軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百六話 願いを叶える

平原からはだいぶ離れ、近くに俺たちを狙う魔王軍の気配もない。

それを確認して、俺も走る速度を落として一息ついた。

「ふ~……何とかなってよかったぜ」

歴史に大幅な影響を与えることもなく、伝説の六覇と率いる軍を相手に、何とか誤魔化しながらも乗り切ることができた。

ノジャには色々と気の毒なことをしちまったけどな。

「よくない!」

「……え?」

「ちーっともよくないの!」

すると、俺が色々と安堵している一方で、自分で走ろうとも飛ぼうともせず、一応荷物だけは浮遊させて持ってきてくれてはいるものの、俺に抱っこされてしがみついたままのエスピはムッとしていた。

「お兄ちゃんが私を置いてった」

「だ、だからアレは……」

「絶対許さないから。もう置いてったら許さないから。分かった?」

「…………」

もし俺がこの時代の人間だったら「もう二度と置いていかない」と約束して抱きしめてやっただろう。

でも、俺にはそれができず、ただ苦笑いするしかできなかった。

「あ~、それより何も挨拶しなくてよかったのか? あの捕虜の中に、連合軍の奴らも居たみたいだし、顔見知りとか……」

「どーでもいいし。私はもう連合軍じゃないし」

「…………」

どうでもよくはないんだけどな。

実際、エスピは最終決戦でトレイナと戦ったみたいだ。

だから、連合軍をやめてはいない。

そのことを思うと、ここまで俺にベッタリしているエスピに対して俺は胸が痛くなる。

俺は一体どうやってエスピを……『一人』残して……

「とりあえず、ここまで逃げたら大丈夫かな?」

「うん」

「……………」

と、後ろを見てもう大丈夫だろうと安心しだしたところ、傍らにいたスレイヤがジッと俺を見ていることに気づいた。

「お前も怪我とか大丈夫か?」

「え? あ、はい……じゃなくて……うん……」

「くはははは、お前も災難だったな」

子供には教育的に悪いというか、トラウマになりそうな相手だったからな。

心配なのは、むしろ怪我じゃなくて精神面かもしれねぇな。

「あの……ラガーンマン……」

「いや、ラガーンマンはもうやめろ」

「あっ……」

そういえば、仮面をつけたままだったな。

俺は付けてた仮面を外す。

「あっ……やはり……」

すると、スレイヤは少し驚いたものの、すぐ納得したように頷いた。

「エスピの様子や、あの足さばきで何となく……とは思っていたけど……やはり、あなただったか……」

「へへ、まーな」

そういえば、エスピは仮面を付けててもすぐに俺に気づいたけど、スレイヤは気づかなかったんだよな。

「ラガーンマン……それが、あなたの名前……」

「いやいや、ラガーンマンは本名じゃなくて……まぁ、諸事情で名前と顔を隠す必要があったんでな」

「本名じゃない? 事情?」

「まぁ、細かいことはいいじゃねぇか。それよりも、ほら、アレだ。世の中には色んな奴がいるけどよ、女だってあんなのばかりじゃなくて――――」

「あ、あのっ!」

「……ん?」

何かフォローしようかと思っていたら、突如スレイヤが大きな声を出し、真剣な表情をするものだから何事かと思ったら……

「どうして……ボクを助けた?」

「は?」

「ボクを助けてどうしようと? 何に利用しようとしている?」

こいつ何言ってんだ? と思う一方で、何かつい最近似たようなやりとりがあったな。

「お兄ちゃん、この子は何を言ってるの?」

いや、少し前のお前と同じこと言ってんだけど!?

「別に、目の前でガキがヤバいことになってたんだ……それが俺の手の届く範囲に居たんなら、見捨てるわけにゃいかねーだろ」

「ぼ、ボクは子供じゃない! ボクは……ボクは……ハンターだ……全て自己責任だ……」

何やら悔しさで血を吐きそうなぐらいの顔をしているな。

どうやら、ヌクヌクと不自由なく育った俺とは違い、相当しんどい人生を送ってこうなっちまったんだろうなと、想像しちまう。

だがそれでも……

「いいか、スレイヤ。これだけは覚えとけよ」

説教ってワケじゃねーけど、俺なりに何かを言ってやりたかった。

「お前はツエーよ。天才だ。それは間違いねぇ。ただ世の中には、そんなお前より経験も才能も含めて、もっとスゲー奴らがいるってことさ。俺なんていつも自分より強い奴らと出会ってばかりなんだぜ?」

「ッ……あなたより……?」

「ああ。実際今回も、ノジャに関しては俺一人で倒したわけじゃねーし、ノジャが最初から真剣に俺を殺すつもりだったら同じ結果にはなってなかったはずだしな」

「ッ!?」

「だからこそ。常に今の自分の力と状況を把握しなくちゃいけねぇ。今の自分がどれぐらいの強さなのか。何ができるのか。何ができないのか。そのうえで戦うのか。逃げるのか。勝ち方にこだわるべきところなのか。命を懸ける場面なのか。お前は強くて才能があるってのは分かったけど、相手の力に対して自分の力がどの程度とか、状況に応じた判断がまだできねーんじゃねぇのか?」

何だか言ってて全部自分に返ってくるブーメランのような気がする。

傍らでトレイナがニヤニヤ笑ってるしな。

「な、何を……えらそうに……」

「くははは、その通りだ。だから俺もまだまだ修行中だ。まだまだ未熟だし……もっと強くなりてーしな」

俺の言葉を聞いて、スレイヤは俯いて、拳を握りしめて震えている。

「おにーちゃんはもう十分強いのにね~」

「まだまだ強くなんのさ!」

「じゃあ……私ももっと強くなっちゃう!」

「いやぁ……エスピこそもう十分強いぞ……」

怒り? 悔しさ?

「ふ……ふん……いちゃいちゃべたべたヘラヘラしている人が……何だっていうんだ……なん……だって……ボクを誰だと……なのに……言い返せない……」

「まっ、昨日の鬼ごっこも含めて今日のことも……悔しいなら、もっと強くなろーぜってことだ」

「つよ……く……」

だが、ただイライラしているだけじゃなく、俺の言葉から何かしら感じ取ってくれている雰囲気を感じる。

すると、俯いていたスレイヤはどこか縋るような涙目で……

「な、なら……き、君がボクを強くしろ!」

「……は?」

「ぼ、ボクを……ボクを、で、弟子にして……強くしてくれればいいじゃないか!」

……えぇ?

まさかの要望。これは予想外。

『ぷっ、くくくくく……』

『おい、トレイナ。何を笑ってんだよ』

『いやいや、別に……だが……まぁ、それもいいのではないか?』

『おいおい、それってカクレテールでモトリアージュたちを鍛えたときみたいに……教える側になることで学ぶことがどうとかってやつか?』

『それもあるが……まぁ……どちらにせよ、ここから先の旅はこやつも一緒なのだからな』

『え?』

旅が一緒? どういうことだ? 確かにスレイヤを助けたけど……

『おい、忘れたのか? 貴様は……この時代に来る前、こやつらに何を願われたのかを』

『……あ……』

一瞬何のことか分からなかったが、少し考えたらすぐに思い出せた。

そうだった……あのとき……そっか……そういうことか……。

「ちょ、君は何を言ってるの? お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだから、弟子もいらないの!」

「……ふん」

今の目の前にいる子供の二人からは想像できないけど、俺は確かに二人からお願いされたんだ。

「俺もまだまだまだまだ修行中。師匠に指導を受けている最中なんだよ。弟子なんて取れるかよ」

「でも……」

「でも!」

「?」

「師匠にはなれねーけど……お前を導く……いや……しばらく一緒に居てやれることは出来るぜ」

「ッ!」

だから、俺はその願いを叶えてやることにした。

「ちょ、お兄ちゃん!?」

「で、弟子にしてくれるの?」

独占欲が強いエスピには悪いけど、これは仕方ねぇよな。

「し、師匠!」

「いやいややめろやめろ。師匠はやめろ。俺もまだそう呼ばれるほどじゃねぇし」

「じゃ、じゃあ……ラガーンマン……さん……」

「いや、それも本名じゃねぇから……」

「じゃぁ、何て呼べば……」

「あ~……そうだなぁ……」

これまで擦れてて難しいガキだったのに、スレイヤが何だか興奮したように目を輝かせてる。

かと思えば、少し恥ずかしそうにモジモジして……

「じゃ……じゃぁ……お……お兄さん……」

あっ……かわ……い……

「ちょ……何言ってるの! お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなの!」

「お兄さん! 荷物はボクが持つから!」

「あー、褒められようとしてる! お兄ちゃん、荷物は私が持つ! 浮かせた方が楽ちんだもんね」

「ボクが持つ!」

「私ぃ!」

「ボクだ!」

そして途端に目の前でケンカを始めるエスピとスレイヤ。

そんな二人を見ながら、俺はもう一度二人の願いを思い出す。

――それを持って……『私』と『スレイヤくん』と一緒に、シソノータミを目指して欲しいの。勝手なことを言ってるのは分かっている。でもね、それが私たちの願いなの

――お兄さん、あなたと出会い、一緒にシソノータミを目指す旅をする……それが僕たちの願い。何も知らない僕たちを……どうか導いて欲しい

これでいいんだろ? エスピ……スレイヤ……

「やれやれ……それにしても、何だか賑やかになっちまったな……」

『確かに……余の知らぬ歴史の裏でこんなことになっていたとはな』

何はともあれ、こうしてシソノータミを目指す俺の旅のメンツは『四人』になった。

「しゃーねぇ……お前ら、今日の晩飯……カリーを食うぞ!」

「やたーっ! カリ~♪ カリ~♪ カリ~♪」

「か、り? よく分からないけど……お兄さんがそう言うならいいよ?」

そして再び俺はこの時代のこの世界を渡る。