軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17 因果応報の恋と知れ(4)

「すまないが、君が知っていることを教えてくれないか?」

「……と、言いますと?」

「ウィロウがいつ、どこで、誰に魅了の魔法をかけられて、どんな風に過ごしていたのか。あとは、そうだな……もし君がわかるようなら、動機についても知りたいと思っている」

つまらないものですが、とコードさんが用意してくれたバターたっぷりの美味しいクッキーに舌鼓を打っていると、神妙な面持ちで先代様が話しかけてきた。

やはりというかなんというか、先代様の方もこの数年間──魅了の魔法をかけられたウィロウの全容が掴めているわけではなく、真実が知りたいとのことで。

なるほど確かに、あの子の中で一部始終を見てきた私に尋ねるのが確実だろう。

どのタイミングでその話題を切り出したものかと私も迷っていたので、この機会にありがたく乗っからせてもらうことにする。

何、話す内容はアレクシス殿下に書いた手紙と似たようなものだ。そうそう言葉に詰まる事態にはなるまいて。

「断っておきますが、余計な部分はかいつまんで話すとはいえ、それでも長くなると思いますよ?」

「構わない。──私があの子の身に降りかかった悪夢を知らなければ、相応の報いを受けさせられないだろう?」

「……あは。なんとも頼もしいお言葉ですね」

いや、マジで心強いと思うよ?

なにぶん相手は王太子だし、先代様は既に爵位も譲ってしまっているから、できることにも限りはあるだろうけど。

でも、先王陛下の側近というネームバリューは前線を退いても健在なので、正面切って……というよりは、ちょっと斜め上の切り口からの介入ができるのではないかと思う。

その影響力で是が非でも、アレクシス殿下を応援してあげてもらいたいところだ。

「それじゃあ早速、ことの起こりから話を始めましょうか」

「頼む。……コード、口外は厳禁だ。わかっているな?」

「もちろんでございます」

ロマンスグレー二人の真剣な眼差しを受け、深呼吸をひとつ。

左胸からわずかな緊張が広がるのを感じながら、私は、今日までの経緯を伝えようと口を開いた。

「ウィロウが魅了の魔法をかけられたのは、今からおよそ十年ほど前のことになります。婚約者との月に一度のお茶会に参加すべく王城へ向かい、ティータイムを終え、二人が庭園を散歩していたさなか……護衛や使用人たちの死角を縫うようにして、王太子がその魔法を使いました」

「──」

そこからは、まあ、既にどこかで話した通りなので、サクッと割愛してしまうことにする。

同じ説明を何度もしたってくどいだけだし、それで構わないはずだ。

ただ……私が話している間の先代様は、それはそれは気が立っていたことをここに記しておく。

話の途中でなんだかすごく肌がピリピリするし、首筋もぞわぞわするなぁと落ち着かなくなった時、コードさんが先代様へ『威圧』をほどほどにするよう進言していたからだ。

──つまり、それまでの肌をピリピリ刺すような感覚も、首筋が妙にぞわぞわするのも、先代様からあふれる魔力による影響だったということで。

王太子の婚約者という立場柄、こちらが『威圧』することはあれどされる経験はなかったので、される側はこういう感じなのかと感心してしまった。

……まあ、この感覚も頼りになるかと言われると、ちょっと微妙なところではある。

というのも、『威圧』というのは魔力に影響されるものなので、人によって受け取り方はまちまちなのだ。

私が先代様の『威圧』を受けて平気だったのは、ウィロウが人並外れた魔力量の持ち主だったおかげで影響をはねのけられたから。

だからもし、魔力量が少ないor元々魔力を持たない人が先代様の『威圧』を受けていたとしたら、最悪、泡吹いて失神レベルだったのかもしれない。

なにせ、コードさんが止めるまでの先代様は、孫娘に行われた所業に対する怒りで 箍(たが) が外れていたようなので。

……うん?

そうなると、コードさんも実はかなりの魔力の持ち主ってことになる。

しかもかつては侯爵の腹心だったわけだから、めちゃくちゃ凄腕の魔法の使い手ということなのでは?

すごいなコードさん、先代様が腹心と呼ぶだけあってやっぱり優秀な人らしい。

おかわりにいただいた紅茶はもちろん、お茶請けのクッキーもサクホロ食感で美味しいし、寒くないようにと持ってきてくれた肩かけは肌触り最高でポカポカあったかいし。

そんなコードさんにひとこと物申すとすれば、私のことを『お嬢様』と呼ぶのは後生なのでやめて欲しい、ということ。

身体(ガワ) は確かに お嬢様(ウィロウ) ではあるのだが、中身は全然そんなことないので……どうか……どうか……。

「君のおかげで、今までの経緯はわかった。だが──」

「動機、ですよね?」

「ああ。……王太子殿下は何故、ウィロウに魅了の魔法をかけた? わざわざ魅了などせずとも、あの子は王太子殿下に尽くす心づもりだったはずだ。なのに、どうして……」

私が馬鹿なことを考えている隙にも、先代様は今までの経緯を飲み下していたようだ。

未だに『威圧』が消えたわけではないし、バチバチと雷のようにほとばしる怒気もひしひしと伝わってくるが、窘められない程度に自分の感情を律することができるくらいの冷静さは取り戻しているらしい。

そんな先代様が投げかけてきた疑問はもっともで、かつて私も抱いたおぼえがあるもの。

先代様のうしろに控えているコードさんも、決して何も語りはしないが、瞳の奥に険しい色を浮かべている。

……彼もまた幼い頃のウィロウを知る人物なので、王太子の所業に対して何かしら思うところがあるのだろう。

しかし、さて、どこからどう話したものか。

ここは少し、アレクシス殿下に宛てた手紙とは別な切り出し方をした方が良さそうだ。

彼と違って、この二人は王太子の姿を常日頃から見ているわけではないのだから。

「──先代様にとって、王太子とはどのような人物でしょうか」

わずかな時間を思案に費やし、それから私は、ゆっくりと口を開いた。