軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

01 青い鳥を探して(1)

先代様の邸宅をあとにした私は、そのまま真っ直ぐ、紹介されたギルドへと足を運ぶことにした。

話によれば、そのギルドはイグレシアス領の端の方に拠点を構える冒険者ギルドで、昔から先代様がパトロンとして出資しているところだという。

邸宅からは普通に歩くと二、三日ほどかかる距離との話だったため、早々に身体強化の魔法を使い、休憩を挟みつつ歩き続けることおよそ半日。

ギルドまでの道半ばといったあたりで、『近くまで行くから乗っていきな』と声をかけてくれた親切なご老体の 幌馬車(ほろばしゃ) に乗せてもらい、のんびり世間話をしながら更に半日を経て、ようやっと私はギルドがある町に辿り着いた。

「乗せていただいて本当にありがとうございました」

「こちらこそ、年寄りのつまらない話に付き合ってくれてありがとう。お嬢さんが探してるギルドはこの通りを抜けてすぐだよ。慣れないうちは大変だろうが、頑張ってね」

気持ちばかりの御礼を渡してご老体と別れたら、教えてもらった通りに道を抜けていく。

領地の端にある町といっても、少子高齢化を感じさせるさびれた空気はなく、活気にあふれた町並みだ。

もうすぐ夕飯時ということもあって、食堂や酒場からは賑やかな声が漏れ聞こえると共に、なんとも食欲をそそる香りが漂ってくる。

ギルドに向かう足をいったん止めて先に食事を……と、誘惑に負けそうになったが、すんでのところでこらえた。

私の──ヴィルの戸籍を得るのは少しでも早い方が良いに決まっているし、今日の宿探しだってまだ終わっていない。

夕食はそれらの用事を済ませてから、心置きなくゆっくり堪能したい所存である。

「『 月夜の滴々(ムーン・ティアーズ) 』……うん、ここだ」

白塗りの壁とダークオークの組み合わせがオシャレな、三階建ての建物を前に足を止めた。

掲げた看板に書かれているのは、先代様から教わったギルドの名前と同じもの。

つまりはここが目的地、というわけだ。

無事にギルドまで到着できたことに安心し、同時に、『これから』を思うと身体がぶるりと震えた。

期待と不安がない交ぜになった複雑な感情が心を覆う。

緊張で暴れる心臓を落ち着かせようと、深呼吸を繰り返して……。

「新人か?」

「っ!」

不意打ちで背後からかけられた声に、びくりと肩が跳ねた。

「っと……すまない、驚かせたか?」

「ああいえ、大丈夫です。どうぞお気になさらず。……冒険者登録に来たんですが、こちらのギルドの方ですか?」

慌てて振り向けば、オリエンタルな空気をまとう青年が一人、こちらを伺うように立っていた。

身なりこそこの国に馴染む服装でまとまっている。

だが、括ってある長い髪も切れ長な瞳も真っ黒と、この国では珍しい色合いをしており、彫りの浅い端正な顔立ちは明らかに異国の生まれを感じさせた。

パッと見、日本人と言うよりは中国とか、大陸に近い雰囲気の容姿かなという印象である。

実際に会ったことはないのだが、もしかしたら東の国の出身の人なのかもしれない。

……まあ、初対面でそこまで突っ込んだ話なんてするものじゃないし、あくまで私の憶測にすぎないのだが。

なんとなく懐かしさを感じる風貌に、ほんの少し、肩の力が抜けた気がした。

「ああ。……といっても、俺も少し前に登録したばかりの新人だけどな。初めて来たなら入りづらいだろうし、俺で良ければ、受付まで案内しようか?」

「本当ですか? ありがとうございます」

親切な申し出には遠慮せず、ありがたく乗っからせてもらうことにした。

人が集まる場所だし、来訪者にわかりづらい内装をしているとは思わない。

だが、案内人がいるのといないのとでは緊張の度合いがだいぶ違うので……メンタル面の負担をちょっとでも軽くしたかった、というのが正直なところ。

ぜひお願いします、と頭を下げ、先輩さんのあとに続くかたちでギルドに足を踏み入れた。

「……わーお」

わいわい、がやがや。

町中の食堂や居酒屋に負けないくらい、人と活気と熱気があふれるギルドの様子に、思わず感嘆の声が口をつく。

ウィロウは侯爵令嬢として蝶よ花よと育てられただけあって、こういった場所に足を踏み入れたことがない。

だから私も、冒険者ギルドに入るのはこれが初めてで……前世で贔屓にしていた居酒屋と似た雰囲気に、なんだかちょっと胸が躍る。

興奮からか、先ほどまでの緊張感もいくらか薄らぎ、心に余裕が生まれたのを感じた。

きょろきょろとあたりを伺う私はきっと、傍から見ればおのぼりさん感がすさまじいことだろう。

いやでもほら、ファンタジーの定番とも言える冒険者ギルドに初めて入ったんだし、こうなるのも仕方なくない?

なんて、誰に弁明するでもなく言い訳じみたことを考えていると──

「ああくそ、面倒なヤツがいるな」

ぼそ、と先輩さんが嫌そうに呟いた。

「どうかしましたか?」

「……これから受付に向かうんだが、受付の近くで酒癖の悪い他所の冒険者が飲んでるんだ。アイツに絡まれると厄介だから、くれぐれも目を合わせないように注意してくれ」

「なるほど。了解です」

目を合わせただけで絡んでくるとか、それなんて携帯獣トレーナー? とも思ったが、それは心の中にとどめておくことにして。

うんざりした様子で注意してくる先輩に素直に頷いた。

たぶん、彼は既に絡まれた経験があるんだろうなと心中察するに余りある。

ご愁傷さまです、と心の中で呟き、受付までの先導を追って歩き出した。