軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百十九話 過去

俺に宛がわれた部屋。

最低限の家具、机、聖書など小難しい感じの本が収められている棚などがある。

朝はロードワークへ出て、風呂に入って、朝食を取って、ティータイムをしていたので、まだベッドのシーツや着替えは散らかったままだ。

しかし、今はまだそれを整理する気になれず、俺は乱れたベッドの上に座って溜息を吐いた。

「サディス……ッ……って、俺はまたあいつのことを……」

考えたわけでもなく、自然と独り言を呟いてしまった。

結局どれだけきつく当たってしまっても、あいつがどうしても気になってしまうということ。

ましてや、今日からあいつもこの教会で一緒に住むという。

当然、何度も顔を合わせることになる。

たとえ、あいつが俺を覚えていなかったとしても、気まずいってものだ。

『そんなことよりも童……余も迂闊ではあったが……貴様に注意すべきだった……』

「あん?」

『……あのメイドの滅んだ故郷を言うべきではなかった……』

そう言われて、俺はティータイムでの話を思い返す。

たしかに、その話をヤミディレにしたな。

だが、それが何か関係あるのか?

「ああ……サディスの故郷がもう滅亡してたってことか?」

『余の手でな』

「……あ、ああ……そういや……そうだったな。なんか、もうそのことすっかり頭から抜けてたぜ……」

『いやいや、それが原因で貴様らは……まぁ、それはそれとしてだ』

俺は御前試合で大魔螺旋を使った。しかし、その技が実はトレイナがかつてサディスの故郷を滅ぼした時に使った技だった。

当時、その場に居たサディスが幼少の頃の記憶を思い出し、発狂し、そして全てをぶちまけた。

たしかに、アレが原因だった。

とはいえ、サディスがそうなっちまったのも仕方ないとも思ってる。実際、自分の家族や近所の連中が目の前で殺されたというトラウマを持ったんだ。

だから、俺はアレが原因であっても、アレの所為とまでは言わない。

結局、アレは一つのきっかけに過ぎない。

俺と親父と母さんとの確執はこれまで積み上げてきたもの。それがあの場で爆発しただけだ。

実際、大魔螺旋とサディスのことを、トレイナも気にしていたが、俺は特に気にしなかったし、そのことについては、俺が家出をして泣き喚いていたときに、俺とトレイナ、二人で話し合って既に解決した問題だった。

だから、俺ももうそのことは特に気にしていなかった。

なのに、なぜ今さら?

『ヤミディレに知られた……あのメイドが……シソノータミの生き残りだということを』

「…………? ……それが、何か意味あるのか?」

『ああ……ヤミディレも……当時……あの場に居たのでな』

「えっ!? マジか?」

『うむ。そして奴は魔王軍でも数少ない……シソノータミの真実を知っている』

真剣な表情。重い口調。そんなトレイナは今までになくシリアスだった。

それだけで、俺が気付いていないだけで、かなり厄介な事態になっていると感じさせられる。

「……シソノータミって……そんなに……その……なんか、重要な所だったのか? 俺は今までサディスの故郷の魔導都市としか……」

『魔導士の研究機関や学者連中が集う街……ということで、それなりに名の知れた地であったが……一般的にはな』

トレイナがあえて『一般的』と強調した。

なら……

「じゃあ……あんたにとっては違ったのか?」

『……余と……真実を知る一部の六覇にとってはな……そして、その一人が……』

「ヤミディレってか?」

サディスの故郷。俺はそのことをサディス本人に聞いたことは一度も無い。

親父も母さんも特に話さないし、もう俺が生まれる前の話だし、サディスも過去を引きずっている様子もなかったからだ。

ただ、サディスの故郷を滅ぼしたのは「魔王軍」ということだけは聞いていた。実際は、「大魔王」直々だったようだが。

とはいえ、もう家出をした俺はそのことを深堀するようなことも特にしなかった。

地上世界と魔界全土を巻き込む戦争をしていたんだ。そりゃ、村でも街でも国でも滅んでもおかしくない戦争をしていただろう。

いくらサディスの故郷だったとはいえ、今さら聞いてどうする? っていう感じだった。

しかし、この状況だとそうも言ってられねえ様子だ。

「……なんだよ? シソノータミって……何があったんだ?」

だから、俺は真実を聞くしかなかった。

『魔導都市シソノータミの連中というよりは……その土地だな。その地の下の奥深くに……全ての始まりの遺産があった……そこにたまたま住んでいたシソノータミの人間たちが……遺産を見つけ、その遺産を利用しようとした……』

それは、あまりにも壮大なようで、まるでよく分からない話だった。

『その遺産は、魔導都市の学者連中でもそう簡単に解析できるものではなく、ましてやそれを利用するなど、魔族に比べて寿命の短い人間では果たして何千年の時間を要するかは分からぬほど複雑で、膨大で、途方もない物……だが……半端な知識と技術力と魔法で、奴らはとんでもない禁忌に手を出そうとした……』

「禁忌?」

『全ての始まりの遺産……その内の一つ……全てをゼロにする力……』

もう、ここまで来ると流石に何をどう反応するのか、どう質問するべきか、思いつかなかった。

正直、そこまでスケールの大きな話が、サディスの故郷の関連であるとは思わなかった。

とはいえ……

『ただ、都市は滅んだ。そして、余の手によって……余の六道眼によって、遺産は厳重に封印した。その封印は余の死後も続く。もはや、もう誰も遺産には手を出せないはずだった。シソノータミの連中も、自分たちの研究情報を人類全体で共有していなかったのも幸いした。恐らく、シソノータミの真実は、ヒイロ等、七勇者もよく分かっていないだろう。唯一知っていた可能性があるのは……ミカドあたりだろうが……』

そう、もう過去にその都市で何をやっていたかどうか以前に、もうその都市は滅び、その遺産とやらもトレイナが処理したらしい。

なら、今さらその話を掘り返しても仕方ないんじゃないか? ……と、一瞬思ったが、それならトレイナがこんな真剣な顔して話すわけがない。

「ヤミディレは……」

『余の六道眼には及ばぬものの……奴の紋章眼ならば……封印の一部を解除するぐらいなら……』

「じゃあ……」

『余も奴には強く言い聞かせていた……つもりだったのだがな』

やっぱりな。となると、トレイナがこれだけ真剣な顔するのも頷ける。

「なら、ヤミディレがその全てをゼロにするとかっていう……」

じゃあ、ヤミディレがそのとんでもない魔法を……

『いや、そちらではない。ヤミディレが取り出して使用したのは……おそらくは違う遺産だな』

「え? 違うの?」

一瞬慌てちまったが、違うと言われて思わずコケそうになった。

『ああ。ヤミディレが使った遺産は……』

「アース君、ちょっといいかな? 入るよー!」

『「ぬおっ!!??」』

話に集中しすぎていた。ドアの向こうからノックと共に俺を呼ぶ声。

ツクシの姉さんだ。

「お、おう、何だ? ツクシの姉さん」

「うん、ちょっと、掃除させてもらおうかな~って」

そう言って入ってくるツクシの姉さんはエプロン巻いて、腕まくりして、そして……

「……失礼します……」

「ッ……サディス」

ツクシの姉さんの後ろから、バケツや箒を持ったサディスが顔を出した。

「アース君、言っていたでしょ? サディスさんは家事とかそういうのをやっていたって」

「あ、うん……まぁ……」

「でも、サディスさんも記憶をなくされているから、ちゃんと出来るか一緒にやって確かめようかなって……。アース君の部屋、いいかな?」

「そ、そう……なんだ……そりゃどうも……じゃあ……俺は出てった方がいいか?」

「うん。時間潰しててくれるかな? 道場とか、もしくはアマエと遊んであげるとか?」

直前まで、正に世界の歴史に関わるような話をしていただけに、突然入って来られてかなりビクッとした。

『しゃーねぇ。話の続きは海ですっか?』

『それがよかろう』

まだ心臓がバクバクのまま俺はツクシの姉さん、そしてなるべく目を合わせないようにサディスの横を通り過ぎる。

「……失礼します……」

サディスが俺に一言。

俺は背を向けたまま、何も言葉を返さず、足も止めない。

別に嫌がらせで無視をしたわけじゃない。

単純に、今、サディスと顔を合わせることも、言葉を交わすこともつらいだけだ。

と、そのとき……

「では、お掃除させて戴きます」

「って、サディスさん!? 何でいきなり四つん這いになって、ベッドの下を覗き込んでいるのかな?」

「え……? たしかに……」

「はい?」

「いえ……何故でしょう? ただ、掃除をしようとした瞬間、まずはベッドの下はチェックしなければと……」

「って、そう言いながら、何で次は本棚に?」

「え? ……あれ? 何故でしょう……こういう難しい本の背表紙でカモフラージュして何かが隠されているような気がして……」

「で、今度は机の引き出しを開けて……なんで? 引き出しの底を開けてどうしたのかな!?」

「あ……え? 分かりません。ただ、引き出しが二重底になっていないかと……」

「って言いながら、何で天井裏まで!? どういう手順なのかな!?」

部屋から聞こえるその声に、俺は廊下の途中で思わず足を止めてしまった。

「…………」

『……童……』

「言うな……」

とりあえず、今のサディスで分かったことは、過去の記憶が無くても習慣は身についているものだから自然に体が動くということだ。

そんなことをしみじみ感じながら、俺とトレイナはまた海へ向かった。