軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百五十五話 いやいやいやいや!

ヤミディレの拘束から逃れ、アースが再び躍動。

力強く多彩なステップとフェイントでヤミディレを翻弄し、

『大魔ライトジャブ』

『し、しま……ッ!?』

ヤミディレに一矢報いる一打を放った。

そして、一打で終わりではない。

『アース・スパイラル・ブレイクゥゥゥゥッッッ!!!!』

『ウアアアアアア、ブレイクスルウウウ!!』

体勢を崩したヤミディレに……最大最強の敵に向けて自身の最強の力でぶつかるアース。

その迫力、何よりも熱く揺さぶる咆哮に世界の者たちは酔いしれた。

次世代の英雄が、ついに伝説を穿つか? という予感すらさせた。

だが、一部の者たちには違う。

「ダメだ……アースの力は確かにすげえ……けど、それでもまだ……」

「ええ。ヤミディレの魔力開放による力の方が……上」

ヒイロとマアムを始め、世界最強クラスの実力者たちは贔屓無しで両者の力を見極めたうえで、同じ考えだった。

「確かにな。あの大魔螺旋の威力では、ヤミディレを破ることはできん」

ハクキもそう判断した。

『ジタバタすんな! ……ッ……のぉ……ふっとべえええええええ!!!!』

『飛ぶかああああ! 我は神に選ばれし六人の将! 我は暗黒戦乙女ヤミディレ! 六覇の魔将を何だと思っているッ!!』

この光景を見ている者たちの大半が、叫ぶアースに感情移入して、一緒になって「ふっとべー!」と世界の至ることろで叫んでいる。

だが、冷静な目を持つ者たちは、「あと一歩届かない」と行方が見えていた。

だが、だからこそ余計に謎が深まる。

「でもよ、アースがヤミディレに勝ったってことは……」

「これでキマったってことじゃない……の?」

そう、アースは既に策を弄し、技術も力も魔力も全てを出し切った状態でヤミディレに最後の力をぶつけている。

しかし、その力では届かない。

『ギガスパーーーーーークゥゥゥゥゥ!!!!』

『っ……っそがああああ!』

消耗した状態で繰り出したヤミディレの強力魔法が、アースの大魔螺旋と相殺。

世界中からため息が漏れる。

つまり、これでアースはヤミディレを倒せなかった。

しかし、ヒイロたちが聞いた話ではアースがヤミディレに勝ったということになっている。

だとしたら、ここで決着がつかないとなると、どこで? どうやって?

ヤミディレも確かに疲弊しているが……

『貴様を落とす体力ぐらいは残っているッ!!』

大魔螺旋を破壊された直後のアースに対して、ヤミディレが即座に動いて潰しにかかる。

もう、ちょこまか動くことも魔力の回復すらさせない。

『魔極真アーム・トライアングル・チョーク!』

『つお、ご、おおお、おご!』

『肩固めとも言うが……このまま落ちろぉぉ!!』

体重をかけて押し倒し、上になりアースの脇の下から腕を回して両腕でガッチリと首を絞め、地面に抑え込む。

完全ロック。

多少体術に精通していれば、もはやこの態勢から逃れる術はないというのは誰の目からも明らかであった。

「お、おいおい、これ、落ちるぞ!」

「アース……ここで……あれ? でも、アースはヤミディレに勝つって……」

「で、でもよぉ、ここまでロックされると……あ、あいつまさか……」

「アースったら、まさかまたヤミディレの性格を利用して、え、え、えっちなことを!?」

ここから逃れるには、ヤミディレ自身に外させるしかない。

その方法でヒイロとマアムが思いついたのが、先ほどの「●●●」発言。

あれと同じことを……

「ぬぬ?」

そのとき、ハクキが怪訝な顔をして何か気づく。ヒイロとマアムも……

「あれ? あいつ、手に何か握って……」

「……針? あんなの隠し持っ……いや、でもあんな針じゃ何の意味も―――」

アースが右手に隠し持っていた針。そんなものを持っていたことにヒイロたちだけでなく、戦っているヤミディレも気づいていなかった。

その針をアースはヤミディレの肩口に刺した。

だが……

『貴様、こんなものを隠し持って……ふん、だがナイフならまだしも、こんなものでちょっとチクッと刺された痛みぐらいで私が技を解くとでも…………』

そう、ヒイロたちの予想通りのヤミディレの反応。

アースが隠し持っていた小さな針でヤミディレを刺した。だからどうした? というレベルである。

そう、それだけだったはず……だが……

『な……あっ……ぬっ……あ……』

「「「?」」」

突如、ヤミディレの表情が変わった。急に顔をこわばらせ、そして……

『がっ、あああああああ、がっ、な、ぬぐ、あ、な、なにをおっ!? なにをしたああ! ガアアア、ガ、ぬう、アアアアアアアア!』

「「「ッッ!!??」」」

ヤミディレはアースから手を離し、激しい苦痛を感じているような形相で発狂してのたうち回った。

「な、ど、どうしたんだ!? なんだ!? アースは何をしたんだ!? ヤミディレは何が起こったんだ!?」

「なんで、あ、あんな小さい針で刺しただけで……一体……」

それは、あまりにも予想外のこと過ぎて、世界最強クラスの者たちにすら何が起こったか一瞬分からなかった。

小さな針で世界最強クラスのヤミディレが痛みに耐え切れずにのたうち回る。

そして、ヤミディレ張本人すら自身に何が起こっているか分かっていない様子。

なぜそんなことを……?

「……あ……まさか……」

そのとき、アースの秘密の答えに迫っていたハクキだからこそ、アースが何をしたのかを真っ先に気づいた。

そして……

『……あんたにも閉じている魔穴がある……それをこじ開けた』

『な、が、ま、ま、あなああ?』

「「………………は?」」

驚愕するヤミディレと同様、今のアースの発言にヒイロとマアムは口を開けて固まった。

なぜなら、そんなことありえないからだ。

『はあ、はあ……私の魔穴を針で無理やりこじ開けた……だと? 馬鹿を言うな……僅かでもズレてはそんなことできるはずが……貴様が……私ですら正確に把握していない、閉じた魔穴の箇所をどうして……正確に……』

『さあな……神様が……味方してくれたのかもな』

開いている魔穴ならば魔力が出入りするので把握することはできる。しかし、人の閉じている魔穴を正確に把握することなど「本来」は不可能である。

それは、紋章眼を持つヤミディレですら不可能。だからこその驚愕。

「……ふ……はは……なるほど……『神』がアース・ラガンに味方したか」

口元に笑みを浮かべて小さく呟くハクキ。

一方で……

「魔穴を無理やりこじ開けて……ヤミディレに激痛を……」

「……アースがあの針で……」

答えが分からないヒイロとマアムは、改めてそのことを口にし、そして互いに見合って……

「い……いやいやいやいやいやいやいや!」

「いやいやいやいやいやいやいやいや!」

なんで? という想いしかなかった。

そしてそれは……

「……陛下……その、人の閉じている魔穴を突くなど――――」

「いやいやいやいやいやいやいやいや! ちょ、ちょっと待て、私にも今、何が起こったか……いやいやいやいや」

ヒイロとマアムだけでなく、同じ七勇者である帝国の皇帝も……

「うおおお、なんじゃァ! あんちゃんがあんな小さい針で大神官様をやっつけた! なんか秘孔てきな!? てか、マアナってなんすか?!」

「どういうことかな?! っていうか、あんなことできたのかな!?」

「おにーちゃんが勝ったの?」

「うぅむ……自分でも最後は分からなかったな」

「うおお、なんか最後はよく分かんねえけど、あいつの勝ちかオラぁ!」

「たぶん、そう……かな!」

魔法に対してあまり知識のないカクレテールの住民たちは何か分からない様子だが、とりあえずアースの勝ちなのだと盛り上がる一方で……

「……な、なぁ、フーよ……我よりも魔法に優れているお前に聞きたいのだが……その……閉じている魔穴をこじ開けるって……そもそも場所を把握することなどできるのか?」

「……フー……俺も知りたい。お前はどう思う?」

呆然としているフィアンセイ、そしてリヴァルはアカデミー同期の中で一番の魔法使いであるフーに尋ねると、フーは……

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや! あ……ありえない! な、何でアース……そ、そんなことできるの!?」

声に出して「ありえない」とアースがヤミディレに対してやった事に動揺しまくっていた。

唯一分かっているのは……

「……そういうことでしたか……そういえば、坊ちゃまがまだ家出される前……坊ちゃまが部屋で泡を噴いて倒れられていた時……机の上に鍼が……あぁ……そういう……」

アースの秘密の答えを知っているサディスは苦笑していた。

そして……

「いやいやいやいやいやいやいや!」

「お母さん?」

「師範?」

遠く離れたとある建設現場で、自分が一度体験したことだというのに、今になって張本人であるヤミディレは……

「いや、あの時あの後は天空族共とのゴタゴタで……しかしよくよく考えたらありえん! こんなこと、ありえん! そ、それこそ……あの御方の……六道眼でもない限り……あの御方の……」

当時はこの直後に起こるゴタゴタで完全に「それどころ」ではなくなってしまい、気づけば自分もそのことの考察をしないままだったヤミディレ。

しかし、改めて「これはありえない」と驚愕し……

「いやいやいやいやいやいやいや! んなアホななのじゃ!」

「いやいやいやいやいやいやいや! こ、これはさすがにありえんぞい!」

エルフの集落では、アースの勝利に盛り上がるエルフたちを余所に、ノジャとミカドが他の場所にいる同級の力を持つ者たちと同様の反応を見せていた。

そう、他人の閉じている魔穴を正確に針でこじ開けるという行為は、それほどのことなのである。

「アース様が、すごい! スパイラルブレイクだけでなく、あんな小さな針で相手にダメージを与える技までお持ちなんて……って、兄さんも姉さんもどうしたの? さっきまであんなに盛り上がってたのに、急にそんな顔を引きつらせて……」

ちなみに、盛り上がっているのはそれこそアミクスや、魔法にそこまで詳しくない「一部」のエルフたちのみであった。

「えっと、ハニー……そ、そんなことできるの?」

「……魔法はうちらにとっての忍法と同じ……つまり、気の出入り……その閉じている穴を……可能なん? コジローはん?」

「い、いや、オイラは魔法も術も使わないから……何とも言えないじゃない?」

「……ん~……ラル……あんた高位の魔法使いでしょ? どうなんで?」

「ぞ、族長……小生……アース・ラガンのことがここに来て謎が深まるとは思わなかった……」

シノブやカゲロウ、コジロー、族長、ラルウァイフたちも顔を引きつらせ……

「お、お兄ちゃん……ちょっとこれまずいんじゃ……」

「……まぐれ……偶然じゃ無理だからね……明らかに狙って、針でピンポイントに一発で刺したわけだし……」

そして、「答え」を知っているエスピとスレイヤも顔を引きつらせながら振り返る。その視線の先にいる、集落の隅っこでガタガタ震えながらふて寝しているアースは……

「……ど、どーしよっか……トレイナ?」

これに関してはどう誤魔化す?

先ほどまでの、サディスとのオッパイ云々の時とは違う意味で誤魔化さなければならないこと。

これはどうすれば?

アースのその問いにトレイナは……

『……ど……どーする?』

「し、師匠ぉぉおおおお!?」

全知全能完全無欠のトレイナが汗タラリの引きつった表情で逆に聞き返してしまった。

だが、トレイナは咳払いし、焦った表情ながらもすぐに……

『い、いや、しかしこの後、天空族たちが来るではないか! 天空世界総出で! あのインパクトがあれば、世界の大半の者たちは……』

「そ、そうだよな、あ、頭から抜けちまうよな!」

『うむ、あのインパクトに……インパクト……』

「……トレイナ?」

天空族たちが現れるインパクトでウヤムヤに……と言おうとしたトレイナは……

『ぬわっ!? そ、そうだった……ま、まだアレが……流石にアレを誤魔化すのは不可能だ……』

「え?」

そう、トレイナとアースには、誤魔化すのが不可能なもっとヤバイことがこの後さらにあるのだった……

そう……とんでもないものを、召喚してしまったことだ。