軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百五十二話 二度と使わない技

「ぱんぷあっぷ? なんだ~? まだ奥の手があったか、マチョウさん?」

「奥の手というより、できれば使いたくなかった技。自分の身も危うくなるのでな」

「ほほ~う」

「だが、このままではお前に手も足も出ず、ガッカリされたまま終わると思ったのでな」

「いや……けっこう十分だったと思うけど……」

弱点を指摘したとはいえ、あれだけのスキルを持ち、あれだけのパワーを誇ったマチョウさんは十分強かった。

「リスクも高いうえに……昔をどうしても思い出してしまう……だから……あまり、ツクシたちには見せたくないが……今は、お前に応える方が重要だ」

だけど、これで終わりじゃない。

まだ、マチョウさんには先があり、それがハッタリではないことが分かった。

「自分の持つ超魔回復……応用すれば、筋肉のコントロール……それはやがて、血液の増産、血流のコントロールも可能とする」

「……なに?」

「アース。お前は、ブレイクスルーという魔道の奥義に至った……なら、自分は……人体の可能性を見せてやろう」

そう言って、マチョウさんが息を止め、全身の血管を浮き上がらせるほど全身に力を入れた。

「アース。人間は普段2割~3割の力しか使っていないのだ。リミッターがかかっていてな」

道場で筋肉を自慢しているオッサンたちとは比べ物にならないほど歯を食いしばり、頭の血管が千切れるんじゃねえかと思えるほど顔を真っ赤にしている。

「見ていて分かった……多分……あの、ヨーセイという者は薬で無理やり……しかし……自分は……自らの力で……」

「な……お……おお……」

「身体能力……パワー……スピード……これが今の自分の全力だ! アース! ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

そして、マチョウさんが吠え、空気が震え、同時に猛ダッシュ……速いッ!!

「ウオオオオオオ! オオオオ! オウオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

「うおっ、ぐっ、な、ちょっ!?」

いつも落ち着いた大人の雰囲気を身に纏っていたマチョウさんが、興奮を抑えきれない猛獣のように激しく荒れる。

腕を振り回し、足を振り回し、そして時には俺をその手で引き裂こうとしてくる。

攻撃は大振りだから先読みすれば回避はできる……が……さっきとは比べ物にならないほど速い。

体のバランスが崩れながらもこれほどのスピードをマチョウさんが出せるなんて予想外だ。

それに……

「逃がさああああああん!!」

「っ……ちっ!」

マチョウさんは俺よりもデカく、歩幅も大きい。だからこそ、俺の一歩とマチョウさんの一歩が違う。

スピードが上がったマチョウさんに、俺は回り込まれちまった。

「ウオオオオオアアアアアアアアアアアア!!」

「ちょっ、ちっとは落ち着けっての!?」

ダメだ、全然収まる様子が無い。

もう目も正気じゃない?

「姉貴……アレって……」

「うん。あの姿……間違いないかな。内戦の時……旧王国軍に取り囲まれたとき……マチョウさんは……」

「でも、あの力って確か……心臓が……」

「うん……ッ、もうやめて! マチョウさん! ねえ!」

なんだ? ツクシの姉さんたちが叫んでいるが、マチョウさんを止めている?

俺を心配して? 違うな。あの表情はどちらかというとマチョウさん自身を……なんだ? 口の動きから……し・ん・ぞ・う?

おお、集中力を極限にした今の状態だと、こんだけ離れた場所に居る人の口の動きから言葉まで……ん?

「その技は、長時間使ったら……マチョウさんが死んじゃうッ!!」

えっ……? 今……ツクシの姉さん……死ぬ? 死んじゃうって……? マチョウさんが、このままだと死ぬ?

「はああああああっ!」

「ッ!?」

油断! バカ、俺は何をやって……あれほどマチョウさん相手に油断すんなって自分で……

「魔極真ボディアッパー!!」

「うぼっ!? がっ……」

胴が貫かれたみてーな……なんつう……手打ちの腕力だけで、体が背骨ごと思いっきり折れ曲がる!

「捉えたあああ! つ、ついにマチョウの本気が解禁され、マチョウの剛腕がアースの身体を打ち抜く! これは強烈です!」

ヤバい、痺れる……足……動か……

「うおおおおおおおお! 魔極真ナックルアロー!」

「っ、ちっ! っそが!」

ダメだ、顔面へパンチ。避けられない……なら!

「あああ、これはマチョウの顔面パンチがアースを打ち抜く! アースの首が思いっきり……ん? あれ? いや……これは!?」

足が動かないなら、首捻りで受け流す。

「アース君!? ……っ、あれは、ワチャさんの首捻り!?」

「たしか、魔極真スリッピングアウェー!」

ちげーよ、大魔スリッピングアウェー……同じか……

「ぬおおおおお、魔極真ラリアット!」

「あーーっと、マチョウは続けざまに連打! しかし、アース、スウェーや上体逸らしで……当たりません! なんと、見切っています!?」

くそ、だめだ、まだ足が……くそ……俺はあれだけ連打して強打したのに、向こうはもう元気で、一発でチャラ?

ブレイクスルー状態でこれほどのダメージを?

ったく……不公平だ……って、思っちゃダメなんだ。

「ウオオオオオオオ!!」

「大魔パーリング!」

人と引き出しの中身が違うのは仕方のねえこと。

「なっ、マチョウの剛腕を……拳で角度を付けて叩き落としている!? な、なんという目でしょうか!?」

俺は俺の引き出しで勝負するんだ。

足が動かなくても、この動体視力で……

「魔極真水面蹴りッ!!」

「あっ……」

足が動かないから、それはまずい。

俺の両足はマチョウさんの水面蹴りで完全に払われて……俺は尻餅ついて……

「しまっ!?」

「終わりだあああ、アース! この一撃で!!」

まずい! すっころんだ俺をマチョウさんはそのまま両手で頭上まで持ち上げて……これは?!

「あああっと、アースがピンチ! そして、ご覧ください! マチョウがアースを頭上に持ち上げて……これは、マチョウの代名詞とも言うべき大技!!」

「「「「お、おおおおおおおお!!!!」」」」

「ちょ、マチョウさん、それは流石にダメかな!」

「あんちゃーーーん! このままじゃ……」

「あっ、っこれは!?」

って、観客も大盛り上がりだ。

そうだ。この技はアレだ。

道場で、初めてマチョウさんとスパーリングした時に出された技。

でも、今回はあの時とは違う。

あの時のマチョウさんはまだ手加減をしていた。

しかし、今は?

これほど興奮状態。

超パワー。そしてこれだけ勢いをつけて地面に叩きつけられたら……

『童!』

しかも俺の師匠はあの時と同じようにまた目を輝かせているし!?

くそ、だから……だから……ん?

トレイナの顔……俺に「ここだぞ!」と期待を込めた眼差しをしているような?

「あっ……」

そうだ。思い出せ。修行中のことを……

――必殺技とは別に……教えてもらいたいもんがあるんだが

魔呼吸を覚え、必殺技特訓の時期、俺はトレイナに頼んだんだ。

――で、何を教えてもらいたいのだ?

そう、俺は……

――その……よ……マチョウさんとスパーリングしたとき、マチョウさんの攻撃避けて、空気読めとかって、怒っただろ?

――ぬっ……パワーボムから、ムーンサルトの流れのアレか?

――……その……なんだ……どうすれば……正解だったんだ?

あのとき、マチョウさんとのスパーリングで、マチョウさんの繰り出した技を俺が避けたら、トレイナも道場の連中も俺を非難の目で見てきやがった。

ふざけんな。と思ったものの、じゃあ、どうすれば正解だったのかが気になっていた。

だって、トレイナのやつ、あんなに目を輝かせて興奮してハシャいで……なのに、あんな怒られて……悔しかったんだ……

――ふっ……まったく、貴様という奴は……かわい……うおっほん! うむ、よい心がけだ! では教えてやろうではないか! そもそも、パワーボムの返し技として……

そんな俺の頼みにトレイナはどこか嬉しそうに、そして張り切って教えてくれたんだよな。

この……

「魔極真パワーボム!」

フットワークのできない足でも、これぐらいならできる!

「ッ!? な、これは!?」

「ああああああああああああああっと! あ、アースが、こ、これは?!」

「「「「うわ、うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」

『ぬおっ! い、いけええええ、童えええ! そこだあああああ!』

両足でマチョウさんの頭を強く挟んで、そのまま斜め後ろに飛ぶように回転し……

「大魔コークスクリュー・ヘッドシザース!!」

反動を利用して、マチョウさんの脳天を地面に叩きつける!

ブレイクスルーの勢いで、更には全身のバランスが悪くなっているマチョウさんの今の身体は簡単に俺に切り返された。

「どうだあああああ!」

『っし!』

どうだ? これでいいんだろ? これで正解なんだろ?

こんな技、多分マチョウさんとの戦い以外で二度と使わないぜ。

だけど、俺は覚えた。そして、成功させた。

文句あるか!

「つっ……スパーリングやショー以外で……演技でもなく、これをやられたのは初めてだ……」

脳天から落下したってのに、マチョウさんは相変わらず気を失わなかったようだ。

ったく、本当にタフな人だ。

だけど……

「はあ、はあ……ぅ……はあ、はあ……」

マチョウさんの息が上がっている。かなり苦しそうだ。

やっぱり、このパンプアップとかいうの、かなりの消耗やリスクがあるんだな。

だけど……

「けっ、もう二度と使わねえよ。そして、次こそ決着をつけてやるよ」

「ほぅ」

マチョウさんがこのままこの技を使ったら危険なんだろう。だが、それがどうした。

「ちょ、マチョウさん、もうダメかな! それ以上は!」

「そうっすよ、マチョウさん! その技は————――」

マチョウさんのリスクを知っているであろうツクシの姉さんたちは叫ぼうとするが、俺は声を張り上げた。

「うるせえええええ! さあ、決めようぜ、マチョウさん! この戦いの勝者をな!」

「アース……」

「俺はな、マチョウさん。内戦だとか、貧しさだとか、あんたほど過酷な人生も歩んでねぇし、15のガキだ。大人であるあんたが、女の涙や悲鳴に惑わされず、リスクを承知で自分で選んでやってることに、説教とか、命を大事にとか、偉そうに分かったような口を叩いて、冷めるようなことは言わねえし、そんな資格もねえ。俺はただ、全力であんたを超えていくだけだ!」

マチョウさんに引く気がねえなら、俺が口出しすることじゃねえ。

俺はただ思いっきりぶつかるだけだ。

「ふふ……決着か……ああ、異論はない」

「じゃあ、終わらせるぜ! この一撃で!」

足は……ちょっとフットワークを使うにはまだ重い。

なら、この状態で今、俺の持てる最強の技をぶつけるしかねえ。

そう、あの技を。

あいつの前で。