作品タイトル不明
2 薬を作る許可をもらった。
初日以降、薬作りに関することは何も教えてはくれないので、フレデリカは横目でトバイアスが薬を作るところを見ていた。技術は目で盗むというやつだ。
裏の井戸から汲んで水瓶にためておいた水を鍋に入れ、フレデリカが準備した下処理済みの薬草や乾燥素材など数種類目分量で放り込む。何かの粉末や枝っぽいもの、時には干からびた生き物のしっぽやきのこなども入れて煮込む。
「弱火で2時間煮たら冷やしとけ」
調合が終わればトバイアスの仕事は終わり。火の番も、焦げないように混ぜるのも、冷やして瓶に詰めるのも、ラベルを張って店に並べるのもフレデリカの仕事だ。
あれで薬になるなら誰でもできそうだ。
瓶に詰める前に少し味見してみたが、草や根っこを煮たそのままの期待を裏切らない味で、妙な癖があって飲みやすくはない。良薬口に苦しならいいが、まずいだけで効き目が悪いなら最悪だ。日によって味の濃淡はばらつき、あんまり薄い時は本当に効き目があるのか疑ってしまう。
竈のそばの棚には使い込まれた古い本が置いてあって、時に師匠はそれを見て素材を決めている。
その日の掃除を終えると、フレデリカは無造作に置かれたままの本を開いてみた。思った通り薬のレシピ本だった。前半は書き込みがあり、何度も開かれて癖がつき、薬が飛び散った染みがあちこちについているが、後半は使われていないようだ。
よく使われているページには左上に手書きで「傷薬」「胃薬」「飲みすぎ」「やけど」など効能のメモ書きがあったが、使われていないページには肝心の何に効くかが記されていない。師匠はこの後ろの方のページが何の薬なのか気にならないのだろうか。
書き並べられた素材から何に効くかはフレデリカには大体想像がついたが、何事も試してみなければわからない。とりあえず暇なときにその本を書き写しておいた。こっそり作った薬を棚に並べておけば被験体には事欠かないだろうが、まだ薬作りを認められていない身で先走り、仕事を任せてもらえなくなっては困る。まずは弟子の仕事をしっかりこなし、信頼を得なければ。
待てばチャンスはやってくるものだ。
数日後、急な大量注文で痛み止めと下痢止めの薬がなくなり、トバイアスの指示に従ってフレデリカも痛み止めを作ってみることになった。
瓶(かめ) に汲み置きの水を小さめの鍋に入れ、マオの根っこを一束。アマアマクサの乾燥した根茎をボチャン、クヤクシャの茎を乾かしておいたものをボキボキ折って突っ込み、ポッポ麦をぱらりと一つかみ。煮詰めて柔らかくなったところで潰し、さらに煮ること一時間。これを布で濾して冷ませば出来上がり。簡単に薬ができた。
トバイアスはできた薬をじろじろ見て少量を指先につけて舐めた。
「まあなんとかなるだろ。明日からはこの薬を作っておけ」
合格をもらってからは薬づくりもフレデリカの仕事になり、一週間もすれば六種類の薬を任されるようになっていた。
フレデリカが薬を作るようになると、トバイアスは週に二日しか店に来なくなった。まだフレデリカに教えていない薬だけ作ると、売り上げからいくらか抜いていなくなる。店にいるのは数時間だけだ。
トバイアスが持ち出した金は「遊興費」と書いて帳簿につけておいた。
二流…いや三流の師匠から学ぶことは少なそうだが、これほどまでにいろいろ任せてもらえる環境はそうはない。
店番もフレデリカ。薬を売るのも作るのもフレデリカ。ありがたいことに素材を仕入れるのも任されている。薬のレシピ本もあり、自分の選んだ素材で標準的な薬を作る環境は整っている。
フレデリカは治癒魔法も使えなくはないが、さほど得意ではない。この機会に魔法の力を借りないで薬師として自分の腕がどこまで通用するか確かめてみることにした。
自分の手柄にならなくても、いや、ならないからこそ師匠の名に隠れて面白い実験ができそうだ。