軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百十六話 幕間(女忍者)

目を覚ました私が居たのは、カンティーダンの宿屋だった。

一生の不覚。女としての誇りを賭けて、ハニーの過去に挑もうとしたというのに、突如割って入った悪魔にハニーを攫われてしまった。

しかも攫っていったのが……

「え……元・六覇大魔将のヤミディレ?」

「バカな! そんなやつが……」

色々と衝撃的な事実が多くて私も頭が整理できないわ。

「まったく……どうしてこんな……私が……傍に……手の届く距離に居たというのに!」

まず、ハニーがあの七勇者のヒイロとマアムの息子だということ。

そのハニーが家出をしたこと。

そして、ハニーが現在「魔王軍の残党と繋がりがあるのでは?」と疑われていること。

そのハニーが突如発生した黒い渦に飲み込まれてしまったこと。

「でも……その黒い渦の魔法を使ったのは……本当に、あのヤミディレなのですか? マアムさ……いえ、お義母様」

「ええ。あの魔力は間違いないわ。辺り一面を覆いつくす漆黒の渦から感じた魔力は……かつて何度も戦った私だから分かる……ん? お義母様?」

ハニーのお母様なら、私にとっては未来のお義母様。

こんな状況でなければ、手土産一つを持って挨拶しなければならない相手。

でも、今はハニーのことが最優先。

「ちっ、ここに来てそんな過去の遺物が……我のアースが……我のアースが! それに……『あいつ』も……」

舌打ちしながら悔しそうにしているのは、私と一緒に気絶させられていた、帝国の姫、フィアンセイ姫。

私が心の中で超えるべき壁だと思っていた「サディスさん」ではなかったのね。

とはいえ、彼女は彼女でハニーの幼馴染で、お姫様で、しかもハニーのことをどう見てもゾッコンラブの様子。

帝国の皇帝も七勇者の一人だし、七勇者の子供同士で許婚というのは無い話ではないわ。

もっとも、そういった過去も切り捨ててハニーは家出をしているわけなのだけれども……

「しかし……そうなると……まさか……本当に、アースが……魔王軍の残党と繋がりがあったということに……ばかな!」

壁を強く叩いて動揺している、ハニーの幼馴染の一人。リヴァルだったかしら?

「嘘だ! きっと、何か事情があるんだよ! アースが魔王軍と繋がるとか……そんなの、僕は絶対に信じない!」

童顔で、だけれど力強く声を荒げる、ハニーの幼馴染の一人。フーという子。

「ふぇぇ……でも、でも、今の状況じゃ……どうすれば……」

気の弱そうな様子でオドオドビクビクしている、ハニーのクラスメートだったという子。コマン。

そして……

「ふ~む、しかしそんなことがあったとはのう……すまんかったな、マアム。事情を知っていれば、力ずくで取り押さえておったのに……のう? シノブ」

「うっ、み、ミカド様……」

「本当なら抜け忍のおぬしには色々と話しを聞きたいところじゃが……やはり、まずはアース君の行方の方が先決じゃな」

ジャポーネの生ける伝説とまで言われている、ミカド様。

伝説、七勇者、七勇者の血筋というなかなかの顔ぶれが、帝国の端にある街の宿屋に集っていて、流石に私も少し緊張してしまうわね。

「で、マアムよ。ヒイロはどこなんじゃ?」

「あの馬鹿は今……こことはド反対の所に行ってんのよ! アースがきっと居るはずだ~、なんて思って……イナーイ都市に……」

「そ、それは……相変わらずじゃな……合流には時間がかかりそうじゃな……」

サラリとあの勇者ヒイロの名前が出るあたり、やはりすごいメンツね。というか、ハニーって結構すごい家系だったのね。流石は私のハニーだわ。

でも、家系なんて関係ないけれど。

だって、ハニーはハニーだもの。

たとえ、私はハニーが平民出身だったとしても、この恋に揺らぎは一切ないわ。

「……ねぇ、おじーちゃん……」

「ん?」

そして、ミカド様を「おじーちゃん」って……流石は七勇者のマアムというか……それをミカド様も当たり前のように……お義母様とミカド様にとってはこのやり取りが普通のようね。

「おじーちゃんは……アースが戦っているところを見たんでしょ?」

「うむ……」

「……どうだった?」

そして、お義母様の問いに、ミカド様は微笑みながら……

「素晴らしい技術と力を持ちながら、それに驕ったり相手を見下したりせず、……真っ直ぐな心……闘志に満ちた瞳で相手に正面からぶつかる。強いだけではない。見るものを惹きつけて、戦う相手にもその拳から想いが伝わる……そんな男じゃったわい」

ミカド様なりの最大の賛辞とも思える言葉。そしてそれは間違いでもお世辞でもない。なぜなら、ハニーのその戦いで心を奪われて生涯を誓った女がここに居るのだから。

「正直、彼が帝都の御前試合で、大魔螺旋を使ったという話しをさっき聞いて驚いたが……そしてどうして彼がそんなものを使えるかは知らぬが……しかし、これだけは言えるぞ。ワシは……ああいう若者は好きじゃよ」

ハニーがお義母様たちの知らないところで何があったのかは分からない。

ただ、そういったのを抜きにして、ハニーという人間がどういう人間であるか。

ミカド様の仰っていることは、私も納得できるものだった。

「私も、ハニーが好きです。結婚して子供を生みます。最初は女の子。次は男の子。子供の名前は……」

「きさ、おい! 貴様はドサクサに何を言っている! アースは我のだ! そ、それに、そんなの、我とてそうだ! 何があったとしても、我はアースを、あ、愛してるんだ!」

邪魔な姫に被せられてしまったけれども……でも、ここで無言を貫くことは女としての意地が許さないという気持ちは私にも理解できなくはない。……でも、リヴァルくんが苦笑しながらも、どこか切なそうに……なるほど、そういうことね!

だけれど、彼も……

「……俺も同じです。御前試合であいつの振るった力は……きっと血の滲むような努力の果てに得た力だと思います。直接戦った俺だから分かります。あいつは……俺と……正々堂々と戦い、そして完全に圧倒した」

「リヴァル……」

「あいつが、ヒイロ様の道を継ぐことも、魔法剣士であることもやめたと聞いたときは怒りましたが……でも……あいつは強かった……子供の頃……俺たちをいつも引っ張っていた頃のように……」

恋敵としてではなく、幼馴染としての意見。

彼もまた、ハニーを大切な友だと思っているようね。

「僕だってそうだよ!」

「私は漁夫の……ううん、アースくんは大切なクラスメートです」

フー君とコマンさんも同じようね。

あら? 一瞬だけ、コマンさんの顔が……まぁ、気のせいね。

とにかく、どうやら皆、別に悪い人ではないようね。

だから、きっとハニーとは色々とすれ違いがあったということなのね。

「ありがとう……みんな」

そんな私たちのハニーへの想いを、お義母様は涙を浮かべて頷いている。

「私もよ。もう一度、アースと……必ず。だから、どこに行こうとも追いかけるわ」

そう言って、涙を拭って、力強い目でお義母様は立ち上がられた。

「で、それでどうするかのう? 正直、すぐにでも各国に通達を出したいところじゃが、相手がヤミディレであると、パニックになるじゃろうし、魔界側にも動揺が走るじゃろう……」

「ええ。でも、とりあえずは、皇帝陛下とヒイロと……あと、魔界の『ライファント』には報告するべきだと思っているの」

「じゃのう。あっ、そうじゃ。アース君と最後に会っていた……ブロ・グレンくん。彼も何かを知ってるかもしれん。話を聞いておこう」

また、すごい名前だわ。現・魔界新政府の総統であり、元・六覇大魔将の一人のライファントの名前まで……

「あの、それなら僕は……アースが飲み込まれたその黒い渦が発生した場所に行きます! 魔力の残留を調べれば、何か分かるかもしれませんし!」

「俺も行こう、フー」

「私も行くぞ。それに……『あいつ』のことも気がかりだしな……ひょっとしたら『あいつ』も巻き込まれたかもしれんしな……」

「では、私も!」

そう言って、自分のやるべきことを言う、フー君とリヴァル君とフィアンセイ姫、そしてコマンさん。

「ん? あいつ? なんのことじゃ?」

そして、事情をまだ聞いていなかったミカド様が反応。

そう、実は問題はハニーだけではないということ。

お義母様は唇をかみ締めて……

「実はね、私たちと一緒にアースを追いかけていたサディスが……例の黒い渦が発生した後、暗闇が晴れたら、サディスも居なくなっていたのよ」

そう、ここに私が心の中でひそかに最大の壁だと思っていた女性が居ない。

のぼせたり、ショックがあったりの風呂場での一幕。

俺は心の傷を抱いたまま、食堂で朝食を戴いていた。

「へ、へぇ、そんなことがあったなんて……お気の毒だったかなぁ?」

「やめろ、哀れまないでくれ、ツクシの姉さん」

「まったく、アマエったら……にしても、そ、そっか……マチョウさんのは……」

「おい、顔を真っ赤にして何を想像してる?」

俺がアマエに風呂場で残酷な一言を言われたことを聞いたツクシの姉さんが向かいで哀れんだり、ナニかを想像して顔を真っ赤にしたりとしている中、俺は溜息を吐いた。

もう、この心の傷は、きっついトレーニングでもしてふきとばさねーと……

「うん、でも大丈夫かな! アースくんはけっこういい男の子だから、女の子だってそういうの気にしないかな!」

「うるせー! つか、俺は多分普通だ! 見たことねーけど、マチョウさんのマチョウさんがマチョウさんなだけだ!」

「こ、こら、しー! あ、あ、朝からそんな大声でマチョウさんのマチョウさんの話はダメかな!」

ツクシの姉さんは分かってない。女が気にする気にしないが問題なんじゃない。

小さいかどうかは、自分が気になるんだということを。

「んもー。ツクシも声が大きい!」

と、そんな俺たちの周りに気づけば、呆れ顔の他のシスターたちも集り出した。

「朝から何を話しているかと思えば……で、マチョウくんのマチョウくんは? アース君のアース君はどうなの?」

「ちょっ、何で興味津々かな!?」

「いいじゃない、私たちもほら、ね、出会いがなくて……色々と……」

「ま、マチョウさんはダメかな!」

俺はいいのか?

ちょっとドキドキした。

「まっ、それは置いといて、ちょっと今、『イーシャ先生』が患者さんを連れて来られてるんだけど……」

「え? イーシャ先生が?」

と、ふざけた話はそれまでに、シスターが少しマジメな顔をして話しをしだした。

患者?

「ええ。何でも昨日、浜辺で倒れていた身元不明の女性が先生の診療所に運びこまれたらしくて、ずっと意識が無かったんだけど、その人が今朝、目を覚ましたんだって」

「へぇ~……そんなことがあったの?」

「うん。ただ、その人……」

と、何か言いよどむシスター。ん? その患者が何かあったのか?

「何かの事故に巻き込まれていたのか……その人……記憶が無いんだって」

「記憶が……?」

「うん。それで、今後について相談したいみたいなのよ。あなたも来てくれない?」

記憶喪失。言葉だけは聞いたことあったがそういうのって、実際にあるんだな。

「そうなの……で、その人は今、来てるのかな?」

「うん。イーシャ先生と講堂に」

「分かったかな。じゃあ、すぐ行く」

そう言って朝食の途中だが立ち上がるツクシの姉さん。

「なんか、大変だな~。ツクシの姉さん、この教会はそういうこともしてんのか?」

「ん、まあ、そうかな。ほら、一応私たちも孤児だし、身寄りのない子や行き場のない人の保護や相談だったりね……」

朝から人助けとか大変だな……と思っていたら……

「ふむふむ、それは大変なのですね!」

「ぬおっ!?」

背後から急に、ニュッとクロンが出てきて思わず俺は仰け反った。

「め、女神様!? ど、どうしてここに!?」

「はい。朝食もいただきましたので、さっそくアースとお話に来たのですが、大変そうですね」

「あ、いえいえ、お気になさらず、私たちで対応しますので……」

突然のクロン……というか、女神が食堂に顔を出したことに驚いて、シスターたちは大慌ての様子。

普段はこんなところにも降りてこないんだろうな。

そして、クロンは……

「記憶を無くして不安でいっぱいの子羊さんには、私もお会いします! 心を癒して差し上げないと」

「え、えええ!? い、いえ、それは……大神官様にお伺いしないと……」

「だいじょーぶです! では、いきましょう、アースも」

シスターたちの制止も聞かずにニコニコ微笑んだまま、何故か俺の手を握って俺まで……いや、なんで?!

「ちょ、何で俺も!?」

「アースだって、かわいそうって思うでしょう? なら、優しい言葉をかけてあげませんと」

「いや、俺、関係が……」

しかし、俺が何と言おうと、ギュッと握られた手は離れず、俺は無理やりクロンに、その記憶喪失者のもとへと連れて行かれた。