軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百二十五話 挑発に乗る

オーガと対峙しているとは思えないほどの静けさだ。

牙を剥き出しにして暴風のように大暴れするかと思えば、まるで一流の剣士のようにジリジリと静かに間合いを詰めてくる。

キレることで逆に冷静になり、その上で力も増すっていうのは、なかなか厄介な存在だろう。

だけど……

「大魔ジャブッ!」

戦闘のパワーとスピード上がったんだろうが、そんな図体で俺の左を掻い潜れるとは思えねえ。

ならば、顎を揺らして……

「鬼肘」

アオニーも反応した。でも、避けられねえはず……避けない? 肘を上げて……エルボーブロック? 肉体の硬度が……止められねえ、いや、様子見でこのまま殴る。

「ッ、っぬっ!?」

次の瞬間、俺の左拳に痛みが走った。まるで鋭利で硬質なものが突き刺さったかのような痛み。

肘で俺のジャブを弾きやがっ……これで終わりじゃねえ。

「鬼肘切りッ!」

「おっ!?」

その場で肘を斜めに振り下ろし、俺を切り裂こうとしてくる。

しかも速くて、威力もある。

「お兄ちゃん!?」

バックステップで回避しても真空波が発生して俺を切り裂こうとしてきやがる。

とはいえ、そのことを事前に察知していたので、俺も冷静にバックステップと同時にしゃがんで回避。

だが、そこから……

「大した反応だーべさ……だが……」

「おっ……」

アオニーは大股の一歩で俺との間合いを詰め、しゃがんだ状態の俺めがけて、右ひざを思いっきりふりかぶっ……あ……これヤバいやつだ……

「粉々になるーべさっ!!」

オーガの巨体と剛腕に目を奪われがちだが、もっとヤバいのはその巨体を支える足腰だ。

ただでさえ、キックはパンチの四倍とかいう話だし、腕より足の方が力が強い。

つまり、あの剛腕よりも更に何倍もの力を持った足……しかも、肘同様に鋭利で固い……膝!

「青膝ッ!!」

「ブレイクスルーッ!!」

「なっ!?」

当たったら流石にヤバいとみて、俺も即座にブレイクスルーを発動して、アオニーの速度よりも更に高速でその場から離脱して間合いを取った。

「お、惜しい……いや、それよりも、あの男なにをしたんだ?! あの体を覆っている光は?」

「しかも今……は、速すぎて動きが分からなかったぞ!?」

「まだあんな奥の手を……う、うそだろ……なんなんだよ、あの人間は!」

「アオニー隊長の膝蹴りを、あの状態から回避しやがった!」

反射的にブレイクスルーを使っちまったな。

あんまりこの時代で魔王軍相手に使うのはまずい技なんだけどな。

「ちょ、なに? あれなんなの? あなた、分かる?」

「は~、荒々しい性格かと思えば、器用な魔力の使い方をするお兄さんだな~……」

「……ところで、エスピ? あれ、お兄さんの技……なんていうものか知ってる?」

「ふふ~ん、スレイヤくんは知らないの~? あれはお兄ちゃんが本気の時につかう、スーパーお兄ちゃんなんだよ!」

いや、エスピ。それも違うぞ!?

とはいえ、ブレイクスルーまで使ったら、余計に自分とアオニーとの力を比較したらどうなるのかが感じ取れるようになった。

あの膝蹴りだけは脅威だが、このままスピードや右での一撃とかで、いくらでも倒す手段が……

「あ~あ……ほれ……人間はちょっと危なくなったら……すぐに逃げるーべさ」

「……あ゛?」

俺が冷静に相手と自分との戦力差を分析していたところで、アオニーが溜息を吐いて、ガッカリしたように俺を嘲笑した。

「オメーもそうだーべさ。安全な所にいるうちはいくらでも綺麗ごとを並べて、でも危なくなったら我が身可愛さに素早く逃げるーべさ。オメーは所詮そんな人間……んにゃ……そんな……男だーべさ」

「……………」

これは……分かりやすすぎる挑発だ。

こいつも今の一瞬で分かったんだ。

普通の殴り合いをしても、分が悪い。

俺を挑発することで、自分の領域に俺を引きずり込もうとしているってことを。

そんな挑発に俺は……

「まっ、利口なオーガならそんなのすぐに見抜くーべさ。ただ、アカみたいな、え~と……ウスノロ臆病バカはすぐにコロッと騙されるかもだーべさ……ほんと、あいつはオーガの面汚しもいいところだーべさ」

「…………あん?」

「そうか、そう考えると確かにお似合いだーべさ。腰抜けオーガと腰抜け人間、腰抜け同士のお友達? ま、そんな半端なもんだーべさ」

なるほどな。そう来たか。

俺がこうすれば怒ると思ってんだろうな……

「安い挑発……とは言わねえよ。言っておくけど、高くつくぜ?」

「ふん、何を言って……」

だけど、たとえ挑発だろうと二度とそんなことは言わせねえ。

疑わせねえ。

こいつに証明してやるぐらいじゃねえと……だから、買ってやる。

「ふん」

「?」

俺はその場で腰を深く落とし、一度ヘッドバッドの素振りをしてやった。

ちょっと、流石に俺も自分でバカだと思うし、正直メチャクチャ痛いだろうし、やばいと思う。

エスピとスレイヤだってギャーギャー騒ぐかもしれねぇ。

まともにやればもっと楽に勝てるのにな……でも、仕方ねぇよな……

「勝つんじゃなくて……証明するための戦いってことで……わーったよ。逃げねえで、証明してやるよ! テメエの膝、逃げずに俺の頭でぶつかって、逆に砕いてやらぁ!」

「……ふっ……」

『ふふふ……』

「「「「ッッ!!??」」」」

「「「「えっっ!!??」」」」

みんな、驚いてやがる。オーガたちも、エスピもスレイヤも族長も奥さんも他のエルフたちもラルウァイフも全員だ。

いや……みんなじゃないか……トレイナはほくそ笑んで、無言で俺に「いけ」と言っている。

それと……

「ふふ、無理するなーべさ。どうせすぐにボロを出して、オメーは前言撤回して泣いて逃げ出すーべさ。アカのように」

「うるせーよ。その青黒くなった顔を、元の状態よりも更に青ざめさせてやるよ」

なんだろうな。このアオニーのやつ、一瞬だけ浮かべた笑みが……まんまと挑発に乗った俺に対して「バカめ」とほくそ笑んだというよりは……「やってみろ」と言っているように……?

まぁ、気にするな。

今からは頭で何かを考えてどうこうする話じゃない。

何も考えず、ただ、本能のままに突っ込んでやる!