軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百二十四話 女神の気持ち

「ヤミディレ……パリピとの話は済んだ」

「なに?」

「そしてさっきの話の続きだ。あんたをここから外へ出すには……あんたの力を封じることになる」

パリピとの話を終えて、俺は改めてヤミディレに今後について話をする。

案の定、ヤミディレはジト目……いや、目は塞がれているからジト顔になるのか?

「おい、アース・ラガン……パリピのクズにどのように言い包められた?」

「いや、別に言い包められては……」

「奴ほど口八丁、出まかせ、嘘ハッタリ、そして裏切りを躊躇いなくできる者はおらん! 大体、奴がそういう奴だからこそ、この天空世界だって面倒なことになったのではないのか?!」

うん、正にその通りだわ。ほんと、あんな奴なんて何一つ信用できないし、奴の提案に乗る事には躊躇いが出ちまう。

だからこそ、悔しい。

奴は信用できないし頼りたくないが、他に選択肢がないからだ。

「クロン……」

「はい」

「こいつはこう言ってるが?」

「……ですね」

とはいえ、こいつを外に出すのは俺じゃない。

俺はクロンにそう尋ねると、クロンはプクッと頬を膨らませて、牢の中に居るヤミディレに叱った。

「んもう、ヤミディレ! わがままを言ってはいけません。確かに力を失うことはあなたにとっては耐え難いことかもしれません。しかし、このままでは……私……あなたと一緒にいることができないのです! 私はそれが一番嫌なのです」

「クロン様……し、しかし……」

「力なんてなくてもいい……私は……これからもヤミディレと一緒に居たいのです。傍に居て欲しいのです。いつか私がアースとの赤ちゃんを生んだら、ヤミディレにも抱っこして欲しいのです」

そう、クロンが求めているのは、六覇としてのヤミディレではなく、ましてや大神官としてのヤミディレでもなく、求めているのは……

「あ、あかちゃ……あか、ちゃ……あ……う、ああ……」

「だめ、空気を読むのよ、私……ハニーもここでツッコむ女はウザいと思うはず……素数を数えて落ち着かないと……いつか生まれてくる子供……娘ならサクラ、息子ならサスケという夢も今は私の心の中だけで……」

「坊ちゃまとの赤ちゃん……仮に産むのが私でなかったとしても……抱っこは私が……うぅ……」

なんか姫……もう物凄いフラフラしてゲッソリしてる……流石に心配になってきた……つか、こういう時こそ支えてやれよ、リヴァル。

シノブの動揺ぶりは、あいつの気持ちを知ってるだけに申し訳なく思う。つか、サクラ? サスケ? 何それ、まさか既に子供の名前を考え……?

で、サディスが何やら聞き捨てならないことを言っているような……

「クロン様……お気持ちは……しかし、私は力を失うということを簡単に受け入れることは出来ません」

「ヤミディレ!?」

「クロン様を狙うものは居るでしょう。暁光眼の存在を、そのルーツを知る者も今後増えて来るでしょう。そのとき、命を賭して守れる力が無くては……私は……」

ヤミディレの力。それは自分のためというよりは、全てはクロンのため。

クロンを守るためのもの。

その存在ゆえに、今後も何者かに狙われる可能性があるクロンを守るためにも、自分が力を失うわけにはいかないというのが、ヤミディレの想い。

そんなヤミディレの気持ちに対して、クロンは……

「では、私が強くなります! むしろ、ヤミディレを守ってあげられるぐらい、私が強くなります!」

「……は……はい?」

そう、こう言う。

「ヤミディレが安心していられるような……ヤミディレが命を張らなくてもいいぐらい……私は強くなってみせます。だから、そんなこと言わないでください」

「いえ、クロン様、何を仰いますか! 真に大切で、世界に必要なのはクロン様です! 私を守るなど恐れ多い! 私なんぞにそのような想いを抱く必要は―――」

「世界ではなく、私にヤミディレが必要なのです! 私がヤミディレを大切なのです! たとえあなたがどういう人生を送り、私に対してどんな想いを抱いていようとも……私があなたと一緒に居たいのです!」

強く、そして心が成長している今のクロンならばこう言う。

「どうして……そこまで、クロン様が私などのために……」

とはいえ、この期に及んでヤミディレもまだこういうことを言う。

本当に面倒な女だ。

「ったく……あんたもいい加減にしろよ、ヤミディレ」

「アース・ラガン……どういうことだ?」

「あんたにはあんたの企みがあってクロンをここまで大切にしてきたのかもしれねーが……少しはクロンの気持ちも……人の気持ちを理解しろ。鈍感すぎるのも酷いぜ?」

あまりにも鈍感なヤミディレに俺は―――

『……貴様……』

「「「「……アース(坊ちゃま)……」」」」

あれえ? 何でそこで師匠も姫たちも皆して「お前が言うか?」みたいな顔をしてんだ?

いやいや、俺は鈍感じゃねえ。

ちゃんと、クロンやシノブの俺に対する想いを理解して向き合ってるし……

「アースの言う通りです、ヤミディレ。私の気持ちもちゃんと分かってください」

「クロン様……」

「だってあなたは……私にとって……私を育ててくれた……ずっと一緒に居てくれた……家族で―――」

「ッ!?」

それは、ヤミディレ自身はまったくそんなつもりで接していなかったかもしれない。

トレイナへの歪んだ想いから作り出したのがクロンであり、そんなクロンに対してヤミディレは従者や忠臣のようなつもりで接していたのかもしれない。

だが、それでもクロンは……

「あなたは……私の……私にとっては……」

その時、クロンは拳をギュッと握り、少し躊躇いがちに、少し照れたように、そして瞳に涙が徐々に溢れ出す中で、あることを言おうとしている。

――本当の気持ち……本当は呼びたかった呼び方……いっぱいいっぱいあったのに……結局私は何も伝えられませんでした!

それは、ヤミディレが連れ去られて、後悔したクロンが吐露したあの時からの想い。

それを言うために、言いたくて、クロンはここまで来たのだ。

「私の……お母さん……だから」

「……な……え……?」

それがずっとクロンが抱いていたヤミディレに対する嘘偽りのない気持ち。

たとえ、世界がそれを許さなくても。

「ふふふ……」

「王子? どーしたんだ?」

「いや、僕も初耳だったから……でも……驚きと同時に……不謹慎だが微笑ましく思ったんだよ、坊や」

驚愕して言葉を失っているヤミディレ。その一部始終を見ていた王子はクロンに温かい笑みを向けていた。

「あの子は……作られた人形だと……そう聞かされていた僕がやはり間違っていた。たとえ、その人が人からどう思われるような人であろうとも……子供にとって親は親……大切なんだよね……あの子は……僕と変わらない……」

「そうかい。まっ、家庭の事情は人それぞれだろうけどな……」

自分の親を想う気持ちとクロンを重ねているのか、普通はヤミディレのような罪人を「母」と呼ぶことには驚くところだろうが、王子はむしろクロンに共感したようで笑っていた。

俺は……どうなんだろうな……

「とりあえず、僕も約束は守ろう。ヤミディレが力を失うのなら……命に誓って今後天空世界が彼女たちに手を出さぬよう尽力する……ヤミディレの過去の罪を許すわけではないが……君への恩がある。もう二度と彼女たちに関わらないようにする」

「ああ……まぁ、そうしてやってくれ」

「で、君たちの今後だが……とりあえず、全員あの島に送ればいいのかい? それとも、あのみにく……ファニーな顔をした竜の背に乗って帰るのかい? できれば、宴などとも考えたが、そんな状況や空気でもないしね……父もまだ意識不明だし……」

まだ話はまとまっていないが、もう大丈夫だろうと判断したのか、王子が俺に今後について尋ねて来る。

そう、ここは天空世界。帰るにしても、気軽に帰れるわけではない。

行きはヒルアに乗って来れたが……

「ヒルアにはちょっと、ある場所までクロンとヤミディレを送ってもらいたい……俺もその途中で降ろしてもらいたいし……皆はあんたたちで送ってくれ」

「そうか……」

「俺たち三人は……カクレテールには戻らねえよ」

いずれにせよ、俺の親子に関する問題はまだ解決しない……ってか、俺自身にもそのつもりも……ん?

何か忘れてるような……

そう、そのことをこの時点で思い出していれば、違う選択肢も模索していたかもしれない。

その時、俺は……地上のカクレテールで……

「ふふ~ん♪ お掃除ふきふき……キレイキレイ!」

「おっ、えらいな~。お前さん、掃除してんのかい?」

親父と母さんが来ているということや、ヤミディレとクロンのことやパリピのことで頭がいっぱいになっていて……

「ん! いい子にしてるの! お手伝いもいっぱいするの! いい子にしてたら、みんなすぐに帰ってくるっておしえてもらったから!」

鼻歌交じりで俺たち「全員」の帰りを待っている小さな子供のことをスッカリ忘れていた。

「おねーちゃん、おじさん、女神さま、大神官さま……おにーちゃん! みんなはやくかえってこないかな~♪」

だからこそ、俺も思い知ることになるんだ。

俺に、親父や母さんのことを文句言う資格なんてなかったのかもしれないと。

俺だって同じことを――――――