軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16 ちぐはぐアバンチュール(2)

私が普段クエストでお世話になるケーキ屋さんには、販売エリアの隣にささやかながらカフェスペースが併設されている。

このため、販売スペースで買ったケーキをテイクアウトする人がいれば、そのままお店で食べていく人もいて、今回の私たちはまさに後者だ。

ノラさんは今が旬のチェスナットの実をふんだんに使ったパウンドケーキとストレートティーを、私はチェスナットの実を練りこんだクリームのケーキと同じくストレートティーを注文して、さっそく舌鼓を打っている。

……朝食を食べてから一時間も経ってないけど、ほら、おやつは別腹なんで。

その辺の追及はナシの方向でお願いします。

「はーおいしい……」

「うーん。変わらないねぇ、この店の味は」

クリームのなめらかな舌触りと染み渡るような優しい甘さに、ゆるゆるを通り越してでろでろに表情が溶けるのを自覚する。

我ながら表情の溶け具合が甚だしいと思うので、アニメや漫画なら『見せられないよ!』のテロップ? キャラクター? みたいなのがつきそうだ、などとアホなことを考えてみる。

ウィロウの顔面偏差値が高いから、流石にモザイクがかかるなんてことにはならないはずだ。

いや、まあ、どっちもどっちだと指摘されたら、それもそうだと返すしかないけれど。

ノラさんもノラさんで、パウンドケーキを口に運ぶとふわりと笑みをほころばせた。

おいしい、とハッキリ言葉にはしていないが、代わりに表情が雄弁に語ってくれるので、販売スペースのオーナーもにこにこしている。

ごきげんな様子でケーキをたいらげていくノラさんに、私もつられてにこにこした。

楽園はここにあったんだ。

……うん、私、おいしいケーキと可愛いノラさんでだいぶテンションがおかしくなってるな?

それからおよそ二時間ほど、時々ケーキと飲み物の追加を頼みながら、私たちはとりとめのないおしゃべりを楽しんだ。

さすがに長く居座ったら邪魔になるかな、とも思ったのだが、通りすがりの人が私たち──というかノラさんを目に留めると、販売スペースで買い物をしていくことに気付いてからは堂々と居座ることにした。

なんなら、追加のケーキを配膳に来たオーナーから『もうちょっとウチの広告塔でいてください(意訳)』とこっそり言われたくらいなので、やはりノラさんの存在が売り上げに貢献しているようだ。

感覚的には有名人御用達のお店だからってことで、町の人たちが気になって買いに来てる感じだろうか?

あるいは、少しでも近くから有名人を見たくてお店に寄ってしまうミーハー心?

どちらにしても、結局は『Aランク冒険者のノラさんがすごい!』ってことに理由は集約されるのだろうけど。

Aランク冒険者ってだけでまず珍しいから、当然と言えば当然だ。

「すみません、長々と居座っちゃって」

「気にしないでちょうだい! 貴方たちのお陰で、今日の売れ行きは過去一番になったんだから!」

お会計の時にオーナーに声をかけると、ホクホク顔でお礼を言われる始末。

ノラさんの経済効果すごいな、なんて思いながら支払いを済ませれば、また二人で食べに来てねとお土産を持たされた。

……これはつまり、賄賂とかそういう?

穿った見方をするのは良くないと思うが、このタイミングで渡されるとちょっと、そういう考えに行ってしまうのもやむなしではなかろうか。

今日の売り上げ貢献に対するお礼と取れなくもないが、あちらだって商売だ。

多少の下心はあってもおかしくないだろう。

ま、仮にこれが賄賂であったとしても、お互いにWin-Winではあるので、とやかく言うまい。

オーナーは売り上げが欲しいし、私とノラさんは甘味系のおやつが好き。

結果的に見れば、どちらも損はしていないんじゃないかな? と思う。

オーナーだってちゃんと損得勘定はできるはずだし、問題ないって認識だ。

問題があるとすれば、ノラさんが多忙でなかなか足を運べない可能性があることだが、その辺りは私が商品を購入するというかたちで売り上げに貢献するので、多少の目こぼしはしてもらいたいところ。

「ごちそうさま」

「ごちそうさまでした、また来ます!」

「? ええ、待ってるわ!」

私たちの『ごちそうさま』にオーナーは首を傾げたが、笑顔で退店を見送ってくれた。

明日からまた納品を頑張らないと、と気持ちを新たにしつつ、軽く手を振って店をあとにする。

これからどうしようか、と予定を尋ねるノラさんには、忘れないうちにお土産を手渡した。

「これは?」

「オーナーからノラさんへのお土産。また元気な顔を見せに来て欲しいって」

袋の中に入っているのは、お店で通年販売しているバタークッキー。

ノラさんは新人時代にこれを良く買っていたんだとオーナーが話していたので、今日も持たせてくれたのだと思う。

しれっと私の分も合わせて渡してしまったが、ノラさんは気付くことなく嬉しそうに笑ったので間違いなくファインプレーだったと言えよう。

私は普段からお店に出入りできる程度にお気楽な冒険者だし、今後はちょくちょくノラさんに差し入れしようか。

そんな秘密の計画を立てながら、ノラさんの隣に並ぶべく足を速めた。