軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百四十二話 つよく

泣きじゃくるアマエを宥めていた。

「なぁ、泣くなよ。あ~、別にずっとお別れってわけじゃないんだ。ただ、しばらく……」

「うぅ、ぐすっ、しばらくっていつなの? 明日なの? ……あさってなの? ……もっとなの?」

「……そ、それは……」

言葉に詰まるとは、俺も情けねえな。

アマエにあまり難しい事情は説明できない。だからと言って軽はずみにいつまでとか約束が出来ない。

ましてや「すぐまた会える」とも言い切れない。

親父と母さんは俺と約束したことを破っても「次は必ず」とかって言ってたけど、その次なんて……

「……アマエ……泣くのはやめろ」

「大神官さま……」

「いつまでも子供のままでいるな」

「う~」

ちょ、ヤミディレ? テメエ、俺の妹に何をキツイこと言ってんだよ!

アマエはまだこんな子供なんだから……

「血の繋がった両親が居ない自分はかわいそうだから甘えてもいいなどと、いつまでも思うな?」

「……だいしんかん……さま?」

「何もお前が特別なわけではない。ツクシもカルイも他の娘たちも……いや、この世の至る所で……お前と同じ境遇で……それ以上に悲惨な人生を歩んでいる者は掃いて捨てるほどいる」

手綱を握って前を真っすぐ見ながら、俺の胸にしがみ付いているアマエに対して、あえて厳しい言葉をぶつけるヤミディレ。

その言葉が余計にアマエを抉る。

「お前が今まで好きにワガママ言って甘えられていたのは、お前が特別だったわけではない。両親を失ったばかりで物心ついていないお前を保護したマチョウが、ツクシが、カルイが、たまたま反吐が出るほどお人好しだっただけだ」

「あぅ……う……」

「この世はお前だけが特別甘えたりワガママが許されるほど優しい世界なわけではないのだ」

ヤミディレの言葉を、こんな小さく幼いアマエがどこまで理解できているか分からない。

でも、少なくともヤミディレが厳しい言葉を言っていることは伝わっているはずだ。

だって、アマエがこんなに震えている。

この暗黒女……後ろから蹴とばして落としてやろうか?

『童……』

『ッ……わーってるよ……』

トレイナが俺を諫めるように呟くが、俺も分かっている。

正直俺は、アマエをなるべく泣かせないよう慰めながら、保証できない約束で誤魔化すぐらいしか、アマエを説得することができない。

それは当然、アマエを俺と同じように可愛がっている、クロンも同じことだ。

このアマエを本当に説得するのであれば、やはりどうしても現実を教えてやらなくちゃいけない。

その結果、アマエがもっと泣くことになろうともだ。

そして、ヤミディレがその役目を自ら買って出たんだ。

「じゃあ……大神官さまも、女神さまも……おにーちゃんも……どっかいって、かえってこないの?」

「どこかへは行く。帰って来ないとは言わないが……簡単にすぐに帰ってくるとは言えない」

「うぅ、やーだー! やだ! いやなのー! アマエ置いていくのやだー!」

「それは無理だ。お前は連れて行かない」

「なんで! やー! みんないっしょじゃないといやああ! なんでアマエおいてっちゃうの!」

ついにアマエはしがみ付いていた俺から体を離し、体を反転させて馬を操っているヤミディレに背中から手を伸ばして前後に揺すった。

「アマエのこと……きらいになっちゃったの?! アマエは……いらない子なの?」

多分こんなことヤミディレにできる子なんて世界でアマエだけだろうな……

「なぜ、お前を置いていくのか? それはお前が小さな子供で弱いからだ」

「……こども……だから?」

「そうだ。事情があって私とクロン様はもう皆と一緒に住めなくなり、遠くへ行かなくてはならない。これからは、私もクロン様も……自分たちを守るだけで精一杯だ。お前のことまで守り切れん」

その言葉は、あまりにも当たり前な言葉過ぎて、だけど答えは結局それしかないんだ。

嫌いなわけではない。嫌いなはずがない。

だけど、何で皆と別れる? それは守り切れないから。

何でアマエを置いていく? 力のない小さく弱い子供だからだ。

そう、子供だから……

『俺も……』

『童?』

『そうハッキリと……本当なら……』

小さく弱い子供を泣かせないために。厳しい言葉は極力言わない。

俺がアマエを説得しようとしても、結局は親父や母さんが俺にしたみたいに「今度埋め合わせをする」、「次こそは―――」、「ほんとごめんな」とかそういう言葉しか言えなかった。

『そうだな。ただ可愛がって甘やかすだけなら、愛玩動物と変わらん』

『トレイナ?』

『時には怒り、状況によっては叩くことになろうとも、真剣に考えた上での言葉でなければな。だからヒイロもマアムも親としては未熟なのだ。まぁ、あいつら自身、自分たちが忙しくてまともな親でいることができないという負い目を自覚しているから……家出して好き放題する貴様を叱るよりも、謝ることを先に持っていこうとするのだ』

結局は俺もブーメランなんだろう。

「アマエ……ヤミディレの……大神官の言ってることは難しいか?」

「……おにーちゃん?」

俺もお兄ちゃんとしてはまだまだ未熟。それが分かり、苦笑しながらアマエをもう一度俺の腕の中に抱き寄せた。

「分からないなら、そのことがどういうことなのか分かるぐらい、お前も大きく、そして強くなんねーとな。いつまでも姉ちゃんやおじさんたちに甘えてんじゃなくて……いつかヤミディレやクロンが『アマエ、是非一緒に来てくれ』、『一緒に居てくれ』って頭下げるぐらいに成長したら……必ず皆がまた一緒に居られる」

「つよく? つよくなるの? ……おねーちゃんたちみたいに?」

「ああ。そしてもっとだ。ツクシの姉さんもマチョウさんも……今はもっともっと強く大きくなろうとしてる。皆でまた一緒になれるようにな。アマエ、お前は皆のその頑張る姿を見て、自分でも気づかなくちゃいけないんだ」

そうだ。マチョウさんやツクシの姉さん、そして道場の連中も、皆が別れの時にそう誓っていた。

その想いは必ずカクレテールに居る皆にも伝わっているはずだ。

モトリアージュたちだってその意思を受け取ってるはずだ。

だから、こんなちっちゃくて皆に甘えることを今まで許容されていたアマエにも……

「皆、そうなるために頑張ろうとしてるんだ。だから、アマエも頑張ろうぜ?」

「分かんない……でも……アマエが、おっきく、つよくなったら皆ずっと一緒? ほんとなの? アマエがつよくなればいいの?」

「強くなってくれよ、アマエ。皆が一緒に居ても何も心配いらなくなるぐらい。そうしたら俺だって必ずお前を頼る。『おにーちゃんはアマエが居ないとダメだ』なんつってな!」

もっと逞しくなってもらうためにも……

「俺も頑張るよ。もっと強くなる。クロンもだ。だろ?」

「もちろんです! アマエ、私もね、弱いのです。だから強くなるのです。大切なものを守るため。守れるようになるため。これから頑張らないといけないのです」

俺は精一杯の笑みをアマエに見せ、クロンにも声を掛け、クロンも当然だと頷いた。

「……おにーちゃん……女神さま……アマエは……うぅ……うぅ~……」

アマエは流石に全部を理解して納得したわけではない。

難しい顔して唸ってる。

しかし、その唸り声は悲しくて駄々こねていた今までとは違うもの。

「ゆっくり考えろ。お兄ちゃんもまだまだ弱くてアマエの望みを叶えてやれなくてゴメン……あと……うそついちゃって……ほんとにゴメンな」

「おにーちゃん……つよいのに……」

「もっと強くならなくちゃいけないんだ」

「うー、う~……うぅ~……もっとじゃないとダメなの?」

「ああ」

分からないなりに、アマエも一生懸命俺たちの言葉の意味を考えて唸っていた。