軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

45 ハッピーエンド/P(1)

ヴィルが姿を消したあと、幸運にも、俺はすぐに城の衛兵と思わしき二人組に出くわした。

彼らは周囲にそうと悟られないよう巡回を装い、細心の注意をはらいながら『何か』──誰かを探すようにあちこちへ視線を走らせていて。その様子から、きっと彼らは城を抜け出した王太子を探しているのだろう、と憶測を立てた。

もしヴィルが王太子に見つかってしまった、捕まってしまったのだとすれば、それは勝手に城を抜け出したことと同義。

衛兵が探し回っていたとしても、何もおかしな話じゃない。

連れが行方不明になった。そう言って引き止めた俺に、彼らは丁寧に対応しつつも、内心『こんなことをしている場合じゃない』と焦っているのは見え見えだった。

……まあそうだろうな、というのが素直な感想で。

見え見えの焦りを隠せないあたり、きっと衛兵になって日が浅いのか、もしくは衛兵の中でも下っ端なのかどちらかなんだろう。

それでも一応、対応してくれているだけマシなのかもしれない。そう思いかけて──いやしかし、こちらだって喫緊の問題なのだから気がそぞろな状態で対応されても困るよなと思い直した。

結果的に、不機嫌さを隠しもしない低い声が出てしまい、衛兵たちを驚かせてしまったのは仕方ないことだと、見逃してもらえたら助かるのだが。

さて、そんな衛兵たちも、連れは行方不明のイグレシアス侯爵令嬢と面影が似ていることを匂わせれば、途端に顔色と対応を変えた。

これは事前にヴィルから聞いた話なのだが、今の王太子の状況を鑑みるに『婚約者と顔立ちが似た同年代の少女』の存在を匂わせれば、必ず衛兵は──第二王子一派は動くだろう、とのことで。ヴィル自身の身バレに繋がる可能性もありそうだが、やはり背に腹は代えられないらしい。

これで無事に第二王子一派によって王太子が取り押さえられれば、当面の危機は去る以上、多少のリスクには目をつぶるべきだと考えたようだ。

まあ、髪の色と髪型を変えたことで大きく印象が変わっているため、ヴィル=イグレシアス侯爵令嬢だと結び付けられる人はまずいない……という前提があるからこそ取れる策ではあったようだが。

ヴィルがどこへ連れていかれたかはわからないが、手掛かりはある。話の締めくくりにそう言って餌……ではなく、借り物のイヤリングをちらつかせて効果を話せば、あとはトントン拍子に話が進んだ。

まさか第二王子本人や、ヴィルの祖父にあたるイグレシアス侯爵家の先代まで出てくるとは思わなかったので、彼らが姿を見せた時はさすがに肝が冷えたが。これならきっと、間違いなく、ヴィルが望む通りの結果を得られるはず。

そう思えば、彼らに萎縮する気持ちも自然と小さくなって、俺は俺のすべきことを成すために──ヴィルに頼まれたことを確実に成し遂げるために、イヤリング片手に人波を抜けた。

ヴィルから預かったイヤリングが示したのは、マーケットからほどよく離れた土地にある空き家だった。

汚くはないが、特別きれいでもない。

それなりの経年劣化がある、どこにでもある家屋。

ただ、なんだか気配が薄く感じるというか、目が滑ってしまいそうな感じがするというか。

イヤリングがあそこだ、と指し示さなければ、きっとごく当たり前の光景のひとつとして頭が処理して見過ごしてしまいそうな。そこに確かに存在するのに、意識を集中させないと見つけられない。

そんなあやふやな存在感をした、どこにでもある、しかしどこか妙な家屋。

少し険しい顔をした先代が家屋を見る目を眇め、ぼそぼそと何かを呟いた。

何を呟いているかは聞こえなかったし、聞こえたとしても理解できたかはわからないが、おそらく魔法を展開する時に必要とされる『詠唱』だったのではないかと思う。

その証拠に、先代が何かを呟いたあと、件の空き家の妙な気配がフッと消えたのだ。

するとついて来ていた衛兵のうち、何人かはハッとしたように空き家の方を見ていて。もしかすると、彼らは俺のように意識を集中してもあの空き家を認識できず、先代のおかげで初めてあの空き家を見つけられたのかもしれない。

なんとなくだが、そんな風に思った。

それからようやく、俺たちは空き家に突入することになった。

危ないからと後方へ追いやられていた俺は、先陣を切った衛兵たちの背中に遮られて中に広がる光景、その全貌を見ることは叶わなかったのだが。

それでも、衛兵たちの合間を縫って様子を窺えば、壁際まで追い詰められ、床に座り込んだヴィルが王太子に迫られてい、……?

(……違う、)

王太子が迫っているだけなら、どうしてヴィルは抵抗しないのだろう。

どうしてアイツの手がヴィルの細い首にかかっているのだろう。

ヴィルの首にかかった手に、引っ掻いたり、爪を立てたあとが見えるのだろう。

──どうしてヴィルの手が、力なく床に落ちているのだろう。

いくつもの疑問の点が繋がり、線になる。

そうして導き出された答えに、生まれて初めて、目の前が真っ赤になって。