軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七十四話 花

「嗚呼、ぼ、坊ちゃまが……坊ちゃまの腕が……」

普段は厳しいくせに、俺が熱で寝込んだり、怪我をしたりしたときは物凄い慌ててしまうなど、サディスはかなりの過保護だ。

そういう時は、サディス甘やかしモードになるのだが……今の俺はそれに甘えられないわけで……

「とと、とりあえず肩をハメて、腕を固定し……嗚呼、私の……いえ、もう私のではなくともそれでも坊ちゃまが……」

「いいから、回復呪文してくれ。その方が治りは早いからよ」

『骨折や脱臼は本来なら魔法で無理やり治すよりは時間をかけて、周囲の筋肉をつけて治すほうが今後の予防にもなるが……まぁ、今は仕方ないか』

「う~、こんな無茶を……一体どこのどいつです……こんな無茶で無謀な作戦を考えた外道は……」

「ははは……」

『ぬ……や、ヤミディレ相手に左腕一本なら安いものだ……』

サディスに寄り添われながら、もう痛覚もあまり感じない左腕の治療にあたるため、その場に腰を降ろす。

その最中、俺たちは倒れているヤミディレを優しく介抱するクロンを見守っていた。

「クロン様……なにを……もう、いいとは……今、アース・ラガンと子作りをしないと……」

「ええ。ですが、アースにはアースの意思があります。それを強制はできないと思います」

「しかし!」

「でも、アースも絶対ヤダとは言っていません。文通からならと言ってくださっています。だから、私、アースとはお友達から始めて、いっぱいラブレターを書きます。そうやって好きになってもらいます」

本来の男と女が親密になるにあたっての手順。クロンはそう言ってヤミディレを説得しようとする。

だが、そんなノンキな言葉に納得するヤミディレではない。

「何を……そんな悠長なことを! それにはどれだけの時間がかかることか……文通など……」

「まぁ、そうなのですか? 時間がかかる……ですか……ん~、ねぇ、アース。文通から始めて順調に進める場合、他にどのような過程、そして子作りするまでにはどれだけの時間がかかるのですか?」

そして、クロンも実際には「そこ」に至るまでがどれだけのことか分かっていない様子。

男と女が文通から始めてどうやって、どれぐらいの時間で子作りまでいく? そんなの、俺も知りたいわ!

まぁ、俺がイメージしているものだと……

「いや、さあ……えっと、アレだ。文通とか交換日記から始めて……デートしたり……ショッピングとか、美術館とか、劇を見に行ったり……お揃いのアクセサリーを買ったり……お弁当を作ってもらってピクニックに行ったり……あ~んとかしたり……膝枕してもらったり……寒い日には腕を組んだり、長いマフラーで二人の首を一緒に巻いたり……二人の相合傘を掘った錠をどこかに付けたり……そういうのを経て、相手に好きって告白を……」

「「「「え!? それって、その時点でもまだ付き合う前の話!?」」」」

うおっ、びっくりした!? 俺がクロンに俺の考える男女の進展の仕方を説明していたら、いきなり周りの連中まで急にツッコミ入れてきやがった。

しかも、ツクシの姉さんやカルイたちまで!?

何でだよ。俺、なんか変なことを言ったか?

「そ、そうだよ。そこから告白……その……伝説の木の下とか……告白して成功したカップルはずっと幸せになれるという場所……それを経てから恋人になるのが、本来の理想なはずだ!」

「「「「……………………」」」」

「な、なんだよ、皆して! あっ、そっか……鎖国国家だから文化が違うのか?」

『「いやいやいや…………」』

あれ? 今、トレイナとヤミディレも同時にツッコミしたような……サディスだけは「うんうん」と安心したように頷いているけど……

「なんて素敵なのです! 私、そんな理想を経て、恋人というものになりたいです!」

「お、おお、そうか?」

「はい! 伝説の木というものがどこにあるかは知りませんが、私、頑張ります!」

でも、クロンだけは目を輝かせて頷いてくれた。

「ヤミディレ、私、きっとそんな関係をアースと……」

「それでは時間がかかり過ぎるのです! そんな悠長なことを……だいたい、アース・ラガンはこのままではこの国から出ていくのですぞ!」

「文通します!」

「文通って……この国は鎖国国家ですから、他国から郵便物は届きません!」

「あっ……う~ん……そうだ! 魔水晶を使って毎日お話するのはどうでしょうか?」

「ですから、そんなまだるっこしいことしなくても、今、押し倒して固定してまぐわった方がと!」

まぁ、クロン自身が納得してくれても、ヤミディレはやはりまだ納得しない様子。

とはいえ、俺の時は「ふざけるな、殺すぞ」みたいな感じだったが、やはり相手がクロンでは怒鳴り散らすことができない様子で、むしろクロンのペースに押されている感じだ。

「あの~、大神官様……一体……何を焦っていらっしゃるのですか?」

と、そこで助け舟というわけではないが、見かねたツクシの姉さんが二人に割って入った。

「私も今回の大会の優勝者に与えられる名誉ある役目は知ってました……私は自分のことしか考えていなかったから、マチョウさんにだけは優勝してほしくないとだけ考えて……でも……次代の神の創生に関して、アースくんと女神様が互いにそれで納得されてるなら……今すぐじゃなくても……許嫁みたいな関係でもいいんじゃないかな……って思ったりもするんですけど……」

運命とか使命とかではなく、普通の恋愛を両方が納得しているのであれば、今すぐではなくも……と、恋する乙女のツクシの姉さんらしい意見だった。

そして、ツクシの姉さんの言葉に確かに俺も気になった。

ヤミディレは焦っている……ということだ。

そしてその言葉を聞いて頭を過るのは、今ここには居ない、ワチャのこと。

ひょっとしたら何か……

「そうだね。まだ、蕾な女の子……その花を無理やり咲かせて散らすのは感心しないし……そこの坊やの恋愛観も可愛いじゃないか。僕も二人の意見を尊重するべきと思うよ?」

「「「「「ッッッ!!!???」」」」」

そして、新たに聞こえたその声は……俺たちの輪の中から聞こえた言葉ではなかった。

聞いたことのない声。皆と一緒に声が聞こえた方へ振り返った。

すると、そこには……誰か……?

「少なくとも、あなたはもう枯れた花。いつまでも放置されているべきではない。花畑に害をもたらすからね」

俺とヤミディレの戦いで荒れた地に転がる大岩の上に座って、俺たちを見下ろしている謎の人物。

淡い金色の髪。特に長いわけではないが、目にかかる程度の前髪を気障ったらしく手でかき上げて微笑む。

白い肌。手足が細く、そして長い。

「ねえ? 先王が処理しなかった……負の花……地上のためにも、世界のためにも回収しないとね」

立ち上がった時、そのスラッとした……なんというか……人って生まれながらに平等じゃねーんだなと思うぐらいのスラッとした身長……そしてその端正すぎる顔立ちは? つか、まつ毛も長!?

白を基調としたマントのようなローブを羽織り、その腰元には神聖さを感じさせる仰々しい剣。

だが、それよりも目に行くのは、やはりその人物の顔。

正直、イケメンという存在は俺もこれまで何人か見たことある。リヴァルとかそういう部類だ。

ヨーセイ? アレはカス。

でも、クールなナイト感が漂うリヴァルと違って、こいつは……

「へ……?」

「だれ?」

「はふ……」

「まぁ……」

「イケメ……」

「こんなカッコイイ人……生まれて初めて見た」

もう何か、ほとんどのシスターやら女たちが顔を「ぽー」っとさせて頬を赤くしてる。

まるで物語に出てくる……貴公子? いや、王子様……そんな感じだ。

「ふふふ、おやおや、ありがとう。君たちも可憐だよ。その花を……僕の前でだけ咲かせてくれたら、とても嬉しいな」

「「「「ッッッ!!??」」」」

うわ~……たぶん今……この場に居る男は全員思っただろうな……こいつ、死んでくんね~かな~って。

つか、女に向かってウインクしてるやつを見て、ここまでイラっと来たの初めてだ。

まぁ、一部……

「……ぽきっておれそう……」

「ちょ、アマエ!? 失礼っしょ!? まぁ、ちょっと気障っすけど……姉貴は?」

「私はマッチョの方が……」

とりあえず、この三姉妹は好みでない様子。

「坊ちゃま……あの、どこかの劇団員のような人物、見たことはありませんが……」

「ああ」

で、サディスは見惚れてなくて心の中でちょっと「ホッ」。

とはいえ、只者では無さそうだ。

『この感じ……』

そして、トレイナが現れた人物を見て、何か気付いた様子。一体……

「誰だ貴様は……それに……この……感じるものは……? ……まさか……貴様!」

「あら、どちら様ですか? とっても綺麗なお顔をしていますが……見たことがありませんね」

「ッ、クロン様! お下がりくだ―――」

何かに気づいたのは、ヤミディレも同じ様子。

睨みつけ、しかし次の瞬間には驚いたように目を見開いた。

慌てて、クロンを遠ざけようとした……が……

「あなたの……遠い後輩にして……」

「ッ!?」

「あなたと同じ瞳を持ち……」

その人物、微笑みながら瞳に力を入れると、急に発光して、見覚えのある紋様が目に浮かび……

「って、アレは!?」

『……紋章眼……』

その瞳は紛れもなく、ついさっきまで戦っていた紋章眼。

「そして……ダディ……いや……新たなる天空王の命により、あなたを捕まえに来た……」

「なっ……ばかな……こんなに早く!?」

「そう、僕は……僕たちは―――」

そして、その人物が手を上げた瞬間、俺たちはようやく気付いた。

上空に不自然な形の巨大な大雲が俺たちを見下ろし、その雲から……

「な、なん……あれは?」

「天使……?」

「………うそ……」

「ペガサス?」

白い翼を羽ばたかせた、美しさと凛々しさを持った女たち。

「ふふふ、僕の可愛い小鳥たちも来たようだね」

まるで、神話や御伽噺の「戦乙女」という言葉が真っ先に浮かびそうな甲冑を纏った女たちが次々と上空からこちらへ向かってきていた。

しかもだいぶ慌てている感じで、「お待ちくださいー」とか「勝手に一人で行かないでください~」とかって叫んでいる女たちの声が聞こえる。

「急に結界が解かれて入ってみれば……どういう経緯であなたがこうなっているのか……少し肩透かしをくらったけれど、使命は果たさせてもらおうか? 先輩」

そして、目の前のこいつもまた、そう言った瞬間に背中からバサッと白い翼を出現させた。

人間じゃない?

突然現れ、突然押し寄せるこの事態に、ほとんどの者が呆然としたり、ただ見惚れていたり、とにかく皆が言葉を失っていた。

え……? いや、マジで何?