軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百七十二話 割れる

「ひははははは、世界中の連中……何よりも六覇の連中も七勇者の連中もパナイ驚いているだろうな~……あ~楽しいぜ!」

全ての黒幕であるパリピは、自分が敗北したシーンだというのにこれ以上ないほど嬉しそうにはしゃいでいた。

「オレを倒したと思って偉そうにしてたライヴァールとかのマヌケっぷりを想像しただけでパナイ笑えるんですけど~」

誇り高い六覇が敗れる……などということはもうパリピ本人にとっては傷でも何でもなく、ネタのようなものになっていた。

その傍らで呆れながらもコマンが表情を変えないまま……

「意外でしたね……」

「ん~?」

「私が出てくるところは編集されたのですね」

パリピがアースに敗れた。その直後、本来であればコマンが出てきて、その正体と本性を晒したりするのだが、それはパリピの手でうまい具合にカットされていた。

その言葉を聞いてパリピは苦笑しながらも……

「ひはははは、ま~君は切り札だし、それこそむやみに晒したくないというか……ってか、あれよ。このショーは小さな子供たちも見てるので、君の所業やらは今後の教育に悪いというか、トラウマになるというか、衝撃的過ぎて皆の感動が薄れちゃうというね……」

「子供の教育に悪い……何とも薄っぺらいことをおっしゃるんですね。ちょっとムッときたんで上下の歯茎を切り落としていいですか?」

「良い子の味方のオレに言ってくれるね~。でもね、これは君のためでもあるんだよ? 何故なら君はこの後に倒れているオレの首をブチブチするわけだけど、その際にその可愛いスカートの下から見える大胆なおパンツ――――」

「あ゛?」

「っていうのも冗談冗談。見えてないって~。そうじゃなくて、ほら、この後にヤミディレの姐御やクロンちゃんの感動の再会とかそういうのが頭に入ってこなくなっちゃうし~、何? 出たかった?」

「……いえ……それはまったく……ちなみに私の下着の柄はなんでした?」

「豹が――――――――――ぶひょぉッ!?」

「まさか、アースが一騎打ちで六覇を倒すとは……」

込み上げる震えを抑えることができずに、ソルジャは呟いた。

ソルジャだけでなく、かつての戦争を知る者たちほど、アースの成した偉業のすごさが分かるのである。

「うむ……『昔に比べて今の世代は』……ことあるごとに私も弟子たちに、そして愚息にもそう口にしてきた……だが……」

その傍らで同じ七勇者であるライヴァールも脱帽した様子で空を見上げていた。

「今のアースはもはや愚息との差云々どころか……私たちと並ぶ力と偉業を成したと言っても過言ではない」

それはライヴァールなりの最大級の賛辞であった。

自分たちの過去の栄光と、かつての戦争を知る者たちは常に、現代の若者たちに物足りなさを感じていた。

その若者の代表であるアースは見事にその評価を覆したと、ライヴァールなりの賛辞であった。

そして……

『アースくん……この勝負……君の勝ちだよ。オレは君に負けた……強かった……パナイ強かったよ……』

胴体に巨大な風穴を開けられた状態でありながらも、まだ生きているパリピ。

「な!? パリピ、まだ生きていたのか!?」

「あの状態でも……あれほどの生命力があったのか……私とベンリナーフの魔法剣を受けて生き延びていたわけか……だが、それにしても……今、あやつ……何と言った?」

パリピの表情は穏やかで、あがく様子も見せずに素直にアースに対して敗北を認めていた。

『自分に合った道を見つけ……それでも今はまだ足りない部分があれば……補うため……策を弄し……それを実行する勇気……それを見事成し遂げ……ヒハハ……見事……としか……言えないなぁ……』

「「なん……と……」」

パリピのその様子は、実際のパリピをよく知る他の六覇や宿敵であった七勇者たちからすれば信じられないものであった。

「ばかな、あのパリピが素直に敗北を認めた!?」

「し、信じられん……私とベンリナーフが追い詰めた時ですらまるで屈服しなかったあいつが……それとも、何か企んでいるのか?」

「いや、しかし……パリピの様子が……本当に……」

「それほどまでにアースに負けたとパリピ自身が認めているということか?」

口から出る言葉は一切信用できない、最低最悪の悪魔。

しかし、そんなパリピから溢れていた禍々しさが消え、かつての同志や宿敵ですら見たこともない表情と様子のパリピから漏れた屈服の言葉に、驚くしかなかった。

そして、そんな流れを見ていた者たちからふと……

「な、なぁ、この後どうなるんだろうな……」

「ああ。でも、六覇のパリピを捕えていたら、流石に姫様も報告されるだろうし……」

「確かに……そもそもこの鑑賞会で度々入る語り部の声は……」

「パリピ本人……つまり、パリピはまだ死んでいないということになる……」

一緒に鑑賞していた兵たちが口にした素朴な疑問にソルジャとライヴァールも頷いた。

「ライヴァール……アースは確かにパリピに勝った……しかし、トドメを刺さなかったということになるということかな?」

「そうなるか……まぁ、その一線を超えることまで求めるのは、流石に今の戦争を知らぬ世代には酷か……だが……世界のためにもその悪魔は始末すべきだ……アース」

「ああ……パリピは危険だ……生きていたとわかった以上、野放しにはできない……野放しにしてはいけない存在だ……」

「たとえ敗北を認めたとしても……奴が降伏するわけがない……隙を見せたらその瞬間、後ろから刺されるぞ、アース!」

相手は誇り高き戦士ではない。

たとえ、力の上での敗北は認めても、決して――――

『アース・ラガンくん。オレは……君の配下になってあげる……よ』

『……は?』

「「「「「……ほへ?」」」」」

そのとき、宮殿テラスに集っていたソルジャやライヴァールだけでない。その場にいた者たちは勿論、世界がアースと一緒にハモった。

「い、いま……パリピは何と言った?」

「き、聞き間違いか……?」

七勇者の英雄二人が同時に自身の耳を叩いて耳の穴をほじる。

今のは幻聴? 聞き間違い?

自分たちの想定していたものとあまりにもかけ離れた異常事態。異常な発言……

『パオーーーーーン!? ど、どういうことだゾウ! ソルジャ皇帝! 貴公は本当に何も聞いていないゾウ!?』

途中からアースとパリピの戦いに見入って忘れられていたが、魔界のライファントと繋いだままだった魔水晶の向こうからも激しく動揺の声が聞こえた。

「( ゜д゜)?」

「( ゜д゜)?」

ハクキのアジトでも、アースに力強く声援を送り、アースの勝利に心の底から歓喜したヒイロとマアムが、打って変わってポカン顔。

「……なるほど……ここまで完膚なきまでにやられてそうなったと……。おい、仮にも勇者二人、そのアホ面でいつまでも固まるな……いや……まぁ、吾輩も事前に配下になったと本人から聞いていなければ同じ反応をしただろうがな……」

そんなヒイロとマアムに呆れながらも、ハクキも苦笑するしかなかった。

「そうだ! 何考えてんだよ、パリピのやつは! よりにもよって配下になるとか……アース、騙されるなよ!」

「アース、トドメを刺しちゃいなさい! そいつは何を考えてるか分からな……いえ、いつも他人には最悪なことしか考えない奴よ! 容赦は無用よ!」

ヒイロとマアムもようやくハッとした。

パリピがいかに最悪最低かを知っているからこそ「容赦をするな」と声を上げるヒイロとマアム。

しかし……

――そう、少年は六覇を『倒す』という偉業以上のことを成し遂げたのです

「「ぬあ!?」」

ここにきて、パリピの白々しいほどのナレーション。

『彼らは確かに侵入者だが……同時にこの天空世界を救った恩人でもある……父……陛下と……そしてこの国を救ってくれた傷ついた恩人たち! ヤミディレの件も……僕が何とかしよう』

乗り込んできた天空族の戦士たちを一喝し、そう宣言する天空王子のガアル。

――そう、結果的に……まず世界の誰もが知らなかった天空世界……その危機を救った……それだけでなく

ヤミディレを救うために殴り込んだはずのアースたちだが、結果的にはパリピを倒すことで天空世界を救うことに。

そして……

『ヤミディレ! よかった……無事で……よかった』

『クロン様……どう……して』

囚われていたヤミディレと、ついに再会を果たすクロン。

いつも可憐な笑顔を見せていたクロンの瞳に涙が潤み、そして状況が分からずに戸惑っているヤミディレ。

『ッ、アース・ラガン! 貴様も……貴様の仕業か!? クロン様をそそのかしたのか?!』

『違いますよ、ヤミディレ。私はアースにそそのかされたのではありません。私が私の意思で、そして皆は皆の想いでここまできたのです。アースには私がお願いしたのです。あなたを助けたい……その私の願いを、アースは聞き入れてくれたのです』

『つか、俺がそんなことでもねーかぎり、あんたを助けに来るわけねーだろうが。俺に惚れてくれた女からの……涙ながらの願いだ』

――少年は、たった一人の少女の無垢なる願いを叶え……そして少年との出会いが……

『ヤミディレ。私はあなたが昔……何をしてきたのか……何をしてしまったのか……どんな罪を犯してしまったのかは知りません。でも……私は自分の気持ちに嘘はつけないのです。あなたを……失いたくないという気持ちに』

――少女を成長させた。そして……

『あんたをここから出す。あんたを捕えているその魔力封じの戒め……それを外さないこと……今後あんたは一切、魔眼も魔法も使えなくなる……それが条件だ。それは天空世界でしか解除できないそうだ。そしてあんたは……二度とこの国に足を踏み入れない……永久追放。それがあんたを外に出す条件とのことだ』

――人類にとっては危険でしかない、魔王軍・元六覇の暗黒戦乙女ヤミディレ。本来なら、その場で引導を渡すのが人類のためだったのかもしれない。しかし、少年はただ一人の少女の願いを叶えるため、『天空世界と交渉』し、その身の解放への話をつけたのだ

パリピが部下になる宣言に続いて、天空世界の王族との和解から、さらにはヤミディレとの再会に、その身の解放。

パリピを倒しただけではなく、世界の知らなかったところでどんどんと進んでいく話に……

「ちょ、ちょぉ、こういうことになってたのか!? 確かに、追いかけっこの時に、ヤミディレが力を使ってなかったけど……それってこういう流れで……」

「それに、あの王子もアースと馬に二人乗りで仲良さそうだったのもこういうことで……にしても、あのヤミディレが力を封じることを受け入れたっていうの? あの魔眼だけでなく、あの魔力まで……その全てを封じてまで……」

世界にとっては、力が封じられているとはいえヤミディレが解放されるということは問題なのではと思う一方で、六覇のヤミディレの力を知る者たちからすればその力の源を封じられてただの女になってしまうことを、ヤミディレが受け入れたというのが信じられないものであった。

しかし……

『ヤミディレ! わがままを言ってはいけません。確かに力を失うことはあなたにとっては耐え難いことかもしれません。しかし、このままでは……私……あなたと一緒にいることができないのです! 私はそれが一番嫌なのです。力なんてなくてもいい……私は……これからもヤミディレと一緒に居たいのです』

『クロン様……お気持ちは……しかし、私は力を失うということを簡単に受け入れることは出来ません。クロン様を狙うものは居るでしょう。そのとき、命を賭して守れる力が無くては……私は……』

『では、私が強くなります! むしろ、ヤミディレを守ってあげられるぐらい、私が強くなります!』

『いえ、クロン様、何を仰いますか! 真に大切で、世界に必要なのはクロン様です! 私を守るなど恐れ多い! 私なんぞにそのような想いを抱く必要は―――』

『世界ではなく、私にヤミディレが必要なのです! 私がヤミディレを大切なのです! たとえあなたがどういう人生を送り、私に対してどんな想いを抱いていようとも……私があなたと一緒に居たいのです!』

籠の中の鳥のように育てられた世間知らずだった少女が、そのヤミディレ相手に一歩も引かずに自分の想いを主張し、ヤミディレが狼狽えてしまっている。

そして、そんなヤミディレにトドメの一言となる……

『だってあなたは……私にとって……私を育ててくれた……ずっと一緒に居てくれた……家族で……私の……お母さん……だから』

「「お、おか……」」

――そう、少年にとってその女はもはや六覇という危険な存在ではなく、自分に惚れてくれた女の大切な母親……たとえ、自分が勇者の父と母から生まれたとしても、たとえ自分が家族と決別しても……少年はこの道を選んだ

その言葉に、ヤミディレが誰も見たことのないポカン顔を浮かべた。

――結果的に少年は、六覇のヤミディレとパリピ……二人に勝つどころか屈服させ、身内にしてしまったのだった♪

そして、パリピのナレーションを聞きながら、ヒイロとマアムは互いに見合う。

「ど、どうなっちまうんだよ……これ……」

「え、ええ。アースが……パリピを部下に? え、いや、それに……ヤミディレを解放して身内に……」

「あのクロンって嬢ちゃんもそういや嫁になる宣言してたし、あ~……ヤミディレが親せきになっちまう?」

「って、そういう問題じゃなくて! 人類にとって未だにヤミディレやパリピをどう思っているか……その二人を……トドメを刺すのではなく、仲間に……世界は……特に戦争の被害にあった人たちとかはどう思うか……」

そう、二人は驚きながらもこの真実がもたらす世界への影響、そして人類がアースをどう思うかに懸念を持った。

「割れる……であろうな。貴様ら人類は『別に良いのではないか』と『けしからん。始末すべきだ』という世論にな」

二人の懸念に対し、ハクキはハッキリとそう断じた。

戦争を知らない若い世代だったり、この鑑賞会で心揺さぶられた者たちはこの流れを受け入れるものもいるかもしれないが、それでも受け入れられない者たちは絶対に出てくる。

ヤミディレとパリピを受け入れるアース・ラガン。

それに対して、世間の声は大きく割れるだろうというのがハクキの意見。

「さらに、ヤミディレの賞金は消えていないからな……これで『ヤミディレが力を失っている』と世間に知られたわけだ……となれば、放置しない者たちも出てくるだろうな」

そう、ヤミディレの賞金は消えていない。世界最高額クラスの賞金首。

今までヤミディレがその首を獲られなかったのはカクレテールに居たことを誰も知らなかったことと、何よりもヤミディレ自身が圧倒的に強かったというのもあった。

しかし、その力をヤミディレはもう失っている。

そうなれば、六覇に恨みやその存在を許せない人類だけでなく、単純に金に目がくらんだ欲深い者たちも現れる。

「そして、その場合……人類がヤミディレとクロンの存在を許さなければ……パリピも含めて……その際人類がアース・ラガンに対してどのような決断をするか……ふふふふふ、いずれにせよ……魔界ももう動くことになるな。ライファント次第だが……」

「……ハクキ……魔界はどう動くってんだ?」

「魔界も同じだ。ヤミディレも戦争犯罪者として魔界としても反逆者の立場……パリピも嫌う者も多い……だが、英雄として崇めて慕う者や信奉するものも多い……魔界も割れるだろうな。人類との友好の意を示すためにも刑を与えるべきだというものと……英雄として保護すべきという意見に……アース・ラガンと一緒にな」

「ま、魔界も割れて……ど、どうなるの?」

今後、これがもたらすことで世界がどうなってしまうのか?

人類は? 魔界は?

その流れがどうなるかの答えがヒイロにもマアムにも分からず、そしてハクキは……

「どうなるかを見てみたい……だからパリピはこんなことをしているのだろう。楽しそうだということで」

ハクキは深く考えるのをやめて、そう答えた。

「……ひ、否定できねえ……」

「まぁ、いずれにせよ……吾輩の言った通り、争奪戦が始まるな」

そしてそもそも、たとえ世界の意見が分かれて世界が割れても、アースの答えはもうとっくに決まっている。