軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「フローラ、そろそろ着くよ」

カインの呼びかけでウトウトとしていたフローラは覚醒した。

フローラが急いで窓の外を確認すると道の向こうに立派な門が構えてある大きな建物が見えた。なぜか前世のイメージで日本の『母の田舎にある実家』を勝手に想像していたフローラは驚いた。

「わぁ…………! なんか思ってたのと違う! ……って当たり前よね」

「フローラが最後に来たのはまだ小さかったからね、記憶とは違うだろうね」

思わず思っていたことをそのまま口にしてしまったフローラだったがカインが別の意味で解釈した様子だったのでそのまま流すことにした。

馬車が近づいていくと門の外に誰かが立っているのが見えた。

この屋敷を管理している執事のアルフレッドだ。

白髪をピッタリとオールバックにして老いを感じさせない隙のないピシリと伸びた姿勢で、深く刻まれた皺と固い表情は威圧感さえある。

(あの人がアルフレッドさん……! こちらも思ってたのと違う! THE執事って感じ! もっと『田舎の管理人』って感じの農作業スタイルの人かと……)

フローラがまた前世のイメージのまま失礼なことを思ったが今度は口に出さなかった。

(なんだか厳しそうな人だけどこんな評判最悪の私を受け入れてもらえるのかな…………)

少し緊張してカインと共に馬車を降りたがフローラの心配はすぐに杞憂に終わった。

「お嬢さま!! なんと美しく成長なされて!!」

アルフレッドはフローラを見るなり目を丸くして驚いたものの一瞬で顔がくしゃりとゆるみフローラに歩み寄った。

「ローザ様にそっくりじゃないですか! 目元なんて生き写しのようで……あぁ……長生きするものですね……それとも幻がお迎えに来たのでしょうか……カイン様、どうぞこの老いぼれの頬を強めにひっぱたいてくださいませんか」

アルフレッドは目をうるませ、感激のあまりに少々錯乱していた。しかしフローラはアルフレッドのことをまったく覚えていなかったのでその温度差にちょっと気まずくなって身の置きどころがなかった。

「フローラが最後に来たのはお母様が亡くなる前だったからね」

そんなフローラの空気を読んだカインがフォローをいれた。

「おぉ、そうでしたな。私には昨日のことのようですがもう十年もたつのですね……長旅でお疲れでしょう? お部屋に案内します」

アルフレッドはそう言いつつももう一度フローラをじっくりしみじみと眺め、カインの方を向いて『やっぱ、頬、殴ってくれない? 強めに』のジェスチャーをしたがカインは笑いを噛み潰しゆっくりと首を振った。

「アルフレッド、まだまだおむかえは遠そうだから安心してくれ」

カインの一言でようやく屋敷の中へ歩き出した。

フローラはキョロキョロと辺りを見回しながら心が弾んでいくのを感じた。ほとんど記憶にはないが断片的な記憶の景色が屋敷のあちらこちらに散らばっていて、それを拾い集めると胸が温かくなる。

(荷物を整理したら少し探険しようかな。図書室探そう! それから庭もみたいな……あとやっぱりキッチン!)

フローラはカインについていくと言い出したとき、もちろん勉強したいのも本音だがもうひとつ下心があった。

心配性なベンハルトの目が届かないここなら料理やパン作りに挑戦できるかもしれないと思ったのだ。さっきのアルフレッドの涙目が少し頭をよぎったが、あの父親に比べたらましだろうと今は考えないことにして、今は期待と懐かしさに心を任せて浮かれることにした。

そんなはしゃぐフローラを、自分が想像してたよりずっと穏やかな気持ちで見ているのに気づいたカインは不思議な気分になった。

「連絡もなしに急に連れて来てすまないが妹の相手を頼めるだろうか、三日もすれば飽きて帰ると思うから」

フローラを部屋に送り届け、アルフレッドと二人になったカインはフローラがここに来た経緯を説明してクラウスの話は避けるようにしてほしいとお願いした。

アルフレッドは国王に抗議するべきです。と静かに恐ろしい台詞を言っていたがそれ以上は何も言わなかったので了承したのだと捉えた。

(これでアルフレッドが上手く私と妹の距離を取ってくれるだろう。私はいつものように頼まれた仕事をしたり読書をしたり一人ゆっくり休暇を楽しむだけだ。妹が体調を崩せば心配をする程度には家族としての情はあるがここではワガママなお姫様と必要以上に馴れ合うつもりはない)

カインは長期休暇のたびにこちらへ来るようになった本来の目的をしっかり思い出した。

ベンハルトは娘に妄信的に甘いが同じくらい息子も溺愛している。

あの過保護な男が短期間でも息子と離れる決断をしたのはカインが自分でも自覚していないうちに妹といることに疲れていたのを見抜いていたからだった。

アルフレッドもその気持ちを汲んでここにいる間はフローラの話題を出すことはなかった。

(あまりにもアルフレッドの口から妹の話題に出なかったから忘れているのか興味がないのかと思っていたがそうではなかったらしい。気を遣っていてくれてたんだな……)

カインはこんなことに今頃気づくようじゃまだまだだなと思いながらさっきのアルフレッドの取り乱した姿を思い出してクッと吹き出しそうになるのをなんとか押し殺した。