軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百六十三話 時間跳躍

『あ、あばばば……』

『い、いかん、もも、もちつけ、わ、童』

『そお、そおお、そうだよな……あ、あ、……あっ、これは夢か?』

『う、うむ、そ、そういう可能性も……いや、夢? これが?』

そうか、これは夢か。きっとそうだ。

「なあ、あんた一体何者なんだ!? 帝国騎士なのか? それともまさか……勇者様か!」

俺の腰元にも及ばないぐらいの小さな子供。

それが親父の面影を持っている、親父と同じ名前の子供。

「ヒイロを助けてくれてありがとうございます。ヒイロ、あんたももっとお礼言いなさいよ! 弱っちいくせにバカやって皆に迷惑かけるんだから!」

母さんの面影を持っている、母さんと同じ名前の子供。

全てが夢。

そうでなければ偶然だ。

全て偶然のハズ……なのに……

「ヒイロくん! マアム! 何をしているの!」

「「ッッ!?」」

そのとき、村人たちの中から血相を変えて一人の女が駆け寄ってきた。

激しく息を切らせて、顔を青ざめさせ、今にも涙が溢れそうな瞳をした、若く美しい農家の……母さんとよく似た顔の……って!?

「お、おば―――ッ!?」

お、おばあちゃま!?

『おばあちゃま……?』

『ああ……母さんの方ので……つまり、俺のばあちゃん……ここ数年会ってないけど……』

『そ、そうか……こちらはマアムの……そういえば、ヒイロもマアムも平民出身だったな……』

ただでさえ若作りで、全然婆さんに見えないぐらいの俺のおばあちゃまが……下手したらクラスメートの母親よりも若く見える俺のおばあちゃまが……俺の知ってるおばあちゃまより、小皺が少なく……いや、皴がねえ!?

そんなおばあちゃまが、男の子と女の子を震える両手で抱きしめて……え? 本物?

ちょっと待て、どうなって……

「ヒイロくんも……無事でよかった……もしあなたに何かあったら……あなたのご両親に顔向けが……ッ! あの……旅のお方!」

「は、はい!? え、あ、はい!」

「この子を助けてくれて……この村をお救い下さり、本当にありがとうございます」

やばい、本物!?

あれ……まずい? これ、色々とマズいんじゃ……

「是非、お礼をさせてください」

「いえ、自分は当然のことをしたまででありまままあす! では、これで!」

「そんな、あの、お待ちください!」

いかん、とにかくこれ以上ここに居たらまずい気がする。というか、いったんどこかで落ち着かないと。

とにかくこの場から早く離れようと、俺は走った。

「待ってくれよ、あんた! あんた、名前なんて言うんだよ!」

「名乗るほどの者ではない。さらば!」

「あっ……」

親父? 男の子が俺を呼び止めたが、俺は止まらずにとにかく逃げた……

「すげー……カッコいい……あんなに強いのに、全然えらぶらないで……決めた! 俺、あんな正義の味方になる!」

「は? あんたになれるわけないでしょ、バカヒイロ!」

最後、村人たちから俺に対する呼び止める声と一緒に、歓声と感謝の言葉が聞こえてきたが、正直俺はそれどころじゃなかった。

「はあ、はあ、はあ……」

『……う~む……』

「はあ、はあ、はあ……ここまでくれば……」

とにかく俺はノンストップで、最初に飛ばされたときに居た森の中まで戻った。

そして、辺りに人の気配もないことを確認してから、溜まっていた想いを叫んだ。

「ど……どーーーなってんだ、トレイナ! これは、アレか? 夢か? ヴイアールの幻想世界か?」

『う、む、……童……とりあえず時計を……』

「あ、お、おお」

とりあえず、この状況は全てこの時計から始まっているというのは間違いないだろう。

俺はポケットから取り出した時計をトレイナに見せるが、トレイナも腕組んで難しい顔してる。

いつも『余を誰だと思っている? 全知全能の大魔王だ』みたいな感じなのに。

つまり、それほどまでにこの状況が普通じゃないってことだ。

『これは夢ではない……かといって、魔法でもない。それならば余が必ず気付いている』

「だよな……」

『古代人たちの技術に間違いないのだろうが……どのような原理かは分からぬが……魔法でも不可能とまで言われた力だろう……『戻った』のはな』

「?」

トレイナの口から『戻った』という言葉がやけに強調されていた。

「えっと……つまりどういうことだ?」

『余も原理は説明できんが……恐らく……あ~……つまり貴様と余は現在、過去の世界にいるということだ』

「………………」

『だから、あのヒイロとマアムも本人たちだろう。内在されている魔力の才で一目瞭然。二人の容姿から恐らくここは……二十数年前……』

「ッ!?」

夢や偶然でないのなら、その可能性も実は俺自身も僅かに抱いていた。

ひょっとしたら俺は、親父と母さんが子供の頃の世界に……と……。

そして今……

『つまり、その時計は! 過去と未来を行き来するタイムリープのアイテムだったのだよ!』

「なっ、なんだってぇぇぇぇぇぇええ!!??」

俺の抱いた考えは間違っていなかった。

しかしだからこそそんな馬鹿な現実に俺は驚愕するしかなかった。

「ほほほほ、ほんとに? 時間跳躍? いやいや、でも可能なのか? よく物語とかで……『過去は変えられない。しかし未来は変えられる』みたいなベタなセリフあるじゃん!」

『余も驚いておる。しかし、これが夢でも幻術でもない以上は、そうとしか説明できん』

「こ、これが……」

トレイナですら原理を説明できないものがこの世にあるなんて……。しかし、時間跳躍? 過去に行き来ができる? それって……

「ちょ、ちょっと待て! それが使えたら、無敵じゃねえか! 嫌な過去を全部変えられるんだろ?」

『いや、ど、どうなのだろうな……』

「は?」

『うーむ……たとえばだ、今回貴様はヒイロを救ったが、もしヒイロを見捨てていればどうなった? ヒイロが死んでいたら……』

「……親父が……あんたを倒すことはなくなるな……」

『そうだ。余が生き残り、そして貴様は存在そのものすらなくなる……しかし余と貴様の居た世界では、余が死に、ヒイロが勝利し、そして貴様が生まれている……ということは矛盾が生じる……とりあえずこの現象を『マジカルタイムパラドックス』と呼ぼう』

パラドックス……まぁ、魔法じゃねーからマジカル付けるのはどうかと思うけど……でも、どうなるんだ?

『答えはどうなるか分からん。貴様の存在が消えるのか……そもそも世界そのものが無くなるのか……見当もつかん』

「そ、それってつまり……?」

『つまり、安易に過去に干渉して……いや……しかし、こうして貴様が時間跳躍していることも過去の歴史で本当にあった出来事だとしたら、貴様がこれから何かをやったとしてもそれは実際に……いや……』

トレイナ自身も頭の中がまとまっていないようだ。

いつも分かりやすく噛み砕いて説明してくれるのに、こんなトレイナは初めて見る。

『とにかくだ。やはり、あまり安易に未来に影響を及ぼすことはせぬことだな。たとえば、この世界に居るヒイロとマアムに貴様の素性を教えたりとか……この時代では存命している余に会うとかな』

「あっ……」

『余が貴様と初めて会ったのは、封印の間が初めてだ……それだけは間違いない』

「そっか……」

そうか……過去の世界では……トレイナは生きてるのか……なんか一目見てみたい気もするな。

『おい、妙なことは考えるな』

「いや、でもよ……ほら、生きてるトレイナとも会ってみてーな~とか」

『馬鹿者! ほいほい、気軽に会えるわけがなかろう! 仮に会えたとしても、貴様など有無も言わさず殺されるぞ!』

「えっ? そうか……な?」

『相手を誰だと思っている。大魔王だぞ!』

「……うん。それは知ってる。だから、信用できるんじゃないかって……」

『ふぁ……あ……むぅ……ん? …………って、だから歴史を歪めることは考えるな!』

「わ、わーったよ、わーったって! あれ? ちょっと照れてる?」

『照れとらんわ!』

とにかく、ありえない現実ではあるが、トレイナと話をして少しずつ落ち着いてきた。

まぁ、まだちょっと手とか震えてるけど。

「とにかく、エスピとスレイヤがどうしてこんなもんを俺に渡したか分からねーけど、元の時代に帰った方がいいってことだよな?」

『そうなるな……色々と興味深いが……『戻れなくなる』……というのが一番怖いからな』

「あっ、それは確かに嫌だ!」

もし元の世界……元の時代に戻れなくなったら? そう想像しただけで怖くなる。

この時代では、俺の方が親父と母さんより年上になってるし。

あっ、でも……ちっちゃいサディスは見てみたい気も……あっ、やべ、メチャクチャ見たい……でも、この時代ではまだ生まれてないか……

『仮に見に行くとしても、まずは帰り方を理解してからだ』

「お、おお、そうだな……でも……どうやって帰るんだ?」

『そこはやはり時計を……むぅ……』

「……動かし方……分かる?」

『その五つのボタンを弄ってこの世界に来たわけだから……とりあえず、中心のボタンを押して、その時計が作動したのは覚えている』

「ん? お、おおこれだな?」

とりあえず、今はちゃんと帰れる方法を確保してからというトレイナの言葉に納得し、もう一度時計のボタンを押す。

すると、最初と同じように時計が再び発光した。

【登録サレタユーザーノ認証確認完了。ジャンプノ設定ヲオ願イシマス】

「おお、で、ここから……?」

『使い方が書いていないので、少しずつ試すしかなかろう……恐らくそのボタンとネジを動かすことで、時代や転移先の座標を設定できるのだろう……あまりメチャクチャに弄るよりは、どこかのボタンを一つ押し、それでどの程度移動するか確認していこう』

まずは一つずつコツコツと。

そう言われてとりあえず俺はテキトーにボタンを一つポチッと押した。

すると、その数秒後……

【設定完了シマシタ。ジャンプヲ起動シマス】

先ほどと同じように、俺の身体を強烈な閃光と共に、妙な紋様が包み込んで吸い込んだ。