軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百八十二話 冷たい大人じゃない

山全体から麓の森含めた一帯全てがエルフ族が買い取った土地。

私有地ゆえに普段の立ち入りは禁止されているうえに、広大で深い森が続くこの一帯で小さなエルフの集落を探し当てるのはほぼ不可能。

そんな土地を逃走用の経路として使っていたコジローたちだったが、それは既に読まれていたのか、その土地の先には大人数で敵が待ち構えていた様子。

「あきまへんな~……ほんまやったらここを抜けて、一気にシソノータミの遺跡に行って、帝国の調査団に合流しよ思とったんやけど、読まれてたようやなぁ~」

森を駆け抜けながらそう呟く女忍者のカゲロウ。

その後を追いながら、どうやらコジロウたちが国抜けしようとしていたことを俺らもようやく分かった。

「帝国に逃れようとしたってか?」

「まぁ……ソルジャとかヒイロなら絶対受け入れるもんね」

「ジャポーネってもうそこまでになってんだ……」

まぁ、ミカドの爺さんが捕まるぐらいだし、今のジャポーネの国王は話が全く通用しないぐらいヤバいんだろうな。

普通はあんま他国の内政干渉的なものに他国が関わることは敬遠するし、外交的にもご法度なところはあるけども、かつての七勇者の仲間でもあるコジローの危機や頼みを親父たちが拒否することもねえだろうからな。

「しかし、それも読まれてたと……先回りされてた……そういうことか」

「だね。でもコジローも鈍っちゃったのかな? ハンターだろうとチンピラだろうと、たかが千人ぐらいを強行突破しないで引き返すなんてね。昔なんてコジローが本気で居合抜きしたら、一振りで百人ぐらいまとめてぶっとんじゃってたし」

「いやいや、エスピ……千人ぐらいって……いや、お兄さんとエスピぐらいの力なら『たかが』になるのか?」

『……ふむ……確かに……それは気になるな……足手まといがいたとしても、コジローほどの手練れが踵を返すとはな……』

エスピは「たかが」と言ってるけど、それは俺もビックリ。つか、俺でも千人とか全然ピンと来ねぇよ。

過去の戦争や天空世界でも、あんま相手の数を意識したことはなかったし。

ただ、一方でトレイナはコジローの実力についてはかなり認めている様子で、そんなコジローが踵を返したってのが気になっている様子だ。

「で……ついてきとるけど、あんたたち……このままウチらの味方になってくれるん? それとも静観? どっちなん?」

と、そのとき前を走っていたカゲロウが俺たちに問いかけてきた。

たしかに向こうとしては気になるところだろう。

ましてや、人数も少なそうだし、そんな状況で七勇者のエスピが味方なんてことになったら、こいつらからすれば百人力だろう。

でも……

「んーん」

エスピはそれに関してはクールだった。

「私が絶対に避けたいのは、この一帯の土地を使ってあなたたちが戦闘どころか、戦争しちゃうこと。だから、この土地から抜けて離れるんだったらそれでいいし、この土地で暴れるなら……」

エスピが避けたいこと。それは人間たちのゴタゴタにエルフの集落を巻き込むこと。

それは俺も同じ意見だった。

「っていうか、あんたらが先に侵入してきたからこんなことになったんだろうが」

「……せやな……コジローはんもここを通るのは気にしとった……最初ウチらに理由はよう分からんかったけど……ジャポーネの戦士たちにも馴染みのないこの土地なら奴らを撒けると思っとったんやけどな……」

ちょっと文句のつもりで言うと、流石に多少の後ろめたさはあったのか、笑って人の骨を折っていたカゲロウもこの時ばかりは少しシュンとなった。

しかし、それは七勇者のコジローがそこまで追いつめられているってことか?

さらに、ジャポーネはそうまでしてコジローたちを追いかける理由があったってことだ。

「まぁ……元々この土地の所有権云々も、七勇者のコジロウが事情も深く聞かずに色々と手を回してくれていたからということもあるし……俺はあんまり責められないし……むしろ少しは何かしてあげられないか……って思うけどね。少しね。少しだけ。集落に影響がない範囲で」

一方で、族長はそこまで責めることはなく、少しぐらいどうにかできないかと複雑そうな様子だった。

まぁ、確かにエルフの集落が十数年間平和だったのは、エスピとスレイヤの協力だけじゃなく、陰でコジローが色々と手を回していたのも一因と聞くと、確かにそう感じるかもしれない。

「ちょ、族長さん! それじゃぁ、私が冷たい~みたいじゃん! お、お兄ちゃん、違うよ! わたし、別にコジローどうでもいいとか、死んでも知らないとか、そんなことまで思ってないよ? そんな優しくない大人になってないからね!」

すると、エスピは少し慌てたように……いや、俺に言われても……とも思ったが、エスピにとっては俺にどう思われるかの方が大事なのか、かなり食い気味だ。

「大丈夫だよ。エスピがそれだけアミクスたちが大事だって分かってるから……」

「う~……」

そう、エスピは冷たいわけじゃない。単純にエルフたちに何かがあってしまうことが嫌なんだ。

あの場所は、そしてアミクスたちがそれだけエスピにとって大事だということだ。

それに、七勇者のコジローに関しては、エスピも他の連合軍のかつての仲間たちに対してとは少し違う気持ちもありそうだし、少なくとも「まったく何とも思わない」なんてことはないだろう。

「じゃ、じゃあさ、カゲロウさんだっけ? こーいうのはどう? あなたたちが国を抜けるのまでは協力しないけど……この土地を抜けるのを協力するってのは? 千人とかのハンターがこの土地に侵入してくるのは嫌だし、そいつら蹴散らしてあなたたちを突破させてあげるぐらいなら……」

「ッ!? そ、それは……ウチらにとっては十分すぎるほどやけど……ええんか?」

帝国まで送り届けるようなことはしない。まぁ、それは俺も嫌だしな。

だけど、千人のハンターたちに待ち構えられて強行突破できないなら、突破の手助けぐらいはする。

それがエスピの譲歩だった。

「よし! ね、お兄ちゃん! 私、冷たくないから!」

「ははは、分かってるよ。……いーこいーこ」

「ッ!?」

走りながら俺に伺ってくるエスピ。俺は苦笑しながらその頭をなでてやるとエスピは……

「よーーーし! 元気百倍! 千人でも一万人でもドンと来い! 全員、秒でぶっとばしちゃうから!!」

と、エスピは気合を入れて叫び、何だか炎に包まれているかのように熱く滾った。

そして、エスピは……

「じゃあ、お兄ちゃん! 私、ちょっくら行ってぶっとばしてくる!」

「って、おい!」

「へへん、コジローは逃げたみたいだけど、私ならチョロいチョロい♪ ジュワッチ!」

さっそく行って、待ち構えている奴らをぶっ飛ばしてくる。

そんなノリで親指突き立てて、エスピはピューっと俺たちから抜けて一人高速飛行で飛んで行ってしまった。

「い、行ってもうた……一人で……」

「ったく、エスピの奴……」

「って、お兄さん待って! エスピが離れすぎて能力解けて……俺を置いて行かないでぇ!」

エスピ一人で大丈夫か? 大丈夫だと思うけど、一応俺も急いで追いかけないと。

そう思い、エスピが飛んで行った方向を見ながら……

「……ん?」

「…………」

何故か飛んで行ったばかりのエスピがすぐに飛んで帰ってきた。

「え、エスピ!? どうした? 忘れ物か?」

「?」

「どうしたの?」

すぐに帰ってきたエスピに俺らが訳が分からず首を傾げると、あることに気づいた。

それは、自信満々に飛び出したエスピが、ものすごく顔を青ざめさせていたからだ。

一体何が……

「お、お兄ちゃん……た、確かにね……たしかに、遠く……先の森を抜けたら、そこにハンターたちが待ち構えてたの見えたよ?」

「お、おう」

ハンターたちの集団を確認した。だけど、それをぶっとばしに行ったはずが、何もせずすぐに帰ってきた。

それはなぜか?

「た、ただね……そ、その集団の中にね……」

「おう……」

「ど、どうしてかは知らない……だ、だけど……『正気を失っているような目』をした……その……」

「?」

エスピが帰ってきた理由。それは、ハンターたちというよりも……

「九本の尻尾生えた……ちっちゃい女の子がいたの……」

「ゑ?」

バケモノが紛れていたからだった。