軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百七話 肩透かし

「また……ここに来るなんてね、スレイヤ君……ラルさん」

「ああ……あの日以来だね……エスピ」

「小生も……色々と……ああ……やはり十数年で風景も変わってしまったが……それでも、ここがあの場所だということは分かる」

太鼓が鳴り響き、集落の中でどよめきが走る中、軽い準備運動をしながらエスピとスレイヤとラルウァイフが感慨深そうに呟いた。

「あのとき、体を張ったのは結局お兄ちゃん……そして、私たちを最後逃がしたアオニーだけ……でも、今は違う」

「ああ。ボクたちは大きく……そして強くなった。今度こそ、一緒に戦うために」

「アース・ラガン。小生も戦う……だが、道半ば逝ったアオニーへの想いを抱きながら戦うことを許して欲しい」

俺にとっては数日前。

だけど、三人にとっては十数年ぶり。

その想いを感じるだけで、俺も感慨深くなると同時に、熱く滾ってくる。

「ったりめーだ! 力の限り暴れてやろうじゃねぇか。お前ら」

「「「おうっ!!!!」」」

コジロウが鳴らす太鼓の音とともに俺たちは頷き合った。

「ちょっと、ハニー。仲間外れはごめんだわ」

「こんこん!」

「そういうことじゃない♪」

自分たちも戦うんだと、シノブ、ノジャ、そしてコジローも前へ出る。

そして……

「おお、なんだこいつら! おい、みんな!」

「に、人間じゃねえか!?」

「あん? ガキじゃねえか……」

集落の入り口にドンドン集まってきた。

屈強な体つきした巨体なオーガたちがゾロゾロと。

そしてどいつもこいつも、俺の親友とは全く違う目をしてやがる。

「おい、テメエら、ここがどこだと……ん? あ、いや、待て……あの男……」

「……おい、あれは七勇者の!?」

「いや、ちょっと待て! あの後ろにいるの……ノ、ノジャ大将軍じゃ……」

「は?! いや、なんで!?」

「いやいや、それよりもコジロウだ!」

「ああ、行方が分からなくなったコジローがノコノコと現れやがった!」

それにしても、明らかに百人以上と数も向こうの方が多いというのに、巨体に似合わず全員が急に顔を青ざめさせやがった。

太鼓を叩いているコジロー、そしてノジャの姿を見ての反応だ。

「おい、貴様ら! これはどういうことだ! 何しにここへ来た!」

集まってくるオーガの一人が俺たちに問いかけてくる。

なら、俺らはその問いに対して……

「こういうことだ……」

「……あ? ぶぼっ!?」

「殴りぃ込みだぁッ!! ハクキいいいいい!!」

グースステップで懐に飛び込んで、反応の遅いオーガの顔面に思いっきり右ストレートをぶちかましてやった。

「なっ!? なんだこのガキ!」

「殴り込み? ふ、ふざけんなこいつら! 俺らを誰だと思ってやがる!」

「くそ……七勇者がいるからって調子に……全員集まれ! バカどもが攻めてきた!」

「ぶっ殺せっ!!」

開戦の火蓋が切られた瞬間、戸惑っていたオーガたちも闘争本能むき出しの顔で吠えた。

武器を取り、拳を握り、一斉に俺に向かって―――

「お兄ちゃんをぶっ殺すとか……世界の果てまでぶっとばすから! ふわふわパニックッ!」

「造鉄魔法・鉄閃乱舞ッ!!」

だが、そんなことはさせないと、数十のオーガを一瞬で蹴散らすエスピとスレイヤ。

さらに……

「まったく、なってないわね。ハニーの親友のアカさんは強くて素敵なオーガだったのに」

「ほう。シノブとやら……良いことを言うではないか。では、小生らもこの落第な鬼たちを蹴散らそうぞ!」

「張り切りすぎるなじゃない? ハクキとの闘いまで体力温存大事じゃない?」

「ガルルルルルル、ガウウウウッ!!」

シノブもラルウァイフも、そして当然コジローもノジャもオーガたちを一切寄せ付けずに、余裕で蹴散らしていく。

「がっ、ちょ、なんだこいつら! つ、ツエー!?」

「なら、さっさと下がって連れ去った人間を解放するじゃない」

「コジロウ……で、できるかぁ! 俺らはハクキ様に――――ぶぎゃっ!?」

「……ま……聞いてくれなくても、力づくで解放するだけじゃない」

別に舐めてたわけじゃねえ。

オーガが魔族トップクラスの戦闘力を誇るっていうのはそうなんだろう。

だけど、一部の規格外のオーガを差し引けば、雑兵どもは俺らの敵じゃねえ。

「大魔フリッカーッ!」

「くわぅ、い、いで、っ、はや?!」

俺のスピードについて来れねえし……

「乱れて意識ごとぶっとべ! ふわふわパニック」

「くそが! 何をやぶぎゃぐらあああああああああああ!?」

「やはり、かつてのアオニーも……ましてやハクキも特殊な存在だったようだね……今のボクらには……温いね」

「なんだ、このスカした若造がぼぐああああ!?」

一発の攻撃でオーガたちもノビてしまう。

コジローと同じ七勇者であるエスピも、その同等の力を持つスレイヤはもちろん……

「風遁忍法・鳴門大渦巻ッ!! ……ふぅ……たしかに。私もまだまだ未熟だけど……冥獄竜王である師匠とのスパーリングや、ヴイアールでの鍛錬がちゃんと私を成長させてくれているようね」

「メガ・ダークウィンドカッター!! ……ふっ……子供たちとお遊戯しているだけの女と思うな? この十数年、愛する男と再会して幸せにするために、ずっと小生も牙を磨いていたのだ」

シノブもラルウァイフも、俺が知っていた頃よりも格段に強くなっている。

二人もオーガたちを全く寄せ付けない。

「ガグラアアアアア!!」

「ぎゃああ、だ、ノジャ大将軍、ま、まっ、ぐわああああ!?」

ノジャも本来の力を発揮できない状態とはいえ、これぐらいの相手なら何ともなさそうだ。

鞭のようにしならせた九本の尾でペチペチとオーガたちを叩き倒していっている。

「くそ、な、なんだこいつら、ぶっぐ!?」

「つ、ツエー……メチャクチャツエーぞ、こいつら!?」

気づけば、何十人ものオーガたちは俺らを取り囲んで襲い掛かってくるも、ただの一太刀、一撃すらも誰も当てることができずに、次々と地にひれ伏していく。

「く、き、貴様ら……貴様らぁ! よくもおいどんの同胞たちをっ!」

「あ?」

「おいどんが相手だ! おいどんは、あのハクキ様より選ばれた鬼天烈――――」

「大魔スマッシュッ!!」

「ぷきゃがっ!?」

そのとき、少しだけ他のオーガたちより強そうな黄色い鬼が現れて、何か言おうとしていたが俺の動きにまるで反応できずに、顎を打ち抜いてやった。

自分よりもはるかに巨体のオーガを、今の俺はブレイクスルーなしの拳で打てる。

別に舐めてたわけじゃないが、もう俺らの相手にならない。

『童……どうやらここには……三百人程度のオーガしかおらん。すでに貴様らで百人近く倒したが、もう相手にならんだろうな……』

『ああ。ハクキと戦う前の良い準備運動に……』

『いや、というより……気配を感じぬ……ハクキ、ここにおらんぞ?』

『……へっ?』

トレイナにそう言われて俺もハッとした。

そういや、ハクキははるか遠くから近づいてくるだけでも押しつぶすような圧迫感を放っていた。

それなのに今は何もない。

「え……い、いない? ハクキが……え? せっかく乗り込んできたのに……え?」

どういうわけかハクキが居ない。

しかも、ちょっと離れているというわけでもなく、少なくともこの近辺にいないし、向かってくる様子も感じない。

「え? お兄ちゃん、どういうこと?」

「……あっ、でもたしかに……ボクたちがこれだけ暴れても全然出てくる気配が……」

「お~っと……色々覚悟決めてきたのに、それは予想外じゃない?」

俺の言葉を聞いてエスピたちも戸惑った様子を見せる。

そりゃそうだ。

コジローの言う通り、ハクキと戦うということで色々な覚悟やらかつての想いやらも抱えて、こうして最強メンバーを連れて乗り込んできたってのに……肝心のハクキがいない?

「ねえねえ、あなたたちさ~……今更だけどハクキは?」

一応確認のつもりで、エスピがオーガたちに聞くと……

「し、知らねえよ、なんか釣りに行ってくるとか何とかで、今、親分は留守なんだよ!」

「……まぢ?」

それは空振りというか、とんでもない肩透かしをくらってしまった。

まさか、アジトに乗り込んだはいいが、ハクキが留守とは……

「あらら……どうする? お兄ちゃん。こいつら全滅させても結局ハクキ倒さないことには……」

「あ~……うん……とりあえず、こいつらぶちのめして、攫われたお姉さんたちでも助けとくか?」

「まぁ……今はそれぐらいしかできないよね」

予想外の展開に、燃えて振り上げた拳をどう発散すればいいのかわからなくなり、とりあえず最低限のこととしてこいつらを倒して、連れ去られた人たちを助けて今後のことを……ん?

「あれ……そういえば……あの人は……それに……」

そのとき、俺はあることを思い出した。

連れ去られたというのは、ジャポーネの徴収作業で連れ去られた人たちだけじゃない。

いや、そもそも俺は――――

「くそ、こいつら、ワシらを馬鹿にしやがって! 魔界最強種族であるオーガ族であるワシたちをっ!」

「あっそ。だけど、最強は私とお兄ちゃん、兄妹コンビだと思うけどね♪」

「うるせえ、くそ! もうやぶれかぶれでやってやる! うおおおおおおおおお!」

「あ~、もう。そんな叫んだって、そんな鈍い動きじゃ私は――――」

――補助魔法・ギガハヤクナール

「うが!? な、体が急に軽く……」

「……え?」

そのときだった。

抑揚のない声が響き、突如エスピに向かっていったオーガの全身が光り……

――補助魔法・ギガカタクナール

「ッッ!!???」

「エスピッ!?」

オーガは急に動きが変わったかのように、その巨体では考えられない高速スピードでエスピに迫り、エスピをガードの上から殴り飛ばしやがった。

「え? な、……何をやっているんだい、エスピ!」

「エスピ嬢!? っ、いや、そもそも今のは……」

「な、なんだ? 急に動きが……」

「速く、そして強かったわ……」

何かが起こった。

急に一人のオーガのスピードとパワーが格段に上がり、エスピを素手で殴り飛ばした。

「いっつ、つ……腕が痺れちゃった……っていうか、今の……」

「わ、ワシ、い、今のは……」

苦々しい表情を浮かべながら両手を振るエスピ。一方で、殴り飛ばした本人は自分でも何が起こったか分かっていないようで呆然としている。

すると……

『補助魔法だな……ブレイクスルーほどではないが、補助魔法によって対象者のすばやさ、力、防御力などを一時的にアップさせる類の……ふふふ、しかも今の魔力の感じは……なるほどな。ハクキめ……どうやらただ不在なだけではなく……厄介な置き土産だけはしたようだな』

トレイナが腕組みしながら、何か昔を懐かしむかのような表情で……

「ねえ、てかコジロー……今のさ……」

「ああ。オイラも感じたじゃない……誰が何をやったのかを」

そうだ。

エスピとコジローは何が起こったか分かったようで、そして俺もその直後に気づいた。

戸惑うオーガたちが後ろを振り向き、そして戸惑いながらも道を開けると、一人の男……全身を覆うローブに身を包んだ男がゆっくりとこっちに向かって歩いてきて……

「侵入者……敵……排除……」

嗚呼……この展開は予想していたんだ……なのに、改めて現実を目の当たりにして、俺も、そして皆も目を奪われて言葉を失っていた。

「べ……ベンおじさん……」

そこには、正気を失った目をした、幼馴染の父親が俺たちを睨んで立っていた。

そして、言葉を失う俺の傍らで……

『となると……こやつだけではなく……『あやつ』までもしこうなっていたとしたら……ハクキがノンキにここを留守にするわけか……』

いま目の前で起こっていることだけではなく、この後に何が起こるかを分かっている様子でそう呟いていた。