハンターなのに、人間は捕まえられないか?」

『ふ、ふん……どこの誰かは知らないけど……ちょっと腕が立つぐらいでボクを甘く見ているのかい? なら……すぐに捕まえて思い知らせてやる!』

『くははははは、ほら、捕まえてごらんなさいってな!』

『待て、逃がさない!』

そんな中で始まる二人の夜の甲板での鬼ごっこ。

「ほほう……あの年齢で既にあれだけのスペック……大したもんじゃのう」

「確かに、末恐ろしいわ~」

「それを軽やかに回避できるアースくんも尋常ではないでござる」

やっていることは小さな子供を青年が意地悪しているということなのだが、そのレベルの高さにはミカドたちも舌を巻く。

エスピと同じ歳ぐらいの子供が、ムキになってアースへと手を伸ばす。

アースはそれを持ち前の動体視力や足さばきで軽やかに余裕をもって回避していくが、それは『アースだから』できるのであって、スレイヤが七勇者や六覇クラスの者でも決して油断の許されないレベルであることは、動きを少し見ただけで明らかだった。

「いけえ、ちっちゃいスレイヤ兄さん頑張れー!」

「ラガーンマンを捕まえろー!」

「ほらほら、スレイヤしっかり~!」

一方で、アミクスや子供たちからすればアースとスレイヤがじゃれ合っているようにしか捉えず、スレイヤの昔の姿には驚いたものの、ムキになってアースを追いかけるスレイヤに笑いながら応援していた。

そんな、スレイヤとアースの出会いとやり取りに盛り上がる集落の中……

『貴様の大魔螺旋は既に相当な領域に到達したとはいえ、実はまだまだ先があるのだ』

本当にこの状況下でトレイナはアースへの指導を始めたのだった。

『え……あ……あ~そういえば……』

トレイナの言葉に頷くアース。

もはやアースにとっても自分の代名詞ともなっている技。

既に何度も六覇たちとその技で戦ってきたアースとしては少し驚く一方で、すぐにハッとした。

『バサラの時にやったダブルだったり、ゴウダとの戦いでやったリミットブレイクとかだよな?』

両手に大魔螺旋を作る大魔双螺旋をバサラの時に使った。

他には、通常の大魔螺旋ではなく、魔呼吸の応用で自身の魔力量に限らず、際限なく魔力を纏わせて大魔螺旋を強化する。それを使ってゴウダを倒した。

そしてあの技は、自身のレベルを今以上に上げればまだまだ強化の余地を残していた。

それを踏まえた上でトレイナは告げる。

『うむ。そのほかにも……たとえば指に大魔螺旋を纏わせて、五本の指で相手を掴む際に五本の螺旋でゴリッとする『大魔螺旋クロー』とか、その他にも大魔螺旋を砲撃のように飛び道具として相手に放ったりする『大魔螺旋キャノン』とか、大魔螺旋を細長くする『大魔螺旋レーザー』とかそういうこともやろうと思えば可能だ』

トレイナの説明を受けてアースもすぐに納得。

むしろ、考えてみれば至極単純であり、どれもがイメージしやすいものであった。

『大魔螺旋で砲撃……魔呼吸で際限なく撃ったらとんでもなくなるな……』

改良の余地どころか、むしろ想像力次第ではいくらでも形もやり方も変えて進化させることができる可能性を秘めている。

『……今にして思うと、大魔螺旋ってすげーんだな……』

『ふふ~ん、そうであろう? ただのデッカイドリルでドカンと叩き込む単純な技ではないのだ。ヒイロとは違うのだヒイロとは』

今更ながら大魔螺旋の可能性に恐ろしくなったアースの様子に、先ほどまで拗ねてむくれていたトレイナも機嫌よさそうに笑みを浮かべてドヤ顔で胸を張った。

『ただ、それも今のままでは、ただの絵空事にすぎん。そうやって改良した攻撃を効果的にする前に、まずは貴様が身につけねばならぬものがある』

『身につけなければ? また、レーダーとか魔呼吸的な?』

『たとえばだ……ゴウダに使った限界突破。アレで貴様の大魔螺旋はとにかくデカくできるようになった……だが……もし、貴様と余で『同じ大きさの大魔螺旋』を互いにぶつけ合えば、互角ではなく余が勝つ。それは何故か分かるか?』

『……そりゃ、あんたと俺とじゃ技の熟練度が違うから……』

『それもそうだが、貴様と余では同じ大きさの大魔螺旋でも、魔力の『密度』が違うからだ』

密度……その言葉でアースも色々と頭が過る。

『密度……同じ大きさでも魔力の……質が違う……あ~、そうか……だから、魔力をそのままに手のひらサイズにってことか?』

そして、アースもこれまでの説明でトレイナの意図を読み取って尋ねると、トレイナも笑みを浮かべて頷いた。

『ああそうだ。ちょうど鑑賞会でもいい場面だ』

『え?』

トレイナが一度空を指さす。

するとそこには……

『くらえ、グレートシャイニングスターライトシャワー!! いでよ、ウルトラハイパーダークネスメテオストライク!!』

「わ、スレイヤ兄さん本気だよぉ!」

「ってか、スレイヤのネーミングセンスって初期からだったのね……」

それは、スレイヤがアースを捕まえるために造鉄魔法を解禁している場面。

そして……

『インフェルノネットワークダークネス!』

『網の強度が全然ねーな?』

それは、鉄網を広範囲に広げて、アースを拘束しようとした場面。

それは網の穴の大きさがバラバラでいい加減なもの。

アースはその網を回避しないであえて受け、その網を簡単に引き千切る。

あまりにも脆かった。

そして、それを踏まえてトレイナは言う。

『あれと同じだ。密度が薄いと、たとえ大きく形作ったものでも威力や強度が落ちて、質が悪い』

『な、なるほど……』

『無論、今の貴様の大魔螺旋は当時のスレイヤほどではないし、現時点で既に十分に必殺技として出来上がっている。だが、非常に厳しく言えば、貴様の大魔螺旋は魔力を集めて形作って回転させているだけ。繋ぎ合わせて構築した大魔螺旋の中身は意外とユルユルだ。ただ膨らませているだけの筋肉と深層筋まで鍛えたものでは質が違う。ゆえに、『圧縮』だ! 大魔螺旋の密度を高める『圧縮大魔螺旋』をまずは身に付けよ』

『圧縮大魔螺旋……だから……大じゃ……まぁ、それはいいとして……ワザワザ小さくするのか……考えたことなかったな……小さく』

『圧縮し、密度を高めた大魔螺旋であれば……同じ大きさでもバサラの鱗すら削り取る』

『ッ!?』

言われて、アースは掌を見る。そして、いつもよりも小さくすることを意識する。

『大魔螺旋を小さく……小さく……小さく……………………』

だが、少し気を抜けばいつもの大魔螺旋が出現して、この集落を吹き飛ばす情景が頭の中に浮かんだ。

「ッ!?」

「ほら、お兄さん見てくれ! 僕たち二人の大切な時間、初めての鬼ごっこを……って……お兄さん?」

「……あ……いや……」

「どうしたんだい? 掌ばかりを見つめて」

慌ててイメージを振り払ったアース。

それは、やる前から大魔螺旋を圧縮しようとして失敗する情景が浮かんでしまったからだ。

『トレイナ……これ……今この場でやったらダメなトレーニングじゃね?』

『まぁ、失敗したら……吹き飛ぶからな……』

『って、駄目じゃん!』

そう、本来はヴイアールで何度も試してコツを掴んでいくところ、それを人がたくさんいるこの場でやれと言うのである。

それはあまりにも無謀で危険……と思ったら、トレイナは、

『よって、まず大魔螺旋を圧縮するために……圧縮するのではなく、小さな螺旋……そう拳ではなく指先程度の螺旋を少量の魔力で作ってみよ』

『少量の……魔力? 圧縮じゃなく?』

『そうだ。大きいものを圧縮するのではなく、小さな螺旋の魔力を少しずつ高めながらも形を大きくさせずに留める……というイメージでやってみよ。それならば被害は特にない』

『あぁ……なるほど……』

トレイナの「まずは小さな螺旋を作り、そこから魔力を少しずつ増やしながらも大きくさせないイメージ」という言葉に納得したアースは――――

「婿殿ぉ、何をボーっとしておるのじゃ! ぬぅ、もういいのじゃ! わらわもう一度婿殿の膝に座っちゃうのじゃぁ!」

人差し指だけを突き立てて、小型の螺旋を……

「とりゃぁ~」

「あー、ノジャ! お兄ちゃんにまた!」

「静かにしたまえ、今は僕とお兄さんの―――」

と、アースはそこで集中して気づかなかった。

人差し指サイズの小さな螺旋を生み出した瞬間、そこにノジャの尻が……

――ずぼりゅんぬぅううう~~

「んびょぉお!?」

「うげ!? ちょ、おま!? な、……え?!」

ほとんど下着同然の薄い衣服のノジャ。布一枚を隔てているはずなのに、『布を突き破り』、アースの『人差し指螺旋』はピンポイントに根元まで……

「あ……お、おにいちゃ……」

「お、お、おお、お、おにいさ……」

エスピとスレイヤもその瞬間、顔を真っ青にする。

まさにドンピシャのピンポイントのタイミング。

アースが人差し指を突き立てて、その指に小さなドリルを纏わせた瞬間。

「かはっ、んぼぉ、お、ほぼ、お、お、んごぉ、お……」

「の、ノジャ!? お、おま、馬鹿! あ、いや、おま……ご、ごめん……わ、わざとじゃない」

ノジャはまるで絞殺した鶏のような状態で、アースも顔面蒼白し……

「んびょぉぉおほおおおおおおぼびょぉおおおお!!!??? おほぉおおお♥♥♥」

ノジャが尻を抑えながら嬌声を上げた。

「ふぉ、なんじゃぁ?」

「何事でござる?」

「なんや、またノジャかえ?」

「落ち着きないじゃな~い、どうした?」

「ノジャちゃんどうしたんだろう……って、お父さん? 何で顔を背けてるの?」

「い、いや……偶然見てしまった……」

「大将軍、どうされました? ……ん? なんだ? デジャブ?」

「またハニーに迷惑をかけているのかしら?」

鑑賞会に集中していた皆からすれば、突如ノジャが奇声を上げたことにビクッとしたが、ノジャなので「またか?」という感じでそれほど驚いていない。

だが、ノジャからすれば……

「か、わや……べんじょぉ……トイレぇええええ! ぬおわあああ! トイレぇええどこなのじゃぁぁあああ!」

「ノジャちゃん……あ、おしっこ? それなら、ウチのトイレ――――」

「ほぶわあああああああああああああ♥」

尻を抑えながら高速脱兎。

ノジャ、少しの間一時退席。

そして……

「お、お兄ちゃん……いくらノジャに膝の上にもう座られないようにするためとはいえ……」

「お兄さん……そ、そこまでエグイことをするのかい?」

エスピとスレイヤも流石にこれには引き気味の様子。

それに対しアースも慌てて……

「ち、違う! ワザとじゃない! そうこれは昔のような事故で……ん? 昔……」

決してワザとではないと弁明するアースだったが、その時、ハッとした。

『トレイナ……そういや……アレ、どうするんだ? パリピのやつ……』

『…………』

と、急にアースも嫌な予感が過った。

今の事故とは比べ物にならない規模のアレを。

そして……

『お兄ちゃん! ずっと帰ってこないと思ったら……そんな子と何やってるの!!』

『ボクはただこの人とちょっと鬼ごっこをしていただけだよ』

『お、お、鬼ごっこ!? なんで!? お兄ちゃんが何でこんな子と遊んであげるのぉ!?』

『そして……ちょっと、お菓子をもらっただけだよ』

『ッ!? な、なんで!? 何それ! 私、知らない! そんなの知らない! お兄ちゃん!』

鑑賞会は鬼ごっこでスレイヤが完膚なきまで負けているところでエスピが怒鳴り込んで駆けつけ、嫉妬して喚く場面。

『……ねぇ……わたしのおにいちゃん……とらないでよぉ……』

そして同時に、大好きな兄が取られてしまいそうになったことに涙目になって訴えるエスピ。

その姿に……

「なるほど……エスピもスレイヤも二人ともツンツンしてからデレデレになると……」

「ああん、もう、エスピ姉さんかわいいよ~! スレイヤ兄さんも素直じゃないけど、なんかそれも可愛くて見えてきた♪」

「でも、今は素直に甘える二人も昔はこうだったのね~」

「スレイヤはんも素直やないな~、ああいう可愛らしいけど素直やない男の子はイジメた……じゃなくて、調教しがいがありそうやな~」

ほわ~んと、一同が頬を緩めて「かわいい~」と笑顔で口にする。その反応は現在万国共通になっているのだが、アースだけはノジャが駆け込んだ族長の家を眺めていた。

「どうすんだろ……つか……早く指を洗お……魔力でカバーしていたとはいえ……感触が以前よりダイレクトで……」

そして、用を済ませて自己治癒で回復して、中座したノジャが帰ってくるタイミングで――――