軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百六十一話 成長した姿

大魔螺旋。

アースの物語を鑑賞し始めた皆にとって、その技とはもはやアースの代名詞とも言えた。

帝国民やかつての大戦を知る者たちにとっては忌まわしき技ではあるが、その力をアースが振るうようになってからは、最後のとっておきの必殺技であった。

しかしその大魔螺旋が……

『ヌワハハハハハ……度胸良し。ノリも良し。しかし……力はまだまだあやつに比べれば……曲芸の域だのう』

その螺旋は冥獄竜王の鱗に突き立てることすらかなわない。

どんな巨大な壁も風穴開けて吹き飛ばすアースの必殺技を、まるで幼い子供にじゃれつかれているように笑い、避けることもせずに受けて、そのまま弾き返す。

ハエでも叩き落すかのように手で払い、時には誕生日ケーキの蝋燭の火を消すかのように、容易くアースを返り討ちにする。

「っ……マジかよ……策を弄したとはいえ、ヤミディレと渡り合ったアースを相手に……」

「あのアースの技をくらって何とも……アレが、冥獄竜王ってやつなのね……」

かつての大戦でバサラと戦うことのなかったヒイロとマアムは戦慄していた。

遥か昔、大魔王トレイナと渡り合っていたという伝説は伊達ではない。

もしその力を本気で振るえば、アースの存在など容易く消し去ることも可能なほど、圧倒的な力。

だからこそ、これを見ているヒイロとマアムをはじめとする七勇者やかつての戦を戦い抜いた戦士たちは震えが止まらない。

――もし、かつての大戦であのバサラが地上で暴れていたら?

今、世界の歴史は大きく変わっていたかもしれない。

人類は絶滅していたかもしれない。

それほどの存在であった。

一方で……

『うおおおおおおおおおおお!!!!』

ヒイロとマアムはバサラの存在とは別に、やはりアースの姿に目を奪われた。

なぜならば、アースがいくら強くなったとしても、相手は六覇をも超える伝説の存在。

何よりも今の大魔螺旋で力の差は明らかだった。

アースでは勝てない……それは誰の目にも明らかなはずなのに……

『阿呆になれば、誰もが一度くらいは強者に挑める。しかし、恐怖を知り、それでもなおも譲れぬもののために再び身を投げ出せるか? 見せてみよ。そこに貴様の本質を見てやろう』

アースは立ち上がる。その全身に圧倒的な力の差を刻み込まれながらも……

『俺は目の前の恐怖より……失望されて、見放される方が怖い! もういっぺんだ……さっきより……もっと穿ってやる!』

それでもアースは心折れずに立ち向かっているのだ。

「なるほど……折れぬな……貴様らの息子……いや、アース・ラガンは。たとえ相手が冥獄竜王であろうと、力の差を見せつけられても、それでも立ち向かう……それはすなわち、力だけでは誰もあのアース・ラガンの心を折ることはできないということになる……」

そのアースの必死な姿を、ハクキはそう評価した。

「ハクキ……」

「強く、才能があるだけならば昔も今もこの世にはいくらでもいる。しかし……バサラに返り討ちにされ、それでも立ち向かうというものなど……どれだけこの世にいようか……」

ハクキのその言葉に、ヒイロもマアムも頷くことしかできなかった。

「しかも、それだけではない。強く才能溢れるる者が戦うだけならば、周りで見ている者たちはその者に頼るようになる。しかし、力の差があり、打ちのめされ、それでも足掻いて立ち上がろうとする者に対しては、見ている者たちにも何かが伝染する……」

そして、ハクキが見つめる空には、足掻くアースの姿をその瞳に焼き付けながら立ち尽くすクロンの姿が映った。

『アース……あなたはとても勇敢なのですね。そして心も強いのですね』

ヤミディレに箱入りのお姫様のように育てられた純真無垢な少女が、アースの姿に心動かされ、拳を握りしめ、決意の瞳を浮かべている。

『アース。あなたに飛ばしてもらうんじゃない。私も、あなたと一緒に飛んでいきたい!』

その覚悟と決意は、ついには冥獄竜王に立ち向かわせるほどのものだった。

『ガアアアアアアアアアアアアッッ!!』

『大魔螺旋アース・スパイラルトルネード!!』

アースの執念の大魔螺旋。

その大渦に対してバサラは鼻息一つで吹き飛ばそうとする。

だが、そんな絶体絶命の場面で……

『 天地創造(クリエイション) !!』

『えっ?』

クロンがその瞳を暁に輝かせ、アースの隣に立った。

「あっ、お、おいおいお、あの娘っ子……」

「アースと一緒に……それに……アースと追いかけっこしていた時に見せた、あの魔眼を……」

世間知らずのか弱そうな乙女がバサラに立ち向かおうとするその姿は、ヒイロもマアムも含めて世界が度肝を抜かれ……

『クロン? お前、何を……危な―――』

『覚悟なら、自分なりに決めてきました!』

『……え?』

そして、その女神の戦う意思に、アースにだけではなく、世界が目を奪われることになった。

「なるほどな……アース・ラガンが吾輩に怒るわけか……」

「あ? ハクキ、どういうことだ?」

「ふふふ……」

ハクキの呟きの意味をヒイロもマアムも理解できない中、ハクキはアースとの会話を思い出していた。

――人形娘って、まさかクロンのことじゃねえだろうな? あいつを人形なんて言うんじゃねえよ!

ハクキにとって、クロンは作られた人形でしかなかった。

ある計画のために作り出され、ヤミディレに預けて時間をかけて成長するのを待っていた。

クロンがどう成長したかなどハクキにはどうでもよかった。

その成長とて人づてで経過報告を受ける程度。

クロンの瞳が開眼さえすればそれでよかった。

だからこそ、ハクキにとってクロンは人形でしかなかったのだ。

『祈るだけでなく、願うだけでなく、戦わなければ切り開けない道があるのなら、私もあなたと共に行きましょう!』

しかし……

「命令でもなく、自分の意志で冥獄竜王とまで戦おうというのだ……確かに、アース・ラガンの言う通り、アレは……いや……『クロン』はもはや人形などと呼べるものではないな……」

その姿をこうして見ることで、ハクキはクロンに対して初めて人形としてではなく、ヒトとして見るようになったのだった。

『アース。この力は……ヤミディレからは無闇に使うなと言われました。私、ヤミディレの言いつけを破ってしまいました』

そして、その逞しく成長した姿に心を揺さぶられたのはハクキだけではない。

『だから、今こうしてここに居て、こうして戦うのは……誰かに言われたわけではない、私の意思です!』

ただの人形……と、思うなど不可能。

それこそ生まれたその時から十数年以上片時も離れずその成長を見守った女。

その女にとっては、自分の見ていないところ、自分の知らないところで、そして囚われた自分を救うために、伝説へ立ち向かう覚悟と決意を示したクロンに……

「っぐ……グスン……クロン様……なんと……りっぱに……」

「へ? おかーさん?」

「……え? ……え……ふぁ、はぐっ!? い、いえ、な、なななな、なんですか、クロン様っ!? 私は何でもありません!」

「お、おかおか、おかーさん!?」

ヤミディレの涙腺が潤むのも仕方のないことであった。

「お、お、おぉ、師範、い、今、今ぁ!」

「おかーさん、どうしたのです? お腹が痛いのですか!? どうして泣いているのですか!」

ブロにとっては初めて見る鬼の目にも涙。

クロンにとっても初めて見る母の涙。

ブロはあまりにも珍しいものを見たと嬉しそうに騒ぎ、逆にクロンはまさかヤミディレが自分の成長した姿に感激して涙を流しているなどと思わずに大慌て。

一方でヤミディレは……

「ち、ちが、違います! なな、泣いてなどおりません! 夕日のせいでカリーの玉ねぎが目にまぶしくてホコリが!?」

「おかーさん、どうして? 大丈夫ですか、おかーさん!」

「だだ、大丈夫なのですよ! そ、そう、クロン様、先ほどのアース・ラガンが弟子がどうのとか……って、そっちもそうですが、クロン様! 私のいないところでなんと危ないことをしているのです! バサラに立ち向かうなど、取り返しのつかないケガをされたらどうするのです!」

目を慌てて擦って、すべてを誤魔化すかのように大声で捲し立てるヤミディレ。

その姿にブロやヒルア、そして労働者たちはニヤニヤ。

「カッカッカ、いやぁ~……カクレテールの連中に見せてやりてえ。あの師範が感動して泣くなんて……」

「お姉さん可愛かったのん!」

まるで冷やかすかのようにそう言って笑うブロ。

一方で、誰もがヤミディレの気持ちをよく理解できた。

『私は何も知らないのです。まだ、何も。だからこそ……これからもっと多くのことを知りたい。ヤミディレにも教えてもらいたい。そして、アースのことも。世界の事も。私は、良いことも、悪いことももっと知りたい』

ヤミディレがどれだけクロンを大切に想っているかを分かっているからこそ……

「おかーさん、本当に大丈夫なのですか!? お医者様に診てもらいましょう! おかーさんが泣くんですから、きっと何かあったのです! さぁ、私に顔をよく見せてください!」

「なな、なんでもありませんので、し、しばしお待ちを、あ、あと数分、い、いえ、数秒でいいので……いえ、やはり数分お待ちを!」

感極まるのは当然のことであった。

「カカカ、本当に立派になったもんだぜ、妹分。ま、外の世界を何も知らずに育った世間知らずが、こうして屋台やって生活費を自分で稼いでんだからな……伝説に立ち向かってたならそんぐれぇ、朝飯前か! それに……あいつに惚れて振り向かせようってんだからな……」

そんな妹分の姿にブロもまた、嬉しいと思いながら、クロンと共に並んで戦うアースを想った。

そんな風に世界中でクロンの姿に目を奪われたり、感極まったりする者たちがいる一方で……

悔しい。

そう思いを抱く女たちも居た。