軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百七十話 アオハル

アースは幼いころからフィアンセイに好かれていたのだが、まったく気づいていなかった。

恋愛に関しては鈍い部類に入る。

しかし、恋愛に興味が無いわけではない。

自分自身もサディスに恋をしていたし、可愛かったり、美人だったり、色気のある女には惹かれたりするのは男として当然である。

そんな中で……

「………………………」

「………………………」

自分のことを「好きだ」と言ってくれた女。百人に聞けば百人が美人と答える美貌を持った女、シノブが隣に座っており、しかも星空の下の小川で二人きり(プラス1)というシチュエーション。

意識するなという方が無理であった。

しかも……

『ハニーはそういう人。熱きハートを滾らせて、自分の意思を貫く人。その意思が、かつて暴走した親友をも止めたのを私はこの目で見ているわ』

パリピがフィアンセイたち幼馴染たちを嘲笑している中で、クロンと共に思いのたけを叫んでいる瞬間。

まさに、シノブのアースに対する「好き」がこれでもかと現れている場面を、本人同士二人きり(プラス1)で見ているのである。

「あ~……た、たはは、こんときはも~、なんか、うん、アレだったな」

恥ずかしさのあまりに、アースが茶化して場の空気を和ませるように笑った。

当然アースの顔は真っ赤。

だが……

「うっ、つ~……」

「え……シ、シノブ……」

「ふぁ?! あ、あぅ、……う、うん、な、なにかしら、ハニー」

「え、あ、い、いや……え~っと……」

なんと、シノブもまた顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたのだった。

いつも人前でも堂々と「好きアピール」をしているシノブのその意外な様子に、アースは思わず狼狽えてしまった。

一体何があったのかと、シノブから目を離せないアースだったが、シノブはモジモジしながら目を逸らして……

「あ、あの、ハニー……ご、ごめんなさい。いま、きょ、距離近いから、あまり見つめ過ぎないで……」

「あ、い、いや、わ、悪い……」

まさかのシノブの様子にアースは混乱するしかなかった。

いつもちょいちょい「好きよ、ハニー」とか「チュッ」と投げキッスしたりとアグレッシブだったシノブがこんなモジモジするのは一体何があったのかと。

すると、シノブは……

「何というか……ハニーと二人きりで過去の自分の発言を一緒に見るって……そ、想像以上に恥ずかしくて……ご、ごめんなさい。私らしくないわね……」

「か、わ……い……」

「え?」

「いや、ななな、なんでもないにこしたことないのです!」

「……?」

思わずアースも目を逸らして手で顔を覆ってしまった。

(え、は? ナニコレ? 何? 何でこんな可愛い女の子が俺の事好きなの?! え、やばい、顔熱い。バレる! 心臓バクバク! いや、なにこれ!?)

この瞬間だけ、二人は鑑賞会どころではなかった。

『いやぁ、君らも熱いねぇ。御馳走様。まっ、無自覚で姫様にトドメを刺しているところはエグイけど……ひはははは、しゃらくせえ』

『まっ、俺ももういいや。テメエがベラベラ喋っていたおかげで、こっちも色々と治った。色々喋り過ぎなその口も、そろそろ黙らせてやるよ』

フィアンセイが絶望に染まっていたり、クロンも照れることを叫んでいたり、立ち上がったアースが反撃開始とかそういう展開に世界がハラハラしている状況の中で、二人はただただ照れ照れだった。

「でも……」

「え?」

「結局この時の私も口だけ……だったのよね」

恥ずかしそうにしながらも、どこか切なそうに微笑みながらシノブはそう呟いた。

「だって、結局私はまったくハニーの力になれなかったもの……パリピを倒したのは結局ハニーで……私はただのぼせて……そう考えると、別の意味でまた恥ずかしいわ。まぁ、だからこそ今は力をつけて、今度こそハニーの――――」

「い、いや、じゅ、十分力になってたから!」

「え……?」

シノブの自嘲に、アースは恥ずかしがりながらも「それは違う」とハッキリと断言した。

「この時は、やっぱみんなが来てくれなきゃ、俺たちはとっくにパリピにぶっ殺されてた! それに……パリピのあの容赦ない言葉で押しつぶされそうになったときも……クロンもだけど……シノブの言葉がなけりゃ俺も立ち上がれなかったし……」

「ハニー……」

「だ、だからよ! まったく力になれなかったとか、そういうこと言うなよ! お前が居てくれたから――――」

「っ、や、やめて!!!!!」

「っ!?」

アースはお世辞ではなく、嘘偽りなく「シノブが居てくれたから」とハッキリと言おうとしたが、それをシノブは慌てて叫んで制した。

その声に思わず言葉を飲み込んでしまったアースだが……シノブは両手で自身の顔を隠しながら……

「ごめんなさい……だけど……もう、や、やめてハニー……」

「シノブ?」

何かシノブの気に障ってしまったのか? そう思ったアースだったが……

「あの、も、もう十分私はハニーのこと好きだから……もう、これ以上はムリだから……理性が限界突破するから、も、もうこれ以上惚れさせないで……」

「ッ!? あ……」

「……ごめんなさい。で、でも、わ、私もね……君を好きすぎて、自分を抑えるにも限度があるの……」

「……そ、そうなんです……か」

「そうなのよ……」

そして、二人はまた顔を真っ赤にしながら目を合わすこともできずに、並んで沈黙が続いた。

『この化け物に勝つためというのであれば……私もハニーに迷惑をかけないよう、大人しく引き下がるわ』

『シノブ……』

『ハニー。いつか私は必ずハニーの隣に立てる女になってみせるわ。だから今は……黙ってその背中を見ているわ』

『……おう』

そんな甘酸っぱい空気で埋め尽くされた場で……

『なんとも……青い春というものだな……』

ずっと黙っていたトレイナは、それだけを呟いた。

世界は本来、「七勇者の子たち」が力を合わせて伝説の六覇を倒して、勇者たちの後継者であることを示す展開を当初期待していたかもしれない。

しかし、現実は非情。

『ねえ、アース……『そういうこと』……なの? 今の僕たちでは……足手まとい……むしろ邪魔……そういうこと……になっちゃうのかなぁ? 僕たちでは、アースの力になれない……そういうことなのかな?』

パリピに対して立ち上がったアースが一人で戦おうとしている。

本来なら「自分たちも」と横に並ぶはずのところを、フーが切なそうに告げるその言葉が全てを示していた。

『ッ……すまない……俺が……弱いばかりに……アース』

『うっ……うぅ……ぐぅ……』

認めたくないが認めるしかない。

一人で戦わせないという以前に、足手まとい。

フィアンセイ、リヴァルですらもだ。

その現実に帝都は静まり返っていた。

つい先ほどまで「お前たちの力を見せてやれ!」、「自分たちも一緒に戦いたい!」などと、もう誰も口にしない。

既に帝国でも上級騎士クラスの力を持っているフィアンセイたちですらも足手まといにしかならないという現実に、ただショックを受けるしかなかった。

とはいえ……

「無謀だ。確かにアースの成長は尋常ではない……が、殺す気のなかったヤミディレやバサラと違い、パリピと一人で戦うなど無理だ」

パリピに一対一で挑むアースの姿に、かつてパリピと戦ったことのあるライヴァールはそう断言した。

『アース・ミスディレクション・シャッフル! からの~~~、大魔ソニックフリッカー!』

距離を取り、左の拳の連打を繰り出すアース。

しかし、それではパリピに致命傷を与えられない。

「ライヴァール。かつてパリピを打ち負かした君の目から見ても……やはり、アースが一人でというのは……」

一見、立ち上がったアースが再び躍動して激しく動いて攻めているように見えるのだが、それでも七勇者であるソルジャとライヴァールの表情は変わらない。

「無論だ。この私とて一人ではなく、ベンリナーフとの連携で討ち取ったのだ……そして何よりも……パリピの使う闇魔法。アレは世界でも滅多にいない使い手……経験の浅いアースはその存在すらも知らないだろう。あの闇魔法を食らってしまえば……」

そう、ライヴァールにとってパリピは宿敵。

ゆえに、パリピの強さを誰よりも分かっていると言える。

だからこその断言……なのだが―――

『闇魔法―――』

『大魔ソニックジャブ!』

『へぶっ!?』

それは、パリピがまさにその闇魔法を発動しようとした瞬間だった。

「あ……あれ?」

「な……に?」

魔法を発動しようとしたパリピの口と手に、アースが拳を叩きこんで、発動前に潰した。

「つ、潰したね……アース……」

「あ、ああ……いや、あれだけ拳を繰り出しているのだから、まぐれかもしれないが……とにかく運が良い……と言いたいところだが、アレではやはりパリピに致命傷までは与えられない。逆に怒りを買っただけだ」

「……たしかに……パリピが少し苛ついているね」

「パリピの力は闇魔法だけではない……。どれだけ動き回っても、あの爪で広範囲に攻撃を放たれれば―――」

一瞬驚いたが、すぐにまた難しい顔に戻るソルジャとライヴァール。

パリピの力はまだこんなものではないと、パリピの爪を二人は凝視し……

『引き裂かれちまいな……狂凶葬爪曲! ドレミファソラシドを奏でろォ!』

『大魔螺旋アース・スパイラル・ウォール!』

その爪での広範囲攻撃を、アースは絶妙のタイミングで大魔螺旋の竜巻で防いで弾いた。

「こ、これも防いだ! まるで『パリピがそう動く』と知っていたかのように……」

「なに? い、いや……これもまぐれだろう……パリピと戦うのが初めてなアースが分かるはずがない」

まさかのライヴァールの予想を二度も外すアースの動きに、流石に二人は動揺を隠せない。

「お、おいおいお、なんか、アース・ラガン……普通に渡り合ってないか?」

「ああ。また、ライヴァール様の予想を上回って……」

ライヴァールが「アース一人では無理だ」と断言したのだが、予想外にアースは一人でパリピと渡り合っていた。

その展開に他の帝国騎士たちもざわつき出した。

そして……

「とはいえ、アースの攻撃ではどうしても致命傷を与えられないのは変わらない……か」

「ああ。やはり御前試合でも見せていた、あの大魔螺旋……アレを叩きこむしかないが……さすがにパリピもアレを正面から黙ってくらうことはないだろう」

「アースも動き回って何とか隙を作りたいところだろうけど……徐々にパリピもアースに対して真剣に警戒し始めているね」

「ああ。しかし、……アースのあの目は……何かを虎視眈々と狙っているように見える……」

七勇者の二人の予想を続けて外したアースは何をやろうとしている?

アースの動きから何かの狙いを感じ取った二人は真剣に考え、そしてライヴァールが……

「そうか、分かったぞ! あのヤミディレの時と同様に……どうやったのかは知らんが、魔穴を突くことを狙っているのではないか!」

「あ……そうか! 確かにそれなら、パリピすらも動きを止めることができる! つまりああやって動き回り、翻弄し、どこかのタイミングで飛び込んで……ということか」

そして、結局アースは七勇者の予想を何度も上回ることになる。