軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22 月になんて返さない(4)

「……俺が狙われる分には構わないが、問題はヴィルが狙われた時だな」

「うん?」

「ヴィルはあいつのところにいたくないから逃げ出して、連れ戻されたくないから隠れて生活をしてるんだろ。なら、俺があいつに狙われて、お前が王都から脱出するくらいの時間稼ぎをできるといいんだが」

「……んんん?」

いかに風君を巻き込まずにことをおさめるか頭を悩ませていると、当の風君から私の思考と正反対なことを言われて、思わず眉間に皺を寄せながら首を傾げた。

(いや君、なんでこの話の流れでそんな思考になってんの?)

なんで当たり前のように自分が囮になる気満々なわけ?

それはさすがにおかしくない??

「なんだ?」

「『なんだ?』じゃなくて。ふつう逆でしょ? 私の事情に風君を巻き込んでるんだし」

「……そうか?」

「そうだよ。ここは私を逃がすことじゃなくて、自分の身を第一に考えるべきだと思うけど」

風君がわざわざこちらの疑問を促すようなことを言うものだから、つい素直な気持ちがストレートに口をついてしまった。

だってそうじゃない?

あっちは王族、風君は移民の冒険者。

何かあっても国は王太子を庇い、守りこそすれ、下々の人間……それもこの国の生まれではない風君なんて知ったこっちゃないのだ。

たとえ向こうに非があって、風君が正しかろうとも、そんなことは国にとって関係ない。

簡単にもみ消してなかったことにできてしまうのだから、まともにやり合おう、なんて風君が考えるべきじゃない。

ましてや、王太子は魔法が使える身。

ウィロウほどの飛びぬけた才能はないけれど、それでも精神干渉系の魔法が使えるくらいには優秀なことに変わりないわけで……。

そんな相手から狙われて、魔法が使えない風君がただで済むとは思えないのだ。

城で取っている統計によれば年を経るにつれだんだん、ゆるやかに魔法を使える人間の数は減ってきているらしいが、それでも魔法を使える人間のための学習施設が国内の各地にあるのは、魔法の力はきちんと使いこなせないと本人にとっても周囲の人間にとっても危険だからこそ。

魔法の制御の方法を知り、使いこなす方法を知り、何より『魔法を使える』というある種の特権階級がそれ相応のノブリス・オブリージュを果たすように――魔法の力で誰かを傷つけるのではなく、誰かを守り、より暮らしが豊かになるように使いましょうねという思想・道徳・倫理の教育を施すために、その学習施設は存在している。

ウィロウが通っていた学園についてもそうだ。

国内の貴族子女が集まる場所だからこそ、そこに通い、なおかつ魔法が使える生徒は特権階級中の特権階級と言っても過言じゃない。

だからこそ、ただの学習施設で教わることよりもいっそう高度で、厳格な指導を受けることになる。

この世界での一般的な魔法は、私からすると決まりごとが多くてとても窮屈だけど、それでもやっぱりとても便利なものだ。

そして同時に、取り扱いに気を付けなければいけない危険なものでもある。

同じように魔法を使えれば、魔法に対する抵抗手段があるし、とっさの時に身を守ることだってできるだろう。

だけど、魔法を使えない人にとってはそうじゃない。

いきなり炎に身を包まれたら?

全身を氷漬けにされたら?

――ウィロウのように、魅了や洗脳をされてしまったら?

どう考えたって抵抗らしい抵抗なんてできずに、一方的に蹂躙されてしまうのが関の山ってものだ。

こと、今の王太子は精神的に不安定で、倫理観も道徳もとうの昔に吹き飛んでいるし、思想的にも問題ありまくり。

自分のためならなんだってやるし、下々の人間――ううん、ウィロウ以外の存在を殺したって、そんなの王家の力でもみ消しちゃえばいいじゃん? なんて考えるはず。

ウィロウが嫌がってるのはそういうところだよ!! というのが私の主張だが、これを聞き入れるまともな精神をしていたら、そもそも魅了の魔法になんて手を出すはずがないよねって話。

とまあ、いろいろと脱線したけれど。

「風君はもっと自分を大事にした方が良いよ」

こっちに来るまで……実家にいた頃はそうじゃなかったかもしれないけど、今は風君に何かあったら心配する人はたくさんいる。

同士とか私とか、ノラさんも、パトリシアさんたちギルドの人だって絶対する。

「ただでさえ片田舎の小規模ギルドだからこそ、ウチは結束は強いし、助け合い精神もめちゃくちゃあるんだからさ。自分は人に興味ないし本当なら関わりも持ちたくないんで~って感じで、一匹狼街道爆走してる薬師のあの人だって、案外私たちのこと気にかけてくれてるからこそ怪我した時に軟膏わけてくれたりするわけよ」

まあ、あの人の場合はわけてくれるっていうか、正確には無言で投げつけられてる感じに近いけど、まあその辺の細かいことは言いっこなしで。

「……」

「そのしょっぱい顔もさ、今すぐやめてよ。きっと『自分なんて』とか、『自分にそんな価値はない』と思ってるんだろうけど、私たちの中は風君を気にするだけの理由がとっくにできちゃってるんだからさっさと諦めて?」

「……………ら」

「?」

「それを言うなら、ヴィルだってそうだろ」

「私は別でしょ。当事者だから責任はちゃんと取らなきゃいけないし、大なり小なり危険に冒される羽目になるのはしょーがないの。それに、万が一に備えて最低限の対策は用意してあるしね」