軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百七十六話 キレとキリ

『ちょ、待てお前ら! 逃げる気かァァァ!』

『ヤミディレー! あんた、正々堂々と戦いなさいよー! アースも何でまた行っちゃうのよぉ!』

『くははははははは、どうだ! 見たか、親父ィ! 母さん! ざまぁ~~~!!!!』

アース、クロン、王子、ヤミディレ、ヒルア、ペガサス。見事にヒイロとマアムを出し抜いた。

アマエを連れ去り、空の彼方へ。

両親に対して笑いながら捨て台詞を残すアースの姿に、世界中は苦笑し、そして……

「いえーーい、ヒイロ、マアム、ざまぁ~~~!」

「いえーい! お兄さん、いえーい!」

エルフの集落ではエスピとスレイヤだけが小躍りしながらハイタッチしていた。

「そうだよ~、お兄ちゃんは泣いてる妹を見捨てちゃダメなんだよ~! クロンちゃんも、もうほんとイイ子!」

「お兄さんは決して家族を悲しませてはダメなんだから! クロンの言葉がお兄さんを後押ししたんだ……デカした!」

「兄さんと姉さんがここまで盛り上がるなんて……うん……でも、良かった。アマエちゃんにちゃんとバイバイできるんだね、アース様」

泣きじゃくるアマエをヒイロたちから掻っ攫って飛び立つアースにハシャぎ、再びクロンの好感度が上がった二人の姿に、エルフたちも半笑い状態だった。

だが……

『大神官さまも、女神さまも、おにーちゃんも、いっちゃやだ。ずっといっしょがいい……やーだああ! いっしょじゃないとやだぁ!』

『しばらく留守にするだけで、もう二度と帰って来ないわけじゃない……俺も、クロンも、ヤミディレも。それによ、皆が居るだろうが――――』

『でも、でもぉ……おにーちゃんたち……いないの……やだぁ……』

アースたちの腕の中で未だに泣きじゃくるアマエを見て……

「……ッ、おにいいいちゃあああああん!!!!」

「お兄さんどこだぁアアアアアアアアア!」

エスピとスレイヤは再び秒でキレた。

だが、それでもその泣きじゃくるアマエにアースたちは向き合った。

『……アマエ……泣くのはやめろ』

『大神官さま……』

『いつまでも子供のままでいるな』

『う~』

そして、世界が意外に思うヤミディレすらもが……

『なぜ、お前を置いていくのか? それはお前が小さな子供で弱いからだ』

『……こども……だから?』

『そうだ。事情があって私とクロン様はもう皆と一緒に住めなくなり、遠くへ行かなくてはならない。これからは、私もクロン様も……自分たちを守るだけで精一杯だ。お前のことまで守り切れん』

厳しい言葉を容赦なく伝えているが、しかしそこには相手を本当に思いやっている気持ちが感じ取れる熱が籠っていた。

そう、ヤミディレはアマエに対して、まるで母親のように言葉を送っていた。

「ぷんだぷんだぷんだぷんだぷんぷんぷんぷんぷん!!」

「「「「「お、お……おぉ……」」」」」

それは思わず見ている者たちが、思わず息を呑んでしまった。

「あ、アマエ?」

「な、なんか……ど、どうなってる……のかなぁ?」

「……う、うぅむ……先ほどからまた一段と」

家族である、カルイ、ツクシ、マチョウも苦笑い。

浜辺で先ほどからサンドバックを叩いていたアマエは、その後そのまま浜辺でシャドーをしていた。

幼く短い手足でワンツージャブ、アッパーやフックなどを交えて、こしゃくにも形になっているシャドー。

『お前も大きく、そして強くなんねーとな。いつまでも姉ちゃんやおじさんたちに甘えてんじゃなくて……いつかヤミディレやクロンが『アマエ、是非一緒に来てくれ』、『一緒に居てくれ』って頭下げるぐらいに成長したら……必ず皆がまた一緒に居られる』

『分かんない……でも……アマエが、おっきく、つよくなったら皆ずっと一緒? ほんとなの? アマエがつよくなればいいの?』

『強くなってくれよ、アマエ。皆が一緒に居ても何も心配いらなくなるぐらい。そうしたら俺だって必ずお前を頼る。『おにーちゃんはアマエが居ないとダメだ』なんつってな!』

そして、空でアマエとアースたちのそんなやり取りが映し出されると更に……

「プンプンプンプンプンプンプンプンプン!!」

アマエの動きがまた鋭くなった。ジャブが鞭のようにしなる。

「あの左は……なんだか……キレが増しましたねぇ……坊ちゃまが見たら驚くでしょうね……」

「う~む……アースの模倣をしていると分かるほど……まぁ、アースとあのような約束をしていたのなら、アマエがこれほど気合が入るのも分かるというものだ」

最初はアマエが八つ当たりでサンドバックを叩いたり、シャドーをしていたのだが、その根源はやはり「強くなりたい」という想いがその小さな体から滲み出ていた。

そう、アマエも自分たちと同じなのだと、サディスもフィアンセイも微笑んだ。

アースが言ったように『ぜひ一緒にいてくれ」と言ってもらえるぐらい自分たちも強くなりたいという気持ちは同じなのだと。

ただ、それはそれとして……

「……待った、アマエ」

リヴァルが神妙な顔をして、シャドーをしているアマエに声をかける。

「……ん?」

「……お前のシャドーはなかなか見事で、見えない対戦相手が傍から見ている俺にもイメージできてしまい……お前……その対戦相手にカウンターをしてないか?」

「?」

リヴァルの問いにキョトン顔で首を傾げるアマエ。よく分かっていないようだが、それを聞いていた周りの者たちも「えっ?」と固まる。

「お、おい、リヴァル……何を?」

「い、いや……俺ももしやと思ったのだが……」

剣もただ素振りをすればいいだけではない。頭の中で実戦をイメージしながら行うのが効果的である。

そういう意味で、シャドーとは見えない相手をイメージして行うトレーニングである。

見る者が見れば、シャドーだけでどのような相手とどのような戦いをしているのかが、見ている者にもイメージできてしまう。

そして、リヴァルがアマエのシャドーからイメージできてしまったその戦い方は……

「わかんない。でも、お兄ちゃんがやってた。向こうがパンチしてアマエがよけて、向こうが手を引っ込めようとしたところに、パチンってやるの」

カウンターという言葉自体を良く分かっていないアマエだが、「アースがやっていた」ということでそれをシャドーでやっていたのだ。

その何気ない言葉にマチョウはハッとした。

「お、おい、アマエ……それは、アースが大会で使っていた、相手のパンチの引き際に合わせて繰り出すカウンターパンチ……大魔ファントムパンチではないか?」

「?」

「……お前……その原理が分かって? いや、そもそもそういうものだと知っていたのか? 師匠に教わったのか?」

「んーん。大会でお兄ちゃんがやってたから」

「いや、やっていたと言っても……」

その瞬間、その場にいた者たちは「ゾッ」とした。

何故ならば、アースの大魔ファントムパンチは、原理だけは大会で皆が聞いたが、その瞬間を目で追うことができたものはほとんど居なかったからだ。

その技が炸裂したときは、あのヤミディレが感嘆したほどの超高等技術である。

それを、子供の眼で追えるのか?

「ぬわははははは……将来が楽しみじゃなぁ~」

そんなアマエの姿に、寝そべりながらバサラもニタニタと笑っていた。

『アマエがんばったら……みんなまたいっしょ? ずっといっしょ?』

『ああ。頑張ろうぜ! 強くなったアマエが傍にいてくれたら、もう無敵だ。何も怖いものなんてねえ!』

いずれにせよ……

「つよくなるんだもん! プンプンプンプンプンプンプンプンプン!」

ちょっと前までは小さな子供がポカポカサンドバックを叩いていただけだったのだが、サマになって、キレも出て、年端もいかぬ子どもとは思えぬ動きを黙々とアマエは見せていた。

「……そろそろ今日の鑑賞会もキリがよさそうだし……俺ももう少し走ってくるか」

「あ、待って、リヴァル。僕も……」

「……我も走る……」

「ふふふ、ウカウカしていられませんからねぇ」

その姿に微妙に焦った気持ちになったのと同時に、自分たちも想いは同じだと、リヴァルたちはまた汗をかこうと動いた。

だが、この時、彼らはまだ分かっていなかった。

そう、リヴァルの言う通りキリが良かったのだ。ここで。

しかし、今日はまだ終わらないのだ。

「ようやく落ち着いてきましたね。とりあえず、二日目もそろそろ無事終了ですね」

世界の果てのアジトにて、コマンは「これで一区切り」と感じたので、そう口にした。

しかし……

「ん~? なんでぇ? なんで『ここ』で終わりだと思うの~?」

発信源のパリピはニヤニヤしながらそう返した。

「え? なんでって……誰がどう見ても、ここで一区切りじゃないですか? ほら、ブロという彼も出てきて、アースくんたちが港でお別れ……あっ……」

『アース……大好き♡』

「クロンちゃんったらまた……いいなぁ……可愛いから好きって言ってもアースくんは引くどころか照れちゃって……っと、そうではなくて、もうここで終わりですよね? 今日は」

コマンはパリピがアースの記録をどのように編集していたかは知らなかった。

だが、それでも「これで区切り」と思えるほどの満足感から、勝手にそう思った。

すると、パリピは悪だくみの笑みを浮かべた。

「ひはははは、そうだよね~。姐御との戦い。冥獄竜王バサラ。姐御救出のために天空族との戦い。オレとの戦い。そして、最後にヒイロとマアムを出し抜いて、アマエちゃんたちとお別れ含めて皆でバイバイ……うん。いいよね~、区切り、いいよね~、もうね『パナイ満足』しちゃったよね~♪」

そう、コマンが区切りと判断したのはもうお腹いっぱい満足したからである。

しかし、

「ひはははは、ダメなんだよ、満足させたら。何故なら、こういう何部作もあると宣伝していたものは、途中の部で区切りの良い大団円にしちゃうとさ~、『もう満足。綺麗に終わったんだしこれ以上の続編は蛇足でしょ?』みたいになっちゃうでしょ? そうしたら、明日への楽しみが足りなくならない? ひははは、だからダメなんだよ、今日の時点で満足させちゃったらね♪ 何故なら次こそ本命なんだから! 伝説のね!」

そう、パリピは世界中の鑑賞者たちが既に今日はもう満足して「区切りが良い」と思うであろうことは分かっていた。

だからこそ、あえて……

「コマンちゃん。今日はね、もうちっとだけ続くんだよ♪」

ここで終わらせない。

「おそらく、明日の朝から世界はバタバタ。天空世界のこと、オレの生存やらヤミディレやクロンちゃんのこと……そして、アースくんの存在やらの話題で帝国も、ジャポーネも騒がしくなるからね……。だから世界の上層部が忙しくなって『区切りもいいし、いつまでもノンビリ鑑賞会している場合じゃない』なんて気にさせないよう……明日の鑑賞会も気になって気になって仕方が無くなってしまうところまで続けるのさ♪」