軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百二十話 ここにいるのは……

トレイナのことを人に説明するのはこれで2回目。

そして、二人目、三人目になる。

サディスの時に経験したこともあり、2回目ともなるとトレイナに関する説明は結構スムーズにできた。

俺以外には見えない。

だけど、俺の傍には間違いなくトレイナがいる。

かつて魔族の頂点に立って人類と戦った大魔王トレイナであり、俺の師匠は確かに俺の傍らに居るんだと。

「……っ……ん……うっ、ん……」

「…………」

ただ、流石にいきなりこんな説明をされても、エスピもスレイヤも「へー、そうなんだ」なんてなるわけがない。

しかし、だからと言って「は? そんなわけないでしょ?」みたいに俺の言っていることを冗談や嘘だと思っているわけじゃない。

真剣な顔で俺の話を聞いて受け止め、その上で色々と戸惑っている様子だ。

「……えっと、つまり、お兄さんは帝国の御前試合あたりにはもう大魔王トレイナが傍にいて、その師事を……その流れで、ブレイクスルーと大魔螺旋を使ったと……で、そこから色々言われたけど、お兄さんはトレイナの存在を勇者ヒイロたちには話さずにそのまま家出……」

「ああ、そうだ」

「……で……お兄さんが過去に来た時も……僕たちと出会った時も、そして今も、その大魔王トレイナの幽霊はここにいると……」

「ああ。お前たちには見えないけど、俺の隣にいる」

「ッ、う、うん……そう……なんだ……」

スレイヤが俺の話を再確認するように聞いてきて、そのうえで深いため息を吐いた。

「……ボクたちが知っていたお兄さんと、帝国のアカデミー時代のお兄さんは結構色々と違っていて……その間に何があったんだろうというのは疑問で……そして、ボクは知らなかったけどエスピの話では、お兄さんが使っていた技は大魔王も使っていて、それはどういうことなんだとかも疑問で……しかし、それが……幽霊になった大魔王に弟子入りして教えてもらったって……」

「……信じられねえか?」

「信じられないような驚きだけど……でも、お兄さんがボクたちにウソをつくはずないから……だから本気で本当なんだっていうのは……でも、それをすんなり受け入れられないというか、すぐに入ってこないというか……でも、うん……本当のことだっていうのは分かるから……うん。うん……」

そりゃそうだろうな。そう簡単に受け入れられるような軽い話じゃないからな。

ましてや、トレイナの姿を見えていないんだしな。

「って、お兄さん! それって、帝国民が御前試合でお兄さんを罵倒しながら、魔王軍と繋がりがあるかもしれないとかなんとか、それって実はもうその通りじゃないか!」

「……い、いやぁ、まぁ……」

「しかも、ノジャはお兄さんにゾッコンで、パリピは部下で、なんかヤミディレともお兄さん何かあるとか……しかもハクキはお兄さんに負けたら子分になるって言ってるし、もう着実にお兄さんが新・魔王の下準備されてるんじゃないか!?」

「……っ、あ、いや……そ、それを言われると俺もつらいというか……」

「はぁ、まったくお兄さんは……っというか、大魔王トレイナはそうなるように誘導していたとか……ないよね?」

「ないないないない! つーか、こいつも一回一回メッチャ驚きのリアクションだったし!」

「……そうかなぁ? まぁ、お兄さんがそう言うなら信じるけども……」

そして俺のこれまでのツッコミどころ満載なところも一頻り捲し立て、さらに頭を抱えるスレイヤ。

だが、それでもスレイヤは俺の言葉に嘘はないと言ってくれて、そのうえで……

「ねえ、お兄さん」

「ん?」

「これからはボクたちと一緒にいてくれる……世界を旅をするって言ったよね……」

「ああ」

「だから、その旅は……ボクたち三人じゃなくて……」

「ああ。四人だ」

「……そうか……」

それを確認してスレイヤは顔を上げた。

どう思っただろうか?

二人はこれから先は三人一緒だと思っていただろうけど、本当は四人だ。

そしてその一人がトレイナと知り、どう思ってしまっただろうか?

「うん……まぁ、でも……」

「ん?」

「ボクは何があろうと無条件でお兄さんの味方であり、お兄さんをこれからも信じるって決めてるし……うん。お兄さんの話を信じるし、そのお兄さんが信頼するなら……うん、ボクだって受け入れるよ」

まだぎこちないながらもそれでも受け入れようと、スレイヤは僅かに微笑んで頷いてくれた。

「というわけで、そこにいるんだろう? トレイナ? 大魔王様? お師匠さん? ボクは何て呼べばいいんだい?」

『ふん……別に好きに呼べばよい。どうせ会話できんのだしな』

「ははは。好きに呼べばいいってさ」

「……そうか。なら、トレイナさん? 今後もよろしく……でいいのかな?」

『ふふ、やれやれだな』

「やれやれだな、だってさ♪」

そう言って、言葉も交わさなければ、握手をしたわけでもない。俺を介さなければ意思疎通もできない二人。

だけど、スレイヤはトレイナを受け入れて、トレイナもそれを満更でもない様子で頷いた。

そして……

「……で、ボクはいいとして……エスピ。君はどうするんだい?」

「…………」

スレイヤと違ってずっと黙って座っているエスピ。

その様子からも、エスピが何を考えているか、俺も分かる。

「君が受け入れられないなら、君はお留守番していればいいよ。冒険の旅はボクとお兄さんとトレイナさんの三人で行くから」

「ッ?! ちょ、スレイヤ君ッ! 何言ってんの?! 私も行くよ! 行くよぉ!」

だが、そんなエスピに意地悪するようなスレイヤの言葉。

その言葉に流石にエスピもムッとして声を上げた。

「なんだ……無理しなくてもいいのに」

「別に……してないし……」

少しむくれた表情で、エスピはこっちを見てくる。

俺と、そして俺の傍らのトレイナ。その姿は見えなくても、俺の隣をエスピは凝視している。

そして……

「別に、私だって信じるし……だけど……」

エスピの態度は無理もない。

俺だってたぶんエスピはすんなりと受け入れられないかもしれないと思っていた。

なぜなら、エスピは七勇者の一人としてトレイナと戦った。

つまり……

「でも、言っておくけど……私、大魔王トレイナには謝らないからねッ!!」

「エスピ……」

「お兄ちゃんを導いてくれて……そのおかげで私はお兄ちゃんと会えたから、そのことはありがとうだけど……でも、私はトレイナに謝らないから! 謝れないから!」

その言葉が意味するもの、それはつまりトレイナを討ち取ったことだ。

「あの最終決戦……私は死にたくなかった……ヒイロとマアムを死なせるわけにもいかなかったから……ただ必死で……必死で!」

そう、七勇者の七人が力を合わせてトレイナを討ち取った。

トレイナを殺したのはエスピたち。

そして、そのことについてエスピは謝らないと言った。

だけど、それは……

『童……エスピに伝えろ。そんなもの―――』

「トレイナが、いまさらそんなこと気にするわけねぇだろうが」

俺はトレイナがそんな小さい奴じゃないと、そんなこと気にしてないと言ってやった。

エルフの集落で宴を抜け出して星空の下で俺はそのことをトレイナと話した。

あの時のトレイナの言葉を、俺はそのままエスピに伝えた。

「だいたい、それを言うなら俺はどうなんだよ? 俺は殺されそうだったエスピを魔王軍から助けたんだぞ?」

「……お兄ちゃん……」

そう、エスピが責任を感じるんなら、俺はどうなんだって話だ。

俺はエスピを助けた。そして何よりも……

「俺がいなけりゃ……ゴウダだって……」

「あっ……」

エスピもそのことを察して言葉に詰まらせた。

そうだ、何よりも一番影響を与えたのは俺なんだから。

だけど、

「だけど、過去の時代で俺が自分の起こす行動によって魔王軍に与える影響とかを気にしたら、トレイナは呆れてたよ。そして、こう言ってくれた」

あの言葉が俺の背中を押してくれ、そして奮い立たせてくれた。

「トレイナは……『大魔王に後ろめたく思うな。貴様は師匠の言葉に耳を傾けよ』……ってさ」

「ッ!?」

「そう、今ここにいるのは……そしてこれからも俺たちと一緒にいるのは、大魔王じゃねえ。俺の師匠だよ」

あの時のトレイナの言葉を今度はエスピに。

するとエスピはハッとした表情を浮かべ、少しその瞳が潤んでいた。

「そんな小さい奴じゃない……そして、ここにいるのは大魔王じゃなくてお兄ちゃんの師匠……か……うん……」