軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

フロアボスとの戦いの後の、束の間の平穏。俺はそれぞれの活躍を振り返る

さて、ある程度回収できるものを回収していきたいが……どう考えても、このフロアボスの素材を持っていくのは無理だ。

理由はただ一つ。

第二層の、ヤケクソみたいなダンジョンメイクで作られたマップを抜ける気が起きないこと。

そして、この重い素材を持ってジョギングした後に、あの巨大なピラミッドを登る気が起きないことだ。

……本当に、シビラが最初に言ったとおり『雑』の一言で済ませる他ない第二層だったな……。

ここでシビラの提案により、俺達は記念にとフロアボスであるドラゴンの肉を食べることにした。

「はい、あーん」

「あ、あ〜ん……んぐっ……。……! うわあ、コレ、うわやべ、今まで食べてきたモンと違いすぎっスよ……うわーチビどもにも食わせてやりてー、ちょいとわりィ気がすんなぁ……」

「これは、アタシの無理を聞いて頑張ってくれたご褒美よ。遠慮なく食べなさいな。もちろん持って帰ってもいいけど、自分の分は手で持つよりこの場でお腹の中に入れた方がいいわよ〜?」

「な、なるほど……! うっす、明日の食事はいらねーってぐらいメチャ食うっす!」

シビラが次々と調理していき、イヴが焼き上がり次第手を伸ばす。

エミーも沢山食べる上においしいものには目がないので、イヴと一緒にシビラの焼いた肉を次々食べていた。

食欲旺盛な二人だが、それでもさすがに食べる速度には限界がある。

シビラは、これでもかと言わんばかりに焼き肉の串を作ったところで立ち上がった。

「ラセル」

俺もその一言に立ち上がり、シビラが無言で進んだ方に付いていく。

これで二回目だ。なんとなく、目的は分かる。

……シビラが到着したのは、やはりドラゴンだった。

地を這う竜の姿をしたフロアボスの胸の辺りを、シビラは手慣れた様子で腹を切っていく。

やがて小さな肉の塊を取り出すと、それを無言で火に炙り差し出した。

「こいつもいけるわよ」

「それは楽しみだな」

そう——ドラゴンの心臓である。

前回ファイアドラゴンの心臓を食べてレベルアップした以上、こいつにも似たような効果があるのではないかと思っていた。

「ニードルアースドラゴン、多分片方は第二ダンジョンよね。二体同時はさすがに内心ビビったわ……エミーちゃんなしだと、到底捌ききれなかったわね」

ああ……全く、恐ろしいことこの上なかったな。

ただでさえドラゴンのフロアボスは強いというのに、そいつが二体はいくらなんでもあんまりだ。

闇属性を付与したとはいえ、エミーは一人であのドラゴンを力で抑え込んで勝ったのか。

第三ダンジョンの時も思ったが……本当に、強いな。

そんなことを考えながら、俺は手元の心臓を食べる。

……いい味だ、本当にこれは最高の報酬だな……。

しかし、味より何よりも……。

—— 【宵闇の魔卿】レベル12《アビストラップ》 ——

……この経験値の入り方が凄まじい。

青ギガントのフロアボスでそれなりに獲得していたとはいえ、倒した瞬間ではなく食べた瞬間だもんな。

「……宵闇の魔卿という職業だから上がりにくくなっていると思うが、もしかすると本来はもっと上がるものなのか?」

「いいところに気付いたわね。そうよ、だからドラゴン相手のジャイアントキリングを成功させたドラゴンキラーは、その瞬間を境界線に、一段上の存在になる。街のAランクはそういうものを経験している人が多いわ」

「なるほど、な。そりゃ皆ドラゴンキラーに憧れるわけだ」

「そういうこと。……もちろん、倒した数の数百数千倍は、倒せなかった人がいるけどね」

……そうか、そうだよな。

皆、英雄に憧れる。俺だってそうだったし、ヴィンスだってそうだった。

自分が、その英雄の物語のように活躍できるのだと。

それこそ……職業を得る前から、そんなことを思っていた。

だが、現実は甘くない。

完全回復魔法によって何とか持ちこたえたが、あのファイアドラゴンとの戦いを正攻法で切り抜けられる気がしない。

一体どれほどの人が、その英雄になる瞬間を夢見て、そして散っていったのだろう。

……闇魔法を使うこと、そしてシビラにサポートしてもらうことに慣れていた。

だが、特別な力を得ても、俺は俺でしかないのだ。

負けるときは負けるし、今回だって魔王を倒す気で来たのに逃げられてしまった。

シビラの本領は頭脳で、エミーの本領は防御力、そしてイヴは暗殺や攪乱。

このパーティーの攻撃担当は、間違いなく俺だ。

気合い、入れ直さないとな。

「……ん?」

俺が握り拳を固めながら、何やら妙な胸騒ぎがする。

前も、何かこんな油断をしたような……。

「あ」

そして、その予感はすぐに確信に変わった。

——シビラがもう一体の心臓を、もっちゅもっちゅ食べている。

「おい、それはエミーの分だろ……?」

「エミーちゃんはもう上を目指す必要ないぐらい強いし、教えないと食べないと思うわよ。だからアタシが食べちゃう」

「……お前には遠慮ってものがないのか?」

「むしろラセルは、よくアタシが遠慮すると思ったわよね。アタシがなんでもかんでもやってあげると勘違いしない方がいいわよ〜? シビラちゃんは宵闇の誓約を行ったみんなのための女神だけど、アタシ自身は自分の欲望第一だもの!」

ああ……全く、その通りだな……。

この中で一番付き合いの長い俺が、その理屈に一番納得するしかない。

むしろ、それでこそシビラって感じだな。

俺はこの面白残念駄女神に慣れる日が来るだろうか。

自分で言っておいて、全く来る気がしない。少なくとも頭脳で出し抜くということに関しては、早々に諦めている。

やれやれ、酷いことにはならないと分かっているし、気が向くままに振り回されてやるか。

そして、そんな日々に対して……慣れない方が楽しそうだな、とも思い始めていた。

ダンジョン下層でやることをある程度終えて、俺達はこのセイリス第四ダンジョンから出るために動く。

正直、シビラなしでは魔物がいなかろうが歩く気にすらならない第二層のことを考えると、セイリス第四ダンジョンは二度と入りたくはないな……。

その第二層をシビラの先導で戻ると、すぐに俺達は外に出ることが出来た。

一安心、だな。

「ちょっと夜更かししちゃったけど、イヴちゃん本当に今日はありがとうね」

「い、いっスよ! シビラさんの頼みとあらば、いくらでも! 何でもするっスよ」

その言葉を聞いて……シビラは一瞬無言になると、ニィ〜っと口を開いた。

……ああ、悪い顔だ……。

「そう……そうなのね。何でもしてくれるのね」

「え? ええっと、まあ、出来ることなら何でも……」

シビラはこちらに向くと、俺とエミーに淡々と指示を出した。

「先に戻ってて」

「は?」

呆気にとられる俺達を振り返ることもなく、シビラはイヴと肩を組んでさっさと行ってしまった。傍目に見たら誘拐だぞおい。

同じように展開についていけない顔をしたエミーと目が合い、溜息を漏らす。

「……戻るか」

「あはは、そうだね……」

俺はシビラが去った方面を見ながら、あのシビラのとてもとても楽しそうな表情を見て、確信に近いものを感じていた。

——絶対何かしらの苦労をさせられるな。

頑張れイヴ、厄介なのに目をつけられたことはほんと同情するけど頑張れ。

俺が出来ることは、ない。

さすがに宿で休むはずだった夕食後の出撃は、精神的に疲れた。

先日ほどもやもやしてはいないが、まだすっきりとはしない。

もう少し、眠るのに時間はかかるだろうか。

「わあ……おふとん様がきもちいい……たべすぎた……おやすみぃ〜」

「ああ、お疲れ」

「おやすみ、黒鳶の聖者様ぁ〜、えへへへぇ〜……」

一日の最後に、なんとも不思議な呼ばれ方をして面食らう。俺がどう返そうかと思っているうちに、もう寝息が聞こえてきた。

シビラとは方向が違うが、こいつはこいつで滅茶苦茶マイペースだよな……。

食い意地を張ったエミーは、結局男の俺から見ても相当な量の肉を食べた。まあ、海産物の店でもあれだったもんな……。

身体のどこに、あれが入るんだろうなっていうぐらい食べていた気がする。

そりゃあ眠気も来るだろう。

俺は、今日のことを振り返る。

シビラの提案で朝は海で遊んでいただけ。俺とエミーは、本当にそれだけだった。

だが……シビラは違った。

砂浜で遊ばせたことそのものが、シビラの気遣いであり戦略。

そしてシビラは、俺達と同じように第三ダンジョンの探索で働いたのに、今日の朝からずっと魔王と水面下で戦っていたのだ。

隠されたダンジョンを暴き、魔物の出現場所を暴き、広い第二層を調べ尽くし、フロアボスでも活躍した。

この間、シビラはずっと頭脳フル回転で全く休んでいない。

……本当に凄いヤツだよ、あいつは。

とても代わりが務まる気がしないな。

そして、イヴ。

あれほどの才能を持ったアサシンが、俺達の味方になってくれた意味は大きい。

あの時シビラが、あそこまでハッキリと『成果』があったと断言してみせたのだ。

状況的に考えて、あの作戦はイヴなしでは不可能だっただろう。

……そうか。

全く休んでいないシビラは、今も休んでいない。

イヴと会っているのだ。それは決して、私利私欲で頼み事をしているわけではないだろう。

……あのシビラのことだから、確証は持てないが……。

ああ……少し、眠気が来た。もしかすると、これは安心から来るものなのかもな。

降り始めた眠気の暗幕を受け入れつつ、あの魔王を徹底して出し抜いたシビラによる『次の一手』を期待しながら睡魔に身を委ねた。

翌朝、すっかり日が昇ったところで明るい室内の天井を認識し、俺は目が覚めた。

部屋の白い壁に太陽光が反射し、俺の目の奥を少し突き刺す。

寝ぼけた頭が覚醒した頃、段々と現実を認識する……かなり遅い時刻だぞ、これ。

俺はベッドから起き上がり——当然のように部屋の椅子でくつろいでいる女と目が合う。

「おはよう、その様子だと精神的な疲れもなさそうね」

「……ああ、おはよう」

明らかに働き詰めで、俺より遅く寝たはずのシビラは、俺より早く起きていたようだ。

やれやれ……こいつには敵わないな。

「本当にお前は、よく頑張るな。たまには休んだらどうだ?」

正直にそれを伝えてみたところ……むしろ鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして驚いた。

「……歴代【宵闇の魔卿】の中でもぶっちぎりで無茶させてるあんたに言われると、さすがのアタシも毒気抜かれちゃうわよ」

「そうなのか?」

「そーよ。アタシから見たら、術士で前衛って時点で結構無茶なのに、魔法で打ち上げられても文句一つ言わず淡々と合わせてくるあんたが一番無茶な頑張りしてるわよ? はーやだやだ、無自覚なんだから……」

褒められているのか呆れられているのか分からないな……。

分からないが……俺が一番頑張っていると思っているヤツからそう評されて、悪い気はしない。

そうだな。シビラがそう言うのなら、多少は頑張っていると自分を認めてやってもいいだろう。

「あっ、ラセルおっはよー」

外に行っていたのか、エミーが部屋に入ってきて明るい顔で手を振る。

「おはよう。エミーの方が早かったんだな」

エミーが頷いたところで「んっふふふ」と含み笑いが聞こえてきた。

「そーよ? エミーちゃん寝顔じーっと見てたもの」

「ひゃう!? そ、それ言わないでって言ったのに!」

「確かに言ったわね。でもアタシがそういうの、守ると思う〜?」

……朝から実に、シビラがシビラらしい平常運転であった。

いよいよエミーも、こいつとの付き合いを覚悟してくる頃だろう。

「……まあ、俺もエミーより早く起きたときは必然的に見ているし、おあいこって事だな」

「え!? あ、そ、そうだね! うん!」

「エミーちゃんは結構近くで長時間……」

「そ、それは駄目っ!」

「いい反応ねー、アッハハハ!」

シビラの悪戯っぽい笑いが響いてエミーに同情したところで、シビラの手首に日光からの光を浴びて輝くものに気付いた。

……あれは、エミーに買ったのと同じような、ブレスレットか……?

俺がプレゼントしなかったから、自分で買ったんだろうか。

「あれ? シビラさんその腕輪、昨日はしてなかったですよね」

この位置だと特にキラキラと目立つから、エミーも当然気付いたようだ。

その問いに対して、シビラは……実に楽しそうな笑みを浮かべて、不思議なことを言い放った。

「これはね……勝利の鍵よ」