軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百五十三話 おかしい

ヤミディレが歪んだ笑みと共にアースに襲い掛かる。

『圧倒的な力の差で、身も心も屈服させてくれる!!』

アース・ラガンの戦いの生命線は足さばきや、見切りや相手の動きを予測すること。

これまでのアースのトレーニングや闘技大会、さらには実際に戦ってきた者たちにはそう思っている者が多かった。

感情が高ぶってマチョウとの決勝戦のように、最大最強の技を正面からぶつけ合うという熱い一面もあるが、基本は足を使って手数や技術で戦う。

だからこそ……

『はははははは、頑張って逃げるではないか! だが、それで私から逃げられると思うな?』

明らかに格上であるヤミディレ相手に正面から戦わず、逃げ回りながら僅かな隙を突こうという作戦は間違っていない。

「おい、なんだよあいつ……あんなにタンカ切ってた割には逃げ回ってんじゃねえか?」

「いや、でも……これは……なァ? 相手は六覇のヤミディレだぜ?」

「でもよ……」

世界中の者たちが、戦う相手が伝説の六覇であると知っているからこそ、足を使ってヤミディレから距離を取ろうとするアースの戦い方を「仕方ない」と捉えた。

もちろん一部の戦いを知らない素人たちからすれば「男らしく正面から戦え」という意見も無くは無いが、少なくとも現時点ではそこまで不満の声は上がっていなかった。

だが、そんな中で……

「ん~……婿殿ぉ~」

「……あん?」

エルフの集落にて、皆がハラハラしたり興奮しながらアースVSヤミディレの戦いを見ている中で、鑑賞会中に常に卑猥なことを口にしてアースをドン引きさせていたノジャが、この時だけは真剣な表情だった。

それは、これまで出会ってから一度も見たことがないほどのノジャの真顔で、アースは逆に身構えてしまった。

そして……

「婿殿は、ヤミディレ以外に紋章眼や他の魔眼と戦った経験あるのじゃ?」

「え……いや……ない、けど……」

その特におかしくもない普通の質問に、アースは逆に予想外だったため、特に考えずに答えてしまったが、そのとき……

『違う、童。言い直せ』

『え……?』

傍らのトレイナが慌てたようにアースに耳打ち。

『こう答えよ。『実際に戦ったことは無いが、かつて両親が魔眼持ちと戦った時の話を子供の時に聞いたことがある』……とな』

『え、なんで……』

『いいから、まずは答えよ!』

「っ、ノジャ、ちがくて、その……親父と母さんだよ! ガキの頃に魔眼持ちと戦った時の話を聞いたことがあるんだよ」

理由は分からないがトレイナがそう言うなら……と、慌てて答えたところ、ノジャは「ふ~ん」と頷きながら……

「なるほど……なのじゃ。紋章眼含めて魔眼持ちとの戦いにおける基本は、まず『相手の正面に立たないこと』なのじゃ。婿殿が初手からいきなりその戦い方をしたから、ちょっと驚いたのじゃ」

「ッ!?」

「ま、対応策として戦時中では有名な話だったし、それなら納得なのじゃ」

ノジャのその言葉を聞いて、アースは心臓がバクバクして「あぶね~」と心の中でホッとした。

そう、魔眼持ちと戦ったことがない者が、なぜその戦い方を知っているのか?

疑問に思われるのは当然であり、そのことを気づいて耳打ちしてくれたトレイナにアースは感謝した。

だが……

『……とはいえ……この戦いは……どうであろうな……』

トレイナは微妙な顔をしながら空を見上げていた。

『このとき、冷静さを欠いていたヤミディレだからこそよかったが……六覇や七勇者クラスの者たちが俯瞰的にこの戦いを見れば……流石におかしいと思うだろうな……ヤミディレも自身も改めて振り返れば……おかしいと思うだろう……』

そう、この戦いにおいては、あまり詳しく見られると、戦闘のレベルが高いものほど疑問を浮かべるのである。

何故ならこの戦いに限っては、アース・ラガンの力だけで戦っているわけではなかったからだ。

『そろそろ捕まえてやる! もう、貴様の動きも行動パターンも読み切った! ここから先、貴様がどのように逃げようとも、その先に回り込んで――――な、なに!?』

「ふぇ? なぬ、なのじゃ?!」

「な、え、なんと……」

ヤミディレがアースの動きを把握し、そして先読みし、誰もが「捉えられた」と思った瞬間、アースはヤミディレの予想外の方向へ逃れた。

その予想外にヤミディレは驚き、同時にヤミディレと同じ予測をしていたノジャとミカドはヤミディレと同じように驚きの声を上げた。

「わ、わらわも騙されたのじゃ……途中で筋肉の動きからこう動くだろうと思われた流れから、逆方向へ無理やり……」

「儂もビックリ……ほ? また逃れておるぞい!」

高い実力を持った者たちほど、相手の動きに目で見て反応するのではなく、相手の動きを先読みする癖がある。

「すごいわ……以前、私もハニーと森の中で追いかけっこしたことあるけども……あの時以上の切り返しよ!」

「は~、見事な。まさにウチら忍者以上の脚やないの……」

「あの六覇を翻弄するとは……末恐ろしいでござる。おお、しかもヤミディレが魔法を発動しようとするタイミングを読んで、拳の衝撃波でそれを叩いている……見事でござる」

その域まで達せていない者たちは、単純に「アースの脚とフェイントや先読みが優れている」や「ヤミディレの予想の逆を突いている」と読み取って、感嘆の声を上げて盛り上がる。

一方で……

「ん……ん~? ん~? おか……いやいやいやいや……おかしいのじゃ」

「うむ……どういうことじゃ? そもそも……相手はヤミディレじゃぞ?」

「うむ、なのじゃ……そもそも紋章眼持ちの先読みから逃れるとか……読み合いで逆を突くなど……不可能なのじゃ」

「そうじゃ。しかも、紋章眼だけでなく、ブレイクスルーとやらを使っている状態の」

「それに、婿殿はやみくもに逃げ回っているわけではなく、何か動きに目的を感じ……あっ、そうなのじゃ!」

「ん? どうした?」

「のう、ミカドジジイ……おぬし、ヤミディレの弱点を……覚えているのじゃ?」

「ん? それは……あっ、そうか! アースくんの狙いはまさか……アースくんはその弱点を見抜いたのか?」

そう、その域に達しており、何よりもヤミディレや紋章眼のことを知る者たちからすればありえないことなのである。

「うわぁ……そういうことかぁ……お兄ちゃん……この戦い……『そう』なんだよね?」

「確かに……ちょっとこれは……きわどいとボクも思う……」

そして、この鑑賞会では常に大興奮して騒がしかったエスピもスレイヤも、この戦いに関しては盛り上がるのではなく、苦笑している。

何故ならこの二人はこのヤミディレと戦うアースの動きから、そのカラクリの正体に気づいたからだ。

そしてそれは、エルフの集落だけにとどまらない。

「い、いやいや……ありえないわよ!」

特にハクキのアジトでは、もっとだった。

「だって、紋章眼を持ったヤミディレの逆を突くって……それってつまり、ヤミディレ以上の先読み、空間の把握能力、そして経験値からの勘、全てをヤミディレ以上に持っていないと、不可能なことよ!」

「言われてみれば……俺は今まで魔眼持ちとかとは細かいこと考えずにガンガンやってやるみたいに戦ってたけど……」

「ええ。ヒイロみたいな規格外バカは論外として、少なくとも……ましてや、これまでヤミディレと組手みたいなトレーニングしているようには見えなかったし……まさに初見、初対決……それで何でここまでヤミディレを翻弄できんのよ!」

「……俺らとアースの追いかけっこの時、アースの足さばきに翻弄されて尻もちついちまったけど……アレとは違うよな」

「ええ。あの時は……私たちは完全にアースのあの時の実力を何も分かっていなかったからついていけてなかった。でも、ヤミディレは違う。あの大会も含めてアースの実力は分かっていたはず。それなのに、ヤミディレも裏をかかれて驚いているわ!」

「それに……偶然? それとも、ソレ目的? アースは知っててこの戦い方をやってるっていうのか? ヤミディレは……長期戦が苦手だって……」

そう、今までのように、アースの血の滲むような努力の果てに身に着けたというだけでは説明できない、矛盾なことが起きているのだ。

ブレイクスルー。

大魔螺旋。

魔呼吸。

「カクレテールの人たちに、アースがヤミディレと戦って勝ったっていうのを聞いたとき、何かの策を弄したんだろうとは思ったけど……この戦い方……」

その果てで、この戦い方である。

「なるほど……やはり……そういうことか……吾輩自身のことがあるから、そういう可能性も無くはないと思っていたが……まさかよりにもよって……ふはははは」

「「え?」」

「あの大会はガチであったが……ふふふ、アース・ラガン……このヤミディレとの戦いでは、少々……いや、少々どころではない……重大なズルをしているな」

しかし、ハクキだけは何か納得したように、そして確信を持った笑みを浮かべていた。

「マアムの言う通り、ヤミディレ以上の先読み、空間把握能力、経験値からの勘……それだけではない。ヤミディレの思考や動きのパターンの全てを知り尽くした者から、戦いの最中に指示を受けている。だからこそ、動きが途中で切り替わる。おまけに……紋章眼とブレイクスルーの併用のとてつもない魔力の消費も狙って……フハハハハハハハハハハハハハハ!」

「え……だ、誰かから……指示?」

「おい、どういうことだ、ハクキ! アースは誰かからテレパシーでも?」

戸惑い混乱するマアムとヒイロと違い、ハクキの笑みは止まらない。

「とりあえず、マアムよ……」

興奮が抑えきれないのだ。

「吾輩は楽しんでいるのだから、戦いの結果を教えるな」