軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百六十四話 世界の意見が分かれても

世界が噴いた、冥獄竜王の息子の初登場。

そのあまりにも意外な容姿と、登場の仕方に世界が困惑している。

「……吾輩も一度だけあやつの息子と会ったことがあるが……肥えたな……」

ハクキは落ち着いた口調でヒルアの姿を懐かしみ……ながらも、ちゃっかりと噴き出して零れたワインが服に染みついていた。

「ちょ、ちょっと待て……あ、あのカバみたいの……アースと追いかけっこ中にもいた、あの空飛ぶカバが……」

「あのカバ、冥獄竜王の子供だったの!? ってか、あ、あれが冥獄竜王の子供なの!?」

そう、ハクキと違ってヒルアの素性を知らない者たちからすれば、バサラという伝説に恥じない圧倒的なドラゴンに対して、ヒルアは……

――あれで冥獄竜王の息子か?

そう思いを皆が抱きそうになったとき……

『んあー、いきなり呼び出しておいて初対面なのに何なのん! 大きなお世話なのん! どーせ、君らも言うのは分かってるのん! 皆して言うのん! ボクを見て『それでも竜王の息子』かとか、言うんでしょん!』

「「あっ……」」

だが、そのときヒルアの言った言葉にヒイロとマアム、そして遠くの地の帝国民たちも胸にグサリ。

『ふーんだ、ボクはボクなのん!』

その言葉を聞いて、空に映るアースもポカンとしながらも、しみじみとした表情になった。

このときのアースの表情の意味を、ヒイロたちも察し……

『……悪かった』

「「ご……ごめんなさい……」」

空に映るアースと一緒にヒイロとマアムも謝っていた。

「あ~、くそ、あ~、もう、俺はどんだけアホなんだっての、あ~~~もう!」

「私も……はあ……アースに見放されるのも当たり前よ……」

アースのトラウマを理解したつもりでいても、結局他の者に対しても「〇〇の息子」というレッテル張りをしてしまう自分たちに、ヒイロとマアムも辟易し……一方で……

『お、おお、おねーちゃん……ぼぼ、ボクに触って何とも思わないのん?』

そんなヒルアの頭を笑顔で撫でているクロンに、ヒルアは戸惑いながら……

『だだ、だって、ボク……太っててカッコ悪いって雌のドラゴンたちに……みんなも、それでも冥獄竜王の息子かって……』

『カッコ悪い? とってもかわいいではありませんか!』

『んあ!? 雲なんてとんでもないのん! 天の向こうまでいくらでも行っちゃうのん!』

アースにそうしたように、クロンはヒルアのこともまた「冥獄竜王の息子」という色眼鏡で見ない。

だからこそ、アース同様にヒルアもまた単純にやる気に満ちて燃えた。

そして、アースもそんなヒルアにどこか嬉しそう。

その笑顔の意味をヒイロ、マアム、帝国民たちはすぐに察する。

『分かるうううう、なんかもう、お前、分かるううううう!』

『んあああん、なんなの、おにーちゃんは!』

『そうだよな~、優秀すぎる親を持つと、そんな親や周囲のエゴでガキは苦しむんだよなァ!』

その意味は、「シンパシー」だ。

「ぐっ、う~……アホすぎるぞ……俺……」

「同じくぅ……」

「はあ~……またか、貴様ら。何度落ち込むのだ? いい加減うざくなってきたぞ? 仮にもライファント、ゴウダ、そして大魔王様を討った貴様らのその姿には……」

またもや項垂れるヒイロとマアムに、もはやため息のハクキ。

いずれにせよ、空に連れていかれたヤミディレを救うためのアースたちに、心強い味方が加わった。

そのヒルアの背に乗って、ヤミディレを助けに行くのはアース、クロン……だけではない。

「でも、こんなことになっちゃってたら……ねえ、ヒイロ……ヤミディレのこと……」

「ああ……連合でも意見が分かれちまうだろうな……」

ヒルアとともに、いま一度カクレテールの住民たち……いや、ヤミディレの弟子たちの前に姿を見せるクロン。

皆を集めて、クロンは語る。

『皆さん、大神官として皆さんと接したヤミディレの本当の素性、そしてあの雲の上から来た人たちが何者か、私たちはよく分かっていません。そして何よりも、これまで皆さんから女神と呼ばれた私自身が本当は何者なのかもです』

『『『『何を水臭い! 何を信じるかは自分で決めます!!』』』』

しかし、それもまた全てはいらぬこと。

『女神様……いえ、クロン様。あなたは一つだけ勘違いしている。自分たちは別に、大神官様を、師範を……『義務だから助けなくてはいけない』と思っているから、戦うのではありません。たとえ素性がどうあれ、その存在に救われ、そして自分たちを強くしてくださった。中には大神官様の裏の思惑によって犠牲となった者も居たかもしれません……ヨーセイという若者や旧体制の関係者たちのように……だから、全員が全員ではありませんが……少なくともここに居る男たちは、『助けなくてはいけない』から戦うのではありません。『助けたい』から戦うのです』

クロンの言葉や、マチョウを始めとするカクレテールの住民たちの言葉を一言一句噛みしめて、ヒイロたちは心に刻む。

『……分かりました! 皆さん! 一緒に戦いましょう!』

『『『『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!』』』』

カクレテールの住民たちは鎖国された世界の住民たち。

だからこそ、外の世界のことも歴史も知らない。

アースが勇者の息子だということも知らない。

ヤミディレの素性も知らない。

だから、その人物の過去がどうとか、肩書がどうとかではなく、自分たちが接し、見て、話し、そして過ごしてきた等身大の相手の姿を見ているのである。

だからこそ、ヤミディレが仮にこの地上世界で世界最悪級の賞金首であったとしても、彼らからすれば「それがどうした」ということなのである。

しかし、世界は……

「まさか、こんなことが起こっていたとは……ですね、陛下」

「ああ」

帝国皇帝のソルジャは複雑な何とも言いようのない表情で空を眺めて、臣下の言葉に頷いた。

「天空世界や天空族、さらには冥獄竜王の存在や、それに関わるアース、クロンという娘についても色々とあるが……鎖国されていた国とはいえ、あのヤミディレを救い出すために、人間たちが立ち上がっていたとは……」

かつて自分が七勇者時代の最大級の宿敵でもあった六覇の一人であり、ライファントやノジャと違って、ハクキ同様に降伏しなかったヤミディレ。

「だからこそ……少し厄介なことになるであろうな……」

その存在を十数年以上も捕らえることも見つけることもできなかった自分たちの知らないところで、こんなことになっていたとはと、ソルジャも頭を抱えるしかなかった。

それは……

「……ヤミディレの賞金……有効のままなんじゃが……」

そのとき、エルフの集落でミカドがボソッと呟いた言葉に一同がギョッとした顔で振り返った。

「ちょ、おじーさん、本当なの!?」

「なんでよ! いや、怖そうな人だけど……でも、あのクロンちゃんはあんなに慕っているんだから、何とかならないの?」

「あ~……でも、ヤミディレはハクキと並んでそういうことになっているじゃない……こればかりは……」

「せやな~……『元・六覇のヤミディレ』はジャポーネでも知られとるほど、そういう存在やからなぁ……」

「そうでござるな……それこそサミットでも開いて議論するレベルでござる……」

「そりゃそうなのじゃ。そしてこればかりは、わらわやライファント、魔界側から言えることではないのじゃ……人類の連合加盟国の首脳たちで話し合ってもらわねば……ま、わらわは婿殿につくのじゃ♥」

そう、たとえこの鑑賞会で「ヤミディレ救出に燃える人間たち」の姿に胸を熱くしていても、ヤミディレ自体が賞金首であるという事実はゆるぎないものであり、それは世界全土に広まっていることである。

「うむ、そしてエルフの諸君らのように……かつての戦時中の魔王軍を知らぬ者たちからも同様に、『ヤミディレの賞金を解除していいのでは?』という意見が今後世界から出てくるであろう……一方で、かつての魔王軍や戦争を知る者たちからは強い反対が出るであろう……ヤミディレに……仲間や家族を殺された者たちとて、今もこのシーンを腸煮えくり返っているかもしれんしのう……」

これまでは、ヤミディレがカクレテールに潜伏しているということを世界が知らなかっただけで捕らえることができなかったが、その姿を連合の兵士や騎士、賞金稼ぎたちが見つければ、ヤミディレはたちまち狙われても仕方のない存在なのである。

そのことをカクレテールの住民たち並みに外の世界のことには疎いエルフたちは納得できずに不満気な表情。

そしてミカドも気まずそうにしながらも……

「のう、アースくん……君は……もし、ワシらがヤミディレを捕えようと―――」

ミカドの「もし」の話だが、アースにとっては考えるまでもない愚問。

「なんで俺が、世界の顔も名前も知らない連中と、クロンの母親を天秤にかけなきゃいけないんだよ。俺自身は、ヤミディレから何も奪われてもいないってのに」

「……アースくん……」

「もし、世界がヤミディレを捕えようとしたら、クロンは必ずヤミディレを守るために戦うだろうな。そして、俺は必ずそっちの味方になるよ。当たり前のことだ」

たとえ、世界や連合の意見が分かれようとも、アースの答えが迷うことなどない。

それだけアースはまっすぐにそう答えた。

そして、それはつまり……

「……待って? そっか……お兄ちゃんがもしクロンちゃんと結婚したら……ヤミディレって私とスレイヤ君の親戚みたいになるのかな?」

「……そう……なるね」

「う~ん……複雑だけど……でも、親せきになる以上は仲良くしないと駄目だよね?」

「僕はヤミディレのことはあまりよく分からないから、君次第だと思うけど……」

エスピもスレイヤも同様ということであった。

さらに……

「ま、ハニーはそう答えるわよね」

アースの問いに「うぬぬ」となるミカドと違い、分かっていたとシノブは微笑む。

「そもそもハニーは、まだ『何でもなければ、そういう関係』にもなっていないのに、ジャポーネではお尋ね者扱いの私のお父さんとお母さんまで助けてくれているんだから……ハニーはそういう人なのよ」

「シ、シノブ……あ……えっとだな……」

「おっと。落ち着いて、ハニー。この場でハニーに何かの答えを求めてないから。私が勝手に改めてハニーに惚れ直しているだけなのだから」

「あ……いや……だ、だから、何でもないって言い方はその……」

「注意よ、ハニー。ここで女の子がちょっとでも勘違いしたり、期待を持つような失言はしないで、黙って頷いて。鍛え抜かれた私でなければ、すぐに目がハートになってキスしちゃうから」

「……あ……う……」

そんな余裕しゃくしゃく……ではなく、本当は唇をかみしめ、拳を握りしめて、内心では複雑な気持ちが絡みつくほど悶えたいシノブはそうやって平静を装っていた。

そんなシノブの姿に照れて口下手になるしかないアースと、スレイヤとエスピは「強い……やっぱり甲乙つけられない」と呟いた。

「……シノブちゃん……」

「……大丈夫よ、アミクス」

「っ、お、お母さん……」

「一応、彼は私たちも助けてくれてるし」

「あ……う……うん」

そんなシノブに見惚れて羨ましそうにしているアミクスに、色々と心配している母親のイーテがそう耳打ちしていた。

『フレーフレー、おにーちゃん、おねーちゃん、おじさん! みんな! フレーフレーフレーガーンーバー! ヒーちゃんもガンバ! ガンバ! フレフレガンバ!』

『そ、そうだ、頑張れー! みんな、頑張ってくれ!』

『俺たちの街をこんなことした奴らをぶっ飛ばしてくれ!』

『大神官様をどうかお救い下さい!』

『全員、ぶっ倒せえええ!』

『うおおおおお、いけええええ、魔極真バンザーーーーイ!』

そんな中、空では準備万端でこれから出発しようとするアースたちに声援を送るアマエを始めとしたカクレテールの住民たち。

『どうだ? クロン』

『はい……熱いです』

『だろ?』

『力が湧いてきます』

『だな』

『一緒に戦うだけじゃなく……皆さんの分も戦うのですね?』

『おお』

『う~~~~、てやああああああああああああああ!!』

無垢な少女だったクロンが、何やらゾクゾクしているような表情で、拳を突き上げて吠えた。

『では、皆さん、準備は既に整いました! 覚悟もよろしいですね!!』

『『『『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』』』』

『私たちが私たちの意志で、私たちの大切なものを取り戻します! 私たちの覚悟に、必ずや神のご加護があります! さあ、あの天に……えっと……なっ……ナグリコミ? です! 張り切っていきましょう!』

『『『『ウオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!』』』』

それに呼応し、アースやヤミディレの弟子たちも滾る。

その熱狂は、見ているだけでも伝わるものであり、まさにヤミディレを知っている世代たちの心すら思わず揺さぶってしまうほどのものが、世界に伝わった。