軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百七十五話 新たな朝

昨晩も気合入れて特訓。

夜通しだというのに、ふかふかの温かいベッドのおかげで体は寝た気になっているので支障ない。

そろそろ深い眠りから意識が目が覚め……

「とぉ! エスピだーいぶ! お兄ちゃん、おっきろー!」

「ぶへおぁっ!?」

「えへへ~、おに~ちゃん……ぎゅ~~~」

全身を打ち付けられるような衝撃が走り、俺の目は一気に開いた。

目を開けて真っ先に広がっていた光景、それはエスピがニコニコしながら俺の全身を抱きしめていた。

こ、これは……

「こら、エスピ。君は今の自分の体重を分かっているのかい? もう昔と違って今の君がやればそれは凶器であり攻撃なんだから、少しは慎んだらどうだい?」

「ぶぅ~、スレイヤ君ってば、女の子に体重の話するとかデリカシーないよ~。それに、お兄ちゃんは怒らないよ~、だって久々のエスピダイブを受けて、むしろ懐かしくて喜んでくれているんだから~♪」

衝撃の痛みと重みと、ビックリして一瞬呼吸困難になってしまった。

悪いが昔の何倍もの威力。

だが、それでも確かな懐かしさを感じた。

「っ……ったく、エスピ~」

「んふふ~、おはよ、お兄ちゃん♪」

「大丈夫かい? お兄さん」

過去、エルフの集落に泊まった翌日の朝。

エスピがこうやって起こしてくれて、それをスレイヤが呆れて苦言する。こんな感じだった。

確かに怒る気になれないな……

「おう、おはよ。二人とも」

「んふふ~、ほらぁ、お兄ちゃんは全然怒らないよ? んもう、お兄ちゃん好き好きスリスリナデナデぎゅう~!」

「おわ、こ、こら、エスピ、あんまくっつくな~」

「いいのいいの~」

俺の反応に機嫌よくしたエスピがもっと俺に抱き着いてきて、頬ずりしたり、逆に頭を撫でて……いやいや、お前、彼氏の目の前であんまこういうの……

「え、エスピ! お、お兄さんをナデナデなんて……ぼ、僕だって撫でたいぞ! ず、ずるいぞ!」

「って、そっちかよ!?」

何故か俺でなくエスピに嫉妬するということで、無理やり俺からエスピを引きはがすスレイヤ。

朝から恋人同士で喧嘩するなよ~……と思いつつ……

「ふふ……」

「ん? お兄ちゃん?」

「むっ、何を笑っているんだい、お兄さん」

思わず笑みが零れてしまった。

だが、そんな俺に首傾げているけど、二人とも……

「お前たちだって、笑ってるじゃないか?」

エスピも、そしてスレイヤも何だかんだで笑ってる。楽しそうに。

「えへへ、うん、そうだね」

「まぁ……ね……仕方ないさ」

「ああ」

自然に笑ってしまう。こんな騒がしい朝の一幕に。

そう、楽しくて……幸せなんだな……

『……むぅ……』

『おい、トレイナ?』

『……別にぃ……なんでもないぞ~』

『そ、そうか……』

『うむ……』

まぁ、師匠はちょっとむくれてるけど……ただ、これについても今後は何とかしないとな。

「とにかく起きるか。おぉ……良い天気だ」

ベッドから起きて部屋の窓を開けてみると、ちょっと涼しいが吸い込むだけで頭がすっきりする美味しい空気が流れ込んでくる。

爽やかな日の光を一身に浴び、何だか久しぶりに落ち着いた朝を迎えられた気がした。

「アース様、朝食の準備が整いました! 起きていらっしゃいますか?」

「ん? おお、アミクスか?」

「はい。失礼しますね~」

軽快なノックと共に、アミクスが入ってきた。

ニコニコと笑顔が眩しくて元気よさそうだ。

「おはようございます、アース様! って……兄さんも姉さんも、朝から何してるの?」

「ああ、おはよう、アミクス」

「んも~……アース様、準備が出来ましたら居間にいらしてください。今日は私が朝食を用意したんですよ?」

「あ、ああ……」

「料理だけじゃなく……取れたての自慢のミルクもご用意しましたので、是非いっぱい飲んでくださいね?」

「ッ!?」

ミルク……おお、ミルクだよ。家畜飼ってたし、自慢のミルクってのは牛乳とかそういうものだ。分かってるさ。

「あと、昨晩も食べて頂いたパイパイもよろしければ……温めなおしたので……ミルクと一緒にパイパイも……」

「お、おう、お菓子だな! うん、分かってる!」

パイパイはお菓子。パイパイはお菓子。お菓子をミルクと一緒になんて普通のことじゃないか。

「じゃあ、行こうぜ。ほら、二人も」

俺は決して乱れないぞ。俺はクールで紳士に振舞うんだ。

「……ねぇ、エスピ……アミクス……天然だよね? 狙ってないよね?」

「あはは……どうだろう。私も分かんなくなってきちゃった……女の子の成長は早いんだよ、スレイヤくん」

天然だろうと計算だろうと、それでも俺の態度を変えるわけにもいかない。ので、俺はいたって冷静に爽やかであるよう努めた。

「ども、おはようございます」

「おはよ。ほら、あんたたちさっさと席に着きなさい」

「うす」

居間へ向かうと、既にテーブルには人数分の朝食が並べられ、奥さんは既に待っていた。

そして……

「お兄さん、昨晩はおつかれさん。よく寝れた?」

「ぐっすりと」

「そ」

玄関の新聞受けから新聞を丁度取り出していた族長とも顔を合わせて、軽い挨拶を……ん?

「あれ? 族長……ここって隠れ里なのに新聞が届くのか?」

「ん? あ~、これ?」

素朴な疑問。だが、よくよく考えれば本当におかしなこと。

世間には内緒のエルフの隠れ里。

それを探すために昨日もハンターたちが森をうろついていたわけだし。

ただ、俺の疑問に対してスレイヤが笑いながら……

「違うよ、お兄さん。それは、ゲンカーンにある僕の店に設けている専用ポスト……そのポストの中には魔法陣が刻まれていて、ここに転送するようにしているんだよ」

「え?」

「ラルウァイフにやってもらってね。まぁ、ここの里も外の情報とかも色々と仕入れとかないとね……干渉することなくても、今の世間の情勢とか……」

「へぇ~」

随分と器用なことができるんだなと感心しつつ、族長も頷きながらと新聞をパラっと捲る。

「あなた、新聞は後にして、早く席に着きなさいよ」

「お父さん」

「おお、分かって…………ん?」

いずれにせよ、まずは朝食から。

そう族長を窘める奥さんとアミクスの言葉に頷いて、族長がパラっと開いた新聞をすぐに畳もうとした。

だが、その直後……

「……これは……」

新聞を畳もうとした手を止め、族長は新聞を真剣な顔で凝視した。

「族長?」

「どーしたの?」

「?」

何か気になることでもあったのか?

すると、族長は読んでいた新聞を俺たちに向けて、そこには……

●ジャポーネ王国国王相談役・ミカド 及び戦士長・七勇者コジロウの懲戒解雇

ジャポーネ王国戦士の大量自主退職及び国外流出に伴う責任追及のため、ジャポーネ王国ウマシカ国王の命により、大戦期の英雄二人を王国役職から懲戒解雇することが発表された。三年前に崩御されたメイクン前国王とも懇意であり、世界的な英雄でもある二人の解雇にジャポーネ王国では大きな衝撃が走り、連合加盟国の動揺も必至であり、今後の動向が注目される。

それは、親父と母さんたちの戦友に関する中々の大きなニュースであり……そして……

これから起こる面倒なことの始まりだった。