軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百六十八話 後の世を

「あの語り部の口調……声……まさかとは思ったが……ばかな……ばかな! ありえん! どういうことだ、ライヴァール! 奴は確かにお前とベンリナーフが力を合わせて……」

激しく取り乱す皇帝ソルジャ。

かつての大戦より最前線で戦い続けた男だからこそ、アースたちの前に現れたあの男のことをよく知り、同時にありえないと動揺を隠せない。

「……あ……なぜ……だ……」

それは現在顔面蒼白の剣聖ライヴァールがかつて始末したからだ。

だからこそその張本人も震えが止まらない様子。

「陛下、や、やつはまさか……」

「い、いや、でもありえぬぞ! 何故ならあやつは、ライヴァール殿たちが……」

「そ、そうだ、こ、これ、ひょっとして幻とか、そっくりさんとか……」

宮殿のテラスに集まった古参の帝国騎士たちも震えが止まらない様子。

その皆の反応にまだ若い世代たちはポカンとした様子。

しかし、次に空から放たれる男の声は……

「どういうことだ! 今すぐ、魔水晶でフィアンセイに連絡を取れ! 私はこの報告は聞いていないぞ! あの子たちが奴と戦った……いや、奴が生きていたなど、どういうことだ!」

そう、フィアンセイたちから天空族のことや、カクレテールの復興支援のことはフィアンセイからソルジャも聞いていた。

しかし、このことだけは知らなかった。

この後の、闇の賢人とアースのややこしい関係をフィアンセイは意図的に報告しなかったのだ。

だからこそ、この衝撃にソルジャたちもライヴァールも冷静でいられるはずが無かった。

アレは、嘘か幻なのか、それとも……

――そう、奴は生きていた。六覇のパリピは生きていた

「パリピ……!」

そのとき、ナレーションが再び流れた。

――伝説の伝説! かつて七勇者たちの前に立ちはだかり、多くの戦友たちと時代を駆け抜けた。戦時中は一人でも多くの戦死者を減らすための軍略を駆使し、その報酬のほとんどを遺族や戦災孤児たちの支援に費やした……

「……ん?」

――人類の情報操作のフェイクニュースで悪評を流布され、七勇者の罠に嵌められてその伝説は幕を閉じたと思われたが……伝説はここから始まるのだ! 闇の賢人パリピ推参!

「待て待て、なんか違うぞ! 戦死者減らすとか、むしろ奴は味方の死をものともしないメチャクチャな作戦ばかり……しかも遺族や孤児の支援って嘘をつけ!」

「ふざけるな! 何が情報操作で罠にだ……我々は普通に戦って討ち取ったはずだ!」

ソルジャとライヴァールのツッコミ入るも、壮大な効果音と共にドドンとパリピが存在を示した。

『はい、隙みっけ♪』

『え……あ……』

しかし、そんな動揺するソルジャたちの前で、ヤミディレを翻弄したアースがアッサリとその爪で貫かれる。

『クロンちゃん! オレがこんなことをするのには理由があるんだ!』

『え……』

『ウ・ソ』

『ッ!?』

さらに、アースだけではない。あのクロンにすら容赦なく外道な方法でその爪でその美しい肌を傷つける。

『ひははははは! あ~、パナイちょーろいねー。大して体力も魔力も使わないでアッサリ勝っちゃって、ほーんとオレなんかがこの世に生まれてきてごめんなさーい!』

その狂ったように盛大に笑うその姿。

それは幻でも作り出せるものではないと、ソルジャとライヴァールは本能で感じ取った。

「やはり、あの殺したくなるほど忌々しい笑いは本物……い、生きていたというのか! 魔王軍の六覇大魔将……闇の賢人・パリピ!」

「あの男……な、なんということだ! こ、こんなことが!」

「「「「「では、本物のパ……パリピッッ!!!???」」」」」

伝説の六覇の一人。闇の賢人・パリピがついにその生存を世界に晒した。

『女神様! アースくん!』

『女神様! あんちゃん!』

『ぼ、坊ちゃま!?』

『んあー、大丈夫なのーん!』

『『『『『女神様あああ、アースうう、来たぞおおおお!!!!』』』』』

そんなアースとクロンのピンチに、タイミングよく駆け付ける仲間たち。

そこには、フィアンセイ、リヴァル、フー、さらにサディスやマチョウもいる。

だが、その一同を前にしてパリピは……

『ったく、しゃらくせーな、ガキどもが! テメエらとは見てきた世界! 過ごしてきた時代! 戦ってきた敵の次元が違うんだよ! いいぜ、雑魚共! 空の国からの旅立ち記念に、ちょいと昔を知らねえガキどもに、地獄を見せてやろうじゃねえか! 全員まとめてかかってこい!』

一切臆することも動揺することもなく、むしろ「舐めるな」と全員まとめて相手にすると吠え、そして……

『ヒハハハハハハハハハハ!』

世界を震撼させる。

未来の帝国騎士を志すアースたちの同級生たちであるアカデミー生たちは、顔を青くする教師の言葉に驚愕した。

「や、闇の賢人、パリピ?! 元六覇!? せ、先生、それは本当なんですか!?」

「あ、ああ……私もかつての大戦……遠目でだが、奴を見たことがある……」

「でも、いい人……なんですか?」

「そんなわけあるか!」

死んだと言われていた闇の賢人が生きていたこと。

それは、歴史の教科書の書き換えが必要なほどの魔界も含めた世界全土の大事件である。

「そ、そんな、アースくんもクロンちゃんもあっさり……」

「で、でも、アレは何か卑怯な手を使ったみたいだし! そ、それに、ほら、見ろよ、全員集まってる!」

「ああ。姫様、リヴァルくん、フーくん、それに上級騎士クラスの力を持ったサディスさんに、アース君と死闘を繰り広げたマチョウさんっていうのもいる!」

「それに、他の手練れの人たちがあんなにいるんだ! 一斉にかかれば――――」

生徒たちは驚きながらも「でも、姫たちもいるから大丈夫」と信じて頷き合う。

それはすなわち、「六覇の力を何も分かっていない」からこそ出てくる希望であった。

誰もが、「アースを殺す気のなかったヤミディレ」との戦いで、六覇の力を推し量った気になっていた。

『ヒハハハハハハ! 古代闇属魔法・シャドウラギール!」

『ぬぐっ!? な、なに?! カハッ……!』

まず、そのマチョウがパリピの魔法で全身を血に染め……

『帝国流剣術・天輪光華乱舞ッ!』

『ひはっ! 剣聖2世か……親父には世話になったなぁ……でも、テメエは……落第ィィィ!』

リヴァルの高速の剣を指で止めて、ミドルキックでリヴァルのアバラをへし折り……

『地獄の業火は絶対零度をもパナイ超える! つまり、蒸発しちまうってこったぁ!』

『『ああぁぁあ!?』』

フーの魔法を吸収して倍返し。

その地獄の業火がフィアンセイとシノブを飲み込んで……

『ああああああ!? かっ、あ、あ……』

『ひははははは、いいね~、女にモテそうな顔をぶっ潰すのは、種族は違えど快感だ♪』

フーの顔面に容赦なく強烈な膝を叩き込んでグシャグシャにする。

『これ以上の狼藉は許しません! 坊ちゃまの分も……私が!』

『ヒハハハハハ……ヒーーーハッハハハハハハハハ! しゃらくせぇな、ガキどもが! 引き裂かれちまいな……狂凶葬爪曲!』

そしてサディスすらも……集ったカクレテールの豪傑たちも含めて―――

『ひは♪ 骨はあったな。まぁ、雑魚にしてはだが……』

パリピの力を知らない世代からすれば「たとえ六覇でも皆がいれば大丈夫」という希望を数秒で打ち壊す、暴れる怪物。

「あ……あ……」

一切の苦戦もせず、一人残らず完膚なきまでに叩きのめした。

「う、あ……う、うそ……」

「つ、つよすぎる……」

「こ、こんなの、あ、ありえねえよ……ば、ばけもの……」

「アース君たちが、姫さまやリヴァルくんたちが、あ、あんな、手も足も出ずに……」

これまで世界を熱狂させるほどの成長と戦いを見せてきたアース。マチョウ。

さらには、次代の勇者とも言えるフィアンセイたち。

そんな希望が一斉に集った熱くなる展開。

しかし、その熱気を一瞬で恐怖に変えるほどの圧倒的な力をパリピは世界に見せつけた。

「あ、あんなバケモノ……か、かてるわけないよぉ……」

つい数分前まで、天空族を相手に大暴れする同級生であるアースたちの姿に目を輝かせて「自分たちも一緒に戦いたかった」と思うほど熱くなっていたアカデミーの生徒たちは、全員が顔を青くし、中には腰を抜かして震え上がっている生徒もいた。

そして、それは戦争を知る世代もそうである。

「ほ、ほんものだ……やつだ……や、闇の賢人パリピが生きていたんだ……」

まぎれもなく、パリピは本物だと見せつけられ、教師たちも恐怖していた。

「強い……やはり、間違いない! 本物だ……」

「おのれ………どういうことだ! なぜ、何故奴が!? あのとき、確かに奴はこの手で私とベンリナーフの連携の魔法剣で……」

改めてパリピのその強さを目の当たりに、パリピが本物であることを認めるしかないソルジャとライヴァール。

そして……

「陛下、失礼致します! 魔水晶で―――」

「っ、フィアンセイに繋がったか!?」

「い、いえ、その前に……」

その場に慌てたように駆け付ける一人の騎士。

その手には、小型の魔水晶。

「魔界のライファント総司令から急ぎでと……」

「ッ!? ……ライファントが……そっちから来たか……構わない。そのまま繋いでくれ」

それは、かつてパリピと肩を並べた六覇の一人でありながらも、戦後は人類と和睦を結び、魔族の統括に尽力した、今では自分たちと友好を結んでいる現・魔界の総大将からであった。

「……ライファント。私だ、ソルジャだ」

『ソルジャ陛下……このように事前連絡もなしに直接連絡する無礼を―――』

ソルジャが承諾して魔水晶に向けて話をする。

すると向こうから威厳に満ちた重々しい声の主から返答があった。

「前置きはよい、ライファント。今、この場にはライヴァールもいる。ただし、ヒイロ、マアム、ベンリナーフ、コジロー。ミカド殿、さらにはあなたのところのノジャとも連絡がつかない状態。そんな状況下で、コレを見ている」

『なるほど……なら、話は早いゾウ。で、パリピのことだが……どういうことだゾウ? 行方不明というアース・ラガンだけでなく、貴公の娘たちも戦っているようだが』

「情けない話だが、私も今初めて知った。娘たちから報告を受けていない。だから、パリピが生きていたということにも混乱状態だ。これは本当だ」

『……そうか……あの語り部の声や口調から、もしやとは思ったが、まさかガッツリと出てくるとは、驚いたゾウ』

ソルジャの返答にそう反応を見せるライファント。その様子からも、ライファントもまたパリピの生存を知らなかったのだとソルジャも察した。

そして、ライファントは……

『ソルジャ皇帝。もはや貴君らとは十数年の付き合い。小生もかつての戦で敗北し、貴君らと共に人魔の友好に尽力してきたことに嘘はなければ、今更何があろうとも世界に波風を立てることはしないゾウ』

「ライファント……?」

『だが、これを見ている他の魔族たちの考えは……大きく変わるゾウ』

それは、パリピ生存という衝撃を知ったからこその、今後の世界に対するライファントの想定であった。

『考えてみよ。パリピが生きていたということは、大魔王様やゴウダが居ないとしても、六覇の小生、ノジャ、さらには今回の件でヤミディレとパリピまで生存していることが分かり……何よりも、ハクキが居るゾウ』

「……ああ」

『そう、かつての六覇の内の五人が居る……そして、その旗印に……ハクキ……さらにはバサラもいる。もしくは……あのヤミディレが仕えるあの娘……大魔王様の面影のある……あの娘が…… 魔族の民たちからそういう声が上がらぬと言い切れぬ……』

再び人類と戦争をすべきと叫ぶ魔族たちが現れるかもしれない。

何よりも、ヤミディレもハクキも、降伏しなかったからこそ未だにその首に懸賞金がかけられている。

『正直に申し上げると、以前よりも魔族の中であった声……『仮に七勇者が存命でも、十数年以上経てば短命の人間は衰えている。50年も経てば寿命が、尽きる』……というものであった』

「ライファント、それは……」

『そう、七勇者たちが老いたり、寿命尽きた後であれば……何よりもその次世代である貴公らの子たちが貴公らほどの力がないと世界が分かってしまえば……』

それは、ソルジャにとってもライヴァールにとっても、もっとも避けなければならない最悪の事態である。

人類にとっては魔族とは『永劫の和睦』を望んでいる。

だが一方で、魔族側には『一時的な休戦』と見ているいものもいる。

それはソルジャたちもある程度想定していたことでもある。

『パリピは魔族の中でも特殊。小生らのように肩を並べた者たちからは嫌われているようで、裏社会を含めた人脈の広さや、弱みを握られている権力者も多く、何よりも大衆の扇動に長けているゾウ』

「ああ。それは今まさに……」

『もし……万が一……連絡のつかないという、ヒイロ、マアム、ベンリナーフ、コジロウ、さらにミカドの身に何かあったとしたら……その後継者たちもパリピ一人にも手も足も出ないという認識が広がれば……パリピに魔族の大衆が煽られたりしたら……』

七勇者の自分たちが仮にいなくなったとしても、戦争が発生しないような世界の形にしなければならない。

それが、ソルジャたちの務めであった。

だが、それを成すには時間がかかる。

未だにそれは成せていない。

「……本来……次世代を率いる存在となるエスピもベトレイアル王国と絶縁し、ずっと行方不明のまま……ジャポーネも芳しくない様子……まずいな……」

そんな状況下でこれである。

そう、実質的に現在七勇者は崩壊して機能停止しているとも言える。

つまり、このパリピとの戦い次第で魔界の風向きが大きく変わる。

もはや皆んなで鑑賞会などとノンキに言えない状況にソルジャたちは頭を抱えてしまった。

そしてその行く末はアースに握られていた。