軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十八話 鬼のオモテナシ

人里離れた……というよりは、まるで隠れ家のような所だった。

密林の更に奥にあった少し空間の開けた場所があった。

そこに、木で出来た家があった。

「こごがおでの家だ。アースぐん、ちっこいから、たぶんせまぐねえ」

「そ、そうか。でも、ちっこいは余計だ」

巨大なオーガの家なだけあって、確かに扉も建物の高さも大きい。

そして、家の周りにはいくつか畑があり、俺の体よりもデカい農作業用の鍬などが置いてあった。

「……アカさん、一人で住んでんのか?」

「ああ、おで一人で住んでる」

一人で。どうやら、完全に自給自足みたいだな。

まぁ、森には獣も居るし、こうやって野菜も作って、一人だけで暮らすなら何とかなるのかな?

「ところで、アースぐん……アカ『さん』っで何だ?」

「えっ? いや……何でって……」

なんだ? 「さん」付けがおかしいのか?

「だって、どう見ても年上にしか見えないし、呼び捨ては流石にちょっと気が引けたというか……あっ、ならタメ口よりも敬語の方が……」

優しいのだろうけど、この強面のオーガを相手に呼び捨てで呼ぶ勇気が無い……とは言わないでおこう。

『目上に「さん」付けの理論でいくなら、何故に余は呼び捨てだ?』

『……あ……いや……じゃあ、トレイナさんの方がいいのか?』

『…………いや、もう今さらいい。他人行儀過ぎて寂s……ムズ痒い! 今さら貴様に他人行儀にされてもムズ痒い!』

じゃあ、言うなよ。まあ、俺も今さらトレイナに「さん」付けはムズ痒いから助かるけどな。

「アカさんが……いいな、ぞれ……アカさんが……うん、いいな」

とりあえあず、アカさんは呼ばれ方を満足したのか、というか何だか嬉しそうに笑っていた。

「敬語なんていらね。さ、テキトーに座っててぐれ。今、おで、メシ作る!」

そう言って、アカさんは俺を部屋に入れてくれた。

あまり家具なんかもない。

だが、オープンな台所と、部屋の真ん中にデッケー机と椅子があり、その上には木で彫られた彫像や、石などを削ってできた飾りなんかがある。

「こ……これ……」

「あ、汚くでワリな」

「いや……いいけど……これ、アカさんの手作りか?」

「んだ。暇などき、遊んでたら色んなもんいっぺー作れるようになったでよ」

ちょっと恥ずかしそうにしながらハニかむアカさん。

し、しかし、この女神像とか……なんちゅう精巧というか……クオリティが……すげえ。

美しい女神の母性を感じさせる優しい表情に、背中の天使の翼は一本一本細かく……服の皺とかまで再現して……どうやったら、あんなぶっとい指でこんなもん彫れるんだ? つか、魔族が女神を? いや、それも偏見なのかもしれねえが……

「欲しければ好きなのあげるど?」

「い、いやいやいや、別にそんなつもりじゃ……」

ひょっとして物欲しそうにしていると思われたか?

だが、俺が慌てて否定すると、台所に立ったアカさんはちょっとシュンとなって……

「おでの……下手だたか?」

「はっ?」

「もらっでも……しょがねか?」

いや、えっ? なに? 貰われないことがショックなのか?

でも、こういうのは普通社交辞令で「あげる」とか言ってるんじゃ……

『遠慮せず、もらってやれ、童』

『トレイナッ!?』

と、戸惑う俺にトレイナが耳元で呟いた。

『このアカというオーガは、あまり人との関りもなく暮らしていたのだろう。だからこそ、誰かに何かを貰ってもらうのが、嬉しいのだろう』

『は? 人に親切にしたり、物をあげたりするのが嬉しいって……そんな奴がいるのか?』

『というよりは……人に感謝されると嬉しいと思うのだろう。人から感謝される……それは、自分の存在を認めてもらうようなものだからな』

そういうものなんだろうか? 人に感謝されると嬉しい?

どうだろうな。俺は今まで……俺の存在を感謝されたことなんてなかったからな……でも、そうやって認めてもらうってのもあるのかもな。

『でも、いいのか~? ガメつい奴って思われねーか?』

『ま、人によるかもしれんが、このアカという奴に限って言えば……』

正直、初対面の相手だ。そんな相手から一宿一食まで世話になるってのに、その上で何かを貰うってどうなんだ?

いや、しかし、トレイナもそう言ってることだし、何だかアカさんもちょっとシュンとしてるし……

「じゃ、じゃあ……この石の首飾りをもらっちゃおーかな~、なんて……」

「ッ!?」

確かに女神像は精巧だ。しかし、こんなもん貰っても嵩張る。

その点、この石を彫られて作った首飾りならば、持ち運びも簡単だし、小さいから欲張りだとは思われないだろうし……

「そかそか! もらっでぐれるか! そこの棚あるだろ? そこに、いっぺー、首飾りあるだ! 何個でももらっでけろ!」

「い、いや、一個で……あ~、いや……何個か見せてもらおっかなー」

「んだんだ!」

本当だった。俺が貰うと言った瞬間、アカさんは凄い嬉しそうに笑った。

今では鼻歌交じりで調理場で作業を始めた。

「じゃ、おではその間にちゃっちゃとメシ作るど」

そう言って、アカさんは調理場に置いてあった……包丁? 大刀じゃねーよな? いや……リヴァルが持ってるバスタードソード並みにデカいんだが?

と、俺が驚いていると……

「ふん、ふんふんふん!!」

早いッ! そして、豪快! 何かさっきまで持ってた袋から『何か』を取り出して『それ』を高速で捌いていく。

一瞬で毛も毟って……何かの肉?

『ん? アレは……』

『トレイナ?』

『……ふっ……正に……皮肉……というものだな……』

『は?』

そのとき、トレイナが何かアカさんに思うところがあったようだが、それが何かは分からない。

そして、そうこうしている内にアカさんは捌いていたモノを巨大なフライパンにすぐにぶち込んで火を点けた。

肉だな。

やべえ……スゲエうまそうな匂い……

「おぉ……ゴクリ……」

思わず喉が鳴っちまった。

更に、アカさんはキッチンの床の籠に入れていた野菜をいくつか取り出してそれも切り分けていく。

なんだろう……豪快なのに……しかし、雑ではない。むしろ、丁寧さも垣間見える。

何回かサディスの料理をしている所を見たことがあるが、一切の無駄なく正確な調理をしていたあいつとは違う印象を受けるが、これはこれで……

「ふんふんふ~ん♪」

うおおお、ジュウジュウ言ってるぞ? これはアレか?

オモテナシで、いきなりステーキを出してくれるのか?

「そだ、アースぐん、米も食うだか?」

「え、こ、米?」

こ、こんな殺人的な食をそそる超香ばしいものを嗅がせて、更に米だと?

「う、うん。た、食べていいなら……」

「そだか! なら、肉焼いて出た肉汁で米を炒めて……」

ぎゃあああああああああああ、やめろおおおおおお、どこのジャスティスだアアアアアアアアア!!??

「ほい、ほい、ほい、ほれ、どんどん食ってけろ」

「ッ!?」

う、お、おお、す、ステーキに、骨付きの肉に、焼いたメシ、サラダの盛り合わせに……うお、……おおおお……ッ!!

だ、ダメだ、がっつくな。ぎょ、行儀が悪いのはダメって言われて……ちゃ、ちゃんと、手を合わせて戴きますするんだけど、あ、湯気が俺の鼻に……ッ!

「じゃ、じゃあ、いただきます……ガブ……」

俺はカラッと揚げられた肉にかぶりついて……ッ!!

「な、なんだこりゃああああ!」

カリッとした歯ごたえと同時に出てきた汁が口の中で爆発したような感覚。

だ、だめだ、味わって、あれ? あれ? もう骨しかなくなってる!

「し、信じられねえ、な、なんだこりゃ!?」

なに? これ? 牛? 鳥? 豚? どれとも違うし、少しクセが、いや、でも何だこの反則的なうまさは!

「え……あの、アースぐん? 驚いてるのって……おでの料理がまずすぎて……?」

は? こら、何その不安そうな顔?

なに? 無自覚系野郎のつもりか?

その不安そうな顔は何?

童顔で強烈な魔法を披露して、「僕の魔法の威力が弱すぎて驚いちゃったの?」とか言ってたフーと同じで、もうなんだこのやろう!

「う……うおおおおおお!」

このステーキ、うわ、メシ! 米、米、米ええええええ!!

「は、反則だ、こんな、う、うますぎる!」

「……え?」

「やべえ、もう、な、涙が出る!」

今まで、家に帰ったら何も頼まなくてもメシが出てきた。

事前にサディスに言えば、要望のものを何でも作ってくれた。

だが、今日からそれは出来ない。

家を飛び出し、自給自足を余儀なくされ、キノコを採って、そして走り回って捕まえようとしたシューティングスターは同情で逃がして、そんな中で今日はもう満足にモノを食えないんじゃないかと、空腹とイライラの中に居た俺に、このご馳走はズルイ。

もう、涙が止まらねえ。

「うめえ、おいしいよ、おいしいよ、アカさん……」

「そが! おで、まだまだいっぺー作る! 人に美味しいって言われだの初めてだ! ありがとな、アースぐん!」

だから、何であんたが礼を言うんだよ、この野郎!

出かかった言葉が涙で出てこず、俺は何度も頷きながら食らった。

『……行儀よく……そして、糧となる命に感謝をしろ、童。どんな形にせよ……その肉は、その生命は……貴様の一部となったのだからな』

なんか、小難しいことをトレイナが言っていたが、俺はただ夢中になってその肉を食らった。

「アースぐん、スープも飲むが?」

もう、食う以外で口を動かすのも勿体無い。

俺は口で答える代わりに、アカさんに向かって、万感の想いを込めてピースサインを送った。

そしたら、アカさんもソレが嬉しかったのか、少し照れながら俺にピースしてきた。

オーガのピースサインってかなりシュールだったけどな。