軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百五十九話 遭遇

漁師たちの漁船が海上を埋め尽くし、船の出入りが激しいメインの港。

そこから少しズレて、俺が立っている海に面した森の岸辺に、小さなボートが一艘こちらに向かってきた。

「アレだな」

『うむ』

「密輸船っていうから大型の船で運んでいると思っていたんだけどな……」

『途中まではそうだったのだろう。しかし、通常だと大型船は港の停泊の許可だったり、荷下ろしの際に積み荷の確認がされたりする。隠れてコッソリと違法のモノを運ぶために、途中の洋上で小型の船に荷を積み替えたのだろう』

「えっ、そんなことしてんのか?」

『うむ。『瀬取り』と言ってな。古くより違法な薬物や武器の密輸の際に行われていたオーソドックスな手だ』

「へぇ~……」

ボートにはこっちをジッと見つめて来る者が数人乗っている。全身をマントのようなローブで羽織り、顔もフードを深く被っているので見えない。

船の積み荷として大きめの木箱が二つほど。

「………ぶつぶつぶつぶつ……」

すると、船に乗っているローブの人物の一人が、手の平に何かを乗せてこちらに向けている。

それは、魔水晶だな。こちらに向けてブツブツと呟き、すると魔水晶から……

『ひはははは、おけまる~♪』

あの不愉快極まりない声が聞こえてきた。

すると、魔水晶を持っていた人物が足元にある布袋を手に持ち、俺に向けて投げてきた。

『ふっ、パリピに本人確認をさせたようだな。あれが荷物だ。受け取れ』

「えっ、お、おう」

投げられた袋を俺はキャッチ。すると、投げた張本人たちはそれだけで、俺に一言も何も告げずにそのまま船を方向転換させて行ってしまった。

「おい、あいつら行っちまったぞ?」

『奴らはただの運び屋だ。ただ金で雇われただけ。関わりたくないので、身分も明かさない代わりに、積み荷の情報も何も知らず、受け渡し相手のことも何も聞かないことを心掛けている』

「へ、へぇ……そうなのか……つか、無法者共のくせに、無法者たちのルールは守るんだな……」

なんか、悪いことをする奴らってのは色々なことを考えてんだな。そんなこと考えるのに頭使うなら真面目に働けばいいのに……と俺が言っても仕方ない。

何故なら、ある意味で俺も今日から『こっち側』に足を踏み入れたみてーなもんだからな。

そして……

「おっ、これだな~……」

受け取った布袋の中に手を入れてみると中に四角い感触。

取り出してみると、リボンで包装された箱。

リボンをほどいて中を見てみると……

「えっと……中は……まず、紙が一枚……」

『うむ……押印されている……間違いなく、正式な手順で発行された……『架空の人物』の身分証明書』

「こ、これかぁ……いやぁ……使いたくねーな~……」

『贅沢言うな。それが無ければ旅の軍資金も稼げぬのだからな。で、他には……』

「ああ。……もう一枚……なんか小さい『カード』みたいのが……」

箱の中に、偽造の身分証明の他に入っていた、手のひらサイズの小さな一枚のカード。

触った感じや弾力などは、これまで見たことのないもので、更にカードの表面には見たことのない紋様が刻まれている。

「なんだこれ? なんて書いてあるんだ……?」

『……Master key……』

「え?」

『ふっ……まさか本当にあやつが持っていたとはな……一体どこで手に入れたのやら……』

トレイナの口から洩れた、「マスターキー」という言葉。つまり、これが鍵か? このカードが鍵ってことなのか?

少し興奮気味に口元に笑みを浮かべているトレイナの様子からも間違いなさそうだな。

つまりこれが、トレイナが生前から追い求めていたものということか。

「……どうする? やっぱり……」

『いや……よい』

トレイナは俺のトレーニングを兼ねてゆっくり行こうと提案してくれていたが、このマスターキーを目の当たりにして、やっぱり早く行きたいんじゃないかと思って念のため聞こうとしたが、トレイナは首を横に振った。

『今さら少し時間がかかるぐらいどうということはない。むしろ焦って面倒な連中と遭遇して、目的から遠のく方が困る。ゆっくり行こう』

「そっか……あんたがそう言うなら、それでいいや」

とりあえず、パリピから貰ったこれはしっかりと持っておいて、今は俺の成長が先という行動指針に変わりはなく、俺も頷いた。

『やほ~、ボースー、オレからのプレゼントもらった~?』

と、そこでまた空気を読まずにあのクソ野郎が……いや、取引のブツを受け取ったからその確認という意味では間違ってないんだろうけども……

「ああ、受け取った」

『ひはははは、良かった~。あ~あ、オレもそのプレゼントを目の当たりにして嬉しそうにする、『誰か様』の顔を見てみたかったな~』

「……テメエ……」

トレイナの喜ぶ顔を見てみたかったということだ。トレイナもちょっとムッとしたのかむくれている様子だ。

「で……貰った以上は使わせてもらうが……あんたこれをどこで手に入れたんだ?」

とりあえず、奴に話しのペースをもっていかれないように俺から話を切り出した。

内容は、トレイナが呟いていた疑問だ。

すると……

『おんや~? 気になるから聞けって、『誰か様』に言われたの~? 君がそんなの気にするはずないもんね~?』

「ぬっ、む……」

『まっ、でも大層な理由はないよ? それはマジで偶然……拾ったんだから』

「……なに?」

『拾ったの。いや、これマジ。本当にウソ無し百パー。マジで落ちてたのを偶然拾ったんだよ』

いやいや、こんな特殊なもので作られていそうなカード……トレイナが生前から欲していたようなものを、偶然拾った? んなフザケタことがあるわけ……

『こやつ……嘘は言ってなさそうだな……』

「……え?」

『まぁ、他にも何か事情があるのだろうが、『偶然手にした』というのは本当なのだろうな……どういう状況で手に入れたかまでは分からぬが』

意外にも、トレイナはパリピの言葉を信じたようだ。まぁ、長年パリピのことを見てきたトレイナがそう言うんだから間違いないのか?

『ひはははは、まっ、せっかくだから楽しんできてよ。あの遺跡の最深部にはけっこう面白そうなのがあるからさ。ただし……』

「ん? ただし? なんだよ」

『最深部もまたいくつか道が枝分かれしていてさ……中にはあまりにも建物が古いからなのか、もしくはどっかのバカが人為的にやったのか……とにかく壊滅的に破壊されて通れない道とかもあってさ……オレでも何があるか分からないルートもあるから、それは知っておいてね』

「……なに?」

『オレも道を舗装して通れないかと思ったけど、かなり大掛かりになるし、オレも壊すのは得意だけど直すのは苦手だし、無理やり瓦礫とかを吹き飛ばして遺跡全体が潰れても嫌だから放置してたんだよね』

そう言って、パリピですらまだ知らない何かが眠っている可能性をどさくさ紛れで付け足してきやがった。

『ひははは、まっ、どこかの誰か様の知恵で、うまく通れる方法でも見つけたら、オレにもいつか教えてよ。それじゃ、そーいうことで、ボース! 楽しんできてね~♪』

そして、最後にそれだけを言い残してパリピからの通信が途切れた。

再び静まり返った森の中、しばしの沈黙の後にトレイナが……

『ふふん、なるほどな……パリピも匙を投げて踵を返したルートがあると……』

「トレイナ?」

『実を言うとな、童。遺跡の最深部に何があるのかは非常に興味はあったが……既にパリピなどがそこに到達して謎を解き明かしているようであれば……余としても少し微妙な気分でもあった。何故なら、余がパリピに後れを取ったということになるからな。しかし……』

あっ、トレイナがまた頬が緩んでる。

前以上に、どうやらこれから先の冒険にワクワクしているみたいだ。

「つまり、俺たちが最初ってことか?」

『うむ。遥か古代の者たちを除けば……そうなるな』

そういうことならと、俺もワクワクとしてきた。それに何よりも、俺がこれからマスターしようとしているレーダーは、そういう遺跡やらダンジョン攻略やらに役立つ魔法だしな。

『よし、童。夕飯を済ませたら、早速トレーニングだ!』

「押忍ッ!」

焦ることはないとはいえ、何だか俺も早く行きたくなった。

そのためにもしっかりと『マジカル・レーダー』とやらをマスターしないと――――

「あー、いたいた」

『「ッ!?」』

「こんなところにいたんだね。探しちゃったよ。お兄さん?」

街から外れた森の奥にいた俺たちの所へ、一人の男が……その手に……

「あんたは……」

「運が良かった。街に来た行商人が例のコーヒーを持っていてね……ほら」

そう言って、その男は手に持っていたコーヒーの瓶を俺に差し出して……

「さっ、カリーを作ろうじゃないか。お兄さん」

「ッ!? え、あ、いやいや、え!?」

そしてそのまま当たり前のように、俺にカリーとやらを作るのを提案……いやいやいや?!

その男は、道具屋の店長。

名は、スレイヤ。

『こやつ……何を……』

まさか突然現れ、更にこの間のカリーづくりの要素で俺が口にしたコーヒーを持ってきて、更にはそのまま一緒にカリーを作ろうと?

一体どういうことだ?

しかもそれだけではなく……

「あ~、みーつけた~」

『「は!? 今度は何だ?」』

「妹を泣かせる、最低最悪なお兄ちゃんをね♪」

俺もトレイナも状況がイマイチ理解できていない中で、更に第三者の声。

振り返るとそこには、海の上を見たことも無い若い女がプカプカと浮いている。

一体誰? いや、マジで誰?

「ん? あれ~? あれあれ? なんか……空気を読めない邪魔な男がいるかな?」

「…………これはまた……タイミング悪い……ボクの邪魔をするなんて……煩わしい女だね」

しかもその女、一瞬俺を見てニッコリしたかと思えば、すぐに俺の隣にいたスレイヤを見て、何だか刺々しい言葉をぶつけ、スレイヤもまた謎の女に無表情ながら不機嫌そうな言葉をぶつけ……

『あっ……』

そして、トレイナもなんか驚いているし、どーなってんだよ!