軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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新たに病弱という設定をもうけたフローラだったが、一人ぼっち生活が順調に滑り出し、病弱アピールをする場はまだきていない。

いついかなる姿も目に入れたいストーカー心は健在だったが、クラウスを視界にいれると決まってヒロインのリナリーも視界に入るので、理性が働き、なるべく二人を避けるという項目も守られている。

クラウスは毎朝フローラの元へ挨拶に来た。クラウスを前にすると、つい元気よく大丈夫ですとフローラは答えてしまうが、挨拶が終わってお互いに次の言葉を探している間に、いつの間にかアッシュがやってきてクラウスを上手く引き離しクラスメイトの輪の中へ連れていく。そしてフローラもアッシュが来ることで理性を取り戻し、適当に言い訳を作りクラウスから離れるので距離がとれていた。

社交的なアッシュと、物腰の柔らかいリナリーが側にいることで、本来はとっつきにくいクラウスの周りに、ここぞとばかりに親しくなりたい人の輪が出来ていることも多くなった。

そんなクラウスを見て、フローラはひっそりと涙を浮かべた。

(クラウス様の周りに人が……! 独り占めしたかった私のせいで長年アッシュ以外の友達もいなかったのに…………!)

独占欲を手放してみれば、次は母性のような愛が生まれ、疎外感よりもクラウスが人に囲まれている感動が上回る。

しかし、時折冷たい目線を送ってくるアッシュに対しては複雑な思いだった。

このアッシュと言う人物は、攻略者の一人でもあるが、クラウスルートのハッピーエンドに進むには彼の存在が欠かせない。アッシュの好感度をあげると彼が全面的に協力してくれるのだ。ゲームでいえば、まさにリナリーはクラウス攻略の正式なルートをたどっていると言っていいだろう。

フローラは前世で何度もクラウスとの仲を助けてもらったり、ピンチを救ってもらっていたので、クラウスの次にお気に入りのキャラだった。自分がプレイしていたときは、とても頼りになるお助けキャラだったが、立場が違えば目線ひとつとってもこんなにも扱いが違うのかと、仕方がないとはいえ少しさみしく感じていた。

(こうやって大人しく過ごしてるうちに害がないと判断してくれたらいいけど)

フローラがそう願う中、アッシュはルート通りリナリーとフローラとの接触も警戒していた。

「フローラは気性が荒いから関わるな。特にクラウスと一緒にいる時はぜったいに近寄るな」

フローラに挨拶へ向かったクラウスの後をついていこうとしたリナリーを引き止め、アッシュは強く忠告した。

「で、でも……クラウス様の婚約者なのですよね? 私もご挨拶をして仲良くなれたら……」

「仲良く!? あー無理無理」

呆れたように手を振り否定するアッシュに、周りにいたクラスメイトが同調する。

「私も挨拶しましたが素っ気なくされただけです」

「授業が終わればすぐどこかに行くし我々なんかとは馴れ合うつもりはないんじゃないかな」

「でも……」

(いつも笑顔で人に優しく……)

リナリーは心の中で、祖母の言葉を呟いた。親代わりにリナリーを育てた祖母の言葉だった。その祖母も早くに亡くし、孤児院に入ることとなったが、リナリーはずっと祖母の言葉を大切にし守ってきていたのだ。

婚約者を差し置いてクラウスと仲良くしたり、人の輪から一人外れている人を作るのは、祖母の言葉に反する気がする。

だけどリナリーは、目の前のせっかく仲良くなれたアッシュやクラスメイト達の雰囲気を壊すのが怖くて、それ以上は言葉を続けられなかった。

「……お一人が、好きなのかもしれませんね」

リナリーはそう言いつつも、クラウスやアッシュといるだけで、皆に特別に見られているのが心地良いと感じている自分に気がついていた。それが良くない感情だということも。

その後ろめたさから、憂い顔で彷徨わせた視線を見たクラスメイト達は「優しいのですね」そう言った。

その言葉を聞いてリナリーはよかった。これで合っていたんだ。と安心し、フローラへの罪悪感を振り切るようにニコリとした。養子先の家は親切で、クラスメイト達も優しい。今度こそ誰かの特別になれるかも。リナリーは新生活の期待で、フローラに抱いた罪悪感は徐々に薄れていくのだった。

フローラはそんなリナリーが、ニコニコとクラスに馴染んでいるのを見て、ありがちな庶民のくせにといったイジメは今のところはないようだとほっとしていた。

(それもそうか、本来それをやるのは私なんだから……)

イジメから庇うといったフローラがらみのイベントが起こらないことで、二人の関係に何か影響はあるかなとフローラは少し不安に思ったが、とにかく今は穏便な婚約解消をむかえて家族を守るのを優先することにしている。

それにもうすぐ 星降祭(せいこうさい) と言う大きなイベントもある。

この国では一年に一度日没の早い日があり、その日は女神の休息日として国中がお祭りムードになる。

星降祭はその日に合わせて学園が主催のイベントで、ゲームではハッピーエンドを迎えるために重要なイベントだ。この卒業まで三度ある最初の星降祭で、二人の仲は大きく進むはずだ。

ゲームの中のフローラは嫉妬にかられてヒロインのドレスにワインをぶち撒けてあっけなくイベントのストーリーから退場させられたが、その後どこで何を思っていたのだろうか。

記憶の中を辿っても、当然ながら流星をバックにダンスを踊るヒロインのスチルしかなく、脇役のフローラがどこでどうしていたのかなんてゲームで触れられることはない。

(あのスチル大好きだったんだよね……いいなぁ)

フローラは思わず羨望のため息が出た。これから美しい思い出が増えていくヒロインがただただ羨ましい。

(私にだってパーティーの思い出はあるけど……)

フローラは幼い頃、クラウスの婚約者として初めて一緒に出たパーティーのことを思い返した。

お気に入りのリボンをつけて、紅を差して欲しいとおねだりして、子供ながらに精一杯のお洒落…………微笑ましい記憶を辿っていったが記憶の最後はドロドロのドレスとほどけたリボン。フローラの涙をハンカチで拭う幼いクラウス。

(確か……クラウス様の陰口を言っていた男の子達に掴みかかって取っ組み合いになったんだよね…………)

親にクラウスとお近づきなるようにと言われていた子供達が「何考えているかわからなくて薄気味悪いから嫌だ! お前が行けよ」「やだよ! 機嫌損ねたら氷漬けにされるんだろ……」「見ろよあの黒い髪の毛……あんなのみたことない。呪われそうだからお前が行け!」と、誰が先に話しかけるのかを押しつけあっているところに遭遇したのだ。

フローラはベンハルトの過剰な愛で育っていたが故、それが当たり前となり、少々煩わしく思っていた。そのため正反対のクラウスは、幼いフローラにとってまさに理想のクールな王子様だった。

その自分にとっての理想が、誰かにとっての薄気味悪いだなんて考えもしなかったフローラは、ショックと怒りで人数も体格差も考えず掴みかかったのだ。

その後、十三歳になって本格的にパーティーへ参加するようになってからも、つまらない嫉妬で他の令嬢と喧嘩になったり、挑発にすぐ乗ってしまうフローラはどこでもトラブルを起こした。

(はぁ……そりゃクラスメイトにも一線引かれるよね……普通にこんな沸点低い人、近付きたくないもん)

フローラはどれだけパーティーの記憶を掘り起こしてもクラウスとのスチルになりそうな場面は見つからなかった。記憶の最後はいつもクラウスに連れ出されて終わる。クラウスは何も言わなかったが、きっと呆れていただろうな。とフローラはため息をついた。

(………………でも、クラウス様とあそこへ行くようになったのもパーティーが原因だっけ……クラウス様の黒髪を悪く言う奴がいたから)

フローラはクラウスとの思い出を、今度こそ!とスチルになりそうな場面がないか慎重に思い返した。

「話しておきたいことがある」

クラウスが真剣な顔で揉め事を起こした後のフローラを引き連れていったのは、歴代の王と王妃の肖像画が飾られている、中庭に続く長い廊下だった。クラウスはそこを歩きながら描かれている人物について、歴史を交えながら淡々と説明していく。

フローラは物々しい雰囲気に、乱れた髪を整えつつ、真剣に話を聞きながら黙ってクラウスの後についていった。

「―――――――――そしてこれが私の父、現王の肖像画だ」

「わかるだろう? いずれ私もこうなる」

クラウスはフローラの方に向き合い、真っ直ぐフローラの瞳を見据えた。フローラはコクコクと頷いた。

「ええ! ええ! わかります! この横にクラウス様の肖像画が掲げられるのですよね! そして私にその横へ並ぶ重みを考えろと!」

「そういう話ではない」

「ではない」

フローラは予想が外れ、思わず言葉尻を繰り返してしまった。

もう少し婚約者としての自覚を持てと諭されているのだと思っていたが違うらしい。

「髪が……」

「え?」

「君がよく好きだと言っているこの黒髪は……今見てきたことからわかるように将来抜け落ちる可能性が高い」

「はい?」

今見てきたって? フローラは咄嗟にクラウスの父の肖像画を見る。見直さなくてもフローラはよく知っていたが、クラウスの父の頭部は曲線が露わになっている。

その横の祖父もその又むこうも、そのむこうも。

キレイさっぱりないお方もいれば、僅かな羽毛を抱いている方、真ん中だけ領地を残しているお方、皆それぞれ王冠がよく映える、本来の頭部の形がよくわかる美しいアーチをお持ちだった。

「可能性とは言ったが間違いないだろう。事前に伝えておかなければフェアではないと思って」

そう真面目に話すクラウスにフローラは堪えきれず吹き出してしまった。

「クッ! 何を真剣にお話なさると思ったら……んフフフ、ブフッ」

世にも美しい端正な顔で、真剣に頭髪の話をする、ちっとも格好良くないクラウスに、フローラは笑いが止まらない。

ひとしきり笑い終えた後にフローラはふと、この人が好きだなと思った。

それは初めてクラウスを見たときの、燃え上がるような激しい感情ではなく、そろそろ何か食べようかな?ぐらいの何気ない思いつきのような気持ちだったが、それがフローラの心にストンと転がり落ちてくると、するりとほどけて染み渡った。取り返しのつかないほどに。

「……この肖像画って……一枚に一人ずつじゃないとだめなのですか? 私はクラウス様と一緒に、二人で並んだところを一枚に描いてもらいたいんですけど」

笑い転げていたフローラをじっと見ていたクラウスは、もう一度絵に向き合い肖像画を眺めた。

「…………………………わかった。そうしよう」

クラウスが、少しの沈黙の後に了承したので、頭髪がさみしくなったクラウスの隣で、幸せそうに寄り添って微笑む自分を想像してフローラはまた笑った。

「フフフ……クラウス様はどのタイプで進こ……じゃなくて、どのように季節が巡っていくのでしょうね! もう一度一緒に見ましょっ!」

クラウスとフローラは、歴代の王の頭髪をじっくりと観察し、クラウスの行く末を考察しながらもう一巡した。

いっそさっさとクラウスの頭髪がさみしくなった方が、寄り付く女の心配が減るのに、とさえ思いながら。

それ以来、そこを通って中庭に行くのがフローラのお気に入りのコースとなった。

(はぁ……私の中では美しい思い出だけど……歴代の王の頭髪巡りなんてどの角度から切り取ってもスチルにはなりそうにないわね……私はヒロインじゃないんだから当然だけど……背景が流星とご先祖さまの絵じゃ比べるまでもない……)

フローラは記憶の中のヒロインとのロマンチックな美麗スチルと、自分とクラウスとの思い出を比べてまたため息が出るのだった。