軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十三話 己を知る

「で、このハシゴは何に使うんだ?」

『ラダートレーニングだ』

「なにそれ?」

早速やる気満々の俺は屋敷の広い庭に出て、半袖ハーフパンツの演習着に着替えて腰を下ろしていた。

ただ座っているわけではなく、柔軟をして体をほぐしている。

トレイナ曰く、「ストレッチ」とのことだ。

で、問題なのは用途不明なハシゴ。

『機敏性や俊敏性を高めるものだ。これにより貴様は、究極のステップ……マジカルステップを手に入れる』

技名クソダセー……とは口に出さないように……

『……技名は自分で考えろ……』

「あ、ワリ……続けてくれ……」

口に出さなくても心で思ったこともバレるんだった……まあ、いい。オッパイのためなら真剣に聞こう。

『ええい、話しはあとだ。まずはストレッチをしっかりと時間をかけて行う。集中しろ』

「いや、もう十分やってるぞ? だいたい、俺は結構体が柔らかい方だし」

『それでもだ。これは身体の能力を向上させるため、毎日の習慣にするのだ』

「ったく……わーったよ。でも、どういう訓練やるのかぐらい教えてくれてもいいだろ? 柔軟やって、ハシゴだとか他に何をやるんだ?」

『ふむ……トレーニングメニューか……まぁ、気になるというのなら……』

とりあえず言われたことは何でもやるし、真剣に努力する。

だが、一体何をするのかぐらいは知りたかった。

すると、トレイナは……

『まず、時間をかけてストレッチとラダートレーニングでウォーミングアップをする。その後、体術の鍛錬を行い、体術に合った魔法や禁呪の鍛錬を行う』

「……ん? あっ、ちょっと待った」

『……なんだ? 文句はないのではないのか?』

サラリと最後に「禁呪」とか言われてかなり気になるところだが、まぁ、相手は大魔王。

大魔王が魔法を教えてくれるのなら、禁呪があってもいいだろう。

だが、もう一つ気になったのは……

「剣の鍛錬はいつするんだ?」

『…………』

そう、一応俺は親父と同じ魔法剣士という部類だ。

ガキの頃からその鍛錬を重ねて来たし、今でも素振りは一日五千回している。トレイナ曰く回数多すぎても無駄らしいが……

『剣は……使わぬ』

「はっ? ……それって、剣は自分でやれってことか?」

『そうではない。貴様は……ヒイロと同じ豪剣タイプの魔法剣士に向いていない』

「…………?」

『言ってみれば、ヒイロのような才能がないということだ』

お~っと、聞き間違いか? なんだかのっけからこれまでの自分の人生を全否定されるかのようなとんでもない発言が出て来たぞぉ!?

『貴様は父親に複雑な感情を抱いているようで、根底では憧れているのだろう。技や剣が父親の模倣をしているようだ……』

「ま、まぁ……ガキの頃から真似みたいなことは……」

『しかし、それはあくまで模倣。二流の相手にはそれで十分通用するが、突き抜けた力は得られん』

「…………っ…………」

勇者の息子だけど魔法剣士に向いてないって……いや、そりゃ親父と比較されてこれまでボロクソ言われてきたから、自分でも「才能ない」と思ったこともあったけど……

『封印の間で初めて貴様と出会ったとき、余に魔法剣をぶつけようとしただろう?』

「ッ、あのときか……」

『そうだ。あの時点でもう分かっていた。貴様に、あのスタイルの才能は無いとな』

あまりにも唐突な発言に俺はまだ簡単に受け入れられないでいた。

当たり前だ。自分の短いながらもこれまでの人生の積み重ねを否定されたんだ。

「ま、まじか……って、ど、どうしてそんなことを、あんたが分かる……」

どうして、昨日今日会ったばかりのお前にそんなこと言えるんだと思った。

『ふむ、仕方ない……少し話は長くなるが……人も魔族も魔獣も、それぞれ違う形をし、質量も違う。速さや反射神経など、備わっている機能も違う。この世に何もかも全てが同じ存在というものは無い。これは分かるな?』

「そりゃそうだろうけど……」

『それと同時に、剣には剣の、格闘には格闘の……それぞれに向いた肉体や機能があるということだ』

すると俺の問いに、トレイナは随分と理論的に説明してきやがった。

『たとえば、巨漢なオークは棍棒を振り回してパワーで攻撃するには長けている肉体をしているかもしれないが……巨漢のオークがバレエなどに長けていると思うか?』

「……それは……確かに……」

『その道理でいくのなら、貴様は魔法剣士……というよりは、ヒイロの戦闘スタイルは向いていない。あいつは、後先考えずに一点集中の特攻型。魔法という火力を最大限に剣に纏わせて相手を打ち滅ぼす。それは、恵まれた膂力、半端な反撃では怯まぬ耐久力、そして人の身でありながら所持する膨大な魔力量があって成立する。それは、貴様には当てはまらない』

その説明は、ますます俺を納得どころか落ち込ませる言葉の数々だった。

『貴様はヒイロの息子ではあるが、膂力や内在されている魔力量などは父とは違う。貴様ではどれだけヒイロの真似をしても、ヒイロは超えられん』

なにより、あの大魔王様が言うんだから、その説明は本当にその通りなんだろう。

俺は親父にはなれない。

俺にそんな才能はない。

やはり、素直にショックだった。

だが、こうして誰かにハッキリと引導を渡されたことで、俺は今までのことが脳裏に過った。

「……はは……ガキの頃から……とりあえず剣は振ってたんだけどな……」

それは習慣だった。雨の日も風の日もそれだけは欠かしたことなかった。

手の皮がむけて、豆が潰れても……それでも……

『だが、一方で、ヒイロのような剛剣に対して貴様は自分で言っていたように柔軟性……しなやかな体やバネを持っている。恐らく貴様は……母親に似たのだろう』

「ッ!?」

『剣を使えば、どうしても戦い方が剣を中心に組み立てられてしまう。だが、貴様は……まずは自身の肉体の機能……すなわち個性と向き合うことで、己を最大限に活かすことから始めなければならん。肉体の機能を見直すには、体術が一番合っている』

ショックの途中だったから、全部をちゃんと聞けなかったが、最後の言葉だけは耳に残った。

俺には、別の「才能がある」ということだ。

『もし剣士に拘るのなら、貴様はそのしなやかで流れるような剣を身に着けるには長けているかもしれない。しかし、それを身に着けるのなら剣の腕よりもまずは貴様が貴様自身の肉体の機能を把握してからだ。そうなると、流石に二カ月でそこまでマスターするのは無理だ』

俺は自然と顔を上げて、トレイナの言葉を漏らすことなく聞こうとしていた。

トレイナが俺に言った、「親父の真似をしても一生親父には勝てない」という言葉は、「俺には俺の才能がある」と言っているように聞こえたからだ。

親父とは違って、俺だけの個性……考えたこともなかった。

『それと、ヒイロは単細胞馬鹿だ。単純で魔力量任せで破壊重視の勢いだけの魔法は使えるが、細かな呪文はサッパリだった。魔法は魔力があればいいというものではなく、事象を理論的に理解する頭脳も必要とされる。そこら辺はヒイロより貴様の方が上だ。もっと魔法の幅を広げろ』

それは、剣だけじゃない。確かに親父は魔法に関して「全部ぶっ飛ばす系」のものは使えるが、細かな補助系だとかそういった魔法は苦手だと聞いたことがある。

あれ? 意外と、親父って欠点が多くねえか?

『分かるか? 余が本気で貴様を鍛えれば、二か月後の優勝はもちろんだが……更に時間をかければ、貴様がヒイロをぶちのめせるレベルにまで引き上げることが可能!』

それは、単純に大口や勢いだけで言っている言葉じゃなかった。

ちゃんと、トレイナには考えと勝算があってのことだった。

そして、後は俺がそれを実践するかどうか。

『どうだ? 童よ……』

そう、あとは俺次第。そんな問いかけに、俺は思わず苦笑してしまった。

「くははは……親父も……周囲も……みんな、驚くだろうな……勇者ヒイロの息子が魔法剣士のスタイルで戦わないなんて……」

『嫌か?』

「いーや……なんか、ザマアって感じでむしろ気持ちよさそうだぜ! 俺は親父の息子じゃなくて……正に、俺は俺だろうがって感じでな! なんか、少しだけウザったいと思っていた呪縛みてーなのが、一つ取れて気持ちが楽になった気がしたぜ」

そうだ。ショックで、凹んで、だが俺は肩の荷が下りたような気がした。

何かから解放されたような気分だった。

もう、俺が親父の真似をして、いちいちコンプレックスに感じる必要もないと分かったからだ。

そしてそういったものから解放された今、むしろ自分に合った新しいモノを身に付けられる高揚感の方が勝った。

「頼むぜ、トレイナ。俺に合った道に導いてくれ」

この時ばかりは、俺はサディスのオッパイやモチベーション云々関係なく、俺自身が「やりたい」という気持ちが芽生えて、純粋にそう口にしていた。