軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百六十三話 何も言うな

「私の名前はアミクス。あなたは?」

「アース。それが俺の名前だ。よろしくな」

「うん、よろしくね。アースくん!」

俺がやってしまったハプニングやら、向けられた敵意やらは消え、純粋なニッコリ笑顔を俺に向けてくれる、アミクスという名のエルフ。

警戒心も薄く俺をジロジロと観察するように見てきた。

「あなたは結構若い子?」

「ん? ああ、15だけど……」

「うそ! 私と同じ? 同じ歳だよ!」

「え? あ、そうなのか?」

「うん!」

そう言って嬉しそうに手を握ってブンブン上下に振ってくるアミクス。縦に揺れ……何でもない、無心になれ。

……え? これで同じ歳!?

「私、同じ歳の人間とは初めて会ったの。兄さんも姉さんも、たまにコッソリ行く麓の街とかでも、同じ歳の人とは関わりなくて……」

「そうか……ん? 兄さん? 姉さん?」

「うん! 人間だけど、昔からよく一緒に遊んでくれる兄さんと姉さんが居るの。だから、もし私に何かしようとしても、すっっっっごく強い兄さんと姉さんが黙ってないよぉ? 私も強いけど♪」

エルフの女の子。俺たちが目指していた集落のエルフなんだろう。俺と同じ歳ってことは、戦争の後に生まれたってことか。

そして、『人間の兄さん、姉さん、すごく強い……』となると……

「ひょっとして、スレイヤとエスピのことか?」

「ッ!? え? なんで!? なんでアースくんが知ってるの?」

二人の名前を出すと、アミクスは驚いた顔を浮かべた。やっぱりそうか……

「俺は二人の家族だよ」

「え!?」

「そして今日、二人と一緒にエルフの集落を目指してたんだ。途中二人と鬼ごっこして遊んでて、俺が新技試したらはぐれちまったけど……そうか……」

「じゃあ、近いうちに兄さんと姉さんが連れてくる大事なお客さんって、アースくんのことだったんだ! なーんだ! え? でも家族ってどういうこと?」

「はは、まぁ、色々と複雑な過程やら家庭でな……二人と合流したら話すよ」

「うわ、すごい! そうなんだ~、そうなんだ~!」

俺が二人の家族って知って、アミクスは何だか安心したように笑い、そして俺の手を引いた。

「じゃあ、問題ないよね。アースくんを私たちの集落『タピル・バエル』に案内するよ!」

「ぶぼっ!?」

「え、アースくん? どうしたの? 大丈夫?」

「いや、ちょっと驚いて……ってか、何でそんな名前?」

まさかの意外で予想外な名前に思わず吹き出しちまった。

「え、あ、うん……なんかね、私が生まれる前、お父さんたちは別の所に住んでいたらしいんだけど、そこを怖い人たちに襲撃されて住めなくなって、そのときエルフ族を救ってくださり、それだけじゃなくお金まで出して新しい土地を与えてくれた御方の名前で、その御方に感謝を込めてってことなんだって」

「へ、へぇ~……」

それって俺のこと? いや、感謝の気持ちを込めてって、なんでそっちの名前?

すると、傍らでトレイナが笑ってた。

『くくくく……流石に、集落の名前をアース・ラガンにするわけにもいかんだろうしな……』

『ああ……まぁ……』

『それに、あの金は貴様の偽名が名義になっていたしな……』

なるほど。しかし、そんな経緯があったとはな。

つか、パリピが俺に用意した偽造の身分証明書の名がエルフの集落の名前になるとはな……

「だからね、兄さんも姉さんも、そしてそんな大恩あるタピル・バエル様も人間……だから、人間には悪い人や怖い人がいるってのは知ってるけど、全員がそうじゃないって分かってるの。だから、アースくんも目を見て、大丈夫かなって思ったの」

「そ、そうか……」

「だから、アースくんがお客さんってことなら、精一杯おもてなしするね♪」

俺がそのタピル・バエルなんだが……と口にしそうになるが、それを説明するには俺が過去の時代に行ったとかそういう説明もしなければならないし、めんどくさいので、とりあえず黙っておくことにしよう。

「うふふふ、でも、アースくんが私の体を触ったのは、お父さんにもお母さんにも兄さんにも姉さんにも内緒にしないとね♪ 四人ともそんなこと知っちゃったら怒るから」

「ああ、それは是非ともお願いする! スレイヤにもエスピにもぜひ内緒で!」

「ん~、ど・う・し・よ・っ・か・な~♡」

「ア、アミクス?」

「ふふふ~うん、じゃあ、黙っててあげます。その代わり、私とお友達になって」

「え? あ、ああ、そんなことでよければ」

「やった♡ お友達が増えちゃった~!」

そう言って、嬉しそうに手をニギニギ握ってくるアミクス。

ただ友達になるぐらいでそんなに嬉しいものなのか……いずれにせよ、さっきのことさえ黙ってもらえるならお安い御用だった。

「お友達ってことなら大丈夫。四人とも過保護だからね」

「過保護?」

「そうなの。私が男の子とお話しするとすぐに『彼とはどういう関係?』、『好きなの?』とか聞いてくるんだから」

「へぇ、過保護ねえ……」

アミクスの両親か。誰かは知らないが、俺のことを覚えてるかな?

まぁ、俺があの集落で関わったのは族長と奥さんぐらいだけどな。

「ほんっと、過保護なの。集落に居る男の子は皆友達とか兄弟みたいにしか思ってない。私にはちゃんと『好みのタイプ』っていうのがあるから、そのタイプの人じゃないと好きになるとかないって……そう言うと、それはそれで四人ともまた困った顔するんだよ?」

「へ、へぇ~、そうなんだ……エスピとスレイヤまでなぁ……」

「うん、そうなの。あっ、アースくんには好きな女の子とかいるの~?」

「え? え、あ……いきなりかよ……」

友達になった途端、いきなりコイバナかよ。

そういや、エスピとスレイヤもコイバナしてきたし、流行ってんのか?

アミクスも目をすっごいキラキラさせて楽しそうに……好きな女の子ねえ……その話題になるとやっぱり思い浮かぶのは、クロン、シノブ、それにサディスと、あとは……なんだかんだで、好きだと言ってくれた……フィ――――

「私の好きなタイプはね、子供のころからずっと変わってないの」

「そうか。ん? でも……集落に居る男の子は皆友達って……ん?」

「うん……そうなの」

俺が素朴な疑問を口にすると、アミクスはちょっと切なそうに苦笑した。

「あのね、私はず~っと『こういう男の子がいい』っていうのがあって、そういう人じゃないとって……実在しない人なんだけど、それでも私は……」

「実在しない? は?」

何を言っているのか分からなかった。だが、何か大事なことのようで、アミクスは冗談とは思えない表情で……

『む? 童ッ!』

その時だった。

「アミクスッ!」

「へ? え? ちょ、アースくん、な、え? ちょ、どこさわっ、え、えっち! なにを……え?」

突如感じる気配。トレイナの言葉で俺も即座に反応。

アミクスを抱きかかえて、俺はその場から飛び退いた。

すると、俺たちが立っていた地面に矢が数本刺さっていた。

「ほほう。今のを避けるか……なかなか勘のいいガキじゃねえか」

振り返ると、森の木の上から弓矢を構えてゲスな笑みを浮かべる中年の男が一人。

「え? なに? 誰! アースくん……」

「……こいつら……」

不安そうな顔を浮かべるアミクスを抱きかかえながら、俺は現れた男と……

「あと三人いるな」

「……え?」

レーダーで周囲の状況把握。林やら木の陰に隠れてこっちを狙っている奴らが他にもいる。

「ほう、気づいたか」

俺がそう言うと、弓矢を構えた奴は感心したように笑い、そして……

「ただのガキじゃないっすね」

「やるじゃねーの、坊や」

「だが、我らと出会ったのが運の尽き」

剣やら槍やらハンマーやらを装備した、いかにも堅気じゃなさそうな中年のオッサン四人組。

目的は……

「兄ちゃん、命が欲しけりゃそのエルフの娘を俺らに寄越しな!」

だよな。

そして、俺の腕の中でアミクスは身震いして……

「あ、あなたたちね! 最近この山をウロウロしてるって人間は! 帰って! 帰らないとスイーツにしちゃうんだから!」

嫌悪感あらわにして睨みつけるアミクス。

だが、その睨みに対してオッサンたちはむしろ嬉しそうに笑った。

「ぐへへへ、いいねぇ、たまんねーなぁ、その気の強さ!」

「そんな極上の体で、よく吼える! 是非とも美味しく戴きてぇっすね!」

「早くヤリてえ! ねぇ、あいつは売り物にしないで俺らのものにしていいっすよね? ね?」

「ばーか。食うのはまず集落の場所を吐かせてからだ」

アミクスがゾッとした顔で震えた。

涎を垂らしながら気持ちの悪い笑みでニタニタしているクズ野郎どもに。

ったく……

「ったく、オーガといい、お前らといい、平和に暮らす妖精さんたちを困らせるんじゃねえよ。お前らみたいな連中がいるから、人間もオーガも評判が落ちるんだよ」

過去の時代と同じだ。

「なにい?」

「アース……くん?」

魔王軍のオーガ部隊……そして今日はこいつら……

「おい、ガキ。もう一度言うぞ? その娘を寄越せば、命だけは―――――」

「ふざけんな。こいつは俺の家族が大切にしているやつみたいなんでな。そして何よりも……新しくできた俺の友達だ。命を懸けて何が悪い?」

「な、にィ?」

まっ、仕方ねえか。こいつらハンターっぽいし、アミクス連れて逃げてもいいけど、集落探してうろついてる奴らなら多少痛い思いをして帰ってもらわないと。

「あ、あの、アースくん……あの……」

「何も言うな、アミクス」

「……え?」

「安心しろ。すぐに終わらせてやるからよ」

「…………え……あ……あぅ……」

震えていたアミクスを安心させるように、俺は笑ってみせた。

すると、俺の言葉を受け、アミクスはポカンとした顔で惚けた。

そして……

「はっ! 生意気なガキだ! ここは山の中、死体はその辺に埋めりゃバレねー……だから、容赦しねえ! 俺ら、プロのハンターの力を思い知らせてやる! 冥土の土産に俺らの名を教えてやろう!」

プロのハンター。そう言ってオッサンたちは吼え……

「俺様の名は、コイノ!」

「オラの名は、キューピー!」

「俺っちの名は、テンプレー!」

「俺の名は、イヴェント!」

次々と名乗りを上げて一斉に俺たちに襲い掛かってきた。

その身のこなし、四方隙間なく統率された動きは、かなりものだな。

『ふむ……ま、油断はしないことだな、童。一応相手はプロだからな。と言っても……』

トレイナの忠告。確かに油断するわけにはいかねえ。

こっちはアミクスが居るんだしな。

おまけに四方を囲んで同時攻撃……まぁ、いい……

「なら俺も、出し惜しみなく一発で終わらせてやる!」

油断せず、その上で約束通り一瞬で終わらせてやる。

あの技で。