軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百九十七話 分かれる評価

ソルジャとライヴァールの頭痛は続く。

『大魔スマッシュウウウウウウ!!』

『燕返し!!』

ブレイクスルーからの渾身のスマッシュは、コジロウの被っていた天蓋をふっ飛ばし、その素顔を表に出させた。

「コジロー……なんということだ……ガッツリ、アースと会ってしまっているじゃないか!」

「ううむ……この話は何も聞いていなかったな……しかも……両者かなりの本気モードだな……」

「アースも流石に強い……コジローの超感覚や居合の危険度を分かって、それでもなお踏み込んだ」

「コジローも肌で感じてアースの力を分かったはず……あの時代であのレベルの人間と遭遇して……なぜ何も報告しなかったのだ!」

「アースが生まれてから……コジローとは何度ほど会っているのだろうか?」

「ヒイロたちがアースをジャポーネに連れて行ったことはないはず……恐らくコジローが十数年前に、俺たちの子がまだ物心つくかどうかのときに数回ぐらい……そのとき、コジローはアースをアースと認識していたかどうか……」

すれ違ったとかニアミスしたとかそういうレベルではないバトル。

『おい……おぬしら、エスピのことといい、何故同じ勇者同士でそんなに情報共有されていなかったゾウ? ひょっとして仲が悪かったのか?』

「「そ、そんなことは……」」

流石にライファントも魔水晶の向こうで頭を抱えて呆れた様子。

「いや、ソルジャ、ライファント、冷静に考えてみても、いくらコジローといえどもこれほどの、ましてやエスピのことがあってずっと誰にも話さず隠蔽していたというのは考えられん。ひょっとしたら、コジローは個別で、例えばミカド殿、もしくは総司令に――――」

「あ、ライヴァール、うん、その話は後で。後で。まず最後まで見よう。たぶん、コジローは本当に一人でこれを抱え込んだんだろう」

「……む……いや、しかしソルジャ……これはかつての大戦期の話であり、ミカドやコジロー本人と連絡がつかない以上、総司令にも―――」

「……いや……まぁ、それはまた今度……」

コジロウの剣はアースの薄皮を斬り、アースの拳でコジロウも頬を僅かに切る。

七勇者と七勇者の息子の時代を超えガチバトルと言えた。

とはいえ、バトルと言えどもコジロウという男は少し普通の兵士や戦士や騎士たちとは違っていた。

『な、何逃げてんだよッ!? 七勇者だろうが!』

『勇者ぁなんてオイラにとっては人が勝手につけた言葉……オイラがどうして長年戦争しても生きていられたと思う? 目が見えないからこそ、オイラは人よりも危険を感じ取ることができる……ようするに逃げるときは人の目を気にしないで恥をかいてでも生きることを優先しているからじゃない♪』

正々堂々と正面から命尽きるまで堂々と戦うといった、そう言ったものからかけ離れた存在である。

アースがこれまで戦った、マチョウやヤミディレやパリピたちでもこのような逃げの一手は打たなかった。

『死なねえことが、オイラの武士道と見つけたじゃない』

そして、それを恥とすら思わない男。

七勇者のコジロウという人物をこれまで名前以外知らなかった者たちからすれば、色々と評価の分かれるところであった。

帝都では……

「なんだ、あいつは! それでも七勇者か! 正々堂々と勇者らしく戦え! アースと!」

「命を懸けて戦うのが戦士であり、勇者のあるべき姿のはずなのに、逃げるなんて!」

「まったくだ! こういうとき、ヒイロ様なら真正面から戦われるはず!」

「せっかく、アースと戦時中の七勇者という面白い戦いが見られると思ったのに……」

「本当よね。それでも男なのかしら?」

「アースも攻撃が甘いんだ。大振りすぎて当てられなければ追撃できない。もっと小さなフォームでコンビネーションを意識しないとな」

「そうだな。もし俺なら左で牽制しながら―――」

単純に「見世物」としてアース対コジロウという戦いを楽しもうとしていた勢にとっては不満のあるコジロウの立ち回りであった。

だが、コジロウをよく知る者たちからすれば……

「にしても……あいつらしいな……」

「ああ。俺は絶対にやらんことだがな……」

『敵であった身からすれば、ヒラヒラと肩透かしされ、深追いすれば手ひどいしっぺ返しをくらうという、非常に面倒な男であったゾウ……』

アレこそが「コジロウ」と懐かしむようにして眺めていた。

それに加えて、ライファントは……

『にしても、アース・ラガンの謎は深まるばかりであるが……この時点で……』

「ライファント?」

『見せていたゾウ……ブレイクスルーを……そして……魔呼吸を……コジロウに』

「それが何……あっ!」

その呟きに、ソルジャもライヴァールもハッとした。

そして、ライファントは口に出さぬまま心の中で……

『(ノジャの行方の調査はしつつ、いずれにせよ、こればかりは直接会って確かめねばならぬゾウ……アース・ラガンの真相を……)』

そして、ライファント同様に……

「……そうか……よりにもよって……見せたか……」

「お母さん……お母さん!」

ブツブツと呟きながら、心配するクロンの声が届かないほど全身を震わせているヤミディレ。

しかし……

(ふっ……今更だ……神よ……私はもう決めております)

鬼気迫るような表情をしながらも、ただ次第と勝手に落ち着きだしたヤミディレは寄り添うクロンに微笑んだ……

「さあ、クロン様。あなた様の夫への声援が止まっております」

「え? あ……はい、もちろんです! ア~ス、ガ・ン・バ! ア~ス、ガ・ン・バ!」

ヤミディレのその言葉にホッとしたクロンは、言われた通りアースへの応援を再開。

一方でヤミディレは……

(……他の六覇はどう思う? パリピは気づいた上で報じている……ハクキ……ライファント……ノジャはどう動く? 今の私では六覇が仮にアース・ラガンを復讐で狙っても守れん……アース・ラガンといえでも、パリピや私の時のような策を講じてのやり方では、他の六覇には勝てん……しかし、どうにかしなければ……クロン様のためにも)

心配事が一つ増えたと胸が苦しくなっていた。

また、同じように……

「そうか……見せたのか……よりにもよって、七勇者の中でも最も見られてはならん男に……目は見えぬが……その分感覚の鋭さは人類一かもしれぬ……だからこそ、ブレイクスルーと魔呼吸を……そういうことか……」

それまでは楽しそうに見ていたハクキも、表情を一変させて空を見上げていた。

「貴様らとあの御方の戦いの内容は大まかに聞いている。だから……息子に感謝するのだな、ヒイロ、マアム。今もこうして生きていられるのも、真勇者などと称えられているのも……どうやら間接的にではあるが、息子のおかげのようだな」

そして、その意味をヒイロとマアムも理解した。

「……そうか! コジローの奴はこの時にアースと戦ったことで、あの技を体感したから……だから、トレイナとの戦いで的確に動けたのか!」

「つまり、アースがこの時、あの魔力回復の技を使ったことで、コジローは……トレイナとの戦いで……」

「トレイナが……強力な魔法と身体強化魔法で俺らを蹴散らして、その上で消費した魔力まで回復した……アレだけの強さに無限の魔力……反則だって思ったぜ……こんな化け物どうすりゃいいんだと……だけど……」

「私たちはあの時、ハクキと戦った時以上の絶望を感じた……撤退すらも考えた……まぁ、大魔王からは逃げられるわけが無かったんだけど……でも、その中でコジローだけ……チャンスだと……」

十数年以上前のことでも、二人とも鮮明に覚えているトレイナとの戦いの記憶。

「なんてこった……つまり、俺たちは小さいガキの頃だけじゃなく……この件でも……『2回も』アースのおかげで命が助かったってことかよ」

「しかも、エスピの件だってアースが居たから……七勇者が欠けることなく……」

そして、それが十数年の時を経て改めて新事実として発覚したのだ。

「とはいえ、それを言い訳にするあの御方ではあるまい。自分の使う技と同じものを事前に体験されていたというだけではな。それこそ、貴様ら七人の方が数多くの戦争や、六覇との戦いにおける情報で知られていたぐらいだ……そう……あの御方は負けた言い訳は…………」

別にヒイロたちをフォローするわけではないが、ハクキなりの思ったことをそのまま口にしようとしたのだが、そこでハクキは口元を抑えて……

「………いや、どうだろうな。意外とあの御方も負けず嫌いで感情的な所もあるので、純粋な負けを認めていなかったりするかもしれんな……まぁ、あの御方のそういうところもまた魅力ではあったのだがな……」

どこまで本気か分からぬものの、自分で自分の呟きにハクキは笑っていた。

一方で……

「そう思うと……別のことが気になってきた」

その笑みも途端に切なそうな表情へと変わり……

「あの御方もこの瞬間、気づいたのだろう。何故自分が敗れたのかを。果たしてそのことを、アース・ラガンに教えたのか……奴も自分で気づいたのか……もしその上での関係なのだとしたら……?」

ヒイロとマアムとは違う視点でのアースへ注目……なのだが

『オニイチャンヲキッタ! ユルサナイ! コジロウシンジャエッ!!!!』

「「エスピッ!?」」

ブチ切れエスピが乱入した。

『ま、まず!? お嬢、ほれ、降参じゃない! オイラぁ、嬢のお兄さんに降参するじゃない! ほれ、武士の誇りの刀はそこらへんにポーイって捨てるじゃない? ほら、これでオイラぁ危険ではないじゃない!』

アースがほんの僅かでも傷を負ったことに我慢できなかったエスピの癇癪。

それを前に、神経をすり減らすような攻防をしていたコジロウがアッサリと刀を投げ捨てて降参。

しかし、それでも怒りの収まらない様子のエスピを……

『エスピッ! ほら……いいこいいこ……』

『……あう……』

『エスピ、いいこだからやめろ。俺は大丈夫だから あと、『死んじゃえ』とかお前は使っちゃダメだ……絶対にだ……俺と一緒に居たいなら……死んじゃえとか軽はずみに言うなよな?』

アースが抱きしめて、いいこいいこしたら丸くなった。

「うお、お……エスピをあんな風に抱っこして抱きしめるとか……一度俺も同じことをやろうとしたら、ぶっ飛ばされたのに……ん? ぶっとばされる? ……あ!」

「あああ!? ヒイロ、そうよ! そ、そういえば、ある日を境にエスピは『殺す』とか『死ね』とかは言わないようになり、『ぶっとばす』が口癖になってたような……」

「あ……」

「え、それもこいうことなの!?」

そして、また真実を知り……

『だーはっはっは、まいったまいった! こりゃ本当に、オイラの負けじゃなぁい!』

とことんやり合うまで行かず、不完全燃焼のまま二人の戦いはコジロウの降参で幕を下ろした。

「あ~~ん、もう、エスピねぇさん可愛いよ~~!」

「ちっちゃなエスピおねえちゃんあまえんぼさん!」

「だっこすきー!」

そんな中で、エルフの集落ではアミクスと集落の子供たちが自分たちの姉貴分でもあるエスピの幼少期の意外な姿にケラケラと笑い、エスピ張本人は頭から湯気が出るほど顔を赤くして俯いていた。

「うぅ~、パリピィ~これじゃあ私の威厳が……」

「ふぅ……君は本当に泣き虫だね……」

「むっかー! へん、スレイヤ君も同じだから! みんな、スレイヤ君も同じだからね!」

「ん? 君は何を言っているんだか……僕は君と違って―――」

「いーや、スレイヤ君も泣き虫甘えんぼだったから! そうだったから! というわけで、パリピお願いだからね!」

傍らで嘲笑うスレイヤに怒り、そして空に向かってまさかのパリピへのお願いを叫ぶエスピ。

一方で……

「おい、婿殿……ここまでの情報が公開されても、まだわらわたちに教えぬと?」

「ん?」

アースの膝の上でくっついて甘えんぼ状態……と見せて、アースだけに聞こえるようにノジャはコソコソと耳打ちした。

「……流石に元魔王軍……特に六覇クラスにはもう無理なのじゃ……」

「……………」

それは、二日目の鑑賞会でミカドとノジャに追及されたとき「話さない」と口を閉ざしたアースに改めての追及。

そしてこれはもう、ノジャも何かしらの仮説を抱いた上での呟きでもあった。

「ノジャ……」

普段がどれだけであれ、それでも伝説の六覇。

その重たいプレッシャーの籠った言葉と覗き見る眼光は明らかに「もう誤魔化せさせない」と語っていた。

「ふん。まぁ、いいのじゃ。とりあえず『今日の鑑賞会が終わったら』覚悟するのじゃ。『何があったとしても』、全部吐かせてみせるのじゃ」

ただ、結果的に今日はノジャの追及はできなくなるのだが、そのことをこの時点ではまだノジャは分かっていなかった。

そして……

「なんと……コジロー、おぬしはこれほどのことがありながら、ワシだけでなく、『ツナ』にも言っておらんかったとはのう……」

「いやいや、ガキの頃から世話になってる御老公に話さないでツナの大将に話すとか、流石にオイラもそこまで不義理じゃないじゃない。まぁ、あの頃は大将もヒイロに『あの剣』の継承やらで力を失ったりで、それどころじゃなかったっていうのもあるじゃない?」

「なるほど……確かにそうじゃ。その通りじゃ。ツナが総司令として機能できなくなったあの心底大変だった時に……おぬしは競馬かぁ!?」

「ちょまっ!? もう、そこは時効でいいじゃな~~~い! てか、オイラこの時点ではそのこと知らなかったじゃない!? 帰ってから状況知ったじゃない?!」

未だにミカドの説教を受けて正座状態のコジロー。そんなやり取りをしている中、エルフの子供たちがコジローに駆け寄り……

「ねえ、おじちゃんが、アースの兄ちゃんと戦ってるおじちゃんなんだろ?」

「ん?」

「ねーちゃんが邪魔して終わっちゃったけど、最後まで戦ったらどっちが強かったの?」

「……ん~~~?」

それは、純粋な子供ゆえの純粋な疑問。

エスピの介入で勝敗は結局つかなかった。

コジロウが敗北を認めてはいるが、それが実力での負けを認めているわけではないというのは誰の目にも明らか。

「え、ハニーとコジロー様?」

「はア~……たしかになぁ~興味あるえ……」

「はわわ、アース様と……」

そして、その純粋な子供の興味はその場にいた大人たちにも意外と気になるようなもの。

「くははははは、俺とコジローかぁ……どうだろうなぁ? 俺もこの時点の時よりも今はもっと強くなってるしなぁ?」

ノジャからの追及を誤魔化すように、アースも大声でその話題に反応して、コジロウを見て笑みを浮かべる。

するとコジロウは尋ねてきた子供の頭を優しく撫で……

「どっちが強い? そ~んなの、お兄さんの方が強いに決まってるじゃな~~い♪」

「「「「「ッッ!!??」」」」」

コジロウは笑いながらアッサリそう答えた。

「うわー、やっぱりアース兄ちゃんが……ラガーンマンの方が強いんだ!」

「わーい、ラガーンマンが強い!」

その言葉を幼い子供たちは疑うこともなく信じて笑顔で走り回る。

だが、そんなコジロウの反応にアース本人が思わず身を乗り出した。

「おい、コジロー! あんた、伝説の七勇者が何をアッサリ負けを口にしてんだよぉ!」

「ん~? だってそうじゃない? お兄さんの方がオイラより強いし……心を閉ざした乙女の心も開いちまう……男としてもオイラよりイイ男じゃな~い」

「いや、そ、そうじゃなくて! つーか、あんたが本気の殺す気でやったら分からねえだろうが! 侍戦士としての、勇者としての強さに対するプライドやらこだわり的なのもあるだろうが――――」

「ははは……まるでそんなのないじゃな~い♪」

アースとしては正直、これだけ六覇と何度も戦ってきたのだから、今の自分ならば七勇者にも負けないぐらい強くなったという自信はある。

だが、

「オイラが本気の殺す気でお兄さんと戦えるわけがないじゃない。だから、その仮定が間違ってるじゃない。それに……うん、万万万が一そんなことになっても、うん、お兄さんが勝つじゃない! ほら、お兄さんにはたくさんの勝利の女神が付いてるし、オイラぁギャンブルの女神にも最近は振り向いてもらえなくてダメダメじゃな~い」

「いーや! あんた強いし! ぜってー強いし! あー、もう、ちょ、じゃあもう一回だけ戦おうぜ! ほら、あんた強いんだから戦って証明しようぜ!」

「勘弁してほしいじゃな~い」

七勇者本人から戦わずにアッサリ負けを認められるのも、それはそれで何だか「勝ちを譲ってもらった感」があって納得できずに、アースは口出してしまった。

あと、単純にアースも実際に戦ったことがあるからこそ、コジロウという男がまだまだ底知れないと分かっているからこそ、もっと張り合ってほしいとなんとなく思ってしまったのか、気づいたらアースの主張も良く分からないものになっていた。

「……ねえ、スレイヤ君。お兄ちゃんは何を張り合ってんのかな? お兄ちゃんの方が強いってことでいいじゃんねえ?」

「うん。実際お兄さんが勝つに決まってるし」

そんなアースとコジロウのやり取りに、先ほどまで騒いでいたエスピはスレイヤと一緒に首を傾げていた。