作品タイトル不明
119 挫折した聖女 3
私の偽物が多く出現したことで、私は聖女認定教会のネスカ会長の元を訪ねました。プラークは開口一番、すぐに偽物の「謎の聖女」の認定を取り消せと抗議しました。
「お気持ちは分かりますが、それはできません。「謎の聖女」様を真似て、多くの聖女が誕生しています。理由は様々です。容姿に自信がない方や本業があり、聖女の活動を反対されている方などがこっそり行っています。悪いことをしているわけではないので、こちらとしてはどうすることもできないんですよ」
「だったらどうしろというのだ!!エルザ様はそれはもう一生懸命に活動され、3つの都市で聖女認定を受けているんだぞ。国際的な聖女といってもいいくらいだ。それを後から来て、その功績を掠め取るなんて・・・親衛隊長として、絶対に許せん」
ネスカ会長は少し考えてこう言いました。
「活動場所を変えてみてはどうでしょうか?実は我が国もロイター王国から援助要請が頻繁に来るのですが、様々な事情から国としてはこの援助要請を断っているのが現状です。「謎の聖女」様のような方が支援していただければ、ロイター王国の国民も喜ぶと思います。ロイター王国には、聖女と呼ばれている人物は今のところ一人ですし・・・」
「あんな危険な場所に?貴様は舐めているのか?」
ロイター王国の事情はよく知っています。蝙蝠外交を繰り返して、多くの国から支援金を騙し取っていたのです。それに我が神聖ラドリア帝国の宿敵でもある魔女アイリーンがいるのです。アイリーンがいるメサレムは聖地であり、聖地を奪還することは神聖ラドリア帝国の悲願でもあるのです。国からはアイリーンの討伐までは求められていませんが、今の私なら何とかなりそうな気もしてきました。
「プラーク、その辺にしておきなさい。私はロイター王国に向かいます。危険を伴うことは十分理解していますが、多くの苦しんでいる民がいる以上は行かなければなりません。ですので親衛隊の方にその旨を伝え、無理について来る必要はないと指示してください。それはプラーク、貴方もですが」
「何を言っているのですか!!私は親衛隊長として、地獄の底までお供いたします」
結局、一人も親衛隊から離脱する者はいませんでした。
★★★
ロイター王国は酷い有様でした。特に北部は。
原因は重税です。ロイター王国の王家は、各国から入らなくなった支援金の補填を重税で賄うことにしていたのです。少し考えれば、こんな馬鹿げたことはしませんが、それでもそうしたのは、もう支援金なしでは国が成り立たなくなっていたからでした。
私たちはとりあえず、南部を中心に活動を開始しました。幸い南部は小国家群と近く、心ある領主も多かったので、私たちが慈善活動をしたり、小国家群の都市との橋渡しをするだけでなんとかなりました。領主の多くは「もう独立して、小国家群への加盟を考えている」と言っていました。遅かれ早かれ、この国はもう終わりでしょう。
南部での活動はそこそこ順調でした。多くの領で私は聖女としての認定を受けました。でも北部は手付かずです。北部で唯一復興が進んでいるのは、なんとあのアイリーンがいるメサレムでした。プラークが言いました。
「エルザ様、このままではロイター王国の北部はアイリーンの支配地域になってしまいます。ご決断を」
そうです。飢えて困窮している民は、悪魔にでも縋るものです。そんなことは絶対にさせません。私はロイター王国の北部に向かうことにしました。
北部でも地道に活動を続けましたが、圧倒的に人手が足りません。やはり私たちだけでは、無理かもしれないと思いました。
そんなことを思いながらも活動を続けていたら、私たちと同じ格好をした集団が多くやって来ました。その中には私の真似をしていた「秘密の聖女」もいました。「秘密の聖女」から事情を聞きました。彼女が言うには、私の派閥に入れてほしいとのことでした。
「派閥ですか?」
「そのとおりです、私たちは「謎の聖女」様の派閥に入れさせてほしいのです。私たちが今あるのも、寛大な「謎の聖女」様のお陰です。なので、派閥として一緒に活動することをお許しください」
「秘密の聖女」が言うには、私たちがベルシティや小国家群を去ってから、更に聖女の争いは激化し、余程の実力があるか、何か一芸に秀でていなければ、単独での活動は難しくなったそうです。そこで、どうせ派閥に入るなら私の派閥と思って、賛同者を募ってここに来てくれたようです。
人が増えるのは歓迎すべきことです。私はこの申し出を受けることにしました。
彼女たちのお陰で、復興は進みましたが、まだまだ人は足りません。
そこで考え付いたのは、ベルシティなどで燻っている聖女を勧誘することでした。最初に思い付いたのは、初めてベルシティに訪れた時に親切にしていただいたリンリンさんでした。彼女のラーメンがあれば、食べた人が笑顔になること間違いなしです。
少しの間、「秘密の聖女」さんに運営を任せて、私たちはベルシティへと向かいました。
ベルシティでリンリンさんを探していたところ、リンリンさんは既にお店を持たれていました。私はそのお店を訪ね、リンリンさんに事情を説明しました。
「なるほどね・・・それにしても、君が「謎の聖女」だったとは驚きだよ。「謎の聖女」はそれなりに有名だからね。協力してあげたいんだけど、店をオープンしたばかりだから私は無理かな。でも、私の弟子でよかったら紹介するよ。おいルンルン!!」
黒髪、黒目の少女がやって来ました。
「こっちのルンルンは、才能はあるんだけど、まだベルシティで戦っていけるだけの実力はない。面倒を見てくれるのなら、君に預けるよ」
「ありがとうございます。大切にお育てします」
それからも、私は勧誘を続けました。
主に最初に聖戦を戦った相手を中心に勧誘したところ、「新缶詰聖女」と「ナダスの聖女」、「大食い聖女」が協力してくれることになりました。また、彼女たちの知り合いの聖女も何人か来てくれることになりました。
結果として、彼女たちを連れて来て本当に良かったと思います。単純に人が増えることもそうですが、彼女たちの親衛隊が優秀なのです。一番は「ナダスの聖女」の赤髪の親衛隊長さんでしょう。相当な武人でもあり、ギルドの職員もしているので、冒険者ギルドを誘致してくれることになりました。冒険者ギルドが設置され、冒険者が多く集まれば、それだけで魔物被害や盗賊被害が減りますからね。
また「新缶詰聖女」や「大食い聖女」はバックに大きな商会がついています。その商会は新たな販路を求めていて、こちらの思惑と一致するところがあり、最初から好意的でした。今参入すれば、ライバルがいませんからね。
そんなこんなで、ロイター王国の北部でも復興は順調に進んで行きました。となると、もう一つの懸案事項を解決せねばなりません。祖国を裏切り、多くの無辜の民を扇動している魔族の手先アイリーンです。私はプラークを筆頭にした戦闘力の高い親衛隊とともにメサレムに乗り込みました。
アイリーンは卑怯な奴です。だからといって、「謎の聖女」である私が卑怯なことはできません。なので、慈善活動中だったアイリーンを見付けて、正面きってこう宣言しました。
「聖女を騙るアイリーン!!私は「謎の聖女」!!貴方に聖戦を申し込みますわ!!」
「聖戦ですか?」
どうやら、アイリーンは聖戦を知らないようでした。もう、これだけで偽物確定です。
仕方なくアイリーンに聖戦の何たるかを説明しました。
「分かりました、お受けします。聖戦の内容ですが、こちらで決めさせてもらってもいいのですね?」
「もちろんです。しかし、負けたほうが聖女を引退することを条件に入れてください」
「そうですね・・・どれだけ民を幸せにしたかで競ってはどうでしょうか?期限は1年で」
「分かりました、貴方の口からそんな言葉を聞くことになるとは思いませんでしたわ」
これなら、私が負けることはありません。私は意気揚々と親衛隊とともにメサレムを後にしたのです。