軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05 青い鳥を探して(5)

「それじゃああとは、ヴィルができることを教えてくれる? どんな武器が扱えるかとか、どういう知識に特化しているかとか、そういうことね。 単身(ソロ) で受けられないクエストのためにパーティを組む時、こちらで参考にさせてもらうから」

「了解です」

などと元気にお返事したものの、私にできることなんてたいしてないのが現状である。

ウィロウのお陰で得た知識や経験もあるが、先ほど即席で作った経歴にそぐわない技能を提示すべきではないだろうし、何より『私が』経験していない分野に対しては不安な部分が多い。

私でも自信を持って『これができます!』と言えることなんて、せいぜい身体の主導権を得てから連発している魔法くらいのものだ。

冒険者として役に立ちそうなのはこれだけですと、パトリシアさんに記入し終えた書類を渡す。

すると彼女はふわりと笑みをほころばせた……のだが、いったい何故?

そんな風に嬉しそうに笑ってもらえる要素が、何かあっただろうか……?

「ヴィルが来てくれて良かったわ。このギルド、あまり魔法が得意な人がいないのよ」

「そうなんですか?」

「ちょっとした強化とか、明かりをつけるくらいならできる人もいるけどね。魔法特化の人は全然だわ。『とりあえず殴っとけばどうにかなるだろ!』ってゴリ押しする人が多くてねぇ……。まあ、実際それでどうにかなってるから、問題はなかったのよ? でも、魔法に精通した人がいるのといないのとじゃやっぱり違うもの」

「ひぇ……パトリシアさん、過剰な期待はどうか……どうか勘弁してください……」

言うて私も、どっちかというとそちらのタイプの人間なので。

もちろん色々と試行錯誤するのも嫌いじゃないが、途中で面倒くさくなると『力こそパワー』に思考が切り替わり、レベルを上げて物理で殴るが定石のポンコツなのである。

力って本当にいいよね、わかりやすいし楽ちんだし大好き。

今は魔法というわかりやすい力があるお陰で、男に力で簡単にねじ伏せられることも淘汰されることもないから、やっぱり力って最高だと思うんだ。

前世よりも今の方が男尊女卑が目立つ世の中だから、なおさらそう感じるのかもしれない。

「さて、おしゃべりはこれくらいにして、書類の確認をさせてもらうわね。問題がなければライセンスを発行して持ってくるから、お茶でも飲んで待っていてくれる?」

「よろしくお願いします」

部屋を出ていくパトリシアさんを見送り、出された紅茶に口をつける。

うーん、美味しい。

先代様のお屋敷で飲んだものとは比べるべくもないが、それでも美味しいものは美味しい。

たとえ転生(?)して世界が変わろうと、文化が変わろうと、そこの感覚に大差はないように思う。

ウィロウほど繊細な味覚を持っていれば話は変わるだろうが、私はわりと大味気味の味覚なので、あまり気にならないのも一因だ。

火加減とか調味料の量を間違えて失敗した料理でも、味付けが致命的でなければ普通にペロッといける口だったりする。

食べ物を粗末に扱ってはいけないのだ。

「お待たせしました。それじゃあこれが、ヴィルの冒険者ライセンスよ。貴女のこれからの身元を証明するものでもあるから、くれぐれもなくさないようにね」

「ありがとうございます! へぇ……見た目のわりにちょっとずっしりしてますね、これ」

「冒険者ギルド連盟の特別な手法で作られているから、ちょっとやそっとのことじゃ壊れない逸品よ」

「なるほど。その手法の関係で、ちょっぴり重くなってるってことですか」

それでも持ち運びに不便しないサイズと重さに調整されているんだから、かなりの技術が詰め込まれているんだろうな、これ。

身分証明書としての役割もあるみたいだし、運転免許証とかみたいに普段から携帯した方が良さそうだ。

ギルドに顔なじみの人ができたら、その人はどうやってライセンスを持ち歩いているのか訊いてみるのもアリかもしれない。

「ところで、ヴィルはもう今日の宿を決めてしまったかしら?」

「いえ。戸籍を作るのが最優先だと考えていたので、実はまだ決まってないんです」

「それならちょうどよかった! ここの三階にはギルド所属の冒険者と職員たちの宿泊スペースがあるの。ヴィルの部屋の鍵を渡しておくから、今日から好きに使ってちょうだい」

「えっ、そんなに至れり尽くせりでいいんですか?」

「ふふ。『量より質』型ギルドならではの福利厚生だから、ぜんぜん気にしなくていいのよ?」

「何それすごい……。でも、そういうことならお言葉に甘えて。ありがとうございます」

これで当面の宿探しは必要ないし、食事だって受付と併設されているエリアで食べられる。なんて素晴らしいんだ……。

流石は先代様がパトロンをつとめるギルドだけあるな! なんて。私の中での先代様の株が上がること上がること。

元々、魅了に気付いてくれた唯一の人ということで好印象だったのもあり、実際に応対してからはうなぎのぼりだ。

縁がなければ私はもう二度と会うことのない人だけど、こっそり力になれることがあれば、ぜひお役に立たせてもらいたいところである。

……もちろん、貴族社会には関わらないことが大前提になるのだが。

「それじゃあ最後に、ギルドの中を案内するわ。ついてきて」

「はーい!」

今一度、Eランクの文字が刻まれたヴィル名義のライセンスを一瞥し、ゆるみそうな唇をきゅっと引き結ぶ。

胸の中で渦巻く安堵と、嬉しさと、……誤魔化すことのできない苦い感情を噛みしめて。

私の身分証をなくさないよう、大切にズボンのポケットにしまったら、パトリシアさんのあとをパタパタと追いかけた。

『冒険者ヴィル』の人生の始まり。

待ちわびたそれを素直に喜べないのは、きっと……ウィロウの身体を使うことに、どうしようもない後ろめたさがあるからなんだろうな。