軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百十六話 幕間(最低悪魔)

ムカつくクソガキ。

それなりに警戒はしているが、単純な身体能力ならこれぐらいのレベル、かつての乱世には結構居た。

引き裂くことは容易いもんだ。

だが、このガキは色々と気になる謎を持っている。

本当にパナイ訳が分からず、そしてオレの好奇心が疼く。

さあ、どうするか?

まあ、抉って、運良く生きていたら考えるか!

「ヒハハハハハハ!」

いずれにせよ、このガキが必死こいて身に着けた体術も足さばきも、確かに高いレベルだが、オレには通用しねえ!

こいつの技で気にするべきは、大魔螺旋。

だが、ブレイクスルーを使っていたことで、こいつの魔力はもうほとんどねえ。

あとは、オレには通用しないとはいえ、『フットワーク』、『衝撃波』と、やぶれかぶれの『ラッキーパンチ』や『カウンターパンチ』だけを気を付ければいい。

特に、パンチも当たり所によっては、オレ様といえどもちょいとダメージをくらうことになる。

このガキはオレの毒爪にビビッて接近戦をやろうとはしねーが、いよいよ追い詰められたらやってくるだろうからな。

「そいやぁ、ふっとべや!」

「がはっ!?」

「どうよ、オレの足技は!」

オレの爪ばかり気にして、オレの蹴りに対応できてねえ。

後ろ回し蹴りなんて大振りな技をくらっちまうのがその証拠。

激しくぶっ飛ばされていきやがる。

そして、そうやって地面を転がったなら……トドメ!

「終わりだ! ヒハハハハ、死ね!」

これまでだ。多少手こずったが、ようやく抉れる!

ふっとばされて転がったガキに、オレの爪を突き刺して―――

「つ、土属魔法・キロアースウォール!」

「往生際! 足掻き! しゃらくせえ!」

転がりながらも地面に手をかざして、土の壁を出しやがった。

もう残り僅かな魔力でも、まだ足掻くか?

だが、所詮はキロ級。オレには紙屑みてぇなもん。

せーぜい、オレの視界を覆うぐらい……ん?

「ヒハハハハハ、まとめて正面からぶっ壊してやる!」

あ~、なるほどね。それが狙いか?

オレの視界を奪い、壁の向こうで身構えて、壁をブチ破ってそのまま突進してくるオレにカウンターを叩き込む算段か?

壁が壊れると同時にオレに向かって破れかぶれのカウンター?

まっ、それしかねーよな。

それなら魔法でふっとばす? だけど、さっきハシャぎすぎて、ぶっちゃけオレ自身もまた、残りの魔力が微妙。

残りの連中を皆殺しにするのは楽勝だが、外で待機中の天使たちが乱入してきた時を考えて、魔力は少し温存しておくか。

それに、このガキの力も大体わかったし、面倒なことしないで正面から叩きふせりゃいいか!

壁を壊し、そこでワンテンポ置いて、むしろガキが破れかぶれで飛び出すのをオレが迎え撃つ。

カウンターパンチャーをあえてフェイクで引っかけて、先に奴が無防備に体を投げ出してきた瞬間、絶望に叩き落してやるか!

最後の小賢しい戦略も希望など一切ないとその身に叩き込むかのように!

「おるああ!」

そうと決まれば、まずは紙くず同然の土壁を力任せにぶち壊し、その壁の向こうから……

「ヒハハハ、さあ来なさい? だが全て叩き……は?」

壁を壊し、「さあ、飛び出してこい」とオレは両手を突き出してパンチを受け止める体勢で身構えていた。

だが、壁の向こうから飛び出してきたのは……

「……え?」

そこに居たのは……懐かしき……そしてオレの因縁の一人でもある……勇者……

「ヒ……ヒイロ? いや……ッ!?」

ヒイロ……じゃない!

ヒイロのような馬鹿らしくなるぐらい強力無比で膨大な魔力ってわけでも、圧倒的な剣気を放っているわけでもない。

それなのに、一瞬見間違えた。

それほどまでに、ヒイロの面影を感じさせるガキが……

「うおおおおおおおおおお!」

拳ではなく……剣を逆手に持って構えているガキが……飛び出し……横一線に薙ぎ払うかのように……

「これが俺の生涯最後の魔法剣! ファイナル・サンダースラッシュ!」

「そ……その技は!?」

魔法こそはヒイロには及ばねえ。剣の威力だって。

だが、この場で魔法剣!?

拳じゃねえのか!?

パンチじゃねえのか!?

いや、確かに情報では御前試合の前まではこいつは魔法剣士という情報だったけども!

それでも、今この状況でこのガキが魔法剣を振るうなんて完全な予想外。

無防備に晒されていたオレの両手首から先を……

「なっ、う、お、な、なにいいいいい!?」

バカな! な、熱、痛、き、斬った!? オレの両手を!? 再生、いや、魔力が、すぐには……なんで?!

「あ……あの技は! ヒイロ殿の……そして、アースの!」

「アースが……ここで……剣を!」

「でも、でも! やった! アースの剣が……六覇の手を!」

「ハニーッ!」

「すごい……アース!」

あ……うる、せえ……ガキどもが、何を驚いて……いや、そうだ。

あのガキどもだって驚いているんだ。

幼馴染だったというガキどもや、最近までこのガキと一緒に居たあの人形たちも驚いている。

つまり、オレも含めてこの場に居る誰もが、このガキがこの場で魔法剣を使うなんて予想外だった。

だから、やられた!

「思考の死角、突かせてもらったぞ!」

「こ、この、ガキイイ! つか、剣なんて、ど、どこに……ッ!」

「両手はすぐに再生できねーん『だって』な?」

ガキが持ってる剣は、あ~、そうだ、オレが蹴散らした雑魚共の一人が使ってた剣。

オレにぶっ飛ばされて床に転がってた……このガキ、オレにぶっ飛ばされた先に「たまたま」転がっていた剣を拾って、この土壇場で魔法剣を!?

思考の死角? 確かに、今のはオレもまったくの予想外で、むしろ驚きのあまり反応できなかった。

警戒すべきは、ガキの足さばきとカウンターパンチのみとしか頭に入れてなかったから……

「はあ、はあ、はあ……ど、どうだ……どうだコラァァァァ!! やってやったぞ!」

しかし、だからと言って、オレの両手を斬りおとせるか?

確か、報告によればこのガキの魔法剣の力は二流。

剣技はさっき蹴散らした姫や剣聖二世にも劣るはず。

でも今のは、間違いなくあの二人よりも遥かに強かったぞ!

咄嗟では、オレでも対応できなかったほどに!

「今の戦い方を身に着けて、半年。だけど俺は魔法剣だけは10年以上努力してきた」

「あ゛ん゛?」

「しかし、そんなある日、『あいつ』は教えてくれた。俺に魔法剣は合っていない。俺がこれからどれだけ努力をしても、俺では親父を超えることはできない」

そして、なんだ?

不意を突いたとはいえ、六覇であるオレの手を魔法剣で斬り落とすなんて大偉業を成し遂げながらも、このガキは急に……いや……その話は確か……以前……

「その話……おい、リヴァル! 確か、御前試合で……」

「アースが……俺との試合で言っていたことだ……」

「あのとき、あんなことになって結局分からなかったけど……そういえば……誰なの? 誰がそんなことを?」

「あら、ハニーは元々魔法剣士だったの?」

「まぁ! そうだったのですか?」

そうだ。オレも魔水晶を通じて覗き見ていた御前試合で、あのガキがそんなことを言っていた……そうだよ……誰の事だ?

そしてそれは、あの二世のガキどもも知らない?

だから、ヒイロたちも知らないってことで……そいつがこいつに魔法剣を諦めさせ……今の戦闘スタイルに……

「っ……坊ちゃま……お見事です……そして……これが最後なのですね……」

「あっ……サディス、目を覚ましたか?」

「ええ、姫様……ご心配を……」

「ああ、それより、サディス……アースのことだが……お前は……何か知っているのか?」

「……ええ……一応……聞いてはいます」

「なに?」

気を失っていたメイドが目を覚ましたようだが、あのメイドだけは何かを知っているようだな。

「俺は10年間も俺に合わない努力をしてきた。でもな、『あいつ』は『今』俺にこうも言ってくれた」

分からねえ。一体誰が? 他の六覇じゃねえ。なら誰が?

「俺の魔法剣では親父は超えられねえ。それでも、俺の10年間は全くの無駄だったわけではない……って……今日……今この瞬間に繋がったんだ!」

こいつ、よっぽど興奮しているからか、ベラベラ喋ってるが……いや、今はオレの手の方が……ダメだ、どうする? 落ち着け……この程度のことで狼狽えるんじゃねえ……とりあえず、距離を……

「俺の十年が、親父たちのかつてのライバルだった六覇に一矢報いることができた。それだけでもう十分だ! そして、これが俺の決別の剣! そしてここから先は、俺の道! さあ、ケリを着けてやるぞ!」

そしてこのガキ、このまま剣でオレを倒すというわけではなく、床に剣を置いて拳を構えやがった。

こいつ、ここからは素手で……オレの毒爪も無くなったことで……

「ヒハハハ、確かに驚いたが……調子に乗んな! 両手を斬り落としたぐらいでどうした! 毒爪にビビる必要なくなったからか? だが、テメエももう魔力が完全にすっからかんになったろう? ブレイクスルーも使えない今のテメエにオレは―――」

「す~、ふん!」

「……は?」

今……深呼吸みたいなことをガキがしたら……すっからかんに見えたガキの魔力が……え?

い、いやいやいやいや!?

「なっ?! ま、魔力が回復……なん……ま、まさか!? まさか、魔呼吸だとッ!?」

「くははははは、ようやく見せてもらったぜ、テメエの驚いたツラをな! だが、もうこっから先は遠慮なくやらせてもらうぞ! ブレイクスルーッ!!」

離そうと思っていた距離が、一瞬で詰められた!

マジで魔力が回復してブレイクスルーを使えてやがる!

おい、これはマジでどうなっている! 魔呼吸だと!?

魔呼吸は大魔螺旋同様に、姉御にもできねえ!

魔法というより身体の技術! だから、紋章眼でもコピーできないと言っていた!

なのに、何でこのガキはできる!?

ほぼ無尽蔵に魔法を放つことができるというチート技。

誰だ!?

誰が教えた!?

「いくぞゴラあああああ!」

それこそ、大魔王様に直接師事でもしない限り、絶対に誰も――――

大魔王様……?

「ま、さか……」

いや、オレは何を変なことを……この状況で。

だが、オレの頭の中に過った「まさか」がオレをこれ以上ないほど動揺させる。

大魔王様は死んだ。それは間違いないはずだ。

しかし、もし……?

何でだ? そんなことは、ありえねえはず。なのに、そのありえねえことさえ無視すれば、全ての辻褄が合っちまう。

このガキがオレのことを知らないはずなのに、オレの毒爪を警戒したりっていうのも……

「なぁ……アースく―――」

「大魔ハートブレイクショット!!」

「ぶぴゅっ……ぱ……が……」

「大魔ソーラプレキサスブロー!」

「カッ……」

「さんっざん、蹴ってくれたなテメエ!」

心臓と……鳩尾に……ヤバい……しかも……これ以上ないってぐらいのタイミングと角度と威力を……

「大魔スマッシュッ!!!!」

「が……ま、て……人の話しを……」

「テメエの話なんざ、何一つ耳を貸す必要ねーんだよ!」

「い、や、マジで……だいじな……はな……し」

「知るか! ちゃんと話を聞いてもらえないのは、全部……」

そして顎……まずい……こいつ、これだけの強力な連打を全てオレの急所に……

「全部テメエの所為だアアアアアアア!」

まずい。オレも多少なりともタフさには自信あった。

戦争知らねえガキや雑魚共の攻撃なんていくらくらっても倒れねえ自信はあった。

だが、このレベルの拳を全部急所に直接叩き込まれたら流石にマズい。

しかも、今のオレは両手がねえから防御が出来ねえ。

こいつの足さばきに翻弄されて動きが先読みできねえから、回避もできねえ。

つか、心臓、鳩尾、顎の一撃で痺れて動かねえし!

確かに、このファイトスタイルの方が魔法剣よりも厄介だ。

「大魔ラッシュッ!!」

やはり、このガキは必要だ!

このガキには何かがある。

そして、こいつは絶対に……退屈だったこの世界と時代を面白くしてくれる。

このガキを殺すわけにはいかねえ……見てみてぇ!

このガキが何をするのかをオレもその行く末を―――