軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05 ワンス・アポン・ア・タイム(5)

「それじゃあ、ヴィルも来たことだし、改めて話をするわね」

「よろしくお願いします」

ぱちん、と手を叩いて私たちの注目を集めたパトリシアさんの話をまとめると、私が呼び出されたのはCランククエストへの同行依頼だった。

なんでも最近、イグレシアス領の隣の領地で新種と思しきコボルトが群れを組んで現れたらしく、その討伐を手伝って欲しい……という要請がうちのギルドにあったそう。

地図を見ながら詳しく出没エリアを確認すると、なるほどイグレシアス領との境目にあたる地域であり、ここから歩いて三日ほどの距離にある場所だ。

あちらの領地にある最寄りのギルドから手伝いを呼ぶよりも私たちが向かった方が早いのは確実だし――何より、イグレシアス領との境目で件のコボルトが現れたということは、そいつらがいずれこちらに流れてくる可能性もあるということ。

今のうちに討伐してしまえるならしてしまった方が良いし、それができずに万が一コボルトがイグレシアス領に流れてきてしまっても、対処の仕方を知っているといないとでは対応の早さも大違い。

おそらくギルド同士の横の繋がりといった部分も、今回の協力要請には絡んでいるのではなかろうか。

「ちなみに、そのコボルトって普通のコボルトとどう違うんですか?」

「依頼書によると、普通に倒そうとしても倒せないんだって」

「……ええと」

「……ナタリーはもう少し、説明する力を養った方がよさそうねぇ」

私が投げかけた疑問に答えてくれたのはナタリーさん……だったんだけど、いかんせんその答えが要領を得ないもので、リアクションに困ってしまった。

私はその『普通に倒せない』理由が知りたいんだけどなー? という気持ちを込め、助けを求めるようにパトリシアさんへ視線を投げかけると、彼女の顔にも思わずと言ったように苦笑いが浮かぶ。

ナタリーはこの話が終わったら私と特訓しましょうか、と話すパトリシアさんからそこはかとなく感じる圧は私の気のせいではないらしく、隣から「ひえっ」と短い悲鳴が上がった。

……え、 風(フォン) さん?

そっと私たちの方から視線を外しましたが何か??

「依頼書曰く、個体ごとに弱点の場所が違って、その弱点を攻撃しないとちっとも倒れないんですって」

「そう! 私はそれが言いたかったの!!」

「言えなかった時点で特訓は決定事項よ、ナタリー」

「ひえぇ、そんなご無体な……!!」

にこりと笑みを浮かべてにべもない返答をするパトリシアさん。容赦がない。

ナタリーさんはすっかりしょぼくれてしまったようで、さめざめと泣く……フリをしながら、私の肩に縋ってくる。

とはいえ、ギルド職員の教育に関してばかりは私にもどうしようのないことなので、申し訳ないが背中をぽんぽんと叩いて宥めるだけに留めさせていただく。

……下手に口出しして、私にまで飛び火してきたら嫌だし。

(しかし――なるほど?)

パトリシアさんの補足により、ようやくこの顔ぶれに納得できた私は心の中でポンと手を打つ。

今の説明を聞くにつまりはアレだ、新種(仮)のコボルトはRPGで言うところの経験値が大変美味しい敵モンスターみたいな特徴を持っているってことだ。

上手い具合に急所を突いたり、クリティカル攻撃が出ないと倒せない感じのレアモンスター。

否、群れで出てきているってことは別にレアでもなんでもないのだろうし、これはゲームではなくて現実だから経験値云々なんてあったもんじゃないのだろうが、イメージ的にはこれがピッタリな気がする。

そう考えれば、この場に風さんがいるのも納得の人選だ。

魔物討伐クエストでは一撃必殺が常と噂の風さんなら、新種(仮)のコボルト相手の弱点も上手に突いてくれそうな気がするし。

「……ということは、私は風さんがコボルトを倒すまでの時間稼ぎ要員?」

「……そういうことになる」

ここで初めて、ぽそり、と口を挟んだ風さんと視線が合う。

悪いな。いえ別に。……なんて、視線だけで言葉を交わしたような気になったものの、あながち気のせいでもない気がする。

だって風さん、なんだか気まずそうな、申し訳なさそうな雰囲気しているし。

「いくら風がこのクエストに適しているとはいえ、相手は群れだからね。どうしてももう一人は必要だってことで、ヴィルにお願いすることにしたのよ」

ちなみにクエスト受注の形式としては、先日Cランクに飛び級した(らしい)風さんの補佐として、同じくDランクに上がりたての私が着いて行く――という体裁らしい。

……いや、うん、そこは別にいいんですけどね?

(向こうに行って、コボルト討伐クエストをこなして、戻ってくるまでに最短でも二週間かぁ……)

その間、たいして親しいわけでもない相手、それも男の子と一緒だっていうのは少し引っかかるものがある。

……よりハッキリ言うなら正直、気まずいことこの上ないし、気が重いのだ。

私自身、ウィロウにおかしな執着をする王太子の件があるので男性とはあまり近づきたくない気持ちがあるし(ただし同士はノラさんガチ恋なので除く)、風さんだって『女嫌い』らしいし私と一緒のクエストなんて嫌なはず。

どこからどう見ても、どう考えても明らかに私たちの相性が悪いだろ――と、思ったんだけど。

「貴方たちなら大丈夫」

「え」

「……って、うちのマスターも言っていたし、私もそう思うわ」

だから二人とも、安心していってらっしゃい。

そう言って意味ありげに微笑むパトリシアさんに、私も風さんもわずかに表情を引きつらせ。

……言外に『これはギルドマスターの指示よ』と言われているようなものだし、断る余地がないよなぁと早々に諦めた私は、同意書にさらさらとペンを走らせてサインを済ませるのだった。