軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百六十五話 俺がやるしかない

「あっ……おいつか……れ……」

とりあえず、整理させろ。

この今にも死にそうな女の子がエスピ?

「逃がすな。囲め!」

「よいか? 勝手に飛び出すな! たとえ瀕死でも、相手はあの七勇者の一人だ!」

二十人程度の武装した獣型の魔族。

それは、かつてトレイナを頂点として人類と何年も戦争をしてきた、魔王軍の兵士。

ここは、そしてこの時代は魔王軍と人類が激しい戦をしている世界。

「七勇者の一人にして、連合軍加盟国……ベトレイアル王国の異端児……、『超能力少女・エスピ』だな?」

俺たちを完全に取り囲み、一定の距離を取ったまま、隊長と呼ばれていた魔族がそう問いかけた。

「その首頂戴する。その首を掲げ、我らゴウダ軍こそ魔王軍最強と天下に轟かせる!」

待て待て待て……首って……七勇者とはいえ、こんな小さな子供を……本気で殺す目だ……

『ゴウダ軍の部隊長の一人に……ピッグゴリという豪傑の名を耳にしたことがある。そしてゴウダが帝国の一部の領土を占領していた時期……何よりも、エスピが七勇者として名を馳せているのであれば……恐らくは、余と童が来た時代から……まさに16~17年前か……』

魔族の隊長の言葉に戸惑っているのは俺だけのようだ。

トレイナだけは現状を冷静に見ていく。

そうか。

こういうのが、当たり前の世界……当たり前の時代なのか……

「もう……殺せばいいよ……」

「ッッ!?」

そのとき、大木に寄りかかったままのエスピが、生気のない瞳でそう呟いた。

「わかってた……わたしは……任務に失敗した……もう……いらない子……戦争でいっぱいころせば……きつい実験も減らされた……叩かれなかった……でも……私は失敗した……国の命運がかかってるって言われたのに……」

これが……エスピ?

バカな。俺が会った大人のエスピは、もっとヘラヘラして、ウザい感じで人に絡んできて……なのになんだ? 今のこの姿は。

自分に、現実に、世界に絶望し、生きることすらも拒絶して諦めているかのように……

「ふん、哀れだな。ならば、この俺自らが引導を渡してくれよう。偉大なるゴウダ様より選ばれし九人の部隊長の一人……この、ピッグゴリがな! 横に居る貴様もだ」

隊長と呼ばれた魔族、ピッグゴリが背中に携えた大剣を抜き、こっちに近づいて来る。

「お前ら……」

「ん? なんだ貴様、抵抗する気か? せめてもの情け、痛みもなく一瞬で断ち切ってやろうというのに」

俺は気付けばエスピを守るように、ピッグゴリの前に立ち塞がった。

「相手は……こ、子供だぞ?」

「は? その子供が既に我らの同胞の命を何百何千何万奪ったと思っている?」

「なん、ま……」

あまりにも桁外れの数過ぎてピンと来なかった。

子供とはいえ、七勇者。

既に戦争で、俺では想像もつかないぐらいの命を奪っている。

それはそうなのかもしれない。

でも……

「そ、そうなんだよな~……だよな……子供とはいえ、あんたらの仲間を……そうだよな……許せねえよな……」

「……何を言っている?」

「つか、暗殺とか連合の連中は何やってんだか……ほんと、卑怯だよ。勇者ヒイロや戦巫女マアムはどう思ってんだろうな……いや……知らねーんだろうな」

「ん? ヒイロだと?」

「二人とも、暑苦しくて、正しいことばっかやろうとして空回りするんだ……だから今回のことも教えてもらえてねーんだろうな。昔っから大事なことを教えてもらえねー人たちだったんだな。俺から教えてもらえなくても不思議じゃねえってことだ。……つか、知っててこれをやらせてるんだったら……もう、いっそ軽蔑だな」

「何を……何を言っている?」

どうしてだろうな。俺自身があれだけ拒絶した親父と母さんなのに、このときは「そういう人たちであってほしい」と思っちまった。

人類の危機だ。子供だって強ければ戦争に駆り出されるのも仕方ねえのかもしれねえ。

事実、親父と母さんは俺ぐらいの年齢の頃にはもう戦争で戦ってたみたいだしな。

だけど、同じ七勇者とはいえ、十にも満たない子供に相打ち覚悟で六覇の暗殺を黙ってさせるような人たちではない、と別に意味のないことを願っちまった。

それに、二人がこのことを知っていたらこの状況を放置しているはずがない。

仲間がピンチだっていうのに、誰かが助けに来る様子もないしな。

で、それはそれとして……

『さて……トレイナ……どうする?』

このままじゃ、エスピが殺される。つか、ついでに俺も。

でも、エスピはこの後も生存する。生き残る。だからこそ未来で俺と会った。

どうやって? 誰かが助けに来るのか? でも、誰の気配もない。

ならば、未来のエスピはどうやってこの状況から生き延びたのか?

俺が……

『貴様がやるしかあるまい』

『……だよな?』

『うむ、もうそういう歴史だったのだと思って……貴様がやるしかあるまい!』

トレイナの言葉を聞いて、やっぱりそうなのかと、俺自身も頭が痛くなった。

「ガチで無関係の俺にこんなことされて……本当に申し訳ねーと思ってるが……こいつを死なせるわけにはいかねーんだ」

「?」

「理由は……もし、いつか未来で再会することがあったら教えてやるよ」

「ッ!?」

俺がやるしかない。

そう決心し、俺はエスピを抱きかかえた。

「え? ちょっ……だれ? なん……」

「うるせえ、クソガキ! 大人しくしてろっ!」

「え……?」

「簡単に死ぬとか言ってんじゃねえ! 生きてりゃもっとヘラヘラ顔してテメエも笑えて、なんだったらイケメンの彼氏だってできるんだからよ!」

「…………?」

突然見ず知らずの野郎に抱きかかえられて、そりゃエスピもびっくりするだろう。

しかし、俺は戸惑うエスピを黙らせたうえで……

「いっくぞー!」

「ひゃぁ!?」

俺たちを取り囲む魔族たちへ突っ走った。

「な、おい、来やがったぞ!」

「ちっ、二人まとめてぶっ殺してやるッ!」

俺が突っ走った先に居たのは、最初に遭遇したサイ人の二人。

俺はその二人の間にまっすぐ走り、二人が俺に向けて武器を振りぬこうとする寸前に、ペースに緩急をつける。

チェンジオブペース……からの……右へ体重移動。

「ぬっ、こいつ!?」

「何を!? どこへ!?」

サイ人二人が反応し、俺の動きに連れられて重心をズラす。

だが、そこで俺は右への体重移動から左への切り返しのクロスオーバーステップ……

「ぬ、な、なん……」

「この動きは!?」

このステップだけで、もう二人は完全に足元をふらつかせる。

こいつら、突進力などによる直線の動きは速いみたいだが、横の動きで俺についてこれるわけがねえ。

「大魔・キラー・クロスオーバー!!」

二人が反応して逆サイドに視線を向けたまま重心移動させようとした瞬間、俺は再び逆へステップし、一気に抜き去る。

アタフタした二人は俺についてこれず、そのまま足が絡まってその場で尻餅ついた。

アンクルブレイクだ。

「な、なに!?」

「なにをやっ……あの者……なんだ、今の動きは!」

「速い……いや、待て、逃げられたぞ!」

「追いかけろッ!」

アッサリと包囲の壁を突破してやった。

こんなの当たり前だ。

「くはははは、真勇者と戦巫女の二人ですらアンクルブレイクされたステップだ。どーってことねーよ!」

「包囲をあっさり……あなた……一体……」

「知りたきゃ、もっと長生きすることだな」

エスピも戸惑っているようだが、今は構わず、この小さな体を強く抱きかかえながら、俺は闇夜の森を駆け抜けた。

『おい、童。別に逃げなくても、今の貴様ならあの程度の連中、普通に戦っても……』

『そうだけどさ……俺、魔王軍の敵ってわけでもねーし……あいつらはあいつらで別に悪いことしてるわけじゃなくて、この世界とこの時代では当たり前のことしてんだしな……村を襲ったモンスターの時と違って、なんか気が引けるんだよ……』

『ぬっ……むぅ……』

『このエスピが、戦争という状況とはいえ、連中の仲間を殺した仇とかそういう話まで聞いちまうと余計にな……』

『それはそうだが……』

『だったら、極力戦いたくねえよ……俺、別に魔族は嫌いじゃねえし。あんt……アカさんとかブロとかクロンとか好きだし……ヤミディレやパリピと戦ったときとは状況が違うし……』

『ふ、ふん、甘ちゃんめ……』

『はいはい、お坊ちゃんですよ』

とりあえず、このままどこか人のいる所へ向かって、エスピの手当てをしたりしねーとな。

まずは森を一気に抜けて……

「逃がさんぞ!」

「貧弱な人間が、我らから逃げられると思うな!」

と、さすがにこのまま逃がしてはくれないか。

後ろから諦めずに追いかけてくるよ。

特に、あのピッグゴリとか素の身体能力がヤバいな。

ブレイクスルーを使って逃げるか?

そのとき……

『童、右から矢だ。止まれ!』

「ッ!?」

トレイナの突然の指示で俺は急停止。すると俺の眼前を一本の矢が高速で通過して、近くにあった木を貫いた。

『弓矢……』

『さっきの連中以外の捜索隊も……どうやら、あっちに十……左にも二十……前方にも居るな』

『げっ、マジか……』

『瀕死の七勇者の捜索だ。奴らも絶対に逃がしてはならぬと、かなりの規模で捜索しているようだな……闇夜に紛れた攻撃が、どんどん来るぞ。今の貴様では、『目に見えない攻撃』を回避することはできまい』

『ぬ、む……う……』

トレイナに言われて俺もようやく気付く。確かに、姿はあまり見えないが、後方から追いかけてくる連中だけじゃなく、周囲にも多くの気配を感じる。

ったく、めんどくせーな。

すると……

『童……この状況だが……ブレイクスルーを使って正面突破……いっそのこと大魔螺旋で周囲全部吹き飛ばすという手もあるが……それでも貴様が、細かいことを気にして手出ししないというのであれば……この状況を逆に利用して、アレを習得せよ』

『……は?』

『全ての敵の位置、動き、攻撃、全てを把握したうえで、全てを回避し、この包囲網も突破する……』

トレイナは、俺のわがままに付き合って、逆にそれを利用して俺にこの状況を生き延びるための技術を習得しろと命じてきた。

それは……

『マジカル・レーダーだ』

おお、そうきたか……