軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百七十四話 看破

「いくぜ」

軽くステップを踏み、フリッカーの構え。

「ふむ……徒手空拳の使い手……軽やかな足……いいじゃない。空気から伝わってくる。キレのありそうな肉……速いだろうねぇ」

「……大魔フリッ―――」

踏み込んでから一気に左を……と思ったが、俺の体は次の瞬間急停止した。

「ッ!?」

左手が……いや、今の一瞬で全身からブワッと汗が出た気がした。

「……おっ……どうした? こないじゃないの?」

「おにーちゃん!?」

もう一歩踏み込んでいたら、俺の左手……斬り落されていたんじゃないか?

あの前傾姿勢で、未だに鞘から剣を抜かないあのオッサンに……

『良い反応だ。やはり、マジカルレーダーを身に着けたことにより、感度良好だな』

「ふっ……大したもんじゃない。向かってくる直前で察知して止まる……それだけでお前さんの力を伺えるってもんじゃない」

一方で、トレイナも目の前の男も俺が止まったのを「ビビッて止まったわけじゃない」と理解したようで、むしろ悪くない反応をしてくる。

「おいおい、なんだ? 喧嘩か?」

「天下の往来でなにやってんだ?」

「あれ? あいつ、確かさっき超万馬券取ったやつじゃねーか!」

流石に街中なだけあって周囲も気づいてザワついてきたな。

とはいえ、それでこの場は収まるわけでもねーが……

「……アース・ミスディレクション・シャッフル」

「んお?」

正面からのステップインからのジャブはアッサリ斬られそうになった。

なら、これでどうだ?

「お、おにいちゃ、あ、わっわ!」

エスピ、そして周囲の野次馬からも俺の動きにどよめきが走る。

前後左右両手両足両肘両膝両視線。全てをランダムにフェイント入れることで、相手の反応を全てズラす。

「お、お、おおおお、すごいじゃないの!」

これには流石に男も感嘆の声を上げてきた。

あのヤミディレすらもこの技で翻弄したんだからな。

「かなりの速さ……そして、この足さばき……これは捕まえられない……ほんと、困ったじゃないの……」

速さはそこそこ……ブレイクスルー使えばもっと速いけど、向こうの力が分からねぇ以上、まずはこれで様子見。

そして、男は「困った」と口では言いながらも構えは最初から一貫して変わらない。

「これはすごいじゃない……うん……並の使い手じゃ訳も分からぬままってやつじゃない……オイラも鬼ごっこしたら捕まえられないじゃない……」

フェイントで揺さぶる俺に反応しないで、ただ構えたまま動かない。

だが、こっちは遠慮なく、左に回り込む……と見せてクロスオーバーステップ。

これで親父と母さんの足元を……

「キレがあって、しかも力強い……でもね……抜く気がない、殴る気がない……同じことじゃない。オイラには目に見えるフェイントは通用しない」

無反応!

俺の動きを意識しつつも、俺のフェイントに一切つられない!

いや、でもこの距離まで入れば俺の左の方が速――――

「はい、いらっしゃーい♪」

「ッ!?」

その瞬間、気づけば俺はまた大きくバックステップをしてその場から飛び退いていた。

「おお……ここでも踏み込まず辛抱したか……すごいじゃないの。いるもんだねぇ……世界がまだ知らない強者ってのは」

男は腰を回して剣を僅かに抜く寸前で止まり、機嫌よさそうに笑った。

そして俺自身、今のも踏み込んでいたらあの剣に斬られていただろうと、本能で察知した。

「……あんた……」

見切られた? いや、看破された?

ブレイクスルー状態ではないとはいえ、俺のステップを……

「確かにこっちから動いても君は捕らえられないじゃない。でもね、どれだけ縦横無尽に動いても、パンチを打つために踏み込もうとする瞬間にはどうしても君の体は『パンチを打つ』という筋肉の動き……いや、合図を放っているじゃないの」

「ッ!?」

「恐らく血の滲むような反復練習で体に染み込ませたんじゃない? だからこそ、君がどれだけフェイントしようとも、オイラは君の筋肉が『踏み込んでパンチを打つ』という合図を出すまで待っていればいいってことじゃない」

俺の動きじゃなくて……俺がパンチを打とうとする瞬間だけを察知?

バカな、そんなこと……

『それができるのだ、この男はな』

『トレイナ……』

『この男は目が見えぬ。ゆえに、相手の眼を惑わすようなフェイントには動じぬ。見て反応するのではなく、感じてから反応……そして予測する』

俺が「そんなことできるのか?」という疑問に対して、トレイナは「できる」とアッサリ断言した。

『こやつは目が見えぬ代わりに、その他の感覚が非常に優れている。対峙した相手の肉体情報、筋肉量、そこから導き出される身体能力……さらには魔力量なども即座に把握する』

目が見えない。しかしその他の優れた感覚を駆使して、目で見る以上に俺のことを把握し、更には分析、そこから予測も全部……そんなことが人間にできんのか?

いや、それができるからこそ……

『余やゴウダ、『ライファント』を倒したヒイロの武勲の『大きさ』には敵わぬが……ヒイロたちが台頭するよりも以前から、ミカドと共に魔王軍と長年戦い、七勇者の中で一番数多くの武勲を上げた、七勇者における最年長者……』

なるほどな。これが、戦争が終わって緩んじまった未来の親父たちと違い……

「七勇者……『コジロウ』?」

「勇者なんてよして欲しいじゃない。オイラぁそんな輝かしいもんではないじゃない」

正に現役バリバリの勇者ってことか。

なるほどね。

でも……

「へっ、こんな所で偶然会っちまうとは驚いたぜ……伝説遭遇率恐るべし……ただ……」

「ん?」

「あんたがこれほどの奴だってことは別に驚くことじゃねえ。七勇者や六覇クラスなら、これぐらいやるだろ?」

トレイナが口にした「俺の今のトレーニングメニューの完成形」と言われるだけはある。

六覇のライバルでもある七勇者なら当然だろう。

でも、だからこそ、驚きはそれほどでもなく、単純に納得だった。

「つまり、無傷で勝てる相手じゃねえ……斬られる覚悟を持って踏み込めってことだろう?」

「……そう来たか……でも、それはオイラの斬撃を受け止められて初めて言える戦法じゃない?」

「今更そんなもんにビビる俺じゃねえよ」

「……ほほぅ……」

斬られると思ったから踏み込んでパンチを打たなかった。

ただそれだけだ。

なら、ダメージ負う覚悟を持って……更に極限の集中状態に……

「……なるほど……ん?……おっ……これは……」

ゾーンに入る。

そこから……

「おぉ……なんてこったい……極限の集中状態……自力で無我の境地にまで至る……おっそろしいじゃないの……」

極限まで研ぎ澄ました感覚で……そしてさらに……

「それと、さっきの俺のステップ……アレを全力だと思うなよな」

「……なに?」

「次は、もうちょい速いぜ?」

全神経をむき出しにした状態で……

「ブレイクスルーっ!!」

「ッ!?」

これはどうだ? 俺の筋力量から俺のスピードやパワーを勝手に予測した気になっているところで、ブレイクスルーでその全てを大幅アップ。

「な……に?」

「お兄ちゃん……キレー……」

コジロウの体が驚いて一瞬強張ったのが分かった。

そこに……

「大魔ソニックジャブッ!!」

この離れた距離からの衝撃波。

「ッ、うお! 抜刀!」

高速の拳から繰り出す衝撃波は、俺のブレイクスルーに一瞬驚いてしまったコジロウの反応を僅かに遅らせ、コジロウも咄嗟に腰から高速で剣を振り抜いた。

「ちぃ……やられたじゃない……」

「抜いたなぁ、剣! ここだ、グースステップッ!」

これまで俺に対してただ身構えてカウンターを狙っていたはずのコジロウがここで剣を振り抜いて、高速の斬撃で俺の衝撃波を相殺。

しかし、これが狙い。

俺は即座にコジロウの間合いの中に踏み込む。

「お、おぉ……」

「オラ、踏み込んでやったぜ? ……ぶっとべ!」

「ッ!? しゃーない! 怪我しても恨むなじゃない、お兄さん!」

剣を振り抜いた状態のコジロウの懐に飛び込んで、握りしめた右拳を至近距離から放つ。

一方でコジロウも、振り抜いた剣を即座に刃先を反転させて、俺に振り下ろしてくる。

「大魔スマッシュウウウウウウ!!」

「燕返し!!」

コジロウも俺を断ち切るつもりで剣を振り下ろしてくる。

だが、俺は全神経をむき出しに、そして自身を投げ出すかのように全力の一撃を振り上げた。

『あっ……コジロウとエスピに……ブレイクスルーを見せてしまっ……まぁ……もうよい……か?』

ん? トレイナ……何か言ったか?