軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百四十三話 互角の終わり

「あら、まあ、おや、今度はそっちに? 何だか、とってもすごい戦いですね!」

一番高い席から聞こえるノンキな女神様の声。

普通なら、気が抜けそうになるが、今は少しも気が抜けない。

「ふふふふふ、いいな。アース・ラガン。左のみの拳術で、あのワチャに負けぬ技術か……ますます気に入った」

そして、元六魔の伝説の住人からも気に入られているようだが、それに喜んでいる場合でもない。

「もうちょい……ってところなのに……うまくいかねーもんだな」

当てる気で打ってるのに、当らないものだ。

ステップで翻弄しながら、高速の左ラッシュ。

しかし、俺の動きを先読みしているかのようにワチャは捌き、当ったかと思えばいなされる。

「大魔ジャブ!」

俺のジャブは見てから回避できない。

だけど、こいつは回避できる。

これを全部経験と勘だけで俺の動きを先読みして回避してると思うと、なかなか手強いな。

何故なら、攻略法が無いからだ。

それに逃げ回るだけじゃない。

「ホワチャ! ホワ、魔極真ジークンドー!」

「おっ、と!」

ちょっと気を抜けば、俺の左の連打の合間に攻撃を挟んでカウンターを仕掛けてくる。

しかも、足、肘、指、裏拳。

俺が使えない部位での攻撃も繰り出す。

これが引き出しの多さってことなんだろうな。

「ホワチャッ! 魔極真寸勁!」

「大魔レフトコークスクリュー!」

俺の左とワチャの右の一撃。

破壊力は……俺が上!

「オルアアアア!」

「ぬっ!?」

スクリューで打ち込んだ俺の左の方が貫通力と破壊力がある。

俺の拳に押し切られ、ワチャの上半身が仰け反ってバランスが崩れる。

ここで一気に間合いを詰めて……つっても……どうせ、誘いだろ?

「魔極真崩拳!」

「大魔パーリング……からの~」

「うお、これも防ぐアルか!?」

「大魔チョッピングレフト!」

案の定、俺が間合いを詰め込んだ瞬間、真っすぐの中段突きでカウンターしてきやがった。

だが、来ると分かっていたから俺は左手で払う。

で、また同じことの繰り返し……

「あ……当たりません! 互いに攻守同時に繰り返す目まぐるしい技術戦! いや、技術戦でアースがワチャと渡り合ってる時点でもう既に凄いんですが!? しかし、ワチャはワチャでアースの若さと勢いに押されるわけでもない! 互角! 実に素晴らしい試合です!」

「おにーちゃん、ガンバガンバ、ガーンバ!」

「あんちゃん、頑張るっす!」

「ほら、サディスお姉さまも応援するかな!」

「が、ガンバ……ふ、フレフレ、ガンバ」

互いに決定打を打ち込めない。

それゆえ、未だに俺たちの顔は綺麗なままだ。

確かに現状は、司会の言う通り互角だ。

だが……

「ははは、互角とは買いかぶり過ぎアル」

ワチャは苦笑している。

その理由は簡単だ。

「私が全身の部位を使って攻撃しているのに対し、向こうは左手一本のみの攻撃……互角が聞いて呆れるアル」

そう、俺はまだ左一本で右は解禁していない。頭突きもしていない。

それがこの互角の現状においてどういう意味を示しているか、ワチャ本人はよく分かっているのだろう。

だが……

「安心しろ。本気は出すが、あくまでテーマは左だ」

「はっはっは。それは安心して良いのか、落ち込んだ方がいいのか、微妙アルね……」

それでも俺は左にこだわると決めている。

だから、右は打たない。

この試合までは、だけどな。

「しかし……拳の技術力が高すぎるアルが……君は……剣を使わないアルか?」

「ぬっ?」

そのとき、攻防が止んでの一旦のインターバルにてワチャが俺に問いかけてきた。

その質問、「俺の素性」を知っている奴なら、そう思うだろうな。

「別に俺の親父は勇者でも、俺は勇者の後継者ってわけじゃねぇからな」

「……なに?」

「だから、『こいつ』が俺の選んだ俺の道だ」

俺が勇者の息子でありながら、魔法剣を使わないことにワチャは驚いた様子だ。

そんなワチャに拳を見せて、改めて俺のスタイルを教えてやった。

「……ただの反抗期ではなく……どうやら本当に魔法剣の道は選ばぬと……まぁ、だからこそ、徒手空拳がこれほどの高い水準まで至っているのかもしれないアルが……」

すると、どこかワチャは納得したように頷いた。

「で……あんた……親父のことを知ってるようだが……」

「知らない方がどうかしているアル」

「つか、隠さないのな」

「君にはすっとぼけても意味はないアル……それに……」

「それに?」

「……う~ん、いや……うん……しかし……」

俺もついでにワチャのことを聞いてみた。

だが、ワチャは少し考える様子で……

「君の父親とは因縁があるアル……だから、その因果を君にと……とも思ったアルが……」

「なに? 因縁?」

「うむ……君が父と同じ道を歩まず、自分の道を歩いているのなら……う~む、本当に逆恨みでみっともなくなるので……迷うアル。かつて、私の所属していた組織を潰し、ボスを監獄へ叩き込んだ勇者に対する……」

親父のことを知っているだけじゃない?

知り合い? 因縁? 一体……

「あそこで見ている女神様と大神官様は知ってんのかい?」

「女神様は知らないが……大神官様は当然知っているアル。そのうえで、私を泳がせているアルよ……その方が……『ある男』の動きを察知しやすいアルから」

チラッと上を見上げると、不敵な笑みを浮かべて見下ろすヤミディレ。

つか、「ある男」って誰だよ?

「勇者……因縁……最後の鍵……君に纏わることは色々とあるアルが……仕方ない。今はとりあえず、戦いに集中するアル」

ワチャも色々と迷ったり考えたりしたが、今はもうこの戦いに集中しようと決め、再び俺に向かって構える。

「おっと、どういうことでしょう? 二人は何か深刻な顔をして話をしているようですが……しかし、結論は出た様子! 再びその拳を交えて体と体でぶつかり合おうという様子! いいぞ、もっとあのハイクオリティな攻防を見せてくれ!!」

「「「「うおおお、いいぞ、やれやれーっ!!」」」」

俺たちの会話はよく分からなかったが、また戦いを始めるのなら思う存分やれと歓声が上がる。

どうやら、周りも俺たちに「ごちゃごちゃ喋ってないで戦え」と求めている様子。

まぁ、仕方ないか……

「いいぜ、集中してやる」

俺も気になることは色々とあるが、異存はないと頷いてやった。

そして……

「そして……もうちょいあんたを経験させてもらおうかとも思ったが……これで終わりだ」

「ぬっ?」

「俺が……本気で『集中』するからよ」

体も十分温まり、レベルの高い攻防の中で俺の神経も感覚も研ぎ澄まされている。

「本気? 右を使うアルか? それとも……大神官様が気にされている……奥義・ブレイク――――」

「いいや、違うぜ。あくまで左だ。だが、左は左でも……もっと集中力を高めた状態での左をぶつけてやる」

「ぬ?」

「ブレイクスルーとは違う。使うのは魔力ではなく……神経……脳……」

今なら、「入れる」。

「見せてやるぜ。『ゾーン』をな……そして……一瞬で終わらせてやる」

極限の集中モードに。