軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百八十話 本当の始まり

スレイヤとエスピがカップルである。

それは、空に映るアース同様に、世界中を驚かせた。

二人と初めて出会ったアースからすれば、驚きはしたもののどうでもいい話ではある。

しかし、エスピを知る者たちからすれば違う。

「ま、まぢか……エスピに恋人が……あの、かつて噂になっていた天才ハンターと……」

「ぜんっぜん知らなかったわ……この間も海の上でちょっと会った時とかも、そういう話は何もしなかったし……」

「くっそ~、どこの馬の骨かも分からねえ野郎が、俺の断りもなくエスピと恋人だとぉ?」

「そりゃぁ、あの子ももう20代だから全然おかしくないというか、むしろ結婚もおかしくないぐらいだし……でも、一言ぐらい私たちに……」

エスピを自分たちの妹分だと思っているヒイロとマアムも、驚きと同時にショックと寂しさを感じていた。

幼いころから共に命を預けて戦った仲間でもあるエスピが、自分たちとは全然知らないところで、こういう大人になっていたということに。

『『結婚はしてないから。結婚式やってないから。だから、子供も居ないから。結婚も結婚式もちゃんと互いの家族に許可を貰ってからじゃないとね』』

『いや、何も聞いてねえし! ってか、興味もねえし! つか、さっきまで喧嘩しそうだったのに、ここで一言一句息ぴったりかよ!?』

だが、そんなショックを受けるヒイロとマアムであったが、すぐにエスピとスレイヤはそう発言した。

アースには確かにどうでもいい話ではあるかもしれないが、ヒイロとマアムからすれば重要なこと。

「あれ? あいつ、べトレイアルとは既に絶縁して……互いの家族……そうか! エスピもどうやら、それだけはちゃんと考えてくれてたみたいだな……」

「うん。それに、どうやらあのスレイヤって彼も同じようだし……そういうことならちょっとホッとしたわ」

このとき、ヒイロとマアムはエスピが口にした「互いの家族」という言葉の意味を「自分たちのこと」だと解釈した。

どうやら、エスピとスレイヤも結婚までするのであれば、その前に自分たちに報告やら許可を貰いに来るつもりなのだろうと解釈した。

エスピがべトレイアル王国と既に絶縁している以上、エスピにとって家族と言える存在は自分たちだろうと思ったからだ。

しかし、そのとき……

「……フッ……だから……ではないか?」

「なに?」

「お前たちが勝手に家族だと思い込んでいるだけで、向こうはそう思っていないかもしれない……」

「な、何言ってんだテメエ! 俺たちは――――」

「それが分かっていないから息子に振り回されているのではないのか?」

「ッ!?」

ハクキは笑った。というより、皮肉を込めてヒイロとマアムを嘲笑した。

なぜ、ハクキは笑ったのか?

それはこれから起こることの詳細な内容まではハクキも把握していないが、ある意味でエスピとスレイヤとアースの関係性などは分かっているのだ。

だからこそ、大きな勘違いをしているヒイロとマアムをマヌケだと笑った。

とはいえ、ハクキも必要以上のことは言わず、ただそれ以上にハクキ自身は胸が躍っていた。

「さて、どのような伝説を見せてくれるか……まぁ、どんなものでも『お前』も嬉しかろう……『お前』が命を懸けて守ったあの男の伝説はな……そうであろう? ……アオニーよ」

そして自身の胸に手を当て、かつて自分が粛清したものの、決してその存在を忘れない一人の鬼の名を呟いた。

いずれにせよ、ハクキがヒイロとマアムに指摘した「勘違い」は当然ここでも……

「少し安心したね、ライヴァール」

「そうだな」

帝国でも皇帝ソルジャとライヴァールは安心した様子で空を見上げていた。

「ここ何年も消息不明だったエスピがいきなり現れ、しかも我々も知らぬ男を恋人として……私たちの知らないこの何年もの空白期間に何かあったはずなのは間違いないが……それでも……」

「ああ。照れくさくて本人には言わぬだろうが、ちゃんとヒイロやマアム……もしくはそこに我々も含まれているのか? 家族に許可をときたか……」

「確かに。その許可を貰いに来たときは、是非色々とスレイヤという彼に聞いたうえで、釘を刺さないとね。私たちの妹のエスピを傷つけたり泣かせたりしたら許さないと」

「一度軽くて合わせでもせんとな。軟弱な男では許さんと」

と、こちらでも……

「エスピ姉さんに彼氏だなんてまったく知りませんでした……旦那様も奥様も今頃驚いているでしょうね」

「我の父上も今頃帝都で驚いているだろうな。ただ……結局のあのお二人は何の目的でアースの前に現れたのだろうか? 流石に単にカリーとやらが好きで現れたというわけではないだろうに……」

「でも、コーヒーを渡してカリー作りとか言って、素ではしゃいでいるようにも見えるけど……」

「ん? 待て、何か他にも渡そうとしているぞ?」

カクレテールでもサディスたちはエスピとスレイヤの繋がりに驚いたうえで、一体二人が何のためにアースに接触したのかその理由が分からなかった。

すると、

『コレを持って……シソノータミの遺跡を目指して欲しいの。私とスレイヤくんと一緒に』

そう言って、エスピがアースに何かを手渡す。

『それを持って……『私』と『スレイヤくん』と一緒に、シソノータミを目指して欲しいの。勝手なことを言ってるのは分かっている。でもね、それが私たちの願いなの』

『お兄さん、あなたと出会い、一緒にシソノータミを目指す旅をする……それがボクたちの願い。何も知らないボクたちを……どうか導いて欲しい』

それをアースが受け取って見てみると、それは怪しい懐中時計であった。

「ッ、し、シソノータミ……エスピ姉さん……何を?」

「シソノータミの遺跡……それって……確か、サディスの故郷であったな? そして現在、ベンリナーフ殿が……」

「……僕の……父がッ……」

「……なぜ? どういうことだ?」

シソノータミはサディスの故郷であり、そして現在その遺跡の調査に向かったベンリナーフや魔界の調査団として派遣されたノジャと一緒に行方不明という場所である。

その予想外の地の名前が出たことに各々の顔が強張る。

そして何よりも、それをアースに頼むエスピとスレイヤの表情が、誰もが分かるほど切なく胸が張り裂けそうになるほどの感情があふれ、とても「悪いこと」を考えているようには見えないことが、余計に二人の目的を一堂に対して謎にさせた。

【登録サレタユーザーノ認証確認完了。設定サレタ『ジャンプ』ヲ起動シマス】

『くそ、訳わかんねえ! この時計、この、おりゃ、ん、この』

『あ!? なんてことを……『初期設定』が……いや……まって、ここでボクたちが手を出すと、それはそれで……ん? むしろここから……?』

『あ~、……そっか……だからあの時……あ~、そういう……だから、『設定しても意味がないんだけどな』って笑って……』

【設定変更完了シマシタ。全座標変更完了】

そして突如、懐中時計から聞こえてきた無機質な声。

謎の発光。

驚いて時計を弄り回すアースに慌てる二人。

「坊ちゃま!? な、何が起ころうとしているのです! エスピお姉ちゃん、何を!?」

「おい、しかもアースの足元に妙な紋様が……あれは……」

「転送用の陣にも似て……まさか! どこかに跳ぶんじゃ!」

「ッ!?」

ここから先、アースに何が起こったのか分からないサディスたちにとっては、一つ一つがハラハラ。

ただ、そんなサディスたちの想いに関わらず……

『『行ってらっしゃい、そして必ずまた――――』』

見送る二人は最後に笑い、次の瞬間アースの視界に映るものが大きく一変する。

「ちょ、おい! まさか……強制転移!? エスピのやつ、何考えてんだよ!? アースをどこに……」

「しっ! 見て……さっきまでとは違う……森……みたいね……どうやら本当にさっきとは違う場所に……」

「ああ……どこだ? 近く? それとも遠い地? ……どこかで見たことあるような気もするけど……」

「うん、私も……というか、なんか懐かしい感じがするというか……」

エスピの目的が分からぬまま、まさかのアースを強制転移させるという行動に、落ち着くことなどできずに声を荒げるヒイロとマアムであったが、同時にアースが跳ばされた地の風景に、何かの引っ掛かりを覚えた。

そして、アースもとにかくこの場所がどこなのかを把握しようと、道具屋で購入した『マント』を羽織ってリュックを背負い、その場から移動。

少しすると森の外へ出て、そこには広い草原と、小さな村が見えた。

「……あの山……んんんん~?」

「え……えぇ? ってか……あの村……んんん?」

その風景に、ヒイロとマアムは余計に目を細める。

すると、その時だった。

『きゃーーーーーっ!?』

『に、逃げろおおお、モンスターだーーーっ!』

『ひいい、食われちまう!』

人々の泣き叫ぶ悲鳴がその村と思われる場所から聞こえてきた。

『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

村の中で、全身黒い体毛に覆われた獣が暴れていた。

「うお、ちょ!? なんだぁ!? モンスターが暴れて……」

「何てこと……え? ちょ、嘘ぉお!? あれってワイルドグリズリーじゃない!? あれって絶滅したんじゃ……」

「間違いねえ! 俺も昔殺されそうになったから覚えてる……あんなのが生息してるなんてマジでどこに……いや、危ねぇ!」

「ッ、アース、助けてあげて! 今のあんたの力なら……!」

もはや今の時代では絶滅したのではと言われるほど数を減らしたモンスターが村を襲っている。

本来、騎士であり勇者である自分たちがどうにかすべき場面だが、自分たちにはどうすることもできない。

しかし、その場にはアースがいる。

今のアースの実力なら、あんなモンスターは敵ではないと確信している二人は、声の届かないアースに向かって叫ぶ。

すると、その願いが届いたかのように、アースは血相を変えて村へダッシュした。

そして……

『あっちに行きやがれ、モンスターッ! こ、この村は、俺が守るんだ! 俺がおっぱらってやる!』

『ガルル? ガルルルル……ガアアアッ!!』

『ひいいいっ!?』

勇敢で、しかしあまりにも危険すぎる無謀。小さな子供が木の枝を構えて半べそに震えながら叫んだ。

そして案の定、モンスターが吠えると子供はアッサリと腰を抜かしてしまう。

「おいおい、馬鹿野郎! あのガキ……何てことしてんだよ、あぶねえ! アース、頼む間に合ってくれ!」

「あの子、何てことを……アース、お願い!」

勇敢であろうと褒められることではなく、二人は必死に叫ぶ。

間に合えと。

そして……

『大魔ソニックコークスクリューブローッ!」

『…………え?』

「「よーっし! アース、間に合った!」」

アースは間に合った。

そしてその拳一つでモンスターをアッサリとぶっとばした。

村の住民たちも呆けたような表情になるも、すぐにアースを讃える大歓声が起こる。

『ったく、随分と勇敢なガキじゃねえか! まっ、もう大丈夫だから安心しろ』

「よし、アースよくやっ……よく……やっ……んんん?」

モンスターに襲われている村を、そして子供を見事救ったアースに、父として嬉しそうに叫ぼうとしたヒイロだったが、そこで停止した。

「ん? んんん? なんだ? この状況……どこかで……」

何かを感じ取り、更に目を細めて空を見上げるヒイロ。

そしてマアムも……

「う、うん……これ、どこかで……」

どこかでこの光景を見たことあるような気がしてならない。

その引っ掛かりの強さが、息子への称賛より強くなり、そして……

『す、すげぇ……すげえ、あんた、すげーよ! すげー! な、何かよく分かんなくて、全然見えなかったけど、あのでっかいモンスターを一発でぶっとばすなんて……すげーよ! すげー! 助けてくれてありがとう! 俺、俺、俺!』

助けられた少年が目を輝かせてアースに駆け寄る。

「……ほあ?」

先にソレに反応したのはマアムであった。

そして……

『うわあああああん! このばかあああああああ! ばか、ばか! あんた、なに、なにやってんの、なにやってんのよ! しんじゃうところだったでしょ! このひとがたすけてくれなかったら……うわああああん!』

助けられた少年に泣きながら駆け寄ってきて殴る少女が現れ……

「……え?」

ソレに反応したのはヒイロであった。

「え……は? ……え……え?」

「……なにがぁ……どーなって……え?」

なぜならば、互いにその顔は、ある意味で幼いころから毎日顔を合わせ、なんなら自分の顔を鏡で見る以上に見ていた顔でもあったからだ。

『いってーな、もう泣くなよ……『マアム』』

『うるさい、バカ! 『ヒイロ』のバカ!』

『………んんんんん??』

二人が互いの名を呼び合った瞬間、アースも首を傾げて停止。

「「んんんんんんん??」」

ヒイロとマアムもアースと同じ反応で首を傾げる。

そしてその数秒後……

「「え? ……え? ……えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!???」」

もはやどこまでも響くほどの驚愕の声を上げた。

そう……

「…………なんと……初っ端から吾輩すらも予想外のところをぶち込みおって……というか、こんなことまでしていたのか……」

それは、アースの身に何が起こっていたのかを知っているハクキですら、椅子の背もたれからずり落ちるぐらいの衝撃が世界に流れた瞬間だった。

「ど……どーーーなってんだこりゃあああ!? あれ、ガキの頃のマアム!? つか、オレ!? 俺ええ!? えっ? なんで!?」

「で、でも、アレは間違いなく……あれ? ってか、ワイルドグリズリーに襲われた……あれ? それって、あのとき……え? 待って待って待ってええ! タイムタイム! ちょ、ちょおおお!?」

そして、ある意味で二人は息子が六覇のヤミディレやパリピ、さらには冥獄竜王バサラと戦った場面よりも、この鑑賞会始まって一番の驚きと混乱をすることとなった。