軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十八話 小休止

大会はまだ序盤。熱を帯びる時もあれば、時には凄惨な光景に悲鳴が上がったりもした。

「はははは、ひゃーっはっはっは、ひははははははは!」

「はぶっ、ぐびゅ、びゅ!?」

大男が小柄で中性的な顔をした男に馬乗りになって容赦なく顔面を殴って潰していく。

「いやあああ! ショタァーオくんが!?」

「師範代!?」

「う、うう、もう我慢できない! 私たちの師範代を……ッ!」

「みんな、行くわよ! 殺してやるわ!」

一方的な試合に、叩きのめされている男の関係者と思われる女たちが涙と怒りを浮かべている。

「うわぁ、こ、これはもう容赦ありません! 開始早々にダンショクが繰り出したタックルに倒されたショタァーオが、マウントポジションを取られてそのままタコ殴り! 会場中のショタァーオのファンが悲鳴を上げています! 一方で、スカッとして『いい気味』とかって思っている男ども、お前ら絶対モテねーな?!」

見るも無残。

「えええい、でももうここまで! 勝負あり! 勝者はダンショク!」

「ひーはっははははは!!」

司会の男の判断で、試合中に割って入って強制的に試合を終わらせる。

そしてその瞬間、もはやグッタリとした対戦相手は失神していた。

明らかな力の差、そして男の徹底ぶりに観客の女たちは唇を噛み締め、男がガッツポーズした瞬間には殺意を持って女たちが立ち上がろうとした。

だが、次の瞬間……

「この戦友は……俺が救護室へ運ぶ」

ダンショクという男はそう言って、自分がたった今ぶちのめした男を抱きかかえて運び始めた。

「だ、ダンショク? いやいや、それはこちらで運ぶから……」

「何言ってんだ。共に拳を交えた仲……戦友だ。それぐらい俺がヤラせ……やらせてもらう」

そう言って、先ほどの狂気のような表情から一変して、ダンショクは爽やかにほほ笑む。

「こ、これは何という清々しい光景! 戦いが終われば男はもう既にダチ! 傷ついた戦友を自らの手で運ぼうというのです! なんという心意気! お前、監獄で更生したんだな、ダンショク!」

確かに、爽やかな光景と言えば爽やかな光景である。

しかし、どういうわけか「違和感」と「不自然」が全面に出ており、司会は盛り上げようとするが、誰も拍手をしようとしない。

「師範代……ねえ、私たちも救護室に行くわよ!」

「うん、お見舞いにいかないと!」

「負けちゃったけど、師範代、頑張ったよね。みんなで励ましてあげないと!」

そして、女たちは互いに頷き合って、救護室に攫……連れていかれるショタァーオの元へ行こうとするが、それに気づいたダンショクが大声を上げる。

「女が、敗れて傷ついた男の側でウロチョロするんじゃねえ! これ以上、こいつの心を苦しめたいか!」

「「「「………え?」」」」

「敗れた男に何て声をかける? よく頑張った? 惜しかった? 次は頑張ろう? ふざけんな! それこそ戦う男への最大の侮辱だ!」

そう叫ぶダンショクの言葉。俺はそれだけは納得できた。

男が死力を尽くして戦った末の敗北。そこに、キャッキャッと女たちに触れて欲しくない。

「こいつを愛してるなら、ソッとしてやりな。大丈夫、俺が二回戦までの間、付きっきりでねっとり……しっかりと見てやるからよ。俺を信じな、レディ共!」

そう告げるダンショクの言葉に女たちは一瞬俯くが……

「「「「って、ふざけるんじゃないわ! あんた、師範代にナニする気!?」」」」

「ちっ……」

そう言って、観客席から何十人もの女たちが立ち上がって一斉に駆け出す。

なんだ? 今、あのダンショクってやつ、何か女たちを怒らせることを言ったか?

「あ、あはははは……まぁ、刑期は終えて釈放されたとはいえ……うん、ちょっといきなり信用は難しい……かな?」

「うんうん」

と、ツクシの姉さんたちも何故か納得しているように苦笑しながら頷いている。

「え? なんでだ? 確か、紹介ではあのダンショクって奴は前科者のようだけど、よほど信用できないような罪を犯した奴なのか?」

「そうだよ、あんちゃん……ダンショクは……犯したのだよ」

「?」

何の罪かは誰も言わないというか、すごい言いにくそうにしているが、それだけ口に出すのも憚られるようなことなのだろう。

一体何を……

「さ~て、何やら色々とハプニングがありましたが、万が一に備えて救護室には護衛を何人か立たせましょう。では、どんどん次に行きたいと……ん? なになに? ……え!?」

結局、あのダンショクの問題が何だったのかを誰も言わず、そのまま司会が進行を再開して、次の試合を告げようとする。

だが、そこに関係者の一人と思われる男が司会に駆け寄って耳打ちし、驚いた顔を浮かべた司会は……

「え~、たった今入った情報ですが、次の試合を予定していた、セイセとサミングですが……どうやら、サミングがセイセを闇討ちにしようとしたら返り討ちにあって戦闘不能……ということで……一回戦は無条件でセイセの勝ちとします!」

なんか、見ていない所で何かあったようだ。

会場からはどよめき……ではなく、意外にも「やっぱり」「でも、だせえ」とかの声が上がり、あまり驚いている様子はない。

一方で、勝ったセイセという男の関係者と思われる何十人もの幼いガキたちが喜びの声を上げている。

「おいおい、なんだ~?」

「闇討ち……そんなことまで……でも、セイセさんが返り討ちって、流石かな!」

「え? ちょっと、それだけか? もっと色々と反応するもんじゃねえの?」

「ま~、相手はサミングだし……」

「ど……どうなってんだ、魔極真は? 一癖も二癖もあるのが多いんじゃねえのか? もっと普通の奴はいないのか?」

「うっ……そう言われると……次の試合は……さらにというか……」

俺が頭を抱えると、次の試合のことを口にしてツクシの姉さんや他のシスターたちも顔を顰めた。

なんだ? 次の試合にはもっと変な奴が出るとでも?

一体どんなやつが……

「おにーちゃん……」

「ん?」

と、そのとき、俺の膝の上でプルプルと急にアマエが震えだして……

「おちっこ」

「………………」

こ、こいつは……マイペースな……

「って、俺が連れていくのか!?」

「だっこがいい」

「ぐっ、が……お、おまえ……」

まさかのトイレタイム。そして、俺に連れて行けと。

とはいえ、流石に俺だけじゃできねーし……

「あははは、分かってるって、あんちゃん。私も行くっすよ。私も気付いたら膀胱やばいっしょ」

「ああ。助かる。つか、まぁ、ついでに俺も行っておくか……どーせ、次の試合が誰だろうと……マチョウさんが最終的には勝つんだろうし」

「あっ、そっか。次の次がマチョウさん。こりゃ、ソッコーで帰って来ないとっすね。んじゃ、姉貴、連れションしてくるっす!」

「カルイ!!??」

仕方ないから俺もついでに便所に行っておくかと、アマエを抱っこして、カルイと一緒にちょっと席を外すことにした。

一応、マチョウさんの試合は見ときたいから、ちょっと小走りだ。

「いんや~、しかし、色んな先輩方の戦いはやっぱ興奮するっすね~」

「そうか? 本気で戦いを覚えたら、お前の方が強いんじゃねーのか?」

「またまた~、あんちゃんは私を買いかぶりすぎっすよ~! で? あんちゃんはマチョウさん以外に、誰か注目してるのいるっすか?」

トイレへ向かう途中、カルイがここまでの試合について問いかけてきた。

「まぁ、何試合か見逃したりしたが、今の時点で気になっているのは……一人だな」

「ほうほう。それって……」

そう言って思い浮かぶ男。トレイナすらその男の技術を認めたほどだ。

問題なければ準決勝で……

「って、あっ、ワチャさんだ」

「ん? ああそうだな……って、行っちまったな」

そのとき、トイレへ小走りしている俺たちの前を偶然ワチャが通り過ぎた。

とはいえ、向こうも少し急いでいたのか、こっちには気付かなかった様子。

まぁ、別に声を掛けるほどの間柄でもないし、そのまま俺たちは通り過ぎ……

『……ん?』

通り過ぎようと思ったんだ。しかし、トレイナがその時、何かに気づいた。

『童。奴の手……』

『手?』

トレイナに言われて、走り去ろうとするワチャの手を見ると、そこには水晶が握られ……魔水晶!?

チラッとだが、確かに見えた。

あれは、遠距離通信用のマジックアイテム。魔水晶だ。

まぁ、別に珍しいものではないが……でも、この国にもあったのか?

この国に来て三カ月、特に見なかったし、そもそも鎖国している国だから……

「あんちゃん?」

「ん、お、おお……」

まぁ、俺が気にすることでもないんだが……でも……

『童……ちょっと……追ってみろ』

トレイナは、どういうわけか、あのワチャのことが少し気になる様子。

それは、ワチャが強いこととはまた別の何かが気になっているかのようで……

「わり、カルイ。ちょっと、アマエを預ける」

「はあ? あんちゃん!?」

「あとで戻るからよ」

「おにーちゃん!? あう、だっこ……」

「あとでな!」

トレイナも言っていることだし、ちょっと追ってみることにした。

『あっちだ』

「おう」

気付かれないようについていくと、やはり何かあるのか、ワチャは闘技場の外まで小走りし、更には少し人気のない場所へとコソコソ隠れるように移動している。

どう見ても怪しさ満点だ。

そして、少し周りの様子を窺いながら、建物の影でワチャは小声で……

「ちょっと~……今はお祭りの最中だから、勘弁してほしいアル」

魔水晶に向かって呟くワチャ。すると魔水晶からは……

『そう言うな。お前の『ボス』と、我が主は昔からの兄弟分ではないか』

どこの誰だか知らないが、とりあえず男の声が返ってきた。

「ボスと言っても……もう、組織は滅んだアル……」

『だからお前はもう組織とは関係ないので、我らとは話もしないということ?』

「そこまでは言わないアル。だから、こうして定期的に話を……」

『で? 最後の鍵とやらは見つかったか? 暗黒戦乙女様による人形とのおままごとの。一応、主も気にされている』

「それを今、決めているアル!」

『ほう。前の話だと、マチョウという人間が候補とのことだったが、変わりないか?』

「……変わりない……アル」

『そうか。とりあえず、決定したら必ず報告しろ。我が主としては、人間の血を混じらせて作るのは不満だが、納得のいく鍵であれば支援するとのことだ』

それを最後に、魔水晶での会話が途絶えた。

にしても、何だか……明らかに訳ありな会話だったな。

てか、暗黒戦乙女って、ヤミディレの異名。この国の外での……ってことは……組織? ボス? 滅んだ?

そして、同時に……

「支援? うそつきアルね~……人間との間に作らせる気なら……自分が……どうせそう思っているアル」

引きつった笑みを浮かべたまま、ワチャがそう呟いた。