軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百十話 幕間(ネガティブ姫)

「クロン……お前を愛している」

「私もよ、アース。二人で幸せに……いいえ、お腹のこの子と一緒に三人で」

目の前でタキシードと純白のウェディングドレスを着たカップル。

その二人は今から『夫婦』になろうとしている。

多くの者たちに祝福され、その中心で幸せそうに微笑み合う二人。

子供のころから、そのドレスを着て、その場所に立っているのは自分だと思っていた。

でも違う……

「ん」

「♡」

唇を重ね合う二人に拍手喝さいが沸き起こる。

我はそれをただ見ていることしかできない。

「つっ……う……」

目の前のその光景を打ち壊してしまいたくなるほどの絶望……頭を叩き割ってしまいたい……なんという絶望……

さらに……

「おほほほほ、ハニー! 君たち三人だけというのは酷いのではないかしら? サスケとサクラと一緒に私たちも幸せにしてもらわないと困るわ!」

「ああ、分かってるよ。ったく……俺も嫁を『三人』もとか……まぁ、これが俺の望んだ未来なんだけどな」

「あん♡」

突如乱入してきた……かと思えば、普通にそれを受け入れるアース。

目の前でいきなり浮気? そうではない。

「お前たちは……俺が必ず幸せにするぜ」

「ふふふ、ありがとう。なら、私は君をもっと幸せにしてあげるわ」

二人の赤子を抱きかかえたシノブ。

そのまま三人を包み込むように抱きしめるアース。

それはまさに、仲睦まじい『家族』。

そして……

「あらら、坊ちゃま、お熱いですねえ。ですが、妊娠中のクロンさんや、子育てでお疲れのシノブさんと〇〇ッ〇できなくて色々お溜まりでしょう? でしたら、ここは私を自由にお使いください」

「あっ、お、おい……」

「あらあら、いくつになってもウブなのですねぇ♪」

我がずっと求めていた、『女』としてアースに見られること。

その視線は我には一度も向けられたことはない。

そして……

「あら、新婚初夜なのですから、今日は当然私も参戦です! 大丈夫、妊娠中でもできることはあります!」

「うふふふ、経産婦だからって侮らないことね。今日はママもハッスルするわ♡」

「でしたら、今宵は……皆で愛し合いましょう♡」

これが、「ハーレム」というものなのだろうな。

「ああ。今日はまとめて相手してやるぜ!」

そして、その中に我は……我は……

「うをああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! こんな妄想……現実にしてたまるものか! 我は……我はこんな、ありえるかもしれぬ未来は絶対に許さぬッ!! 譲れぬ! これだけは我も譲れぬッッ!!」

次の瞬間、我は心の底から絶叫してしまった。

「はあ、はあ、はあ、はあ……おのれぇ……なんという悪夢を……我もとんでもないものを想像してしまったものだ……幻想魔法ヴイアール……恐るべしだな」

夢の中だというのに、心が壊れそうになる。

全身が疲れ切っている。

まさか、ここまで自分の妄想を忠実に再現できるとは思わなかった。

そして……

「そして……これを……ただの妄想だと切り捨ててよいものではないな……」

そう。これは妄想。しかし、現実にありえないというわけではない。

ハーレムはやり過ぎだとしても、あの中に居た誰かが未来ではアースの隣に立っているかもしれない。

ウェディングドレスを着てアースと夫婦になるのも。

アースの子を産んで家族になって幸せになるのも。

アースに女として求められてイチャイチャするのも。

あの三人の誰かがアースといずれそうなってもおかしくはないのだ。

そして我は?

何もできず、蚊帳の外で、ただの負け犬女になっている……あり得ぬ話ではない。

いや……

「ありえぬどころか……そもそも、今の時点ではそうなる可能性の方が高い……」

そう、これは今のままでは既定路線になりかねない未来。

幼いころからアースと相思相愛で互いのことを分かり合っているなどと滑稽な思い込みをしていた我には、これぐらい最悪の事態を常に想定しておくべきだ。

そう、最悪の……

「最悪の未来……か……ふっ……我も醜いな……別にアースにとっては幸せな未来の一つでもあるわけだ……最悪というのは……我にとって……我だけにとって……まったく、笑わせるな、フィアンセイ。結局我は自分のことしか考えていないということだ……昔からずっと……」

アースの幸せすらも祝福できずに、不幸だの絶望だのと叫ぶ。

こうして自分を見つめなおすと、自分がいかに愚かしいかを理解してしまう。

よくぞ、こんな自分でアースに惚れられているなどと思ったものだ。

しかし、だからこそ……

「このまま……自分に失望したまま……終わってたまるものか……」

抗ってみせる。

本当に。本気で。そして、己自身を磨きなおす。

そう誓ったのだ。

――仕切り直しだ。世界に飛び出して自由に生きようとするお前に負けないよう……姫としても、戦士としても、一人の女としても……我は……もっと高みを目指して行く。今、この瞬間からな

天空世界で、アースと初めて本音をぶつけ合って向き合ったときに……

「あら? アース、あの方……怖いです。私たちの幸せを奪おうとしています……」

「ふふん、幸せいっぱいの私たちに、いきおくれの負けヒロインが何の用かしら?」

「姫様と遊んでいる暇はないのです。私たちは今から精の付くものを食べて夜に備えないといけないのです。今日は私も子供達には早くおねむになってもらい、坊ちゃまと……うふふふ♡」

最近まで、クラスの女子たちがちょっとアースに好感を持ちそうになると、我は焦って独占欲を示すようなことをやったり、アースの不評を言ったりしてきた。

だが、これからは違う。

「花婿を……奪うというわけではないが、戦ってもらおうか? クロンの力は知らないので無理だが……今の我と近い力を持っているシノブ……そして、今の我よりも強いサディス……」

いつか必ず、一人の女として見てもらえるように、己の全てを磨くのだ。