軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17 さあさお立ち会い!(5)

ノラさんを前にすると借りてきた猫のように大人しくなるか、限界オタクのように挙動不審になるかのどちらかな同士の尻を叩きながら(……あくまでも比喩だよ?)、四人で向かった先は大衆食堂のようなお店だった。

ノラさん曰く『安い!』『早い!』『美味い!』の三拍子が揃っているところで、王都に滞在する時はだいたいここで食事をとることが多いそう。

たまに気分を変えて別の店に入ると、なんか味付けが違うなぁと思ったり、一品あたりの量が少なくて物足りなくなったり、そもそもお店の雰囲気がハイソすぎて落ち着かなかったりと、ノラさん的には絶妙なハズレばかり引いてしまうらしく、やっぱりいつも使ってる店が安定だな! とこのお店に戻ってくるんだとか。

まーね、新しいお店を開拓しようとすると稀によくあるよね、そういうの。わかるわかる。

せっかく気になってたお店に入ってみたは良いものの、なんか思ってたんと違うな? って微妙な気持ちになっちゃって、いつものお店の良さを再確認して終わる。みたいな。

……単純に店選びが下手なだけだろと言われれば、確かにそれまでなんだけどさ。

ノラさんがおすすめしてくれる店だけあって、夕飯にはまだ少し早い時間だけど、私たちが着いた時にはすでに席が八割がた埋まっているような状況だった。

広くて清潔な店内に、にぎやかで活気のある空気。

初めてのお店ってだけでそわりと心が浮足立つものがあるけど、お店に入った途端おなかのすく良い匂いがして、くぅ、と空腹を訴える音が身体の中から聞こえてきた。

同士も食欲に火が点いた顔をしているし、風君も……え待ってこの子なんか切なそうな顔でおなかさすってるんですけど。

たぶん腹ペコのポーズってことだよねそれ??

なんとも子どもっぽい仕草だなぁって感じだけど、なんか、……なんだろう?

風君ってウィロウよりもひとつ年上のはずなのに、なんでそんな子どもっぽい仕草が似合うんだ……?

やっぱあれか、私が風君に対して飼い主のあとをおいかける子犬とか、親鳥のあとを追いかける雛鳥みたいな印象を持っているからか。

要するに風君のことを小さな子どもみたいに思ってるところがある、ってことなんですけど。

……まあ、うん。それなら仕方ないや。

風君、ちょっと目を離した隙にうさんくさいヤツに騙されて壺を買わされてそうなイメージがあって、あんまり目が離せないって意味では似たようなものだしね。

失礼なことを言っている自覚はあるけど、ほら、風君ってある意味では箱入り息子だからさ。

有り得ないとも言い切れないのがなんともね。ハハ……。

酒飲みのノラさんが勧めるだけあって、お店のメニューは居酒屋寄りのラインナップが多かった。

がっつりおなかに溜まる食事系の料理もありつつ、どっちかというとおつまみ系の料理の方が多くて、ははーんなるほどこれは確かにノラさんが好きなお店だわと納得。

そりゃあうちのギルドの食堂だって『早い』『安い』『美味い』の三拍子が揃っているけど、でも、ここほど酒飲み向けの料理が揃っているか? と言われれば、残念ながら答えはNoだから。

ノラさんが王都に来るたびここへ足を運んでいる、というものよくわかる。

まあ、あっちはギルドに所属する冒険者や職員の福利厚生の一環としてある場所だから、栄養バランスを考慮したメニューが揃っているわけなのでね。

食事メイン、それも客層を酒飲みで想定して運営しているお店と横並びで考えちゃ駄目なところはあると思います。

……が、それはそれとして、私ももっとおつまみメニューの考案、頑張ろっと。

チートできるほどの知識の持ち合わせはないけど、これくらいなら自炊生活を思い返せば多少なりとも思い浮かぶだろうし。活かせるところがあるなら活かさなくちゃもったいないよね。

「テキトーに何品か頼んでシェアする感じでいい?」

「はーい!」

「二人がそれでいいなら構わない」

「……うす」

「おっけ。じゃ、とりあえず注文はアタシがするけど、メニュー見てアンタたちが気になるものがあったらそれも追加ってことで。飲み物は?」

「うーん、今日は飲んだら変な酔い方しそうだし、りんごジュースにしておこうかな。風君は?」

「俺も同じもので」

「りょーかい。同士は? 飲める?」

「飲む」

「ビール? ワイン?」

「……ビ、ビールで」

まだまだぎこちなさはあるものの、ちょっとずつ同士がノラさんと会話を成り立たせることができ始めて、私もほっと一安心。

それから、今日は飲まない――というより、 飲(・) め(・) な(・) い(・) 私の代わりにノラさんに付き合って飲んでくれることにももう一安心しながら、それとなく男性陣とノラさんの会話の緩衝材に徹することに。

「……ヴィル」

注文を取りに来た店員さんへ、メニュー表を広げたノラさんと同士があれこれ料理の名前を挙げている間。

二人の目を盗むように、お店の喧騒に紛れるようにして、こそりと風君が話しかけてくる。

――浮かない顔をした彼は、周囲を気にしているのか、ひどく神経をとがらせているようだった。

「またあとでね」

でも、ここで話をするにはいかんせん人目が多すぎるから、今は何も気にしない……のは、さすがにちょっと難しくても、気にしていないふりをして腹ごしらえをしようよ。

そんな気持ちをこめてへらりと笑えば、ちょっと納得いかなそうな雰囲気を出しつつも、風君はこちらの意を汲んでくれたようで。

「わかった」

「気にしてくれてありがとー」

「礼を言われるようなことじゃない」

お礼を言う私に、なんてことなさげに風君は首を振るけど……でもねぇ、そうは言ってもよ?

(案外、心強くてびっくりしたんだよ)

見(・) ら(・) れ(・) て(・) い(・) る(・) ことに気付いてくれた人が、それも、私の事情を把握した上で協力的な姿勢でいてくれるっていうのはさ。

めちゃくちゃ厄介な身の上をしてる自覚があるからこそ、少なからず、安心しちゃうものはあるよね。なんて。思ったり。