軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七十二話 出し切らせる

ここで、試してやる。

俺にはこの不利な環境でも、俺は自分を示すことが出来るかどうか。

「おのれええええ……と、ここで天変地異を起こすような大呪文を使ったら貴様の思うつぼになるわけか……フー、フー、フー……くそ、首の骨をへし折りたい……が……とにかく、すぐにその首を絞め落としてくれる!!」

「はあ、はあ……来てみやがれ……」

顔を真っ赤にして激怒しながらも、これも集中力を乱したり、魔力を使わせる俺の作戦なのだと勝手に思い込んだヤミディレは、何度も深呼吸をしながら落ち着こうとしている。

ある意味ラッキーだった。

「ふん。使い物にならなくなった左腕……フットワークも使えない……警戒するのは右手一本! そんな状態で何をする!」

「いくぜ……」

「破れかぶれで、大魔螺旋? そんなものが私に通用するとでも……」

俺にトドメを刺すために向かってくるヤミディレ。対して俺は……

「土属呪文・メガロード!」

しゃがんで右手で泥だらけの大地に手を当てて魔力を流す。

そして……

「……は? メガ級? そんなもの、ただ大地を僅かにコントロールして少し舗装する程度の……ん? あ……」

土属呪文。強烈なものなら、大地に地割れを起こしたり、地震を起こしたり、時には大穴を開けたり、山のように巨大な土壁を作ることができる。

とはいえ、俺はそこまではできない。

今の魔法も、せいぜい、足元に土の量を増やして足場を整える程度……そう……足場を整える……それでいいんだ。

「……な、なにい!? あ……足場ッ!?」

『そうだ、童。初めてのトレーニングで教えたように……貴様は『土属性』に長けている。それは何も、土属性魔法で攻撃しろということではない。立つべき大地が無ければ、……その手で創れ!』

俺の周囲の泥と水でぐちゃぐちゃになっていたものが、元に戻り……これで十分だ!

「いくぜ、大魔・アース・ミスディレクション・シャッフル!」

「きさ、まあああ! また小細工を……なら、今度は貴様の魔法程度では修復不可能なほど大地に……いや! ここで魔法を使ってしまえば……」

ヤミディレが激怒して再び大地を破壊しようとするが、その手を慌てて止める。

そう、それだけの魔力を使ってしまえば……それが一瞬頭を過ったのだろう。

だが、そんな瞬間を逃す俺じゃない。

「大魔グースステップ!」

「ぬっ!?」

むしろ俺から間合いを詰めて……

「くっ……よかろう、かかって来い!」

ここまでくれば、流石のヤミディレもさっきまでの攻防が頭を過るはず。

俺が次にどんなフットワークを踏むか……

「大魔よそ見」

「……は? ……ッ!?」

だからこそ、あえてフットワークを踏まずにべた足でよそ見。

これは完全にヤミディレも予想外だったようで、まんまと引っかかり……

「大魔ライトジャブ」

「し、しま……ッ!?」

左手が使えない。だからと言って、よそ見をしたとはいえヤミディレに、右のフルスイングまで流石に当てられるほど甘くない。大魔螺旋をタメている暇もない。

必然的に俺は、サウスポーにスイッチして、右のショートジャブをヤミディレの顎に当ててやった。

「あ……かっ……っ……」

次の瞬間、意識は断てずとも、ヤミディレはその場で地に膝をついた。

俺、女の顔を殴っ……それは後だ!

「はあ、はあ……どうだオラァァァァ!!」

俺の拳が、あの六覇を相手に片膝をつかせた瞬間だった。

そして……

「貴様……」

「そして……大魔螺旋!」

「ッ!?」

「これで終わらせてやる、ヤミディレ!」

目の前で膝を付いて、まだ立てないヤミディレ。この隙に俺は大魔螺旋を解放。

右腕に全部ぶち込むぐらいの螺旋を造り、回転させ、唸らせる!

もう衝撃波じゃねえ。直接叩き込む。

『構うな! 突き刺せ! 死にはしないが、十分戦闘不能にできる!』

殺すとか、殺さないとか、命がどうとかは今はもう考えている場合じゃない。

ただ、俺のありったけを今ここに!

「アース・スパイラル・ブレイクゥゥゥゥッッッ!!!!」

「ウアアアアアア、ブレイクスルウウウ!!」

俺が掲げた巨大な螺旋をヤミディレに叩き込もうとした瞬間、寸前でヤミディレがブレイクスルーと紋章眼を発動した。

「クアアアアアアアアアアッ!!」

そして、轟音立てて突き立てようとした俺の螺旋に両手を突き出して、力づくで受け止めようとする。

「な、にい!? ジタバタすんな! ……ッ……のぉ……ふっとべえええええええ!!!!」

「飛ぶかああああ! 我は神に選ばれし六人の将! 我は暗黒戦乙女ヤミディレ! 六覇の魔将を何だと思っているッ!!」

交錯する俺とヤミディレの咆哮。あと一歩だ。あと少しで押し切れる。

『あと一歩……そう、まだ……これからだ。貴様は存分にあと一歩まで迫った』

「テラ……いや……もう魔力が……ええい、ギガスパーーーーーークゥゥゥゥゥ!!!!」

「っ……っそがああああ!」

空が破裂したかのような雷轟は、俺の螺旋の轟音を軽くかき消した。

だが、分かる。

ヤミディレもまた、振り絞った。

世界の歴史に名を残すほどの傑物が、俺相手に残っているもの全てを振り絞った。

その結末は……

「あっ……」

「はあ、はあ……」

相殺。

ヤミディレのブレイクスルーによる防御と、放ったギガ級の雷、二つが俺の大魔螺旋を砕いた。

押し切れなかった。

あと一歩。

だけど……

「っ……ぐっ……魔力を全部……っ、目も……だが……」

ヤミディレが今度は両膝をついた。

そう、文字通りヤミディレは出し切ったんだ。魔力を。

だがそれでも……

「それでも貴様を落とす体力ぐらいは残っているッ!!」

俺も魔力を出し切ったが、魔呼吸で回復できる。

しかし、そこでヤミディレが俺にその時間を与えないようにと、飛び掛かってきた。

「ったく……やっぱとんでもねー奴だよ……あんた」

俺に体重をかけて押し倒し、上になり、俺の脇の下から腕を回して両腕でガッチリと首を絞め、地面に抑え込んでくる。

「魔極真アーム・トライアングル・チョーク!」

「つお、ご、おおお、おご!」

「肩固めとも言うが……このまま落ちろぉぉ!!」

「はぐっ、が、が」

「ジタバタしても無駄だ。この体勢では『私の身体に触れられても』、パンチは何も打てまい!」

頸動脈をしっかりと絞められてすぐに呼吸と意識が……関節技か……組まれたらパンチも難しいし、今後の課題だな。

『ああ……そして、少し当初の予定とは変わったが……この体勢でも構わない』

地面に抑えつけられて、もがく俺の頭の上でトレイナが頷きながら腰を少し曲げて……

『例の物は?』

『危なかったけど……ずっと握りしめてたこの右手の中に……』

『そうか……では、ココだ』

そう言って、トレイナが俺の右手が何とか届くヤミディレの身体のある一部を指さす。

そこを狙えと言っているのだ。

「わ……り……な……ディレ」

「なんだ? 何を言っている?」

すまんな、ヤミディレ。

最初は二対一。

途中は一対一。

そして最後は結局二対一だ。

本当なら、あんたが勝っていた。

あんたの方が強かった。

そもそも、あんたが俺を「殺す気」だったら、もっと早く終わっていた。

俺を「殺さないように」という手加減が、あんたをここまで追いつめた。

俺もまだまだ強くなる。

でも、今は……負けてこの国にいつまでも居るわけにはいかないし、クロンと子作りもな……だから……ここであんたに戦闘不能になってもらって、俺は行く。

もちろん、俺があんたに勝っただなんて言わねえし、そんなこと微塵も思わないから。

「わる……いな」

「ッ!?」

そして俺は、右手に握っていたものを、ヤミディレの肩のある箇所を『突き刺した』。

「っ、なに……? 針……? 貴様、こんなものを隠し持って……」

そう、針だ。隠し持っていた針をヤミディレの肩に突き刺した。

やっぱ、怪物とはいえ女の身体に針を刺すってのも気持ち的にキツイな……ほんと……許してくれ。

「ふん、だがナイフならまだしも、こんなものでちょっとチクッと刺された痛みぐらいで私が技を解くとでも…………」

ヤミディレは一瞬驚いた顔を浮かべるも、すぐに笑みを浮かべる。

そう、こんなものでヤミディレにダメージは与えられない。

ただし、それは刺す場所次第だ。

「な……あっ……ぬっ……あ……」

ヤミディレもすぐに気づいた。自分の身体に異変が起こっていることを。

分かっている。

何故なら俺も……「経験」があるからだ。

「――――――――――ッッ!!」

言葉にならぬ絶叫を上げるヤミディレ。

もう俺から手を放し、そのままのたうち回った。

「がっ、あああああああ、がっ、な、ぬぐ、あ、な、なにをおっ!? なにをしたああ!」

そう、俺も経験がある。

内臓が爆発したみたいになり、全身が燃えるように熱く灼ける。

先端の歪な刃物で傷口をグリグリと抉られる感覚が全身を駆け巡る。

「ガアアア、ガ、ぬう、アアアアアアアア!」

それは、世界最強クラスのヤミディレすらも発狂するほど。

やっぱり、痛いんだな……

「……あんたにも閉じている魔穴がある……それをこじ開けた」

「な、が、ま、ま、あなああ?」

「死ぬことはねえが、激痛で今日はもう何もできねーだろうな」

これしかなかった……まだ弱い俺には、この手しかなかった……

「ああ……そっか……あんたが魔力を使い切ったから……結界も無くなっているわけか」

少しだけやるせない気持ちもあったが、それでもとりあえずのミッションは完了ということで、俺もホッと一息ついた。