軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20 派閥拡大

エスカトーレ様は一心不乱に出された料理を食べ始めた。声も掛けられないほどに・・・

呆気に取られた私たちだったが、エスカトーレ様が食べ終えたところで声を掛けるようにミリアから合図があった。

「エスカトーレ様、デザートはいかがですか?本日のデザートは牛乳プリンですが・・・」

「それをいただくわ」

ミリアが「そういうことではない」と目で訴えかけていた。

私たちも食べ終え、デザートを待っているとお母様がやってきた。

「ミリアちゃんと、それから・・・」

「エスカトーレ・ウィードと申します。クララさんとはクラスメイトでして・・・」

ここでお母様は何かに気が付いたようだった。

「そういえば、表の馬車は・・・・面と向かって話すのは初めてでございますね?ウチの店を気に入ってくれて嬉しいです」

お母様は少し緊張した様子で話し始めた。

「お母様、どういうこと?エスカトーレ様は初めて来られたはずなんだけど」

「それはですね・・・」

エスカトーレ様は顔を赤らめて話始めた。

エスカトーレ様は魔導士で、魔導士は総じて健啖家が多いそうだ。これは大量に魔力を消費するので、その補給のためと言われている。エスカトーレ様は貴族向けの料理よりは、量が多い庶民向けの料理のほうが好きだそうで、この店にも目を付けていたそうだ。

あるとき、ベル食堂に持ち帰りを頼んだところ、持ち帰り用に売り出しているサンドイッチしか売ってもらえなかった。高位貴族が所望していると伝えても、お母様たちは断ったそうだ。

「味も落ちるし、暗殺になんか使われたら、たまったもんじゃないからね。それでも従者が食い下がるから、仕方なく馬車の中で食べてもらうことにしたんだよ」

エスカトーレ様は、馬車を横付けさせ、短時間で食べられるラーメンばかり食べていたそうで、店内に入って色々な料理を食べるのを楽しみにしていたそうだ。

「クララさんが同じクラスになったときから目を付けていたんです。そして、幸運なことに私の派閥に入ってくれました。本当はもっと早く声を掛けたかったんですけどね。立場的に私から声を掛けることはできませんでした。まあ、レニーナさんが気を利かせてくれたのですが・・・」

そういう事情か・・・組織のトップの胃袋は掴めたことはラッキーだったと思おう。

ここでミリアがすかさず提案をする。

「エスカトーレ様、毎週ここで派閥の集会を開くのはどうでしょうか?ランチを食べながら。そうすれば、平民や下級貴族も気兼ねなく来られますしね。それに週替わりのランチも食べられますし・・・」

「ミリアはランチを食べたいだけでしょ?」

私がツッコミを入れると一同が笑いに包まれた。後日談だが、本当に毎週派閥の集会が開催されるようになってしまった。

「エスカトーレ様、クララをよろしく頼みますね」

「もちろんです。こちらこそ」

そんな和やかな話をしていたのだが、お母様が思い出したように話始めた。

「実は困ったことになってね。スラムで発生した熱病の関係でスタッフが足りないんだ。今日は大口の宴会もあるし、厨房のブレンダは子供の看病でこれから帰さなくちゃいけないし、ホールスタッフも3人来れなくなったからね。急遽商業ギルドに頼んだんだけど、どこも同じような状態らしいから、臨時のアルバイトは集められなかった」

「ロキはどうなの?」

「ロキはもちろん手伝わせるさ。なんたって、この宴会はロキが取ってきたんだからね」

今日の大口の宴会というのは、Cランク冒険者の昇格祝いだそうだ。冒険者ギルドで商売をしているロキは、昇格試験の日程を掴み、営業をかけていたようだった。

「あの子が取ってきた仕事だから、何とか満足のいく お(・) も(・) て(・) な(・) し(・) をしたいんだけどね・・・」

ミリアが言う。

「微力ですがお手伝いしますよ。ホールスタッフなら経験もありますし、これから商業ギルドで仕事を片付けてきますから、夕方には来られると思います」

「有難いね。お礼は別にするけど、とりあえず昼食代と夜の賄いはタダにしてあげるよ」

「それなら文句ありません。すぐに商業ギルドに行ってきます」

ミリアはデザートを掻き込み、店を出て行ってしまった。エスカトーレ様の接待をミリアに丸投げするつもりだったのに、どうしたらいいんだろう。ここでエスカトーレ様も驚きの発言をする。

「私も手伝います。それに侍女も二人連れて来ますからね」

「そんな悪いですよ。エスカトーレ様に粗野な冒険者の相手なんて・・・・」

「気にしないでください。私もこういった仕事を一度はしてみたかったですから。それでは準備をして参ります。賄い、楽しみにしてます」

そう言うとエスカトーレ様も店を出て行ってしまった。貴方も賄いが食べたいだけなんでしょ?

★★★

そこからはかなり忙しかった。厨房スタッフが足りないので、急遽メニューを変更し、シンプルなステーキや鍋料理を出すことにした。私は延々と野菜や肉を切り刻んでいた。そして、夕方からはミリアとエスカトーレ様と侍女2名が合流した。残っていたホールスタッフからレクチャーを受ける。みんな飲み込みが早く、問題なさそうだった。

そして、ロキが冒険者の団体を連れてきて、宴会が始まった。

当初は予定していたメニューと内容が違うことから、戸惑っていた冒険者たちであったが、急遽のホールスタッフたちが笑顔で酒を勧め、酔いが回る頃には、味に満足していたようだった。そして、賄いでは度々出していたが、客に提供するのは初めてとなる、締めのラーメンを鍋に投下した。こちらの世界の感覚では、残ったスープを客に出すなんて考えられないのだそうだ。特に貴族にはね。

しかし、これが大評判だった。まあ、味は太鼓判を押せるしね。

帰る頃には冒険者たちは、大絶賛していて、もうすぐあるBランクの昇格のお祝いも、ここですると確約してくれた。

そんな感じで、ちょっとしたベル食堂の危機を乗り越えることができた。賄いは、余ったスープと具材で鍋を囲んだ。もちろんラーメンを入れて。

流石にエスカトーレ様に気を遣ったが、エスカトーレ様は「気にしなくていい」と言って、誰よりも多く食べていた。

偶然だが、派閥のトップでターゲットのエスカトーレ様と仲良くなれたのは幸運だったが、私は少し落ち込んでいた。

先のことを見据えて、迅速に動くミリア、派閥のトップにふさわしい行動を取ろうとするエスカトーレ様、そして、自らの営業で宴会を取ってきたロキ。

それに比べて私は、スキルと前世の知識頼みではないのだろうか?

OL時代のことを思い出すと、確かに雑用は完璧にできていたし、企画書のコンペにも積極的に参加していた。しかし、それだけだったのではないだろうか?

ミリアのように積極的に動けていれば、ロキのように畑違いの営業をかけていれば・・・・

そう思わなくもなかった。

みんなが帰った後、お母様が声を掛けてくれた。

「落ち込んでるみたいだけど、気にすることはないよ。クララにはクララの良さがあるんだからね。それを生かしてくれる人と一緒に仕事をすればいいのさ。幸い、いい人たちに囲まれているじゃないの」

確かにそうだ。

OL時代と決定的に違う点、それは周囲のサポートがあるということだった。

そのことに気付かされただけでも、この世界に転生した意味があったと思う。