軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百六十六話 エルフの集落・ビフォー・アフター

「もうすぐだよ~、アースくん」

山奥の道なき道をかき分けて、その奥深くにあると言われる秘境。

場所が分からなければ、偶然でもめったにたどり着けないような場所。

さらに、その場所には結界やら人払いやらの魔法が張り巡らされている。

まぁ、そもそもこの見渡す限りの未開発で手付かずの山一帯がエルフの私有地となっているみたいだ。

そのため、さっきのように許可なく勝手に山に入り込むような不良ハンターたち以外の危険はあまりなさそうだ。

「これだけデカい山だったら、そう簡単に集落も見つからねえだろうな……スレイヤはちゃんと来れるのか?」

「大丈夫。兄さんは何度も遊びに来てくれてるから場所は、よ~く分かってるから」

スレイヤは一旦麓の街まで例の不良ハンターたちを連れていき、色々と説教やら事情聴取やらをするみたいだな。

――よくも『余計』な事をしてくれたね……

と、めっちゃくちゃ怒ってるようだったのでハンターたちがかなり気の毒な気もするが、気にしないでおこう。

さて、そしてだいぶ歩いてようやく……

「ここだよ、アースくん! 私たちエルフの集落、『タピル・バエル』だよ!」

「お……おお……」

思わず声を出しちまった。

そこは、十五年前にエルフが住んでいた集落……を、少し大きくした感じの、のどかな風景が広がっていた。

「へぇ……結構デカくなってるな」

「そうだよ、お兄ちゃん。昔より人も増えたからちょっと広くして、畑に水車とか、あと家畜飼ったりとか水を引き込んだりとか……」

「え? アースくん……姉さん、昔って何のこと?」

適当な間隔で建っている各々の木造住宅。

川の水を引いた水路が集落の中を流れており、それが水車小屋に流れたり、大きく美しい見事な段々畑が広がっていたり、手付かずだった山をポンと与えられてこれだけのものを作れるのは大したもんだ。

そして何よりもチラホラ集落の中を行き交っているエルフ。年寄りも若い容姿のエルフも子供も男も女も、なんだか皆が穏やかな感じに見える。

暗い雰囲気とか殺伐した雰囲気とか一切なく、それだけ住み心地の良い場所なんだなと感じる。

「いい感じだな」

「え!? アースくん、気に入ってくれた? 嬉しいな……えへへ。あとで隅から隅まで案内するからね! 私にドーンとお任だよ!」

「はいはい、アミクス。ちょっと、落ち着こうね」

住んでいる故郷を褒められて嬉しい……って以外にも色々と想いを感じるところだが、エスピがアミクスを苦笑しながら抱きしめて俺からちょっと距離を取らせる。

うん……こっちはどうしたもんか……

「お? アミクスちゃん、そんなところでどうし……おぉ、エスピちゃんじゃないか!」

そのとき、集落に居た若いエルフの一人がこっちを見てエスピに気づき、嬉しそうな笑顔を浮かべて声を上げた。

すると……

「え? エスピちゃん!」

「わぁ、エスピちゃんだ、遊びに来たの?」

「え? エスピちゃんだって? じゃあ、スレイヤ君もいるのかな?」

「おーい、エスピちゃーん!」

次々と皆がこっちを見てエスピに手を振ったり、嬉しそうに駆け寄ってくる。

「えへへ、やっほー、みんな! 元気~?」

それだけで、エスピがどれだけエルフたちに慕われているのかがよく分かる。

そして……

「あれ? エスピちゃん、隣の彼は誰だい?」

「え? 人間!?」

「あっ、そういえばエスピちゃんが近々お客さんを連れて来るって……」

「あれ? ……どこかで見たことあるような……」

その視線は俺に向けられた。

流石に、エスピとスレイヤ以外の人間に対する警戒はあるようで、皆が驚いたように咄嗟に後ずさりしそうになった。

「あっ、お兄ちゃん。言ってなかったけど、私とスレイヤくんがお客さん連れていくことは言ってるけど、お兄ちゃんが来ること……あと、お兄ちゃんが時を越えて云々は、族長とラルさんしか知らないから。一応皆にはちゃんと後で説明するから」

「ああ、そうなん……ん? ラルさん……?」

ただ、事前にエスピがある程度のことを言っていたことと、何よりも俺の顔を見て皆が目を細めて「見覚えがある」と口にしている。

そういう意味で言えば、俺も会話こそしなかったけど見たことある顔がチラホラ……

「みんな、紹介するね。この人は―――」

「みんな、待って! 彼はアースくんって言って、人間だけど全然危ない人じゃないんだよ!? 良い人なの! それに、すごく……かっこよくて、つよくて……素敵な人なの!」

アミクスが俺を「守らなきゃ」と思ったのか、俺の腕を掴んで皆に必死に訴えてくれた。

いや、そこまで必死にならなくても多分大丈夫で……そしてエスピが「あちゃ~」と顔を押さえている。

そして、その時だった。

「ちょっと! アミクスがエスピと一緒に帰ってきたって本当!?」

人込みかき分けて、慌てたように駆け込んでくる女の声。その声を俺は知っている。

「エスピ、いらっしゃい! それと、アミクス、あんたまた勝手に森に……って、え!?」

「あ……」

「ちょ、にんげ、アミクス! あんた、な、なに、人間の男に抱き着いてんのよ! 離れなさいよ!」

おおお、十五年以上たっているはずなのにまったく変わってない!

桃色の髪をした可愛らしいエルフの女。

アミクスより背も低く、体の起伏も乏しい……が……

「お母さん、大丈夫だよ! アースくんは全然危ない人じゃないよ~」

「何言ってんの! 男の子はみんな獣で野獣で、人間はその何倍もケダモノなんだから! あんたの、その、わ、私より、ちょ、ちょっとだけ大きいその、胸で、ハアハアする変態ばっかに決まってんだから!」

アミクスのお母さん。ようするに族長の奥さんのイーテェさん。

まったく変わってないな。

アミクスを心底心配して俺から離そうとしているが、母親というより妹にしか見えないな。

「それと、あんた! エスピのお客さんみたいだけど、私の娘に何を……なに……を……」

そして、俺を睨みつけて文句を言おうとした様子の奥さん。

だが、俺の顔を見て途端に固まって……そして……

「え? ……え? あれ? あんた……え? あ、あんたは、たしか……え!?」

どうやら奥さんはすぐに気づいたようだ。

「「「「「……あっ!!?? こ、この人!?」」」」」

「え? み、みんなまで、ど、どうしたの? アース君を見てそんなにびっくりして……」

そして、ようやく他のエルフたちもハッとした様子。

でも、さすがに「まさか」と信じられない様子。

無理もない。

奥さんたちにとって十五年以上前に出会った男が、まったく変わらない姿で目の前に現れたんだからな。

「おっす。久しぶりだな、奥さん」

「ッ!?」

「うそでしょ!? まさか、あんたなの!? で、でも、あんた人間で……十五年も経っているのに全然変わってないじゃない? あいつの弟か息子とか!?」

そっちはエルフだから容姿が何も変わってないのは当然。しかし、人間である俺が変わってないのはおかしい。

「うそ……だって……だって……」

「え!? アースくんは、お母さんのことも知ってるの!? お母さんも知ってるの!?」

まぁ、エスピもスレイヤもこんなに手足が伸びてるわけだし、そう簡単には信じられねえか。

でも……

「奥さん」

「な、なによ……」

俺には信じてもらう方法がある。それは……

「信じてくれないと……拗ね拗ねプンプン猫さんになっちゃうにゃ~」

「ッッ!!??」

これがある。

俺は猫の手のポーズをしながら奥さんにそう言ってやった。

「ぶほっ! お、お兄ちゃん……」

「え? アースくん、どうしたの急に!? 何で猫さんに?」

事情を知るエスピは噴き出し、そして知らないと思われるアミクスはキョトン顔。

そう、これはかつて奥さんが……

「ふぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

顔を真っ赤にして奇声を上げた。

そう、これを知っているのは族長とエスピとスレイヤと俺だけなんだから。

「ああ、あん、た、あああ、あんたぁああああああ!」

「ちょ、お母さんもどうしたの? え? ねえ、なんなの? ねえってば!」

先ほどの娘に近づく男に対する警戒みたいな睨みから一変。

恥ずかしさで耳まで真っ赤にしてメチャクチャ睨んでくる。

そして……

「せんせー、いま、すっごいこえきこえたよ~? おとなのひとたち、みんなあつまってる」

「せんせー」

「パパとママ、おじさんたちもなにしてるのかな?」

今の奇声を聞きつけて集落の奥の方で、幼い子供たちが顔を出した。

「こら、お前たち。もうすぐ劇の発表会なのだからしっかり集中……いや……ふむ。確かに皆が集まって……何事だろうか?」

子供たちで集まってて遊んでいたのか……なんか……頭にウサ耳つけて……

「ふむ……では、皆で何をしているか、跳んで見に行くピョン! では、歌いながら行くピョン!」

「「「「いくぴょーん♪」」」」

何やら幼児たちとお遊戯して面倒見ている人らしき人も出てきた。

子供たちと一緒に頭にウサ耳を付けて、優しくニコニコ笑って……あれ? エルフって真っ白い肌って印象があったけど、日に焼けているのか色黒だな、あのお姉さん。

いや、色黒というより……

「と、ところで、エスピ。あのウサ耳つけて着ぐるみ着て子供たちと笑顔で歌いながらこっちに来る……とても美人なお姉さんは何者かな? ど、ど、どこかで見たことある顔なんだが……」

「はは、ま、ビックリしちゃうか……」

「あ、先生だ! アースくん、私の先生も紹介するね。おーい、先生~!」

なんか、エスピがニコニコ笑ってる? 誰だろう。俺の知っている人か?

どうやらアミクスにとっての先生でもあるようで手を振って呼んでいる。

「うさちゃんピョンピョン、お空に跳ねてニッコニコ~♪」

「「「「うさちゃんピョンピョン、お空に跳ねてニッコニコ~♪」」」」

子供たちも楽しそうでとても笑顔。いっしょに遊んでくれるあのお姉さんのことを本当に慕ってるんだろうな。

いや~、誰だろうあの人。

『お、おぉ……』

それは、トレイナも思わず唸るほど。

うん、実は俺も「ひょっとして」と心当たりがある。

だけど、「うそだろ?」という思いの方が強くてなかなか確信が持てなかった。

だが、うさ耳のお姉さんがこっちまで近づいて……

「さて、みんなで集まって、何してるぴょん?」

「「「「ぴょーん??」」」」

子供たちと一緒にニコっと微笑んで尋ねてくる……黒いウサギさん……。

というか、子供の教育によくないと思われる格好をしている。

足と腕と臍をだして毛皮のような着ぐるみを着て、頭の上に付けウサ耳。

なんか、「いけない店」に居そうな黒いウサギさんだ……

「おお、エスピ。それに……んんんんっ!!!???」

あっ、黒いウサギさんが俺を見て固まった。

そして、口をパクパクさせて……ああ……間違いない……この人……

「き、貴様は! ラガーンマンッ!? いや、アース・ラガンッ! ついに来たか!」

かつて、漆黒の魔女と呼ばれた女。

戦争という悲劇で愛する者と引き裂かれ、この世の全てを恨み、呪い、血みどろの修羅の道を進んだ女が……

「なんということでしょう!?」

匠の衣装を纏っていた。

「あの……俺もいるんだけど……いや、あの、お兄さん? 気づいてない?」

「あっ、お父さん!」

あっ、ついでに人込みに紛れて族長もいた。まったく変わってない。

つか、ウサギさんのインパクトがデカすぎてそれどころじゃなかった。